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カガスタ!〜元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト〜  作者: 中務善菜
第七章:輝く“星”になって
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直向きさと才能

 稽古も終わり、文化開発庁に戻った私たち。一旦は事務所に集まり、今日の稽古を労う。


 私の言葉だけじゃ頑張り切れないかもしれないけど、アメリアさんが感じた不安を上手に伝えればやる気を出してくれるだろう。


「皆さん、今日もお疲れ様でした。アメリアさん、皆さんに可能性を感じていたみたいです」


「ほ、本当に? あんな簡単な稽古で?」


「簡単とは言うが、それはお前基準だろう。僕はてんで素人なんだ、彼女の求める声には到底及ばない」


 驚くアレンくんと、冷静に現状を理解しているアーサーくん。そう、ほとんどのメンバーにとっては難題になると思う。ずっと歌っていたアレンくんと違い、歌う人の発声をすぐに掴めなんて無茶な話だ。


 ギルさんやイアンさんも現実的な視点を持っている。二人は揃ってため息を吐いた。


「やっぱ昔っから歌ってきた奴は(ちげ)ぇーわ。お前のレベルに合わせろってのは酷な話だぜ」


「出番を貰えるかどうか、時間は残されてねぇ。ひとまず及第点まで育たなきゃデビューも遠退いちまうぞ」


「いっぱい頑張りましょう! ぼく、本気です!」


 ぐっと拳を握るエリオットくん。やる気があって大変よろしい。その辺りを評価してくれたり……は、しなさそう。エンターテイナーとして確かな実力、あるいは成長が見えなければ評価はされないはずだ。


 芸能界だってそうだったと思う。アイドルが顔だけの存在でないことは私がよく知っている。彼らには積み上げてきたものがある、確かな実力がある。だからずっと愛され続けた。私のアイドルも、そう在ってほしい。


 そのために必要なのは、揺るがない意志。絶対にやり遂げてみせるという強い心。その点に関して、アレンくんは現時点での理想であるとも言える。当の本人は苦笑いを浮かべた。


「みんなが公演までにオレと肩並べられるようになったら、それはそれで複雑だよ。オレ、十年以上も歌ってるんだからさ」


「時間と経験の差は大きいね。発声においてアレンの右に出る者は僕たちの中にはいないだろう。一途さの為せる業だ。努力した日々を含めて、きみの才能だと思うよ」


「直向きに事に当たるのはアレン様の長所ということですね。想いの強さ故、でしょうか」


 ネイトさんが意味深に口の端を吊り上げた。本当に僅かだけど。


 彼にとって、叶えたい願いや夢があるというのは羨ましかったりするのかな。ずっと役割に縛られて生きてきただろうし。やりたいことに真っ直ぐで真剣なアレンくんは、ネイトさんの描く理想に近いのかもしれない。


「な、なんだよ二人とも……なんか、変な感じするなぁ……」


「それだけアレンくんが買われてるってことだよ。自信持って、ね?」


 この辺りはエリオットくんとの差かなぁ。たぶんこの子、背伸びしようとしてきたからあんまり褒められ慣れてないのかもしれない。もっと素直に受け取ってくれていいんだけどね。


 ――って、そうだ。アレンくんに聞きたいことがあったんだ。


「そういえばアレンくん、アメリアさんが気になってみたいなんだけど……昔、誰かに歌を教えてもらったりしてたの? 全部独学?」


「ああ、うーん……」


 どうしてか、言いづらそうなアレンくん。口外出来ないような人から教えてもらっていたのかな……? 心配になるけど、アレンくんは深いため息を漏らす。


「完全に独学ってわけじゃないんだ。教えてくれる人はいたんだよね。でも、オレと同い年の子だったんだ。しかも子供の頃の話。教わった、って言うにはちょっと違うんだよ」


 それはそれですごい話である。子供の頃の話って、十年くらい前の話でしょ? そんな幼い頃から歌――ひいては発声のなんたるかを完璧に捉えていたってこと?


 だとしたら天賦の才と呼ぶに相応しいのでは? その子とはまだ関わりがあるのかな? 是非とも専属のトレーナーとして雇いたいところ。


「まあ、いつの間にかミカエリアからいなくなってたんだけどね。いまはどこでなにをやってるかもわかんないんだ」


「そっかぁ……」


 残念だけど、しばらくは“スイート・トリック”のお世話になるしかないか。いや、嫌ってわけじゃないんだけど。みんなとしては貴重な先生なわけだし。


「まあ、オレの話はこの辺で。次の稽古まで二日休みがあるだろ? 請け売りになるけど、オレで良ければ教えられるからさ。みんなで頑張ろうな」


「はいっ! アレンさん、いっぱい教えてください!」


「頼りにしてるぜ、アレンセンセー」


 空気が和んで良かった、けど……気のせいかな、アレンくんの表情が浮かない。その人と過去になにがあったんだろう? 同じくらいの年頃だろうし、アレンくんとしても黙っていなくなられた原因がわかってないみたいだし。


 無意識に怒りを買うような子じゃないはずだけどなぁ……気にはなるけど、きっと触れられたくないことだよね。私は大人、若者の心にずけずけ踏み込むことはしませんよ。


「では、この辺りで一度解散しましょうか。皆さん、改めてお疲れ様でした。復習も忘れず、ゆっくり休んでくださいね」


 みんなも挨拶を返してくれる。事務所を出ていく背中を眺め、一人。孤独な時間は少しだけ落ち着く。なんだかんだ気を遣ってるのかもしれない。十六歳の体と言えど、心はアラサーのままだからかな。


「……アミィをぎゅーってしよう」


 抱き締めたところであの子の充電にしかならないけど、私も心が癒されるからウィンウィンだ。少しだけ、休もう。目まぐるしいセカンドライフだ、休めるときに休まないと。

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