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カガスタ!〜元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト〜  作者: 中務善菜
第五章:“星”の欠片
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一蓮托生

「……さて、皆様にご報告があります」


 伯爵との決戦に終止符を打ち、一夜明け。お昼を少し過ぎた頃、文化開発庁本部に現状確定しているメンバーを招集した。イアンさんとネイトさんも一緒だ。


 アレンくんは満足げな笑みを浮かべている。彼の隣のアーサーはどこかむず痒そうにしていた。ギルさんとオルフェさんはなんとなく察してはいるみたい。エリオットくんも、アーサーがここにいることで浮足立っていた。


「はい、お察しかと思いますが、新たなメンバーとしてアーサー・ランドルフ様を迎えました。アーサー様、ご挨拶をお願いします」


「あ、ああ……えっと、アーサー・ランドルフです。皆様、よろしくお願い致します」


「ランドルフ? ランドルフって、貴族の?」


 ギルさんの声は上ずっている。彼としては、宰相閣下とも貴族とも縁がある私素性が気になるところかもしれない。


 アーサーは控えめに頷いた。あまり貴族として認識されなくないのかな。少し居心地が悪そうだ。ギルさんはと言うと、からかうような笑みを私に向けてくる。ほら見ろ。


「貴族の坊ちゃんまで口説くとは、相変わらずやり手だねぇ」


「彼を口説いたのは私じゃなくて、アレンくん、に、なるのかなぁ……?」


「口説くって言い方、なんか変な感じする……まあ、オレが発破かけたんだよ。こいつがビビってたから」


「ビビってなんかいない、僕は慎重なんだ」


 今度はアレンくんが鼻で笑った。まあ微笑ましい光景だと思っておこう。この二人はこれでいいんだ。


「これでメンバーは五人になりました。ですが、もう一人アイドルに志願してくださった人がいます」


「誰だろう……ぼくの知ってる人ですか?」


 小首を傾げて尋ねるエリオットくん。知ってるもなにも、きみがご執心だった人物だよ。


 彼の疑問に答えるように、ネイトさんが一歩前に出る。


「私です」


「ええっ!? ネイトさんが!?」


 予想外だったのか、エリオットくんは素っ頓狂な声を上げた。まあ、わかるよ。でもそんなに驚く?


 あーもう! ほら見て! ネイトさんしょんぼりしてる! 表情が少しだけ豊かになりましたね! 月収九万円の顔になってますよ! ニートからパートの顔になってます! おめでとうございます! じゃなくて!


「私がアイドルになるのはおかしいでしょうか……」


「いえっ! そうじゃなくて! すごくびっくりしちゃったんです、どうしてアイドルになりたいんだろうって……」


 エリオットくんの疑問は(もっと)も。でも、彼を変えたのは他でもない、きみなんだよ。ネイトさんは微かに、本当に微かに笑った。その瞳は、当然エリオットくんに向いている。


「“私”を知りたいと思ったからです。そう思わせたのは、貴方ですよ」


「うん……? ぼく?」


「ええ。エリオット様には感謝しています」


「んー……? えへへ、どういたしまして!」


 この二人はこの二人で微笑ましい。未熟だからこそ、互いを刺激し合えるんだろうなぁ。ネイトさんがエリオットくんを刺激する場面には、まだ出くわせていないけど。


「ネイトさん、改めて意思確認です。アイドルは並大抵の覚悟じゃ務まりません。苦しいこともつらいこともたくさん訪れます。加えて、サービス精神も大切です。いまのあなたには難しいと思います。それでも、アイドルを志願しますか?」


