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逃げなさいと姉さまはいった

「ラウラさん、ミラ様からお手紙です。至急開封してください」

「姉さまから?」

「ミラさんから届いたの?」

「うん、久しぶりだね」

 今までずっと1週間ごとに手紙をくれていた姉さまは1か月前からパタリと手紙をくれなくなった。

 いくら私が出しても返信は1通も帰ってこなかった。

 そんな姉さまから久しぶりに手紙が届いた。

 サイはちょっと待っててねと言ってペーパーナイフを取ってきた。

「えーとなになに?」


ラウラへ

 国はあなたを次の王妃にするためにその森に兵を派遣しています。

 ルウに届けてもらったから1日もたたずにあなたのもとに届いているとは思うから、その森に兵がたどり着くまでにはまだ時間があるとは思うけれどすぐに用意してそこを去りなさい。

 そして、サイさんと一緒にこの国から逃げなさい。


「は?」

「次の王妃はミラさんのはずじゃ・・・」

 そう、次の王妃は私の双子の姉のミラだったはずだ。

 なのに何で・・・


「ミラ様は今、無実の罪で捕まってます」

「なんだって?」

「あの女にはめられたんですよ」

 吐き捨てるようにルウは言う。

「あの女って?」

「カルーナ=パウロ男爵令嬢です。3か月前にミラ様が通う学園に来た女。あいつによってミラ様は罪人に仕立て上げられました」

 そういえば、3か月ほど前にもらった姉さまからの手紙に転校生が来たと書いてあったような・・・

「パウロ男爵?彼には子供はいなかったと思ったが?」

 私がこの森に来て彼と出会ってから一度も森を出ていないはずのサイが何故かその情報を知っていた。

「1年ほど前に養子に迎えたそうです。隠し子か何かだったのでしょう」

「で?その女が姉さまをはめたと?」

「ええ、そうです。既に魔導士筆頭と宰相息子は誘惑されています。あの女は彼らを使ってミラ様をはめたのです」

「シキ王子は何もしなかったの?」

 シキ王子は姉さまの婚約者だ。はめられそうなところをただ黙ってみていたわけではないだろう。

「シキ様は・・・」

 ルウはとても言いづらそうにしていた。

「言え」

「シキ様は既に男爵令嬢に心を奪われておりまして、ミラ様が罪人に仕立て上げられるところを男爵令嬢の隣で見ていたのです」

 は?なんで?

「あのバカが」

 吐き捨てるようにサイが言う。


「国王は罪人に仕立て上げられたミラ様のことを捨て同じカッツェラーナ家のラウラ様に白羽の矢を立てました」

「ミラさんを捨てるばかりでは飽き足らずラウラを代替品にするだと?ふざけている」

「姉さまの元へ行く」

「おやめください」


 カッツェラーナ家は代々優秀な子どもが生まれる。

 そのため国内外問わずパイプがある。

 そんなカッツェラーナ家を手に入れたいと考えた当時の国王とルーラント王家とのつながりが欲しいと考えたカッツェラーナ家当主はある契約をした。

 ルーラント王国王家とカッツェラーナ家に双子が生まれた場合、互いの子を結婚させると。

 そして今、ルーラント王家とカッツェラーナ家には双子の兄弟と姉妹がいる。

 だから、昔の契約に従ってルーラント王家の王子と私たち姉妹のどちらかは結婚しなくてはならない。

 第一王子は幼いころから療養中のため、王家からは第二王子のシキ王子が私たちのどちらかと結婚することが決まっていた。

 カッツェラーナ家からは妹の私が婚約者として選出される予定だった。

 それを姉さまは代わってくれた。ラウラにしかできないことがあるといって。

 今の私がいるのは、私が好きなことができるのは、私が今好きな人と一緒に入れるのは全て姉さまのおかげなんだ。

 だから、今度は私が姉さまにお返しをするべきなんだ。


「止めないで、ルウ。もう決めたことだから」

「ですが・・・」

「ルウ、俺も一緒に行くから」

「サイ様!? おやめください。あなたが王都に戻られるということは・・・」

「わかっている。それでもミラさんが無実の罪で拘束されていることを知って何もしないというわけにはいかないだろう」

 2人とも何を言っているのだろう?

