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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第四章:【魔剣の尻尾】の真価と進化
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第六話:クーナ親衛隊

 治療が終わったことをクーナとアンネに伝えるために、彼女たちが居るはずのリビングに向かう。


 部屋に近づくと賑やかな笑い声が聞こえてきた。

 ドアをゆっくりと開くと、ちょうどクーナが話をしているところだった。


「ソージくんったら、ひどいんですよ。尻尾は火狐にとって大事で、触ったら責任とってもらいますって説明したら、即座に尻尾に手を伸ばしてきたんです! 慌てて躱して、なんでそんなことをするんですかって聞いたら、『尻尾を握れば、責任取っていいんだよね? ぜひ責任を取らせてほしい。結婚しよう』って言うんですよ!」


 また、懐かしい話を。

 たしかにそんなこともあった。


「話を聞いていると、本当にクーナのことが好きみたいだね。そんなに思われるなんて素敵じゃない」


 相槌を打っているのは、二十代後半に見えるエルフの女性だ。

 クーナの母親であるクウと同じように恐ろしいほどの美形だ。どこか子供っぽく、でも芯の強そうな印象を受ける。


「ソージは、すごくまっすぐにクーナへ気持ちを伝えているわ。正直、たまに嫉妬をしてしまうの」


 今度はアンネがお茶をすすりながら会話をする。


「人の噂で盛り上がるのはいいが、自分もそうされる覚悟があるってことだよな、クーナ。クーナの面白おかしい話をたっぷりと、この人たちに話してみようか」


 部屋の中に入り、口を開く。

 すると、視線が俺に集まった。


「ソージくん」


 クーナが立ち上がりこちらに駆け寄ってくる。

 てっきり第一声で盗み聞きしてひどいと言ったり、口止めをするかと思ったが、ただ心配そうに駆け寄るだけだった。


「ソージくん、治療、うまくいきましたか!?」

「うん、シリルさんのおかげで、完治したよ。完治どころか前よりも調子がよくなったぐらいだ」


 上着をめくり、火傷と瘴気のあとが消えた腕を見せる。

 クーナは涙を浮かべて飛びついてきた。


「良かった、本当に、治ってよかった」


 俺の胸に顔を埋めてクーナは良かったと繰り返す。

 少し冷たい感触がした。たぶん、クーナは泣いている。

 そんなクーナと俺を、二人の美女が微笑ましげに見つめている。少し照れてしまった。

 俺はクーナの後頭部を撫でて、気が済むまで好きにさせた。


 ◇


「えっと、はじめまして。私はエルシエの長、シリルの妻、見ての通りエルフのルシエだよ。よろしくね」

「改めて私も自己紹介をさせてください。同じく、私もシリルの妻、火狐のクウです。娘がお世話になっています。私のことはお義母さんとでも呼んでくださいね」


 エルフの美女と、火狐の美女がにこやかに自己紹介をしてくれた。


「こちらこそ、よろしくおねがいします。俺はソージ。封印都市で学生をしています。ルシエさんに、お義母さん」


 アンネには自己紹介をしない。 

 たしか、もともとアンネとクーナは顔見知りだ。

 きっとこの二人とも面識があるのだろう。


 俺がお義母さんといった瞬間、クウさんはあらあらと微笑んで、クーナは顔を赤くした。


「ルシエ、それにしても驚きました。あのクーナがこんなに男の人に懐くなんて」

「だよね、クウ。この子、男の子に言い寄られすぎて、若干男嫌いだったのに」


 ルシエとクウがおかしそうにくすくすと笑う。

 まあ、親衛隊なんてものが作られて付きまとわれれば、そうなっても不思議ではない。


「だから、あんなに俺を避けたのか」

「ソージ、さすがにあそこまで押されたらクーナでなくても普通の女の子は引くわよ」


 横でアンネが失礼なことを言っている。

 俺はあくまで紳士的に振舞っていたのに。


「もう、みんなして私をからかって!」


 クーナがぽいっと顔をそらして拗ねていた。

 そんなクーナを尻目に、クウさんがほんわかした笑顔で口を開く。


「それはそうと、今日はお祝いだから、クーナもアンネちゃんも、たくさんおめかししてね」


 お祝い、いったいなんだろう。

 そんな疑問にエルフのルシエさんが答えてくれる。


「そうだったね。クーナの婚約祝いを盛大にやるんだ。せっかくクーナのお婿さんがエルシエにやってきたしね」

「そんなこと言って、母様たち、ただ祭りをする口実に私とソージくんを使っただけじゃないですか! エルシエのみんな、お祭好き過ぎます」

「「そうとも言う」」


 クーナの疑問をあっさりとルシエとクウは肯定する。

 俺たちを出しに騒ぐか、まあ悪い気はしない。

 本気で祝ってくれるのは間違いないのだし。


「というわけで、ルーシェの工房でファッションショーだよ。たくさん可愛い服があるから」

「楽しみですね。二人共元がいいから、選びがいがありそう」


 そうして、俺だけ残して四人が去っていく。

 どうやら、クーナの姉であり、服飾を生業としているルーシェさんの工房に行くらしい。


「あっ、そうだ。ライナから伝言がありました。こっそり、クーナ親衛隊の訓練を覗いておけと。それは、きっと強くなるためにも、そしてクーナのことを知る上でも役にたつと」

「わかりました。お義母さん。ちょっと見ておきます」


 クーナ親衛隊の連中の腕前は初日に確認している。

 それに、彼らからクーナを奪うのだ。

 自分がどんな相手からクーナを奪ったのか知っておきたい。




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