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極彩の腐敗

作者: 石鍋 盥囘し

これはカオスです。これは混沌です。

盥自身への意味はありますが、それに意味はありません。


解釈と、本作から何を救い上げるかは読者様にお任せいたします。

夜の窓を開けたらふうわりと甘い薫りがした。わたしはすこしばかり愉快な気持ちになったから、虫籠のなかの彼に小指を差し出した。

『la lLua laA』

あーべーつぇ、なんて音で、彼は唄う。

空気に漂う蜜の色が彼に染み込んでいって、緑や青や赤や紫や………そう、ゴクサイショクのまだら模様に彼はかわっていった。

さしだした小指をじっと不思議そうに見つめてから、三回ぱちりぱちりぱちり。ウィンクをした彼は小指(わたし)をそのままにほったらかして、トけてしまった。

白木の机の真ん中の、小さな窪みからぬるぬると月夜の静謐さを汚して、双葉が芽吹く。次に螺旋をえがいたその茎が、わたしのくしゃみの隙に図々しく肘までの巨木になってやがった。

『全く』

私のカミナリで真っ二つに裂けた樹の窪みへ、枝先から、なったばかりの林檎や、紅葉や、桃とか茄子やらがせっそうなく堕ちた。

クチャクチャに潰れて、あまいかおりを漂わせているわねぇとおもったら、直ぐにそれは鼈甲のように端から固まって、さらさらと絹の風に拐われてしまった。僅かに残った樹液の、その(おり)に閉じ込められた、なにも纏わず膝を抱く彼が。

だんだんと首をたれるものだから、呆れてそれを掬い上げた。

『全く』

わたしはカミナリを落とさないように気をつけて、オリに閉じ込められたままの彼に全く同じように言葉をかけた。彼はいよいよと団子のようになってしまって、なんだかとてもいじましいものだから、悔しいなぁ、とそのままぱくりと食べてみた。舌根の辺りが生臭くて、青臭くて、なんだか苦かったものだから、左の目から少しだけ涙が出た。

涙が机を叩く頃、舌の上では琥珀の澱が爆ぜた。彼がやっとと躍り出て、わたしの中でもしきりに踊り出したものだから。

『la lLua laA』

あーべーつぇ、なんて音でわたしも謳ってみた。

一際大きくくちをひらいたら、ぽとりと、またゴクサイショクに染まったわたしの舌が、テーブルに落ちる。せっかく気分がのってきたのにと、右の目から涙が出た。

良く視たら、そのわたしの舌はカラフルな彼が何人にも折り重なって描くタぺストリーで、でもやっぱり舌がない私は唸ることしか出来ないものだから、喉でうぅうぅとだけ、組体操をしでかしている彼『達』の動きに合わせた。

肺がペチャンコになって、いっぱい息を吸い込んで、もう一度迂濶にくしゃみがでたら、びっくりした彼達が四方八方に逃げ出してしまった。ずるいずるいと、転んで泣いている最後の彼に小指を差し出すと、私のかわりにたくさん啜り泣いた彼は、あーべーつぇ、とまた変わらずに唄い、それにつかまる。

わたしは今度は鳥籠に彼を入れて、南京錠をかけた。

窓を閉めて、カーテンが揺れた。まだ甘い薫りが鼻腔を少しだけ痺れさせていた。


カオスでした。混沌でした。


お付き合いいただきありがとうございました。

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