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カガスタ!〜元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト〜  作者: 中務善菜
第七章:輝く“星”になって
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今後のためのご馳走

「……と、いうことになりまして……」


 稽古場から戻った私は、ジェフさんからの提案を打ち明けた。みんな、ぽかーんという顔をしている。特にギルさん。喧嘩を吹っ掛けたわけだし、向こう側から提案してくるなんて思ってもみなかっただろうね。


 エリオットくんは耳をぴこぴこ動かして、やや前のめりに尋ねてくる。


「ぼくたち、出番貰えるんですか?」


「ミランダさんたちが認めてくれたら、かな。そのために、皆さんにはより一層頑張っていただくことになりますが……」


「オレたちにとっては今更だよ。頑張る目標が明確になったんだ、出番を貰えるようにもっと頑張ればいい。わかりやすいよね」


「単純明快なのは間違いないが……まあ、僕たちのやることは一つか。いままで以上に身を入れて臨めばいいだけの話だな」


 頼もしい子だなぁ、アレンくん。アーサーくんも、腹括れば前向きな子なんだよね。退路を塞がれたときに本領発揮が出来る子なのかも。


「僕たちも試されているということだね。ふふ、楽しくなってきたじゃないか」


「歌の稽古もして、路上パフォーマンスもして……ま、忙しいのは悪いことじゃねーか。気合入れてこーぜ、これからも」


 オルフェさん、この状況を楽しくなってきたと言えるのか。正直意外だった。彼としては、必要に迫られるものを尽く避けてきただろうに。変わってくれるのはありがたいけどね。ギルさんだってそう。不安要素だっただけに、気合を入れようと鼓舞してくれるのも嬉しい。


「なにはともあれ、俺ら次第なところではあるか」


「私とイアン様が肝になるところではありますね。足手纏いにならぬよう精進致します」


「ほ、本当に頼みますね……マジでお二人にかかってるので……!」


 危機感のない二人に冷や汗を流しながら懇願する。最も経験値のない二人だからこそ、可能性は無限大。彼らの成長が目を見張るものであれば、ジェフさんたちも認めてくれるだろう。


 ギルさん、アレンくんとオルフェさんに関しては心配無用のクオリティではある。アーサーくんとエリオットくんは少し時間がかかるだろうけど、あの様子ならいずれものにしてくれるはず。


 彼らがいるから心配せず、本気で臨んでくれればいい。そうしたらきっと成果を出してくれる。二人なら大丈夫だと、いまなら思える。


「それじゃあ、もう時間も遅いですし解散しましょっか」


「あ、それならさ。みんなでうちに来ない?」


 アレンくんが提案する。そっか、みんなでご飯を食べようって話してたっけ。基礎練期間も終わったし、全然ありかもね。みんなの反応も悪くない。アーサーくんだけが表情引きつってるけど、そんなに緊張しなくていいのに。


 こう言ってくれてるし、みんなも断らなさそうだし、お言葉に甘えてもいいだろう。


「じゃあお邪魔しちゃおっかな。アーサーくん、エリオットくん、オルフェさんはそのまま彼の家に向かってください。残った方は私と一緒です」


「なに? どこ連れてくつもり?」


「決まっているでしょう――食材の買い出しです」


 =====


「こんば……じゃなくて、た、ただいま」


 売り場から二階スペースに上がると、まず旦那様が迎えてくれた。なんだか顔を見るのも随分久し振りに感じる。バーバラさんも「おっ」と声を出して笑ってくれた。


「ああ、いらっしゃいリオちゃん。アレンから話は聞いてるよ」


「食材も買ってきてくれたんだって? 本当に気が利く子だねぇ!」


「あはは、ありがとうございます。お手伝いしますね」


「ぼくもお手伝いしますよ!」


 先に到着していたエリオットくんが揚々と手を挙げる。アレンくんたちも微笑ましそうに彼を見ていた。アーサーくんを除いて。居た堪れなくなったのか、彼はすくっと立ち上がる。


「ぼ、僕もなにか……」


「お前はじっとしてろ。そわそわするなよ、まったく」


「いやしかし……」


 アレンくんに制されてなお抵抗の意志を見せている。なんの意地を張っているんだろう。かわいいと言えばかわいいんだけどな。私と同じことを思っていたようで、オルフェさんが微笑んだ。


「ふふ、健気な子だね、アーサー。アレンがこう言ってるんだ、厚意を無下にするのがきみの本意かい?」


「そ、そういうわけでは……!」


「だったらじっとしててくれ。別に嫌がらせじゃないんだからさ」


 アレンくんの困った声を聞いた上で頑なに手伝おうとするアーサーくん。


 これ私が止めた方がいいのかな? 動くまでもなく、バーバラさんが鼻で笑った。あ、これこそ止めた方がいい気がしてきた。


「台所に立ったこともない坊ちゃんはじっとしてな。それともなにかい? 貴族の味付けを披露してくれるってのかい? 庶民の味を知るのもお宅の務めじゃないのかねぇ」


「ぐっ……!」


 返す言葉もない、といった様子。ここで無理に屁理屈を捏ねない辺り、アーサーくんは変わった。バーバラさんも言葉こそ嫌味っぽく聞こえるが、毛嫌いしているというわけでもなさそうだった。


 ――ちゃんと話し合えたんだね。よかった。


 やっぱり不安ではあった。アーサーくんのやってきたことを目の当たりにしているし、バーバラさんもはっきり「敵」だと言っていたから。この光景がもう感慨深い。泣きそう。


「さあ、今日は腕を奮って作るからねぇ! 残したらタダじゃおかないよ! アレン、リオちゃん、エリオット! 手伝っておくれ!」


「はーい!」


「メインはオレと母さんで作るから、リオとエリオットはその補助についてもらおうかな」


「うん、わかった。指示よろしくね」


 そうして、バーバラさんとアレンくんの指揮によって大掛かりな調理が始まった。彼らは手際良く私とエリオットくんに指示を出し、それでいて手を止めることもない。アイドル七人と、私。そしてご両親の分となると十人分になるのに。


 ふと、ギルさんが「そーいや」と声を上げた。


「俺らどーしてりゃいい?」


「ギルたちはのんびりしてていいよ、料理手伝えないだろ?」


「まーな」


「自炊なんざ滅多にしなかったからな……」


「私もです」


「僕も自炊は経験がないな」


 ギルさんは一人暮らしだったはずだけどな……? 出来合いの弁当で済ませていたのかな? イアンさんもか。不摂生だな。ネイトさんもなのか。彼は家が用意してくれたりしてたのかな? 騎士の宿舎とか?


 オルフェさんは……なんか、旅先でいろんなご馳走を頂いてそう。行きずりの女性から。偏見が過ぎますね、ごめんなさい。


「バーバラさんのお料理、本当に美味しいですからいい子で待っててくださいね」


「リオちゃんって、なんでかたまにガキ扱いしてくるよな、なんで?」


「いいお嫁さんになりそうじゃないか」


「良妻の片鱗を垣間見ることができました」


「恐妻の間違いじゃねぇのか……?」


 また好き勝手言って。特にイアンさん、後で覚えておきなさい。


 口元に笑みを、背中に怒りを映しながら手伝いを続ける。料理が出来上がる頃には、午後八時に迫りそうだった。おかげで、文字通りのご馳走が並ぶことになったんだけど。

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