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カガスタ!〜元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト〜  作者: 中務善菜
第七章:輝く“星”になって
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最新のバージョン

 ミカエリア城、北の尖塔。城下町を一望出来るこの場所が私たちの本部、文化開発庁。稽古を終えた私たちは、事務所で今後のことについて話し合っていた。


「ま、火付け役の仕事はこなせたかねぇ?」


 得意げに笑うギルさん。文句なしの仕事だった。ポケットマネーでボーナスあげたいくらい。観客の熱を高めるのは彼の得意分野になり得るかもしれない。


「オレ、ギルがいきなり呼ぶからびっくりしちゃったよ……」


「ふふ、未来のセンターも緊張するものなんだね。そんな姿さえ愛でようがあるはずさ」


 身震いするアレンくんと、フォローする気があるのかないのかわからないオルフェさん。確かに、馬車から覗いた背中からも緊張は伝わっていた。これからセンターに立って歌ってもらうし、慣れてもらわないとね。


 一方で、エリオットくんは興奮冷めやらぬといった様子だった。恐れを知らないのは幼さ故かな?


「皆さん、いっぱい応援してくれましたね……! ぼくも、いっぱい頑張らないと!」


「僕とのダンスも要練習だ。これからしばらく、一緒の時間を増やしていこう」


「はいっ! よろしくお願いします、アーサーさん!」


 天真爛漫なエリオットくん。アーサーくんはやっぱりくすぐったそうだった。ここまで素直に近づかれる経験もなかっただろう、ここも慣れが必要かもしれない。


 はつらつとしたエリオットくんと、クールなアーサーくん。この二人の相性はいかがなものか。アーサーくん、結構子供っぽいけど……ちゃんとお兄さんしてくれるかな? 期待も込めて見守ろう。


 さて、問題は――。


「私たちが、目下の悩みとなりそうですね……」


「そうだよな……」


 ここ二人だ。イアンさんもネイトさんも表情が重い。年長者である自分が力になれないことに責任を感じているのかもしれない。


 彼らに求められるのは演技力。ネイトさんは入り込む素養があると判明した。いまはオルフェさんのサポートが必要だが、いずれは自分自身でコントロール出来るようになってもらいたい。


 そしてイアンさん。彼は頭が切れる人だ。役に入り込むよりも役を分析して表現する方が性に合っているかもしれない。恥じらいさえ取っ払えれば、ネイトさんと合わせて演技派アイドルとして売り出せる。


 なにより、二人のどちらかが主演を張るなら、主題歌を“ニジイロノーツ”で歌える可能性もある。そうなれば知名度も大きく稼げるだろう。今後の活躍は、ある意味この二人の成長に左右されるかもしれない。


「お二人には歌唱やダンスとは別に、演技の基礎を学んでいただく必要があるかもしれません。帝国には有名な劇団ってあったりしますか……?」


「芸事は隣国のグラスが栄えてるからなぁ……帝国の劇団っていうと……」


「“スイート・トリック”のジェフさんならなんか知ってんじゃね?」


 ギルさんの提案に手を叩く。ジェフさん。初めて稽古場を見せてもらったときに会ったピエロだ。そういえば一度しかお会いしてないけど、演劇に通じるところがあるのかな。


「ピエロのお兄さんですね! あの人、演劇もするんですか?」


「元々役者だったって話があんだよ。詳しくは知らねーけど、次の稽古で聞いてみれば?」


「そうですね……一度しかご挨拶させてもらえなかったので、お時間頂けたら話してみます」


 当たり前だが、多彩な集団だ。みんなにもそう在ってほしいところだが、既に適性が明確に分かれているし、深く考える必要もなさそう。


「俺たちも力になりたい。すまんが、よろしく頼む」


「私も、剣を取ること以外で民に報いたいです」


 二人とも、やる気はある。その言葉がどれだけ私に安心感をもたらしているか、知る由もないだろう。元々誘う予定のなかった人たちだから、余計に。


「それじゃあ、一度解散しましょうか。改めて、五日間の基礎練習、お疲れ様でした。これからも自主練習を欠かさずにお願いします」


 みんな、元気よく返事をしてくれる。本当に、嬉しくて泣いちゃいそう。自室へと戻る七人の背中を見送り、一人。私は安堵の息を漏らした。


「……どうなることかと思ったけど、一つの難所はクリア、かな」


 基礎練習で誰かがリタイアするのではないか。正直、一日目の様子を見てからずっと気がかりだった。ギルさんやオルフェさんが軽率に逃げてしまう気がしていたから。ただ、それも杞憂に終わった。


 一番の不安要素だったギルさんがみんなに発破をかけたのも大きいだろう。それに、楽曲が出来たことも。全てがいい方向に噛み合ってきている。自然と、笑顔になる。


 あとは今朝のパフォーマンスがどう転ぶか。認知してもらうにはもう少し時間と頻度が必要だろうけど、七人のエンターテイナーがいずれ現れると知ってもらえればいまはいい。


「……ん? そういえば……」


 ふと脳裏を過ったのはアミィの存在。彼女は“データベース”専用のデバイスだ。それはいい。大事なのは、あの子はミチクサさんからの細やかなプレゼントだということ。あのとき彼はなんて言っていた?


 ――『今回のアップデート内容は“情報収集の上限解放”です。これまでは記述として残っているもののみが対象でしたが、最新のバージョンでは世間の声や特定の単語の会話をリアルタイムで取得できます』


「……世間の声、特定の単語を、リアルタイムで……」


 どうすればそのモードに切り替えられるのか。ひとまずは“データベース”を起動する。調べたい単語は“ニジイロノーツ”。


「えーっと……“ニジイロノーツ”、で、いいのかな……? うわっ、なんだこれ……?」


 私の視界に現れたのは、二つの画面。一つは従来の検索画面、もう一つは“ニジイロノーツ”を含む会話と思しき文章が羅列した画面。指を動かせば遡ることも出来る。


 いやいや、こんな便利なことも出来るってなに? ミチクサさん、本当に渋る理由がありませんよ。私、すごく助かってる。


 今後担当する魂さんにも自信を持って薦めてほしい。まあ、私が異例だったと思うからそうない機会だと思うけど。


「……結構、好評っぽい……?」


 批判的な意見は多くは見当たらなかった。勿論、全てが肯定的な意見ではない。その一端は、やはりイアンさんとネイトさんだ。


 宰相を降ろされて見世物になった男。所詮はコネ、大した力もなかった能無し。


 騎士の務めを放棄した勘違い男。人の心がないくせに楽しませられるものか。


 うーん……こっちの世界でもアンチって湧くものなんだなぁ……。私は事前に情報を得られるわけだし、彼らにはなるべく健やかに育っていってほしい。私に出来る限りの露払いは頑張ろう。


 アーサーくんに関する意見もあった。でもそれはランドルフ伯爵への心配の声だ。彼自身に対する批判は見当たらなかった。これは喜ばしいことでもある。


「……これもアミィに頼んで出力しておこう。金庫かなにかにしまっておかないと……誰かに見られちゃまずいからね……」


 念のため部屋を見回す。勿論、誰もいない。一人の時間がこんなに安心できないのも、オルフェさんと陛下のせいだ。


 花も恥じらう美少女を怖がらせるもんじゃありませんよ、まったく。いやいや誰が美少女か? 私だ……どうしてこうなった……。

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