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認知度のために

「……ん、僕が最後だったか」


「お疲れ様、アーサーくん。これでみんな揃いましたね」


 初日の稽古を終え、みんなには一度休んでもらった。現在時刻は午後一時。今後の方針を話すために事務所に集めたのだ。


 アーサーくんの到着で全員集合。満を持して、提案しよう。


「皆さん、まずは稽古お疲れ様でした。本当に大変だということは私にもよくわかりましたが、引き続きよろしくお願い致します」


「どうってことねぇ……が、体はしっかり休めとかねぇと続かんぞあれは……」


「そもそもミランダは人に稽古をつけるのが嫌いなんだ、ああなってしまうからだろうけど。倒れずについていくなら、栄養と休息を存分に摂って臨むべきだね」


 オルフェさん、そういうことは予め伝えてください。いや、よく考えたら彼女にトレーナーを頼んだのもこの人の独断だ……顔が広そうだし、なにか企んでいるようなら私が同伴しないと駄目だ。


「それで、オレたちを集めたのって?」


「そう、それ。皆さんの初舞台、成功を確実なものにするために挑戦したいことがあるんです」


「なにするんですか? チラシ配ったりとか?」


「それも一つの作戦だね。でも、それよりもっと効果的なものを私は提案します」


 エリオットくんの発想も間違いじゃない。時間帯を考えてチラシを配れば、貰ってくれる人もいるだろう。ただ、チラシ――というか、フライヤーを配って確かな成果が出るのは知名度がある者だけだ。


 無名の私たちを知ってもらうには、デビューライブの前から準備しておくべきだ。インターネットがない以上、web番組は無理。この世界で知名度を稼ぐにはーー


「皆さんには路上パフォーマンスをしてほしいんです」


「はあ? 俺らが? 全員で?」


 目を丸くするギルさん。その表情から察するに、自分一人に担わせる気かどうか不安なのだろう。安心してください、それはあなたの宣伝にしかなりませんので。詳しく説明しなければ。


「私たちに必要なのは、なにより知名度です。ファーストライブで大きな会場を押さえたとして、知名度がなければ盛り上がりに欠けます。アイドルが未知の文化だからこそ、慎重に、確実に盛り上げる準備が欲しいんです」


 そもそもアイドルという存在が根付いていない世界で歌って踊ったとして、誰がその空気感について来れるだろうという話だ。


 少し姑息な手段ではあるが、事前に個々人のファンを獲得していれば、みんなが真摯にパフォーマンスすることで盛り上がる可能性が上がるかもしれない。


 言葉の裏が読めるのはオルフェさん、ギルさんくらいだと思うが、彼らはなにも言わない。私は続ける。


「私たちがどんな活動をしていて、どんな存在であるか。そのために必要なこと――それが、路上パフォーマンスだと考えます」


「“私たち”を認知してもらうために、ですか」


 あまり乗り気じゃなさそうなネイトさん。確かに、彼の経歴を考えれば人前で披露できるようなものがないのかもしれない。改めて、みんなに自己PRをしてもらおうかな?


「さて皆さん、特技とかありますか?」


「特技っつったってなぁ……俺は手品くらいしかできねーよ?」


「オレも即興で歌詞作って歌えるくらい」


 ギルさんとアレンくんは控えめに言っているけど、それは才能です。普通の人が簡単に出来ることじゃないですよ。


「僕は楽器の演奏になるのかな」


「言えなかったが、社交界のためにダンスを嗜んではいた……」


「ぼくは体を動かしたいです!」


 オルフェさんは吟遊詩人という職業柄、楽器の扱いは手慣れたものだろう。信頼できる特技と言っていい。アーサーくんも、アイドルのダンスとは毛色が違うかもしれないけど助かる特技である。エリオットくんは、これから見つけていこうね。


「私は剣の扱いしか……」


「俺も取っ組み合いの喧嘩ぐらいか……」


 二人は武闘派ですね、でもイアンさんのはいただけない。アイドルは芸能人です。暴力ダメ、絶対。


 となると――ピンで活動させるか、ユニットで活動させるかを私の采配で決めるのが最適か。この中で振り分けるなら、どうなる?


「俺は一人の方がいいんじゃね? いままでとやること変わんないっしょ」


 ギルさんが手を挙げる。確かに、誰かと組ませるよりもピンで手品に専念してもらった方がいいかもしれない。その方がやり慣れているだろうし。私としては異論はない。


「オレはどうだろう、オルフェと路上ライブとか? 歌はカバーでいいかな?」


「検討の余地はあるね。お互い得意とするところだ、存分に力を発揮できると思うよ」


 アレンくんの歌とオルフェさんの演奏。二人はこれから作詞作曲も担当することになる、一緒の方がいいか。意外とオルフェさんも乗り気みたいだし、ここも確定でいい。


「ぼく、アーサーさんと踊ってもいいですか?」


「ぼ、僕と踊るのか?」


「嫌ですか?」


「あ、いや、違うそうじゃない。多少は合わせられると思うが、振り付けを考えたりは出来なくて……」


「じゃあ、ぼくが楽しそうに踊ります! アーサーさん、ついてきてください!」


「……難題だが、頑張るよ。僕だって格好つけたいしな」


 諦めたようにまぶたを閉じるアーサーくん。その裏に描かれているのは、きっとアレンくんの顔。年齢が近い分、エリオットくんとも仲良くなれるかもしれないし全然ありだ。


「リ、リオ……俺たちは……?」


 イアンさん、最年長がそんな目をしないでください。あなたはチワワじゃないですよ。一方で、ネイトさんは顎に手を当てなにか考えている。妙案が出たりしますか……?


「私とイアン様は武闘派です。いっそのこと街中で手合わせを試みるのはいかがでしょう?」


 物騒が過ぎますね。面子が面子だから猶更。


 これがネイトさんとイアンさんでなければ検討の余地はあった。ただ、二人は顔が知られ過ぎている。なにがあったのかと民衆を不安にさせないだろうか。


 そんな折、ギルさんが「それならさ」と声を上げた。


「寸劇にすりゃいいんじゃね?」


「それだと余計に不穏じゃないですか……?」


「“アンジェ騎士団のネイトさん”と“宰相を解任されたイアンさん”ならの話だろ? 現実じゃないってわかる設定にすりゃ見世物になるじゃん」


 国民が知る“ネイト・イザード”と“イアン・メイナード”ではない。その前提の下であれば、パフォーマンスの一環として受け入れられるということか。悪くない提案ではある。


 ……が、問題はネイトさんだ。ある意味、ここまで我が強い人を他に知らない。イアンさんは巧くやってくれるとは思うけど、ネイトさんに別人を演じるだけの想像力や表現力があるとは思えない。


 イアンさんも同じことを思っていたようで、唸り声を上げている。


「……ネイト、演技は……?」


「勿論未経験ですね」


「だよなぁ……」


 頭を抱える武闘派二人。これには私も困った。一番顔が知られてる分、二人のパフォーマンスはより注目を集められるはずだから。なにか、寸劇以外……ネイトさんでもこなせそうなパフォーマンスは……。


 ティーン組は遠慮しちゃったか、黙るばかり。ギルさんもお手上げのようだった。他のみんなは芸術面に秀でた部分を持っているが、イアンさんとネイトさんはそうじゃない。アイドルとして致命的とも言えるか?


 重たく沈んだ空気――自然と、深い息が漏れる。


「大きく変えずともいいんじゃないかな」


 気の抜けた一瞬、耳に飛び込んできた声。心の隙間にするりと忍び込む、オルフェさんの声だった。

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