竜の子ども
少年は懸命に両手を広げる。その背に庇われ、みゅ、と少女が鳴く。
森で食料を探し、村人が持ち帰った竜の卵。数個は人々の腹を満たし、残る一個。孵った卵は、人を親と見間違え、人の形を真似している。不作が続き、今人々は竜の子どもを食料にと望んでいる。少年が竜を育てたのは、食べるためじゃないのに。
少女が鳴く。少年へと襲いかかる大人に、炎を吐いた。熱くない、驚かせて追い払うための炎。それでも人々は怒り狂った。
少年は振り返る。少女に向かって、逃げてと叫ぶ。
ここにいてと望まれていた少女は、困惑顔で翼を開いた。一息に空に舞い上がる。
少年の胸に、人々の胸に、それぞれの思いはくすぶったまま。