表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カガスタ!〜元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト〜  作者: 中務善菜
第七章:輝く“星”になって
159/200

★友達の在り方

「それじゃあ始めよう。アメリアさんの言ってたこと、オレなりに噛み砕いて教えていくね」


「はい! よろしくお願いしまーす!」


 一列に並ぶぼくたちと、向かい合って立ってくれるアレンさん。アメリアさんのときとは少し違う。あんまり緊張しない。それなりに知ってる人だから、っていうのもある。

 

 でも一番は、男の人だからだと思う。女の人はわかりにくい。リオさんも、ぼくたちのことを見守ってくれてはいるけど、たまにすごく難しい顔をしている。心配で声をかけても、大丈夫だよ、しか言わない。


 ――ぼくだって、力になりたいんだけどな。


 なんとなく気持ちが落ち込むけど、練習はちゃんとやらなきゃ。アレンさんの教え方はすごくわかりやすい。実践出来てるかはわからないけど、こうかな? っていう感覚を掴みやすかった。


 始めてから、一人一人についてアドバイスしていくアレンさん。先生みたい。歌は一番上手だし、先生っていうのも間違いじゃないと思う。


「みんな、コツ掴むの早いね……?」


 アレンさんがちょっとだけ驚いたような顔をする。他のみんなもわかりかけてるみたい? ちらりと見ても、誰がコツを掴んでるかなんて、ぼくじゃ見てもわからない。


 ギルさんが口笛を吹いた。どこかおちゃらけた雰囲気を感じる。


「アレンの教え方、堂に入ってんじゃん。これもお師匠さんの請け売りなわけ?」


「そんな感じかな。オレも“あの子”も子供だったから。同い年だし、どう言えば伝わるかわかってたのかも」


「とは言え八歳の頃の話だろう? 聞けば聞くほど末恐ろしい才能じゃないか……?」


 アーサーさん、深刻そうな顔をしている。言われてみれば、そっか。八歳でもう歌う人の体だったんだもんね。才能、っていう言葉が一番しっくり来る。


 才能。持って生まれたもの。なんだろう、すごく引っかかる言葉。才能を持って生まれられたら、きっと大事にされていたと思う。ぼくも、姉さんも。


「エリオット」


「あ、は、はい?」


「教えてくれってせがんできたのに、上の空はないんじゃない?」


 アレンさんのいたずらっぽい笑顔を見て、気付く。たぶんいま、ぼくの話をしてた。失礼なことしちゃった。慌てて頭を下げる。


「ご、ごめんなさい。ちょっと考え事してて……」


「大丈夫だよ、謝らなくても。なに考えてた?」


 ……笑って許してくれるんだ。


 優しくて、あったかい人だ。姉さんにちょっとだけ似てる。傍にいると心が安らぐ、秋宵(あきよい)の焚き火みたいな人。寒くてかじかんだ体も、緊張した心も包み込んでくれるようなあったかさ。


「えっと、アレンさんは、あったかい人だなぁって思って」


「あったかい?」


「はい。なんていうか、姉さんみたいで、安心します」


「ね、姉さん? オレが?」


 驚いたみたい。ちょっと慌ててる。説明してあげないと。


「なんていうか、優しくて、ぼくなんかにも怒ったりしないから。姉さんもそうだったなぁって思って」


 両親は、ぼくのことをすぐに叩いた。その度に姉さんが庇ってくれたけど、代わりに姉さんを叩いていた。ぼくが抵抗しても簡単に振り解かれて、なにもしてあげられなかった。


 ごめんね、って謝っても、姉さんは「大丈夫だよ」って笑っていた。「痛かったね」って抱き締められもした。姉さんの方がずっと、ずっと痛い思いをしてきたのに。ぼくの前じゃ絶対に弱音を吐かなかった。


 ――でも、姉さんのは、優しさじゃなかったのかもしれない。


「ごめんなさい。姉さんみたいなんて言っちゃって」


「……オレたちはエリオットのお姉さんにはなれないけどさ」


 そう言ってアレンさんは、こつん、とぼくの頭を叩いた。突然のことで言葉も出てこない。だけど怖くはなかった。叩かれたのに、痛くもなかった。アレンさんは笑う。いつもの、真っ直ぐで安心する笑顔。


