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カガスタ!〜元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト〜  作者: 中務善菜
第七章:輝く“星”になって
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お花畑

「アメリア! そろそろ始めるぞ!」


「あら? あっという間ね。それじゃあ今日はここまで。次の稽古は十二日ね。それまでに復習をしっかりね。ご苦労様」


 みんなで稽古後の挨拶。うーん、この光景もいい。なんか青春の一ページを垣間見てる気分。こういうところにアラサーの名残をよく感じる。


 ビジュアルだけは花も恥じらう女の子なんだから、もう少し気持ちも若く在りたいね。そうも言ってられない立場なんだけど。


「お嬢さん、お話があるの。少しいいかしら?」


 アメリアさんが私の服の袖を掴む。こういう仕草が妙に幼く見えてしまうのは良くないとも思う。かわいい人だなぁ、アメリアさん……私もこう在りたかった。無理だ。私には無理だ……。


「かしこまりました。皆さんは先に控え室で待っていてください」


 みんなの背中を見送って、稽古場に残るは私、アメリアさん、そしてミランダさん。うう、やっぱりこのシチュエーションには慣れない。世界的な有名人に挟まれる私、何者? ただの旅人だったはずなんですけど。


「で、どうだった?」


 話を切り出すミランダさん。勿論、七人の様子についての質問なんだろうけど。私が聞いてていいのかこれ? いや、むしろ私が聞いてなきゃいけないか。


 だけど緊張はするなぁ……出来れば甘口評価、は、要らない。けど、辛口評価は心の準備が……。


「悪くないと思うわ。少なくとも、私を軽視するような子たちじゃなかった。技術に対する貪欲さも見えた。とってもいい子たちよ」


「ま、向上心は認めてもいい。それで、リオ」


「は、はい」


「ジェフから話は聞いてる。あたしら三人の目に適えば、春暮公演で出番をやる。ただし、成長次第では三日間のうち一日だけになるだろうな」


 正直なところ、出番を貰えるなら最終日がいい。衣装の用意にも時間はかかるだろうし、振り付けだって調整が必要だ。それまでに十分な成長と、知名度を得る必要がある。


 ジェフさんの提案や期待、協力に応えたい。そう思っているのは私だけじゃない。彼らの熱が急激に冷めるようなことがなければ、必ず出番を貰えると信じている。


「それでも十分過ぎます。帝国に……あるいは、世界にアイドルの存在を認知してもらうなら、春暮公演は最高のスタート地点になるはずです」


「勿論、あたしらの基準を満たせりゃあの話ではあるがな」


「そうね。見所はあるけど、限られた時間内でどこまで育つか。私も楽しみにしているわ。ジェフもね」


 何気にジェフさんも気にかけてくれているんだなぁ。まともに話したの、最初と先日だけだったのにね。やっぱりイアンさんたちの無謀な挑戦が火を着けちゃったのかな? ありがたい話ではあるけど。


「――ところで、あの赤い髪の男の子だけど」


「はぇ? アレンくんのことですか?」


「あの子がセンターに立って歌うのよね?」


「そ、そうですね。彼の歌声は魅力的なので、真ん中に立って歌ってほしいと思います」


 アメリアさんの表情は重い。なんだろう、彼が歌うことに違和感があるのかな? 素人にはわからない問題点がある? 彼女は目を細め、ゆっくりと口を開く。


「あの子だけ、少し変わっていたの。実際に発声してもらったときに感じた。あの子の声は既にアーティストのそれだった。過去に歌を学んだ経験があったのかしら?」


「あ、いえ……歌うことが好きだと言っていましたが、独学だったと思いますけど……」


「ふふ、そう。将来が楽しみね」


 柔らかく微笑むアメリアさん。その言葉に嘘はなさそうだった。


 アレンくんがどこかで学んでいたという話は聞いていなかったけど、もしかして誰かに師事していたのかな?


