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短編小説集

ビーズの花飾り

作者: 大西洋子


「あれ? ない、ない、ない!」

 砂がついたままの手で、みかは自分の耳元を触り、さらには頭のあちこちを触ります。ですが、みかの手には自分の髪の毛の感触しかありません。

「……どうしよう、お気に入りの髪飾りなくしちゃった……」

 みかはさっきまで遊んでいた場所に戻り、砂浜を掘り返しますが、出てくるのは小石と貝がらだけです。

「みか、そろそろ帰るわよ!」

 みかはお母さんに、お気に入りの髪飾りをなくしたことを告げられないまま、お家に帰りました。

 みかが海水浴場でなくした髪飾りは、ごく普通の髪用のピンに、ビーズで作られた虹色の花がついたもので、春先のお出かけの時、立ち寄った蚤の市で売られていた物でした。

 みかはその髪飾りを見たとたん、目が離せなくなり、自分の物にしたいと思いました。

 ですが、みかのおこづかいは、大好きなチョコバナナを買う分しか残っていませんでした。そこでみかは、おかあさんにおこづかいはをねだりましたが、首を立てにふることはありませんでした。

 考えた末、みかはチョコバナナをあきらめ、その髪飾りを買いました。そして、毎日と言っていいほど身につけていました。

 ――そう、髪飾りをなくした海水浴に行くときも。家に置いていったら? と、おかあさんに言われたのですが……

 おかあさんの言うとおりにしたらよかった。と、みかは何度もそう思いました。

 次の年、みかは家族で、あのお気に入りの髪飾りをなくした海水浴場に来ました。みかは泳がないで、砂浜を掘り返してばかりいました。もう、探しても無駄だとわかっていましたが、探さずにはいられなかったのです。

「みか、せっかく海に来たのに、どうして泳がないの?」

「……おかあさん、あのね……」 

 おかあさんにたずねられ、みかは正直に去年、ここでお気に入りの髪飾りをなくしたことを言いました。

「もう、みかったら! 去年なくしたものなんて、出てくるわけがないでしょ!」

 おかあさんはあきれながらも、みかをぎゅっと抱き締めました。

「本当に、本当に、みかのお気に入りだったのね……」 

 その言葉を聞いて、みかは、あの髪飾りはもう見つからないという事実を、やっと受け入れることができました。

 それからしばらくして、みかはアクセサリー作りの体験に参加しました。学校からもらったプリントに、白黒写真でビーズで作られた花があって、それを見るなり行ってみたいとおかあさんに参加したいと言ったのです。

 ですが、アクセサリー作りの体験は、ビーズで花を作るものではありませんでした。みかはがっかりしました。

 体験が終わり、みかは思いきって、このビーズの花を作ることが出来ないかを、アクセサリー作りを教えてくれた人にたずねました。

 その人は片付ける手を止め、手持ちの材料で作り方を見せてくれました。そんなみかの姿を、おかあさんが遠くから見ていました。


 みかの誕生日がきました。おかあさんに連れられておもちゃ屋に行きました。そこでたくさんのビーズが入った、アクセサリーキットを買ってもらいました。

 みかは、毎日、ビーズでアクセサリーを作りました。けれど、最初から上手にはできません。ですが、夏休みが終わる頃には、きれいに首飾りができ、それを夏休みの工作として、学校に持っていきました。

 冬が来る頃に、みかは、ビーズで花を作れるようになり、それを大きな安全ピンにつけて、おかあさんにプレゼントしました。おかあさんは大事に化粧台にしまいました。

 ですが、みかは知っています。おかあさんが寝る前にそれを身につけて、くるりと一回転することを。

 

 


 


 

 

 





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