表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/200

★オレたちの光

「どうなってほしい、かぁ……」


 そう呟くリオは、少し困ったような顔をしていた。あんまり考えてなかったのかな? でも、目的を持ってオレたちを集めてくれたんだ。どんなアイドルになってほしいか、うっすらでも考えはしたはず。


 オレたちにどんな願いが込められているか、それがわかれば難航する作詞の打開策になるかもしれない。


「オレ、知りたいんだ。アイドルっていう仕事をしていく上で、オレたちはどんな存在になってほしいのか。それがわかれば、きっと作詞も軌道に乗るから。リオの考えを教えてほしい」


 オレ、どんな顔してるかな。切羽詰まってる? それとも、責めるように?


 リオの顔は困ったままだ。オレはただ、知りたいだけなんだ。どんなアイドルになればリオは満足してくれるのか。


 リオは唸る。腕を組んで、しばらく考えて――ため息を一つ。


「アレンくんには話していいかな。私がアイドルをプロデュースする理由」


 思えば、どうしてプロデュースしたいのかは聞いていなかった。そういう仕事をしたいとは聞いてたけど。


 リオは事務所のカギを閉めて、オレに向き直る。


「……私ね、この国の未来を担ってるの」


「は、え? どういうこと?」


 ただの旅人のはずだよね? どうして帝国の未来が関係してるんだろう?


 いきなり話のスケールが大き過ぎて理解が追いつかない。リオは「そうなるよね……」と苦笑した。当然の反応だってことはわかってたみたい。


「ちょっといろいろあってね。帝国の印象を変えるための役職に就いたの。文化開発庁っていう機関の補佐、それがいまの私。長官はイアンさんね」


「いろいろを省かれると余計気になるけど……それで、なんでアイドル?」


「帝国はいま、不安に駆られてる。カイン陛下の即位、フィンマ騎士団の解体……いろんなことが突然過ぎて、国民はなにを信じればいいのかわからないでいるの」


 それはオレも思っていた。アベル陛下が不審死を遂げて、カイン陛下が即位した。その詳細が一切語られていなかったから。この先、帝国は大丈夫なのか。それは誰もが感じたこと。


 オレたちの不安を拭うのがアイドル? いったいどういう理屈で、なにを根拠に? オレの疑問を解消するように、リオは続けた。


「フィンマ騎士団の存在は帝国の印象を固めた。攻撃的で、武力にものを言わせる国。それがレッドフォード帝国だって。でもそれはアベル陛下の帝国。だから、いまはカイン陛下の帝国だっていう印象を植え付けるために、アイドルをプロデュースしようって決めたの。芸能関係に強い国にする、そのためのアイドル」


「ああ……でもそれなら“スイート・トリック”でも良かったんじゃ……」


「ううん、それ以上が欲しいの。そして、それが叶えられるのがアイドルだって、私は思った。私が選んだ七人なら絶対叶えられる。そう信じてる」


 力強い声。重圧を感じる。でも、それでいいんだ。オレはもっと頑張らなきゃいけないから。


「それでね、話を戻すんだけど……アレンくんたちにどんなアイドルになってほしいか。私としてはね、みんなの思い思いに育ってほしい」


「お、思い思いに……?」


 まさかの丸投げ。実はあんまり考えてなかったのかな……?


 オレの顔を見て、リオはハッとした表情を浮かべた。言いたいことはこれじゃなかったみたい。気にはなるけど。


「あ、ごめん。これはまた別な機会に話すね。私のアイドルじゃなくて、帝国のアイドルとして、みんなにどんな存在でいてほしいか――薄暗い帝国で、一番強い光になってほしいかな」


「一番強い光……」


 ギルが言っていた、“スイート・トリック”から話題を掻っ攫うような存在。それがリオの言う一番強い光?


「なんていうのかなぁ……一番って言ったけど、誰よりも目立ってほしいっていうわけじゃないの。キラキラしてて、見てる側が自然と笑顔になっちゃったり、また明日も頑張ろうって思わされたり。曇った心を晴らすような、名前も知らない誰かを勇気づけられるような、そういう存在……かな?」


 申し訳なさそうに笑うリオ。光、って、そういうことなんだ。少しだけわかった気がした。


 誰よりも目立って、華やかな脚光を浴びるのが目的じゃない。オレたちに求められる光は、もっと優しくて柔らかいものなんだ。


 疲れたとき、泣きたいとき。歩き出すのも難しい、立つことすらままならないとき。肩に手を置いて、頭を撫でて、涙を拭う。手を取って、立ち上がらせて、背中を押してあげる。オレたちに、そういう存在になってほしいんだ。


「……わかった気がする、かも」


「それならよかった。作詞の参考になりそう?」


「たぶん……ちょっと、頑張ってみるよ」


「それならよかった。根詰め過ぎないようにね」


「うん、ありがとう。それじゃあね」


 お辞儀をして、事務所を出る。その足である部屋へと向かった。扉を叩くと、驚いたように目を丸くしたアーサーが出てくる。だけど、オレの顔を見て息を漏らす。


「アーサー、いま――」


「顔を見ればわかる、行こう」


 得意げに笑うアーサー。ああやっぱり、こいつと和解出来て本当に良かった。自然と、笑みが零れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