 意図的に隠しているとは考えにくい。今度聞いてみよう。自主練期間でもアレンくんを中心に進められるかもしれないし。


「――ただ、あの子のことは特に気にかけてあげて」


「え……?」


「あの子の声には激しくて強い感情が籠ってる。観客の心を掴むには十分過ぎる力がある。だからこそ、期待と夢に圧し潰されないように見守ってあげてほしいの。赤髪の子だけじゃなく、他の子たちも」


 アメリアさんの声はどこか不安げだった。視線こそこちらに向けているけど、どこか遠くを見ているような顔。


 言いたいことはなんとなくわかる。アイドルは夢や希望を与える仕事だ。だからこそ、ファンからは愛され、期待される。


 もっといい歌を聞かせてくれるだろう、もっといいダンスを披露してくれるだろう。彼らはそれを受け止めて、応えていかなければならない。


 ただ、過ぎた愛情や期待は重荷になる。これから世界中の人が“ニジイロノーツ”を知るだろう。それは喜ばしいことだ。


 その反面、世間の声やファンが描く彼らのイメージを損なわず、裏切らずに生きていかなければならない。ステージを降りる日まで。


 ――昔、そんな人がいたのかな。


 アメリアさんはきっと、その人とアレンくんを――というより、七人を重ねているのかもしれない。彼らがそうなってしまわないか、心配してくれているんだと思う。でも、それって……。


「彼らにはそれだけの可能性があると捉えてよろしいでしょうか……?」


 将来性がなければ、そんな心配はしないはず。都合のいい解釈かもしれないけど、不安なところは隠してみんなに伝えたい。そうすればもっとやる気が出てくるかもしれないから。


 アメリアさんはくすりと笑う。これは好感触か……?


「素敵なお花畑ね」


 ……花、畑?


 背後を見ても、ここは屋内。花壇もないし観葉植物だって置いてない。アメリアさんはいったいどこを見ているんだろう。花畑? 花畑……?


 目を丸くする私。ミランダさんはアメリアさんを見ていたが、その目付きは決してポジティブなものではなかった。


「お前本当に性格悪い女だな……?」


「ごめんなさい、また意地悪しちゃった」


「はぇ? ……? アァッ!?」


 察した。お花畑ね! なるほどね! 確かに綺麗なお花畑でしたね! ぽわぽわしてて馬鹿みたい! この幸せハッピー女! 浮かれ気分は程々にしなさいね!


 ミランダさんがため息を吐く。それは同情のつもりですか。ありがとうございます。


「気づいちまったか……」


「ごめんなさいね、ちょっとからかってみただけよ」


「墓があったら埋まりたいです……」


「飛躍し過ぎよ、お嬢さん。まだまだこれからでしょう、強く生きて」


 両手を着いて跪く私、アメリアさんはそんな私の頭でも撫でてくれる。優しい、あったかい、ママ……。


 そんな折、入り口の方から忙しない足音が聞こえてくる。姿を現したのはジェフさんだった。


「おはよー! あれ、リオちゃんだけ? あ、みんなは稽古終わったのか! お疲れ様、明日も頑張ってね!」


「ジェフさん……おはようございます……」


「なんでそんなこの世の終わりみたいな顔してんの……? あそこの悪い女にちょっかいかけられた?」


 彼もまた私の肩を叩いてくれる。この人、励ますのが上手だけど、怒りを買うのも上手みたい。ミランダさんとアメリアさんから穏やかじゃないなにかを感じた。顔上げるの怖すぎる。


「随分な言い方じゃねぇか、ええ? 女性人気ダントツ最下位のくせに」


「ひどい人ね。デリカシーがないから女性人気が得られないんじゃない?」


「きみら二人の方がよっぽどひどい人なんですけど!? 女性人気が全てじゃないし! 俺の役割は俺しか出来ないし! 別に悲しくないから!」


 ジェフさんが加わると本当に賑やかになるなぁ。でも収拾がつかなくなりそう。そろそろ私が仲裁に入ろうか……なんで私が……?


 この後、なんとか空気を和ませることに成功した。私、やれば出来るじゃん。物怖じしないのは私のいいところ。その結果、国を背負わされてるけど。森羅万象ケセラセラ、世の中なるようになるものです。

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