 ともかく、サイが一緒に来てくれるのは心強い。

「わかりました。私もご一緒します」


 そして、私たちは数年間住んでいた森を離れ、王都へ向かった。

「ルウ、そのまま城へ向かってくれ」

「え?」

 サイは何を言っているのだろう?

 いくらなんでもいきなり城には行けないだろう。

 手紙でアポイントメントを取ってから行かなくては城には入れない。

「承知いたしました」




 ルウが衛兵に顔を出すと難なく城に入ることができた。国王との謁見もすぐできるそうだ。

 そして、謁見の間へ向かった私たち。

 重厚な空間。その最奥にある王座に国王は座っている。

 そんな国王に向かってサイは言い放った。

「おい、いったい何してやがるんだ」と。

 もう一度言う。サイは国王に向かってそう言い放ったのだ。


「サイくん、ひどいよ! 久しぶりに会ってそんなこというなんて。泣いちゃうよ」

 え?国王こんなキャラだったっけ。いやそんなことはない。数年前に会った時にはこんなキャラじゃなかった。

 というかサイくんって?

「勝手に泣いてろよ!そんなことよりルウからミラさんが捕らえられてると聞いたのだが本当か?」

 あいかわらず国王にため口のサイ。

「ミラ=カッツェラーナのこと?彼女なら今は城の客間に滞在してもらってるよ。罪人の疑いがあるとはいえカッツェラーナ家の令嬢を罪人の塔に入れるわけにはいかないからね」

「そうか。彼女を今すぐ開放しろ」

「えー、サイくんのいうことでもそれは無理。彼女の罪が晴れてないからね」

「つまり彼女の無実を証明すればいいと」

「うん。全然捗ってないんだけど、サイ君が手伝ってくれればすぐ終わるんじゃないかな」

「そうか。解析を行っているのは魔道解析室か?」

「うん。そうだよー」

「ラウラ、ちょっと行ってくるから待ってて。さっさとやってミラさんの無実を証明してくるから」

 そういってサイは謁見室から出て行った。

 そしてそのサイに続くルウ。

 当たり前のように姉さまの無実を信じてくれているサイ。

 嬉しい。とても嬉しいのですがここに一人にしないで!!



「ラウラさん、来てくれて嬉しいよ。君には話したいことがあったからね」

「それって」

 もしかして・・・

「うちの息子と結婚してくれないかって話なんだけど」

 ビンゴでしたか。

「嫌です」

 私にはサイという心に決めた人がいる。

 それに姉さまを捨てたあの男なんかと結婚したくない。

「え、即答? 本当に嫌なの?」

「嫌です」

「もうちょっと考え直してみてよ」

「何と言われようと嫌です」


 こんな押し問答をして1時間ほどたったころサイとルウが帰ってきた。

「おい、何が捗ってないって? あんなもんすぐに解析終わった」

「本当に? さっすがサイ君!! で、結果は?」

「結果はもちろん無実。魔道カメラの映像、音声共にミラさんの姿、声は映ってなかった。一応魔力解析もしてみたらミラさんは事件の日ずっとカッツェラーナ家の屋敷にいたことが判明した」