「仲間として、お前を叱ることは出来るぞ」


「叱る……?」


 ぼく、叱られるようなことしたっけ。上の空だったこと? でも、大丈夫って言ってくれた。アレンさんの笑顔が変わる。少しだけ、意地悪そうな顔だった。


「ぼくなんか、なんて二度と言うなよ? 次言ったら本気で怒るからな」


「あ……」


 ――上手くやり返されちゃった。


 でも嫌味だとは感じなかった。ぼくの言葉がちゃんと届いてたっていう証拠だと思う。じゃなきゃ、こんな言い方はしないはず。


 ーーそれは、嬉しいなぁって思う。


「えへへ……はい、ごめんなさい」


「やれやれ、僕の友人はどうしてこう卑下が癖付いてているんだ」


 アーサーさんが呆れたようにため息を吐く。いま、友人って言ってくれた。自然と笑顔になっちゃう。アレンさんは、ちょっとだけ険しい顔をしてる。


「お前たちは優れている。歌、ダンス、人柄だってそうだ。だからここにいる。誇らしく思え。リオにも、これから僕たちを応援してくれる民にも失礼だろう」


「はい、誇らしく思います」


「お前と違ってなんでも肯定されてきたわけじゃないんだよ、馬鹿野郎」


 アレンさん、つっけんどんな態度。いつもの光景と言えばその通りだけど、ちょっとだけ不安になる。この二人はきっと仲良しじゃないんだと思う。でも、目に見えるところよりもっと奥で繋がってるんだってわかる。


「――いいなぁ」


 二人がぼくを見る。あ、やっちゃった。声に出てた……!? たまらず慌てて否定する。


「ご、ごめんなさい、つい……!」


「僕とこいつの関係に羨ましいところがあるか?」


「口喧嘩ばっかりしてるのに羨ましいのか?」


 アレンさんもアーサーさんも、目を丸くしている。羨ましいと思われる理由がわからないみたい。こんなふうに言い合える関係がどれだけすごいものか、どれだけ大事なものか。二人はきっと知らないまま、いま一緒にいるんだと思う。


「それでも羨ましいです、二人が」


「私とではその関係は築けないでしょうか……?」


 ネイトさんがじっとぼくを見つめる。気のせいかな、少しだけ落ち込んでるように見えた。アレンさんとアーサーさんの関係を、ぼくとネイトさんで……?


 うーん、全然イメージ出来ない。ぼく、ネイトさんにつっけんどんな態度取るの? それともネイトさんがぼくに?


 どうしよう。なんて答えるのが正解なんだろう? 少し困っていると、ギルさんが笑った。


「ネイトさんとエリオットじゃ無理じゃね?」


「向き不向きはあるだろうな……」


「な、何故ですか……私たちは友人であるというのに……!」


「友人の在り方は一つじゃないよ。アレンとアーサーに特別な関係があるように、きみたちだけの特別な関係があるはずさ。焦ることはない、これから見つけていけばいいんだよ」


 オルフェさん、すごく綺麗にまとめてくれた。さすがというか、格好いいなぁ。ネイトさんも納得してくれたみたいで、今度はちゃんと凛々しい顔に戻ってる。よかった。


「私とエリオット様だけの関係……」


「これから見つけていきましょう、ぼくとネイトさんだけの特別な関係」


「ええ、是非とも」


 ネイトさんが頭を下げる。うーん、友達って考えると、これもしっくりこない。これもぼくたちの在り方になるのかな? いまはまだわからないや。


 そのときアレンさんが手を叩く。ハッと目をやると、安心したように微笑んでた。


「一区切りついたし、発声練習に戻るぞ。大丈夫だな、エリオット?」


「はいっ! いっぱい頑張っちゃいましょう!」


 いまのぼくは、きっと幸せなんだと思う。叱ってくれる人がいて、友達だって言ってくれる人もいて、応援してくれる人も、見守ってくれる人もいる。


 ――姉さんにも、そういう人がいたらいいな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