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二、昔のこと

二、昔のこと①

                              

 明日で月も変わって二月になる。一月最後の日は昼過ぎから上野に買い物に出かけた。明日から出勤することになっているのだが、スーツ一着、ネクタイ一本、ワイシャツも一枚しか持っていないことに気が付いた。財布と相談した結果、ネクタイとワイシャツを買うことにした。スーツは毎日同じものを着ても何とかなると思っていた。

 上野には中学時代によく遊びに来ていた。何をしていたかは覚えてはいないが、アメ横でよくたこ焼を食べていた記憶が蘇ってきた。

 人ごみを避けながら、すれ違うスーツ姿にコートを羽織ったサラリーマンを見ながら、

いよいよ明日からかあと心の中で呟いた。

 スーツの量販店に入り、店内を見渡した。ネクタイが置いてある場所を見つけたので、真っ直ぐに向かった。コートを着ていたこともあるのか、店の中は暖かい。たくさんのネクタイが置いてある前に立った。

若い女性店員が近づいてきた。

「ネクタイをお探しですか」

笑顔で声を掛けてきた。女性店員は俺と同じ年くらいに見える。髪が長く、細身で、大人びた雰囲気を醸し出している。私服になれば雰囲気が変わるかもしれないと思いながら、

「ネクタイを買おうと思って」

俺は答えたが、正直なところ声を掛けてほしくはなかった。店で声を掛けられると何も買わずに店を出にくくなってしまう。小心者なのかそういうところを気にしてしまう性格だ。

「どんなタイプがお好みですか」

女性店員は聞いてきた。どんなタイプと聞かれても、ネクタイは一本しか持っていない。大学の入学式のためにスーツと一緒に買ったものだ。

「よくわからないので、選んでもらえますか。」

自分ではよくわからないから、こういう時は選んでもらったほうが早いと思いお願いした。ストラップ、ドット、チェックの柄の三本を選んでくれた。派手さはなく、落ち着いた色である。

「お似合いになると思いますよ」

女性店員は笑顔で勧めてきた。似合うも何も俺は今スーツを着ているわけではない。この女性店員は、ジーンズにとダッフルコートを着ている姿がスーツ姿になって、選んだネクタイを着けている姿を想像して言っているのだろうか。

「そうですか。この三本をください。あとワイシャツも買いたいのですが。」

「ありがとうございます。サイズはおいくつでしょうか。」

女性店員は聞いてきた。サイズはMだと思っていたが、

「ちょっと、わからないです」

「でしたら、お測りしますね」

女性店員は巻尺でポケットから巻尺を取り出した。俺はコートを脱いで、首回りと裄を測ってもらった。

「首回りが三十六で長さが八十二ですね。首回りが三十八のものがよろしいかと思いますよ」

三十八の八十二という数字を言われたので、俺はワイシャツを探し始めた。ワイシャツのデザインもいろいろあったが、よく違いがわからなかったので、白の無地でシンプルなものを三つ選んでもらった。

「お会計はあちらです」

会計を済ませて外に出た。店の中でもコートを着ていたせいか、外の風は余計に冷たく感じた。俺は袋を提げながら、上野駅に向かって歩き出した。 御徒町駅が目の前にあったが、わざわざ一駅電車に乗る必要もないと感じた。

 上野駅に向かっている途中にパチンコ屋の前に灰皿があるのに気がついた。灰皿の前で立ち止まり、俺はセブンスターに火を点けた。道行く人が灰皿付近を避けて通って行った。最近では、煙草が吸えるところが減ってきている。誰に迷惑を掛けているわけではないのに、でもそれは吸っている人の言い分で、吸ってない人からすれば、煙がたまったものではないかと思った。煙草を吸い終わり再び歩き始めた。

 上野駅に着き、常磐線のホームに向かった。電車に乗り込むと車内は温かい。まだ帰宅ラッシュの前ということもあり、車内は比較的空いていた。空いている席に腰をおろした。久しぶりに人が多い所にでたせいか疲れを感じていた。

 常磐線快速電車は上野から松戸まで十六分で着く。発射ベルが鳴り終わり、下り電車はホームから動き始めた。目を閉じながら、上野にきたことが影響しているのか、昔のことを思い出していた。


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