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夜のコール

作者: はの字

午前2時踏切に望遠鏡を担いでった



そんな歌がある。

今、午前2時。

場所、学校近くの踏切。

天気、曇天。


「誰だよ今日天体観測がどうのとか言いだしたやつ…」

クラスメイトの思いつきに巻き込まれ、姉が望遠鏡をもっているという理由で俺に声がかかったのが今日。

高校生の夜遊びがどうのという世代の親の目を盗み、なんとか外に出て30分が経った。そして、時間が経つごとに天気が悪くなっていく。

(どないせいっちゅうねん…)

帰ろう。と思った時、狙ったように後ろから声がかかる。

亜城あじょうくん、こんばんは」

それは待ちに待ったクラスメイト達の声…




ではなく。

「…こんばんは。渡瀬わたせ先生」

なんと、俺が片思いしている教育実習の先生だったのである。




「亜城くん。残念ですが、みんなは来れません」

にっこりと笑いながらの死刑宣告である。

先生が出てきたのは学校からではなく、いつものメンバーで通る通学路からであった。

「私が、ここまで一人一人に声をかけて帰るように促しました」

温情はないでしょうか…。

「さぁ、帰りましょう」

無情にもその声は俺を叩き斬った。

「あら?」

ポツポツと、俺の気持ちを代弁するかのような雨が…。

いや、流石に泣きはしてないけども。

「ん!?雨!?」

しまった!傘がない!

望遠鏡が濡れる=姉貴の暴力がなりたってしまう!

「先生ごめんなさい!説教はまた明日でお願いします!」

とりあえず近くの喫茶店?スタバ?いや、この時間ならファミレスか!そこの角にある、駆け込もう!

「ちょっと待ちなさい亜城くん!」



「当店は23時以降の未成年の方の入店をお断りしており…」

「すいません!雨が止むまででいいんです!」

ファミレスの店員さんに取り付く島はなかろうかとねばっています。

客はほぼ0だけに、店員さん達の視線も刺さるようで…。

「すみません、彼の保護者です。少し話したいこともあるので、お邪魔できませんか?長居はしませんので」

救いの女神(渡瀬先生)の一言と、学生と教育実習生とはいえ、教員による補導の構図が成立しました。


席についてそれぞれ飲み物を空にして数分、無言で時間だけ過ぎていく。

「あの、先生…?」

無言に耐えられない俺。

目の前に憧れの先生がいて笑顔なのはうれしいですが、無言で時間だけ過ぎるのは拷問です。

「何?亜城くん?」

表情は変わらない。

満面の笑みである。

「えっと…なんでこんな時間に?」

「あら?教室の隅に集まって、天体観測、集合が2時、見つからないように、なんて聞こえたら放っておくわけにいかないでしょう?」

バレバレだったでござる。

「あなた達が本気か冗談かわからなかったから、一応と思って見回りをしてたら、次々と引っかかったわ」

「網にかかった魚みたいな表現はちょっと…。これ、他の先生は…?」

「私の小言で済むか、他の先生の耳に入れて反省文書くか、どっちが良かったかしら?」

「ありがとうございます」

聞くまでもないが前者がいいのである。温情はあったのだ。知らぬは俺ばかりなり。

「とはいえ、こんな時間に外出するなんて、安全面諸々で許すわけにはいきません。次はちゃんと報告して、反省文も書いてもらいますし、必要ならご両親に説明もします」

「はい…」

「よろしい」

ん?

「えっ?それだけ?」

「あら?もっと欲しいの?」

「いや、だって校則違反とか、条例だとか…」

「長々とお説教するのは私の主義じゃありません。意味は自分で考えなさいね」

「はい…」

バッサリである。

まぁ、実際1から10まで説明されるのと、渡瀬先生みたいに相手に反省を促すような言葉をかけるのとだと効果が違うしね!

などとちょっとポジティブに立て直しているところで、先生の表情が少し変わったような…?

「先生?」

「なぁに?」

ニコニコとした表情は変わってない?んだけど…んー?

「先生、どうかしました?」

そう聞くと、先生はちょっと溜息をついて笑って…

「男の子って馬鹿だなぁ、って思って」

グサッ!

