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異世界物語  作者: 安月勇
1/5

刺激の結果

静かな住宅街を、一人の青年が歩いていた。

少し纏まりの無い黒髪に、気ダルそうな瞳の青年。彼の名前は上条明かみじょうあきら

今日から高校三年となる。見た目、学力共に一般的な青年だ。


「ふぁ……」


歩きながら大欠伸をする。

結構間抜けな顔をしている気がするが、欠伸は止めたくない。何と言うか、欠伸を中途半端な所で止めてしまうと気持ちが悪いのだ。


「あー眠い」


昨夜は11時に寝て今朝は7時15分に起きているが、眠い。


「(あー……この調子だと始業式は寝るな)」


寒い体育館で寝るとは考えにくいが、校長の話の長さ次第では何とも言えない。

明の通う高校の校長は話が無駄に長い。おまけに何とも難しい話をしてくるので、どうしても眠気が襲ってくる。


「(なんか眠気がどっかに飛ぶような事があればいいんだけどなぁ)」


酷く驚く様な、暫くはそれの事だけで頭いっぱいになるような事。

例えば、一歩ミスすれば大怪我に繋がる様な事態とか、目の前でちょっとした揉め事が起きるとか。


「(そうすりゃ、ちっとは目が覚めるんだけど)」


不謹慎な事を考えているのは百も承知だが、何の刺激もなければ結果退屈で仕方ないのだ。

込み上げてきた欠伸をもう一度しようとした時だった。

耳にキィィィィンと言う、甲高い金属音の様なモノが聞こえたのは。


「何だ……?」


こんな住宅街には似合わない音だ。それに一瞬では無く、足を止めた今も続いている。

一体何処から鳴っているかと周辺を見渡すが、それだけでは着き止められない。と、すぐ下で何か音がした気がした。


「はっ!!!!???」


足元を見た明は固まった。先程まで無かった模様が浮かび上がっているのだ。


「何だ!!??これ……って!!!!」


その模様は突然輝き始めた。

思わずその場から逃げようとしたが、明の足はその場に根を生やしてしまったのかの様に全く動かない。


「何だよ!!??」


混乱して叫ぶがそんな事で状況が変わる訳が無い。

光はどんどん強くなっている。


「ちょっ! こんな刺激はいらねぇぇぇぇぇぇ」


絶叫が頂点に達するのと同時に、明の視界は白く塗りつぶされた。







体が下に落ちる感覚。それにマズイ思うのと、衝撃が脳天を貫くのは同時。


「っ!!!!」


何がどうなったのかは判らないが、取り敢えずハッキリしているのは自分が尻から落ちたと言う事。そしてそれが猛烈に痛かったと言う事だ。

尻もちの最悪バージョンみたいな感じだ。こう、妙にむず痒くて喉に何かがつまる感覚。

声を出す事も出来ずに、ただ背筋を伸ばして痛みが通り過ぎるのを待つ。


「ふぅ……って」


痛みの波が引いてから顔を上げた明は固まった。


「は……い?」


其処は先程までいた住宅街では無く、建物の中だった。

ただし、自分が知る建物では無い。これでもかと言う程に高い天井に、美しく彫が施された柱。大きく、美しいステンドガラス。


「は……?」


そして周辺には人が沢山いたが、全員の格好が自分の知るモノとは違っていた。

ゲーム等のモブ貴族キャラで見る服装に、カラフルな髪色。


「映画の撮影現場?」


思わず呟くと、周りに集った人々は何やら驚いた様に声を上げた。


「言葉が通じるのですか!?」


「しかしあの服装は見た事が無い! アレが大精霊なのですか?」


「まさか!?人と同じ姿をとる大精霊などいないと聞きましたぞ!!」


聞こえてくる言葉に明は混乱した。

何だ?言葉は通じるのかとか大精霊とか、挙げ句には見た事無い服とか・・・と、此処まで考えて明はふと思い出した。


「(いやまてよ……前に借りた小説で似た様な感じの内容が)」


確か主人公が異世界に召喚されて勇者として冒険するって言う話だったと思う。そして、その小説の最初には今の様な状態が記してあった筈だ。

見た事のない服装や建物に、やけに派手な人々。そして遠巻きに主人公を見て、今みたいな言葉を交わしている。


「(まさか)」


俄かには信じがたいし正直信じたくないが、けれどそれ以外に考えられない。

最初みたいにテレビか映画の撮影と思いたいが、それはまず有り得ない。そんなオファーを受けてないし、仮に親が何かのバラエティー番組で息子にしちゃって下さいとか言っていたとしても、最初の光とあの落下は何だ。あんなものテレビでやって良い事を越えている。いや、それ以前にそんな技術を聞いた事が無い。


