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カガスタ!〜元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト〜  作者: 中務善菜
第七章:輝く“星”になって
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泣いてもいいかな

「わあ……」


 たまらず声が漏れた。ミランダさんの稽古を終えて、現在。“スキャン”で確認したみんなのステータスは確かに変化していた。勿論、いい方向に。


 この力で確認できるのはボーカル、ダンス、パフォーマンス、ビジュアル、カリスマの五項目。ダンスの基礎を五日間続けてきたことで、その部分が少しだけ成長していた。


 アレンくん、アーサーくん、オルフェさんは以前のものにプラスがついている。然程大きな成長とは言えないけど、基礎をものにしてこれだ。まだまだ発展していけるはず。


 ギルさんは要領が良いからか、彼らよりも伸びがいい。手抜きで取り組んでこんな成長は見せられない。本気で臨んでくれた証に、つい笑顔になってしまう。


 エリオットくんもそうだった。やっぱり獣人化したからだろう、ダンスの項目が大きく伸びている。メンバーの中では一番の成長を遂げていた。どこかにいるお姉さん、あなたの弟さんは現在進行形で立派に育っています。


 そして、イアンさんとネイトさん。この二人は元々ダンスの適性が高かったこともあり、アレンくんたちと同じくらいの伸び方だった。ただ、ここからの伸びしろはメンバーの中でも特に高いはず。パフォーマンスの項目にもプラスがついていた。“ニジイロノーツ”きってのダンサーになれる可能性がある。


 そうして“視”終わり、深い息を一つ。アレンくんがごくりと大きな音を立てて唾を飲んだ。


「ど、どうだった……?」


「安心して、ちゃんとみんな成長してたから」


「本当ですか!? やったぁ!」


 安堵のため息を漏らすアレンくんとは対照的に、諸手を上げて喜ぶエリオットくん。ここから一人ずつ説明していく。


 みんな最初は緊張の面持ちではあったけど、成長した部分とこれからどう変わっていくかを教えると徐々に表情を晴らしていった。あの過酷な稽古を乗り越えてきたんだから、もっとどっしりしていいのに。


「ぼく、一番伸びてる……!?」


「オレたちはまだまだこれからかぁ。気合い入れ直さないと」


「わかっていたことだが、すぐに結果は出ないか。残された時間を上手く使っていかないといけないな」


「焦らずに行こう。ダンスの基礎を磨くこともだけれど、アメリアの稽古を三日間受け続けられるように発声練習もね」


 エリオットくん、興奮冷めやらぬって感じだね。嬉しいんだろうな。素直に喜べるところ、百点満点。


 アレンくんとアーサーくん、オルフェさんは真摯に受け止めてくれる。すくすく育っていくのが目に映るね、将来は屋久杉より立派な大樹になれるよ。


「私とイアン様もこれから、とのことですね」


「だな。まあ期待には応えてやる。任せとけ」


「俺も油断しちゃいけねーな。サボったらすぐ抜かされそーだし、頑張っていきますかね」


 ネイトさんとイアンさんも前向きだ。二人に関してはお芝居の稽古も待ってるし、年長組として一層頑張ってもらわないと。オルフェさんも年長組といえばそうなんだけど、彼は別枠か。


 ギルさんもみんなの成長を感じて、油断ならないと言ってくれた。彼がここまで前向きにアイドルを目指してくれているのがもう嬉しい。泣いてしまいそう。


「皆さんの成長を確認出来て、私としても気合いが入りました。サポート出来ることをどんどん見つけて、皆さんをステージに立たせたいと思います」


「リオにはたくさん助けてもらったし、これからもお世話になっちゃうけど、ちゃんとステージに立てるように頑張るから。オレたちのこと、よろしくね」


 私のアイドルから信頼を寄せられている。生前はただの社畜、ただのドルオタに過ぎなかった私。だけど“リオ”は違う。帝国の未来を担うアイドル、そのプロデューサー。あるいはマネージャー。


 ――彼らの期待と信頼を裏切るなんて、出来るはずがない。


「ところで泣いてもいいかな」


「どうしたの!? なんでリオが泣くの!?」


「いや、過ぎた幸せを噛み締めてつい……」


 弊社に長く勤めているとね、小さな幸せすら身に余るものだと思ってしまうの。些細なことで涙が出てきちゃうの。文化開発庁はそんな企業にしないからね、私がさせないからね。


 ちょっと待って、文化開発庁は企業じゃない。帝国の行政機関のはず。落ち着いて、私。


 光のない私の目。怖がらせちゃったかな、ごめんね。アレンくんはずっとキラキラのお目目でいてね。意識が弊社に飛んでいたけど、頭に乗ったイアンさんの手で我に返った。


「幸せ過ぎるならそれでいいじゃねぇか。ただ、泣くのは我慢しろ。俺たちのライブまでな」


「そーそー、いま泣いたら勿体ねーって」


「嬉しい涙ならライブのときにいっぱい流しましょう! 楽しみにしててくださいね!」


「僕たちで宝石より美しい涙を流させてあげる。だからいまは堪えて、ね?」


「泣いちゃうからもうやめてぇ! わかったからぁ! 我慢するからぁ!」


「リオ様、既に泣いていますよ」


「ネイトさん、見て見ぬ振りをするのも優しさかと……」


 私のアイドル、本当によく出来た男の子……心の柔らかい場所を優しく撫でてくれる。勘違いされないように気を付けてもらわないと。未然に防げるスキャンダルは徹底的に排除しなければ。


「さ、そろそろ戻ろーぜ。飯も食わねーとだしさ」


「あ……じゃあ私、買い出し、行ってきますね……グスッ」


「オレも付き添うよ。いまのリオ、一人で歩かせられないし……」


 気遣い屋さんのアレンくん、きみは絶対にいい旦那さんになるよ。あの旦那様の息子さんだもの、将来は明るい。


 私はね、きみと歩けるだけでセピア色だった青春が色鮮やかなHD画質になるよ。そんな私の気持ちなど知る由もなく、彼はアーサーくんの名を呼んだ。


「お前も来いよ」


「は、僕も行っていいのか?」


「八人分の食材を買うんだ、男手一つじゃ足りなくなるだろ?」


「そういうことか。わかった、手を貸そう」


 荷物持ちが増えるのはありがたい。アレンくんの提案は正直助かる。その反面、不安でもあった。


 貴族に荷物持ちさせるってどうなの……? 伯爵に見つかったらヤバイことになりそう……。


「それじゃあ行ってくるね。すぐに戻ってこれると思うけど」


「はーい! 行ってらっしゃい、三人とも!」


 元気よく送り出してくれるエリオットくん。嬉しいし、かわいいなぁとは思うよ。でもね、いまの私は片手にダイナマイトを持ってるようなものなの……火が点かないことだけ祈っててね。


 最悪、“ニジイロノーツ”とケネット商店が木っ端微塵になるかもしれないから……。

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