★オレたちの光
「どうなってほしい、かぁ……」
そう呟くリオは、少し困ったような顔をしていた。あんまり考えてなかったのかな? でも、目的を持ってオレたちを集めてくれたんだ。どんなアイドルになってほしいか、うっすらでも考えはしたはず。
オレたちにどんな願いが込められているか、それがわかれば難航する作詞の打開策になるかもしれない。
「オレ、知りたいんだ。アイドルっていう仕事をしていく上で、オレたちはどんな存在になってほしいのか。それがわかれば、きっと作詞も軌道に乗るから。リオの考えを教えてほしい」
オレ、どんな顔してるかな。切羽詰まってる? それとも、責めるように?
リオの顔は困ったままだ。オレはただ、知りたいだけなんだ。どんなアイドルになればリオは満足してくれるのか。
リオは唸る。腕を組んで、しばらく考えて――ため息を一つ。
「アレンくんには話していいかな。私がアイドルをプロデュースする理由」
思えば、どうしてプロデュースしたいのかは聞いていなかった。そういう仕事をしたいとは聞いてたけど。
リオは事務所のカギを閉めて、オレに向き直る。
「……私ね、この国の未来を担ってるの」
「は、え? どういうこと?」
ただの旅人のはずだよね? どうして帝国の未来が関係してるんだろう?
いきなり話のスケールが大き過ぎて理解が追いつかない。リオは「そうなるよね……」と苦笑した。当然の反応だってことはわかってたみたい。
「ちょっといろいろあってね。帝国の印象を変えるための役職に就いたの。文化開発庁っていう機関の補佐、それがいまの私。長官はイアンさんね」
「いろいろを省かれると余計気になるけど……それで、なんでアイドル?」
「帝国はいま、不安に駆られてる。カイン陛下の即位、フィンマ騎士団の解体……いろんなことが突然過ぎて、国民はなにを信じればいいのかわからないでいるの」
それはオレも思っていた。アベル陛下が不審死を遂げて、カイン陛下が即位した。その詳細が一切語られていなかったから。この先、帝国は大丈夫なのか。それは誰もが感じたこと。
オレたちの不安を拭うのがアイドル? いったいどういう理屈で、なにを根拠に? オレの疑問を解消するように、リオは続けた。
「フィンマ騎士団の存在は帝国の印象を固めた。攻撃的で、武力にものを言わせる国。それがレッドフォード帝国だって。でもそれはアベル陛下の帝国。だから、いまはカイン陛下の帝国だっていう印象を植え付けるために、アイドルをプロデュースしようって決めたの。芸能関係に強い国にする、そのためのアイドル」
「ああ……でもそれなら“スイート・トリック”でも良かったんじゃ……」
「ううん、それ以上が欲しいの。そして、それが叶えられるのがアイドルだって、私は思った。私が選んだ七人なら絶対叶えられる。そう信じてる」
力強い声。重圧を感じる。でも、それでいいんだ。オレはもっと頑張らなきゃいけないから。
「それでね、話を戻すんだけど……アレンくんたちにどんなアイドルになってほしいか。私としてはね、みんなの思い思いに育ってほしい」
「お、思い思いに……?」
まさかの丸投げ。実はあんまり考えてなかったのかな……?
オレの顔を見て、リオはハッとした表情を浮かべた。言いたいことはこれじゃなかったみたい。気にはなるけど。
「あ、ごめん。これはまた別な機会に話すね。私のアイドルじゃなくて、帝国のアイドルとして、みんなにどんな存在でいてほしいか――薄暗い帝国で、一番強い光になってほしいかな」
「一番強い光……」
ギルが言っていた、“スイート・トリック”から話題を掻っ攫うような存在。それがリオの言う一番強い光?
「なんていうのかなぁ……一番って言ったけど、誰よりも目立ってほしいっていうわけじゃないの。キラキラしてて、見てる側が自然と笑顔になっちゃったり、また明日も頑張ろうって思わされたり。曇った心を晴らすような、名前も知らない誰かを勇気づけられるような、そういう存在……かな?」
申し訳なさそうに笑うリオ。光、って、そういうことなんだ。少しだけわかった気がした。
誰よりも目立って、華やかな脚光を浴びるのが目的じゃない。オレたちに求められる光は、もっと優しくて柔らかいものなんだ。
疲れたとき、泣きたいとき。歩き出すのも難しい、立つことすらままならないとき。肩に手を置いて、頭を撫でて、涙を拭う。手を取って、立ち上がらせて、背中を押してあげる。オレたちに、そういう存在になってほしいんだ。
「……わかった気がする、かも」
「それならよかった。作詞の参考になりそう?」
「たぶん……ちょっと、頑張ってみるよ」
「それならよかった。根詰め過ぎないようにね」
「うん、ありがとう。それじゃあね」
お辞儀をして、事務所を出る。その足である部屋へと向かった。扉を叩くと、驚いたように目を丸くしたアーサーが出てくる。だけど、オレの顔を見て息を漏らす。
「アーサー、いま――」
「顔を見ればわかる、行こう」
得意げに笑うアーサー。ああやっぱり、こいつと和解出来て本当に良かった。自然と、笑みが零れた。