「(でも異世界に召喚なんて一番現実で有り得なさそうな…)」


けれど、周りの様子の違いから其れが一番当てはまりそうで、明が思わず頭を抱えそうになった時だった。


「おやや~」


緊迫した状況下でよく響いた少し間の抜けた声に振り返ると、一人の男性が歩いてきた。

肩までの銀髪に、怪しげに光る紅の瞳を持った男性。長身で、白を基調とした中世の貴族の様な格好をしているが、堅苦しい感じは無く着崩されていた。

男性は目線を明と合わせると、不思議そうに首を傾けた。


「可笑しいですね~予定では大精霊を呼び出す筈だったんですが~」


声音はどうしてこうなったんだと言わんばかりの響きを含んでいたが、顔は違った。笑っているのだ。真正面から見ている明は男が笑みを浮かべているのに何とも言えない恐怖を持った。


「ふふふ~そんなに怯えなくても、とって喰ったりはしませんよ~」


顔に出てしまったのか男はそう言うと、更に笑みを深くした。

いや、これ絶対的に安全な気がしないと思いつつ明が返答に窮していると男性の後ろから呆れた声が聞こえた。


「笑っているのが原因。特にアシュレイの笑いは恐怖しか呼び起こさない」


「失礼ですね~。私の笑顔は万人を笑顔にするんですよ~」


男性が振り返る。視界を遮るモノがなくなり、誰が声をかけたのかが見えた。

腰までの長い暗い茶髪に、紫の瞳。整った顔立ちは美しくありながらも、何処か可愛らしさを残している女性だ。年齢は恐らくだが自分とそう大差はない筈だ。


「そうなら、その人は今頃笑顔」


女性はそう切り捨てると、明の横に来て姿勢を屈めた。そして明に自分の顔を近づけた。


「(うお……近くで見ると可愛いな)」


思わず顔が緩みそうになるが何とか堪える。

そんな明の状態を恐らく気付いていないであろう女性は、顔を耳元まで近付けてきた。


「名前を小声で」


息がかかる程の近距離で小さく呟かれた言葉、それに明は困惑した。

どうして小声で何だ?と。しかし何もかもが分からないこの状況では相手の助言に取り敢えず従っておいた方が良いだろう。


あきら


「うん」


名前を聞いた後、少女はすぐに身を翻すと何時の間に距離を置いていた男性の元に向かった。2人は周辺には聞こえない声で何やら話し合う。何を話しているのかさっぱりな明は、取り敢えず静かに待つ事にした。


「(どうなるんだ……俺)」


様子を見るに用事があって召喚されたと言う訳ではないらしい。

流石に殺されるとかそういう事態にはならないと思いたいが、自分は招かれざる者。それに周りを見る限り、随分と重要な事をしていたらしい。


「(これ知った者は殺すとか……そんな儀式じゃないよな?)」


ぐるぐると頭の中を回る最悪の展開に、冷や汗をかき始めた時だった。


「そんなに悩まなくても、平気ですよ~」


頭上でした声に下げていた頭を上げると、何時の間にか男性が目の前に立っていた。

まるで心を見透かされた様な言葉に、どうしてだと問おうとしたがそれより早く男性が行動を起こした。


「君は私に着いてきて下さいね」


そう言いながら男性は明の腕を掴むと強引に立ちあがらせ歩き始める。

思わず少女の方を見たが、少女は他の集まった人々に何らや説明をし始めており、すぐに着いてこれそうな雰囲気では無い。


「(もう死ななければそれでいいや)」


取り敢えず生きて行く事を最優先に考え様と決めた明は、流れに身を任せる事にした。


初めての投稿です。

投稿ペースはゆっくりですが、がんばっていきたいです。


ご指摘がありましたので、一部訂正入っています

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