「ば…ばか…ですか…」

「そうじゃない?みんないる教室の隅で、ところどころ大きな声で話してるのに気付かれてないと思ったりとか、そもそもこんな天気の日に天体観測とか」

「ぐぅ…」

先生は美人だけに、こういうところは本当に容赦ないような気がする。

「馬鹿って言うのか、可愛いって言うのか、人それぞれだと思うけどね」

ん?

「かわいい…?」

「何でもないです」

ふふっと大人っぽく笑って誤魔化される。

むぅ…。

「じゃあ、大学生になれば、もっと大人になれますかね?」

拗ねた口調で追いすがる。

なんか、このままオトナとコドモの差を見せつけられるのは悔しい。

「どうかな?でも、そういうこと言ってる間は大人になれない気がするかな?」

笑顔は崩れない。

ぐぬぬ。

「でも」

先生の言葉がまだ続く。

「私だって大人になりたいよ」


「先生もまだ子供ってことですか?」

この話の流れで大人になりたいとは何ぞや。

「先生は立派な大人でしょ?僕らに色々教えてるのは、そういう大人だからじゃないんですか?」

思ったことをそのまま口にする。なんか馬鹿みたいだが、既に馬鹿認識されているのだ。今更取り繕うこともないだろう。

「どうかなー。私みたいな実習生が言うとおかしいけど、先生だって完璧じゃないよ?」

「じゃあ、完璧じゃないと大人になれないんですか?」

なんか、そうじゃなくて。

「亜城くん、授業中より熱心だね。ううん、完璧なのが大人じゃないけど、私はまだまだ子供だよ」

違うんだ。

僕の知ってる先生は、授業中も凛としてて、笑い顔も綺麗で、他の女子とは違って。

「なんか…先生も同じなんだ…」

「あはは!」

俺の言葉がツボったのか、急に先生が大きな声で笑ってビックリする。

「ごめんね。ごめんなさい、馬鹿にしたんじゃないの。でも、私だってまだ大学生だよ。22歳の小娘です」

22歳で小娘。

じゃあ、俺は?

高校2年、もう一人前のつもりで生意気を言ったり、大人のつもりでこんな時間にも出歩いたり。

「5歳も違う先生が子供なのか…」

「5歳しか、違わないんだよ?」

それは、これまでの俺の考え方を少し変えるような、そんな言葉な気がする。


「先生、話を変えても良いですか?」

5歳しか違わないんだよ、という言葉は、ある意味俺にとってチャンスではなかろうか。

「いいよ。なぁに?」

この言葉を言うと、また笑われるんだろうか。それとも…。ええい!男は度胸!

「5歳年下は恋愛対象としてみれますか!」

ぶっちゃけ顔を見れませんが、言ってみましたー!

「見れるよ」

返答はあっさりとしたもので。

「でも、私は先生で、君は生徒だよ」

先生はどんな顔をしてるだろう。俺の顔はきっと真っ赤で。

緊張でちょっと涙出そう。

「ありがとう。だから、返答はまた今度ね」


そこから話は続かずに、雨も止んだ。

「亜城くん、帰りましょうか」

「はい」

5歳しか変わらない先生は、とても大人に見えて、俺はとても子供なのを自覚して、今日が終わる。

支払いは先生がしてくれた。

さっきのとても告白と思えないような言葉から、俺は先生の顔を見れてない。

もうすぐ3時だ。

「亜城くん?」

「…はい」

この1時間で俺は何を思ったんだろう。

今日最後の先生の言葉はなんだろう。


「私は、返答は、また今度ねって、言ったよ?」


思わず先生の顔を見る。

それはきっと、5歳しか違わないお姉さんの表情で…。


「じゃあ、また明日ね?まっすぐ帰って、お休みなさい」

「はい!」


俺は今日一番の返事で答える。


また今度。


今日が終わる。

教育実習生の先生じゃなくなって、5歳年上のお姉さんになった時、俺は先生をどう見るんだろう?

今と同じか、それとも違うのか。

そして、俺も大人になれるのか。


明日がくる。

今日より良い日になるかわからないけど、明日がくる。


また今度に、一歩近づく、そんな明日が、くる。


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