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記憶の足跡  作者: 夜明けの朝日
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episode0 久坂秋人編

少年は手を繋ぐ感覚を知らなかった。


小さい頃、まだ自分の本当の名前もわからなかった頃、俺の両親は事故でなくなった。


物心つく頃には親が俺を新しい名前で読んでいた。あの時はが本当の母親なんだと思っていた。


本当のことを教えてくれたのは15歳の時だった。


たしか誕生日の前の日だった気がする。その時だけは、いつも笑ってい母さんの顔がひどく辛そうな顔をしていた。当然俺は理解出来なかった。


だけど母のは泣きながら、「あなたはそれでも私の子どもよ」と言ってくれた。とても嬉しかった。


それからの生活態度が変わる、まではいかなかったが、それでも両親は大切にしようと思った。


俺の名前は久坂秋人だ。

それ以上でもそれ以外でもない。

これからも変わる予定はない。

俺は俺の名前に誇りを持っていた。

だから昔の自分の名前なんて興味がなかった。

あの頃までは…






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「仕事…か」

一人歩きながら秋人は呟いた。


右手に持ったポスターを見ながらおもむろに携帯を取り出し、『アルバイト募集中‼︎詳しくはこちらへ』と書かれたホームページを開いてみる。


ホームページにはポスターと同じく大きな字で『アルバイト募集中‼︎』。その下には日給、時間帯、必要な資格やその他諸々と下までびっしり書かれていた。それによると、スケジュールが少ないわりにはちゃんとした日給だ。資格の方も教員資格が必要らしいが、

秋人はつい最近教員資格を取ったばかりの新米教師だ。さして問題はないだろう。


しかし人間早く考えることはできても素早い決断ができる人はそうそういない。秋人も例に漏れずそういう人間である。


だから秋人は事務所の前に、まず幸子に電話をかけた。


幸子は秋人の幼馴染で、4つ年上なのによく遊んでいた記憶がある。その世話好きの性格と正義感あふれる行動から、いつもみんなから『ねえさん』と呼ばれていた。


幸子は三年前に社会人となったのだが、入社してすぐに大阪へ転勤してしまったので、いまは大阪生活三年目である。


「もしもし」

「もしもしねえさん、秋人だけど」

「あー秋人か。どうした?」

幸子の声は心なしか大阪弁特有の訛りが入っているような感じがした。

「俺家庭教師しようと思うんだけど、ねえさんはどう思う?」

「それは私が決めること?」

幸子が攻めるような口調で聞いて来た。

「ああ、まあそうだけど…」

「じゃあ自分で決めなさい。大丈夫。どんなに不向きでも私は応援しとるで」

今度は優しい口調で語りかける。こういうことを無意識に出来るところが『ねえさん』と呼ばれる所以だろう。

「分かった、頑張ってみるよ」

「ほなじゃあね」

そう言って幸子は電話を切った。


ツー、ツー、

幸子の声が心の中で反芻される。

そして刻み込まれるように浸透していく。

秋人はこの思いを踏み固めるように、大地に響くような大きな一歩を踏み出した。



次回、柏木美玲編



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