神の釣り針
「ぐゲェ〜」
ダンジョン最奥のラスボスが、断末魔の叫びをあげ、小さな光の集合体になって消えた。
勇者サモンは、ラスボスの消えた後に残された宝箱を開いてみる。
眩い光とともに、黄金に輝く釣り針が出てきた。手のひらよりも少し大きく、太さは小指ほどもある。かなりの大物用の針だ。
「一応、触る前に呪われていないか、調べておくか」
サモンは、そう独り言を言いながら、ベナポール!と呪文を唱えた。
これで、呪いのアイテムならば、黒く変色するが、どうやら呪われてはいないようだ。
「普通は、武器とか、防具が出てきそうなものだが。ふむ、何に使う釣り針だろうな?」
とりあえず呪文でステータスを調べてみる。
カミノツリバリ
非売買品
劇レア
「なるほど…
売り買いの出来ない、劇レアアイテムか。錬金にでも使うものなのだろうか?」
手に取ってみる。
重さはほとんど感じない。
振り回してみるが、武器として使えるようなものでは無いようだ。
ラスボスを倒すのに、結構体力も魔力も使い、回復用のポーションも心許ないので、とりあえずこれを持って宿に帰ろうと決め、サモンは、ダンジョンから出る呪文を唱えた。
「オラナイン!」
一瞬でダンジョンの外に移動した。
街に戻ろうとした途端、手に持ったカミノツリバリを、グイっと引っ張られた。サモンは思わず手を放してしまった。
カミノツリバリはふわふわとバスケットのゴールくらいの高さに浮かび、キラキラとした、何色とも言えない光の粉ようなものを、まるでステージのスポットライトの様に地面に落とした。
すると、それに誘われる様に周りから魔物が集まって来るのである。
「なるほど〜、魔物寄せのアイテムかぁ、これは、わざわざ魔物を探して回る手間が省けて便利だなぁ」
サモンは何に使うのか、分からなかったカミノツリバリの効果に嬉しくなった。
せっかくなので、集まった魔物を斬り伏せて、経験値を稼いでおく。
このダンジョンの近くにいる、中程度の魔物が面白いほど集まって来るので、探して回る手間が省けて本当に便利だ。しかも魔物達は、かなり効率良く集まって来る。
そろそろ本気で、体力、魔力の心配をしなくてはならなくなって来たので、カミノツリバリを回収して戻ろうとサモンは、魔物を踏み台にしてツリバリに飛びついた。
しまった!不意に動いたツリバリが着ている鎧の背中に引っかかってしまった。
「えっ!」
途端に、ツリバリがグイグイと引っ張りあげられる。
サモンは、近くの木に掴まってこの力に抵抗しようとした。
ダメだ!次は風を起こす魔法で、地面に戻ろうとする。少しだけ、戻ることが出来たが、やはり引っ張りあげる力には、あがなえない。
炎の魔物も雷の魔法も、氷の魔法も放ってみるが虚しく空を切るのみだ。やがて、サモンは、魔力と体力を使い果たしてぐったりと、カミノツリバリに引き寄せられるままになってしまった。
天上で雲の隙間から、神たちが釣り糸を垂れている。
『釣りバカ神さま魔物釣り大会』
と書かれた横断幕が張られている。
その中の一人がサモンを釣り上げた。
「なーんだよ!大物だと喜んでたら、外道だよ!勇者釣っちゃった!」
「イヤイヤ、レベル65の勇者だと、それは大物賞が狙えるんじゃないですか!」
「よーし、次は本命の魔王を釣るぞー」
サモンは、薄れゆく意識の中で、こんな神たちの会話を聞いていた。