「無論です。それらも全て併せ飲み、務めてみせます。民のためにも、私自身のためにも」


 言葉に迷いはない。瞳を覗いても、そこには決意しか映っていない。真っ直ぐな眼差しだ。私、弱いんです、それに。


 妥協はしない。そう決めている。“スキャン”で視たとはいえ、正直不安は残ったままだ。ネイトさんより適性のある人物に出会えるかもしれない。そう思ってしまう。


 が、彼以上に適正のある人には出会えないとも思ってしまう。“成し遂げたい”という明確な目標を持ってアイドルに臨める人はそう多くないだろうから。


 ――ネイトさんは覚悟を決めてるんだ。ああ、私も覚悟を決めるときだ……。


「わかりました。ネイト・イザードさん、これからよろしくお願い致します」


「こちらこそ」


「ネイトさんもアイドル……! 頑張りましょうね!」


 エリオットくんが彼の手を握る。少し戸惑っているようだったが、本当に僅かな笑みを湛えている。この二人も大丈夫だ、心配ない。


 そのとき、ギルさんが頭の後ろで手を組みながら深い息を吐いた。


「すげぇ勢いで話が進んでんなぁ」


「これも全てリオの人徳だろう。僕は彼女を評価するよ」


「別に俺だって難癖つけようってわけじゃねーよ……リオちゃんのお手柄ってこったろ?」


「そういうこと。彼女の熱意がここにこれだけの人を集めたんだ。よく頑張ったね、リオ」


「はぇ、へへ……ありがとうございます」


 急に褒められるとすぐこれだ。社畜の弱点は褒め言葉です。これ以上は身が保たないのでお控えください。


 ギルさんはなんとなく不服そうな顔をしている。心配なのはここの二人くらいなものだ。まったく折りが合わない、ってわけじゃないと思うけど……。


 そのとき、ようやくイアンさんが手を挙げた。


「で、だ。センターにアレンを立たせるんだろ?」


「オレに務まるかはわからないですけど、そういう話ですね」


「となると、メンバーがあと一人必要なんじゃねぇのか?」


「それについても、私からご連絡させていただきます。けれど、その前に……」


 私はイアンさんを見つめる。彼はなんのこっちゃと見つめ返してくる。よくそんな顔ができますね、ホウレンソウとかいう社会人の最低限を果たせなかったのに。


「イアンさん、煙草は?」


「あ? 吸ってねぇよ」


「もう吸いませんか?」


「おう、それがなんだって……」


「イアンさん――」


 私は微笑み、告げる。


「責任、取ってくださいね?」


「は? せきに……まさかテメェ……」


「こらこら、未来のアイドルが『テメェ』なんて言っちゃいけませんよ」


「やっぱりかこの野郎! 冗談じゃねぇぞ! なんで俺が!?」


「なんでもクソもありますか! 勝手に動いてプランをぶっ壊された私の身にもなって!? こんな役職に任命された以上、私とあなたは一蓮托生! 拒否権はないのでよろしくお願いしますねイアン・メイナードさん!」


「ざっけんなコラァ! 俺は絶対やらねぇからな!」


「黙らっしゃい! 口答えは許してませんけどぉ!? 分を(わきま)えて!?」


 ぎゃあぎゃあ、ミカエリアに響き渡るほどの怒声に固まる面々。押し問答に決着がつく頃には、日が暮れそうだった。


 =====


「――いいですか、再確認です。あなたはプロジェクト責任者である私を通じずにネイトさんを勧誘しました」


「はい……」


「私のプランには、ネイトさんの存在がありませんでした。計画していたものが第三者の手によって崩れたのです。ご理解いただけていますか?」


「はい……」


「結果的にネイトさんを迎えることになりましたが、おかげでメンバーは偶数。アレンくんをセンターに据えるには、あと一人必要です。さあ、あなたはどうします?」


「自分のケツは自分で拭きます……」


「声が小さい! 具体策もない! やり直し!」


「テメェのケツはテメェで拭きます! イアン・メイナード! アイドルになります!」


「ありがとうございます! これからよろしくお願いします!」


 長針が五周して、ようやくイアンさんを屈服させた。これでもう勝手なことはしないだろう。七人目も加えたことだし、改めてメンバーに視線をやる。


 ネイトさんとエリオットくん、ギルさんの手品に見惚れてる。オルフェさんは楽器でほのぼのした空間を演出していたみたいだし、アレンくんとアーサーはストレッチしてる。


 確かに長引いたけど、皆さん思い思いに過ごしすぎでは? 手を叩いて空気を引き締める。皆さん、注目してください。そうそうその調子、いいですね。


「さて、お待たせしました。七人目のメンバーが確定しましたので、晴れてグループ結成です」


「あ、終わったの?」


「なかなかの舌戦だったな……」


「かかあ天下ってこういう感じなのかねぇ」


「リオさん、強いなぁ……!」


「いいお嫁さんになると思うよ」


「なるほど、これが良き妻の素養なのですね」


 もういちいちツッコミを入れる体力もない。用件だけ伝えて今日は解散しましょうね。


「グループ名に関しては後々考えます。ですので皆さん、改めて自己紹介をお願いします。これからは仲間ですので」


 沈黙する一同。誰から……? みたいな空気がすごい。これ、私から指定してあげた方がいいかな? と思ったら、イアンさんがすっと前に出た。こういうときに空気を作ってくれるから、根っこは頼りになる人なんだろうけどね。


「イアン・メイナードだ。だっせぇとこ見せちまったが、やるからには全力だ。よろしく頼む」


「んじゃ、次は俺が行こうかね。ギル・ミラー。やれるだけのことはやりますよ。よろしく」


 ギルさんが続き、今度はオルフェさんが立ち上がった。この二人、張り合ってるのかなんなのか。彼らもまた、お互いに刺激し合う仲なのかな?


「オルフェという。吟遊詩人だけど、ここに根を下ろしてみたくなった。よろしくね、一緒に楽しもう」


「楽しみます! エリオット・リデルです! いっぱい頑張ります、よろしくお願いします!」


「ネイト・イザードです。人間として至らぬ箇所ばかりですが、何卒よろしくお願い致します」


 続々と続くものだ。イアンさん、ギルさんは先陣を切る人として相応しいのかもしれない。空気を作るというか。系統は違うと思うけど。残ったのは、若い二人だけ。咳払いで気持ちを整えたのは、アーサーだった。


「……アーサー・ランドルフです。ここでは、伯爵子息ではない“僕自身”で在りたいと思います。よろしくお願いします」


 そうして、最後に残ったのはうちのセンター。グループの中心。太陽のようなアーティスト。


「アレン・ケネットです。ここにいるみんなで夢を叶えたい。そのためにできることはなんでもやります。よろしくお願いします!」


 ――ようやく、ようやくだ。今日がスタート地点になる。いろいろあったけど、第二の人生は今日始まったんだ。


 実感が湧くと、途端に頬が緩む。気を引き締めろ、これからだって油断はできない。もっともっと、大変なことが待っているかもしれない。それでも目標が達成されるのは嬉しいものだ。


 この先ずっと、彼らを応援していたい。彼らが輝く瞬間を、誰より傍で見ていたい。強く、切に、そう願っている。



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