「この短時間にそこまで調べたの? 他の子は全然できなかったのにー」

「できなかったんだろ。あのバカと魔導士筆頭から圧がかかっていたらしい」

「シキが?」

「ああ。そっちの現場の証拠、押さえたけど?」

「見せて、見せて」


「おい、解析は進めるな。俺がやる」

「しかしこれは王命で・・・」

「王子の俺から命令する。この仕事は魔導士筆頭に一任する」

「ですが」

「お前には病気の母がいるそうだな?これからも養っていかなきゃならんだろ?」

「っ」


 他にも同じようなものがいくつも出てくる、出てくる。

「こんなもんでいいか。まだいるか?」

「ううん、これで十分」

 ずっと笑顔だった国王。今も笑顔のはずなのに目が全く笑っていない。

「ルウちゃん、バカ連れてきて」

「承知しました」



「なんなんだ、お前。王子である俺に対して無礼であるぞ!」

「おかえり、ルウちゃん」

「父上?」

「来たなバカ息子。お前、廃嫡な」

「はい?」

「だから、廃嫡。お前はもう王子じゃないの」

「なぜですか!?」

「ミラ=カッツェラーナを罪人に仕立て上げた罪と役人たちに解析をさせないように圧をかけた罪だな」

「っ」

「お前はカッツェラーナ家が、国を支えてくれる役人たちがどれだけ大事な存在か理解していなかった。それに、お前はミラ=カッツェラーナの未来を奪おうとしたんだぞ!それはお前が王子である資格を失う理由になることぐらいわかるだろう」

「じゃあ、ルウちゃん。こいつ連れてって」

そしてルウがシキ元王子を引きづってどこかに連れて行った。


「まぁ、魔導士筆頭とカルーナ=パウロとパウロ男爵の処遇は後で決めるとして・・・。サイ君、ちょっと」

 そういって国王はサイを自分の元へ呼んだ。

「サイ君、うちに帰ってこない?」

「いうと思った。だから帰ってきたくなかったんだよ」

「帰ってきたらカッツェラーナ家の令嬢と結婚できるよ」

「それは・・・」

「まぁ、ラウラちゃんには振られちゃったからミラ嬢に頼み込まないといけないんだけどさ」

「ちょっとまて、ラウラに振られたって何?俺、まだ告白さえしてないけど!?」

「さっき時間あったからさ、ラウラちゃんにうちの息子と結婚してくれないかって頼んでみた」

「は?」

「いやー、なんか2人ともいい雰囲気だったからいけるかなーって思ったんだけどさ。玉砕だったよね」

「ぎょっ、玉砕?」

「うん、サイ君が帰ってくるまでの1時間、パパ頑張ったんだけどさ」

「・・・・」



 遠すぎて会話の内容は聞こえないが今にも倒れそうなほどにサイの顔は青白くなっている。


 しばらくしてサイはトボトボと帰ってきた。

「俺じゃダメ?」

 今にも消えそうな声のサイ。

「え?もっかい言って」

「結婚するの、俺じゃダメ? 嫌なところは直すから。好きになってもらえるように頑張るから俺のこと嫌って言わないで」

 そういって、縋り付いてくる。

「何言ってんの? サイのこと嫌っていうわけないじゃん」

 寧ろ大好きですよ。

「俺と結婚したくないって1時間もいい続けたんだろ?」

「何の話?」

「・・・」

 意味が分からない。

 サイに結婚してくれと言われたら一も二もなく頷くに決まってる。


「どうなっている」

「ほんとだよ? ほんとだから魔法使わないで! サイ君の本気の魔法なんて使われたらパパ死んじゃうよ!」

・・・?

「パパ?」

「うん、言ってなかったっけ?サイ君のパパです」

 王様はサイのお父さんだったようだ。ということはさっきの息子ってサイも含むの? 早くいってほしかった。全力で断っちゃったよ。


「では、改めて。ラウラちゃん、うちの「ちょっと待て。それは俺が言う」

「わかったよ。サイ君」

「ラウラ、お前のこと絶対幸せにするから俺と結婚してくれないか?」

 返事は決まっている。

「もちろん。こちらこそよろしくお願いします」



 そして私はサイのお嫁さん、王妃となるための勉強を始めた。

 シキ元王子の婚約者選びの時まで、私も姉さんと同じ教育を受けていた。

 なので、私が学ぶのは最近の政治の動きなどが主だ。

 先生は姉さん。少しスパルタではあるけれど毎日姉さんと過ごせて幸せだ。



「ラウラ、ミラさんばっかじゃなくて俺にもかまってよ!」

「じゃあ、お茶にでもしましょうか」

「うん」

 そして私たちは3人で今日も幸せに暮らす。


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