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サキュパスさまのお話

 ズンとばかりに豊かな胸を顔面に押し付けてきたので、窒息しそうです。

 そうっとなるべく静かに押してみたんですけれど、柔らかいんですねぇ。


 私がジタバタしているのに気づいたのか、それともすっかり興にのっているのか知りませんが、サキュバス嬢は私から離れて滔々と自分語りを続けています。


 私はちらりと巨大な砂時計を眺めてみましたが、まだ砂は落ち始めたばかりで大量の砂が上のグラスに残っています。


「だからさ、サキュバスってのは人間をメロメロにするのがお仕事なの。わかってる?」


 私は大いに頷きました。

 そーですよね。


 サキュバスさんってのは、こういってはなんですが、いわゆる色仕掛けがお仕事ですよね。


 それで言えば十二分に目の前のサキュバスさんは色っぽいんと思いますが、いったい何がご不満なのでしょう。

 

 だってお胸の先っぽだけわずかに覆う布。

 あれを上着って言っても許されるのでしょうか?


 下半身は、うん!紐です。

 紐がなんとなく見ては拙そうなところを隠そうとすっごく努力していると思います。


 がんばれ紐さん。

 一応エールを送っておきます。


 お胸はぼよよんだし、お尻はプリとしていますし、腰だってきゅっと括れています。


「えっと、サキュバスさんはすっごく魅力的ですよ。」

 

 私がおずおずとそう申告すると、サキュバス嬢はいかにもと言わんばかりに頷きました。


「そうだろうとも。私はサキュバスの中でも最もエロいといわれるサキュバスのなのだ!」


「だのに!だのになぜ人間どもは途中で逃げ出してしまうのだ。どこがいけないのだ? 技か? 技ならば自信があるぞ。例えば……。」


 えっとこっから先はテレビとかではピ―って音がするところだと思います。

 

 私もいちおう独身なので、こんなのを聞いているとお嫁に行けなくなりそうで怖いです。


 神様もあんまりですよね。


 ことのおこりはきっと20%引きで大好きなケーキが買えたことがいけなかったんだと思います。

 

 おおらかな気持ちになっていた私は、橋の上から川面を見つめてとっても辛そうにしているご老人に思わず声をかけちゃったんです。


 まぁ、それが異世界の神さまでね。

 異世界の神さまって大変らしいんです。


 最近転生とかトリップとか召喚とかも多いんですって。


 それなのにうっかり間違えると、ものすごーく叱られるだけじゃなくていっぱいプレゼントとかしないといけないそうです。


 それに土下座までするんですって!

 最近はジャンピング土下座って技まで開発したとか。


 それでチートっていうんですか?

 それを与えすぎても、なんかクレームになるらしくてね。


 おきのどくでしょう。

 それでうん、うん、って言いながら聞いちゃったんですよ。


 そしたら自分の世界でも困っている人? がいるから毎晩お仕事が終わってからでいいから聞いてやってくれないかって頼まれたんです。


「いやぁ、私なんかにはとても無理です。」

 

 断ったつもりだったんですけど、なんか最後には砂時計を渡されて、その砂が落ちるまだけでいいからって押し付けられたわけです。


 それから夜になるとこーやって異世界の愚痴を聞くために飛ばされちゃうんです。


 砂時計はどこに捨ててもちゃんと夜には私のところに戻ってくるから逃げようもなくて。


 「サキュバスさま。技も素晴らしいと思いますわ。それで人間はどんな風に逃げ出すんですか?」


 「知らん!」


 えっと私の質問をサキュパスさまは一刀両断にされましたけれど、たぶんここで諦めてはいけない気がします。


「その時にどんなことがあったかを教えていただけませんでしょうか?」


「だから知らんと言っているだろうが! 私がいかに素晴らしいサキュパスであるか。どれだけラッキーな出会いなのかを教えてやっているうちに、いつの間にか他のサキュパスに取られてしまうんだからな。」


 それって。

 それって。

 どう考えてもお前のせいだろうが!


「つまりサキュパスさまがことをお始めになる前に、男性がいなくなる。ってことですよね?」


「さっきからずーっとそう言っておろうが!」


 いいえ、絶対に聞いてません。

 私がきいたのは、サキュパスさまの魅力とか魅力とか魅力とかですわ。


 これで解決法はわかりましたけれど。

 聞く耳なんて持ってませんわよねぇ。


 どーしようかなぁ。

 せっかく解決法があるのに。


 私は意を決してサキュパスさまを見つめました。


「サキュパスさま。解決法が見つかりました。けれども申し上げられません。」


「なんだと!申してみよ。お前はそのために来たんだろうが。」


「とっても苦しくて辛い方法なんです。こんな方法をお話したらサキュパスさまは怒って私を殺してしまわれますわ。」


 絶対にその解決法を取得してみせる。

 私に怒ったりしないし、私の言う言葉を絶対に守る。


 そんな確約をしっかりと引き出してから、私はおもむろにいいました。


「喋るな!」

 

 サキュパス嬢は飛び上がって文句を言おうとしましたが、すかさず私がそれを止めました。


「私の言葉に従う筈ですわね。サキュパスさま。私は喋るなと言いましたのよ。」


 サキュパスさまは必死で口元を抑えて言葉が飛び出てくるのを我慢しています。


 「サキュパスさま。とても素晴らしいですわ。苦るしくても辛くても、次に人間の男に出会った時には、お口にチャックをしてくださいませ。」


「サキュパスさまが口を閉ざしますと、途端トタンにサキュパスさまの身体が妖艶に男に語り掛けます。その邪魔さえしなければきっとサキュパスさまは人間を虜にしてしまわれますわ。」


 サキュパスさまは口を両手で抑えて涙目になりながら、一生懸命にこくこくと頷いて見せました。


 それはあまりにも健気で色っぽくて、女の私でもふらふらになりそうなほどでした。


 そんな危うい瞬間に砂時計の最後の1粒が落ちて、私は自分の部屋に戻ることができたのでした。



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