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カガスタ!〜元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト〜  作者: 中務善菜
第七章:輝く“星”になって
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★当てつけ

 ミカエリアの夜は賑わいに溢れている。中央広場のベンチで人々の往来を眺めていると、多くは東区へ足を運んでいた。帝国の首都だ、これから飲みに出かける奴らは少なくない。そういう連中の相手をして、手品師としての地位を確立してきた。


 ――姑息なやり方だったがねぇ。


 言っちまえば、俺の狙いは“まともじゃない奴”だった。酒の臭いを纏った、浮足立った奴ら。楽しく卓を囲って、その帰り道。そこそこの手品が見られりゃあ「ツイてる」と思うだろう。


 そうして噂が人を呼ぶ。行き交う人々の足取りが覚束なくなる頃合い――俺は手品師を演じた。多少荒くても拍手を浴びるには充分。そうなるだろうと計算した上でのパフォーマンスだったから。


 ずる賢いと言われればそれまでのこと。最初から素面の観客を相手にしていたら、いまの俺はない。リオちゃんたちにだって会えていなかった。


 いまが大事。過去を大切にしながら、この瞬間も大切に過ごす。こんな生き方、昔じゃ考えられなかった。


「……人生に無駄なんてない、なんてよく言ったもんだ」


 忘れもしない故人の言葉。あいつが手品を披露しているのを面白くないと感じる奴もいた。「無駄な時間を過ごしている」なんて辛辣な台詞を吐かれたこともあった。そんな心ない言葉にも、あいつは笑って言った。


「なにも無駄じゃない」

「笑ってくれたら俺は幸せだ」

「それだけでいいじゃんか」


 俺にはわからなかった。ただ笑ってくれればいい、それだけで幸せ? 欲がないにもほどがある。結局、原因は不明なままあいつは自ら命を捨てた。


 笑ってくれればいいんじゃなかったのかよ、と。思い返すと腸が煮えてくる。そうして、気付いた。


「……性格悪いねぇ、俺」


 思わず漏れた自嘲。アイドルを目指す前のこと、オルフェの言葉を思い出す。「なぜエンターテイナーを演じる?」その答えはきっと、当てつけだったんだ。


 笑ってくれればいい、他になにも要らない。そんな貧相な建前でやっていけるほど人間は強くはない。その証明がしたかった。褒められたい、認められたい。その欲求は恥ずかしいもんでもなんでもない。教えてやるには遅過ぎた。


「ギル」


 ふと耳に飛び込んできた声に顔を上げる。何故かアレンがそこにいた。どこか心配そうな顔で俺を見詰めている。


「なんでアレンがここにいるわけ? 門限は十八時までだろ」


「ギルが部屋にいないってことで手分けして探してたんだよ。なにしてたんだ?」


「ぼーっとしてただけ。つーか心配し過ぎじゃね? もう十九歳よ?」


「リオが心配してるんだよ。用がないなら帰るぞ」


 ――本当、奇特な嬢ちゃんだよ。


 自分のやりたいことが明確で、それには他人が必要で、そのために俺を大事にしている。感情なんてない、俺はあくまで商品。売り物はしっかり管理しなきゃいけねーからな。


 と、前までなら思っていた。いまならわかる。リオちゃんは“俺たち”を大切に思っている。俺たちじゃなきゃいけない理由が、あの子の中にはある。俺たちを“俺たち”として認めてくれている。


 なら、邪険にしたり軽んじちゃいけねーや。腰はすんなりと上がった。


「そーね。かわいいリオちゃんには笑ってもらわねーとな」


「ギル、なにかとリオのことかわいいとか言ってるけど……もしかして、タイプなの?」


「いや? 俺の好みはナイスバディのお姉さんだから、お子ちゃま体型は範囲外よ」


「それ……リオが聞いたらどうなるか……」


「考えたくねーからこの話は終わり。さ、帰るんだろ。置いてく、ぞ……」


 歩き出した矢先、息が止まった。目の前にはそりゃあもう愛らしい顔立ちの女の子。発育が遅れているのか、慎ましい胸。未熟な体に纏う雰囲気は歴戦の戦士に負けずとも劣らない。満面の笑みが告げている。今日が命日だと。


 振り返れば、他人の振りをするアレン。仲間を見捨てる気か、このガキ。センターだろ、仲間を守れよ。


「お兄さん、よかったらエスコートしてくれませんか?」


「は、え? いやいや、エスコートってあんた……」


「あ~! そうですよね! ギルさんはボンキュッボンのお姉さんが好みで! 私みたいなお子ちゃま体型は好みじゃないから! エスコートなんてする価値ないですよねぇ~!」


「ちょ、ちょっと待ってくれ! そりゃ言葉のあやってもんでだな!? リオちゃんだって立派なレディ、喜んでエスコートさせていただきますとも! ええ、俺はジェントルマン! お手をどうぞ!」


「黙らっしゃい! どこのジェントルマンがナイスバディだお子ちゃま体型だとか宣いますか!? 未来のアイドルの自覚を持ってくださいます!? とっても楽しい折檻をお望みですか!?」


「勘弁してくれって! おいアレン!」


「ど、どちら様ですか? え、こわーい……」


「ふざけんなテメェ後で覚えてろ!」


「言葉遣いから教えて差し上げますとも! さあ帰りましょう! ワクワクしますね! ギル・ミラーさん! 今夜は寝かさないぜっ!」


「嫌だあああああ……!」


 ――かくして、無事に保護された俺は、そりゃあもう手厳しいお仕置きを受ける羽目になった。どこで誰が聞いてるかなんてわかんねーもんだな、本当……。

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