緑の桜の下のあの人
高校の入学式の日に俺は恋をした。
校門をくぐりすぐに目に入った。
ドキッとするというか胸に鉛が乗ったような感覚だ。
その時はずっと見てしまった。
もうそれは一目惚れだ。
入学式の最中も2組の教室に行く途中も探したが
見当たらない。
俺の番号3番なので教室に入ってくる人の中に
あの人がいないか探していると、最後の方になって
あの人が来た。
再びその瞬間あの感覚がきた。
教室で先生の話を聞いて自己紹介の時間になった。
番号順に自己紹介をする。
自己紹介は番号と名前と一言言った後に
よろしくお願いしますと言う
「1番、相川晴人です。中学の時は美術部でした。
よろしくお願いします。」
なかなか堅い人だな。
「2番、磯部明日香で〜す。あすかとか熊ちゃん
とかよばれてたよ。よろしくお願いします。」
結構明るくてギャル予備軍的な人だな。
ここであの人に俺を覚えてもらえれば
あの人に近づけるはずだ。
インパクトは強めで自己紹介しよう。
「3番、遠藤海斗です。俺の夢は宇宙飛行士に
なることでしゅ。よろしくお願いします。」
あぁ〜〜ミスったどうしよう。
普通そこで噛んじゃう?
本当ににやらかしちゃったよどうしよう。
これであの人から遠ざかっちゃたよ。
「4番………
「5番………
「6番………
と順調に進み
とうとうあの人の番だ。
「32番、吉田彩香です。歌を歌うのが
好きです。よろしくお願いします。」
あの人は吉田彩香って言う名前なんだ。
歌を歌うのが好きなのは同じだけど、俺は下手だし
彩香さんのその話題に触れないだろうな。
自己紹介が終わり、いろいろなことも終わり、
下校の時間だ。
彩香さんに話しかけようかな。
だけど、相手のことがよくわからないからな〜とか、
話すとしたら何話そうかな〜とか考えているうちに
彩香さんは教室から消えていた。
もうすることもないので、とっとと家に帰ることにした。
下校中はずっと彩香さんとデートするなら
どこにしようとか、彩香さんとどのような
シュチュエーションになりたいかとか考えていた。
そんなことしているうちに家に着いた。
「ただいま〜」と言うと奥から母さんが
「お帰り〜」と言って出てきた。
僕を見てすぐに
「どうしたのそんなにニヤニヤして、友達でもできたの?」
と聞いてきた。
え、俺、ニヤニヤしてたの?
妄想しててニヤニヤが隠れていなかったのかと思ったが、
俺はすぐに
「そうそう、できたできた。」
と言ったがそんなのは嘘であり本当はできていない。
ずっと彩香さんのこと見ていて、
男子は全然見ていなかった。
その日は、夕飯の時も、風呂の時も、布団に入った時も、
一日彩香さんは頭の中から抜けなかった。
次の日、朝の目覚めは最高だ。
なんせ、好きな人ができたからな。
朝早くからパッパッと身支度をして学校に行った。
登下校中は彩香さんでの妄想を止めようと思ったが
止めることは出来なかった。
理性は燃える恋心に負けてしまうのだ。
彩香さんでの妄想をしているとすぐに目的地についてしまう。
相当早く学校に着いてしまったが1年2組の靴箱にもうすでに靴が一つある。
誰とだろうと番号を見ると32番。つまり、彩香さんだ。
要するに今教室にいるのは彩香さんだけで、
今行けば彩香さんと2人きりになれるということだ。
彩香さんと2人きりになりたいという
気持ちがたかぶり心拍数も急上昇している。
とうとう教室の前に来たときにとてつもなく
美しい歌声が聴こえた。
その歌声に聞き入ってしまい、歌が終わるまで聞いてしまった。心が落ち着くのを待って、肩の力を抜いて
教室に入った。
「お、おはようございます。」
おい、まじかよまた噛んだよ、なんなの
俺の恋がうまくいかない呪いでもかかってるの?
しかし、彼女は噛んだのを笑わず、微笑んで俺に、
「おはようございます。」と返してくれた。