表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第四章:【魔剣の尻尾】の真価と進化
95/177

第四話:クーナの実家

 あれから、肉を嫌というほど食べてから、クーナに身体を拭いて包帯を巻き直してもらってから眠りについた。

 クーナとアンネは温泉を楽しんだらしい。

 エルシエには大浴場があり、無料で使えるとのことだ。

 この火傷と瘴気焼けが完治したらぜひ利用してみたい。きっと気持ちいいだろう。

 できれば、彼女たちと混浴したい。

 そんなことを考えながら、眠りについた。


 ◇


 翌日、やけに外が騒がしく、目を覚まされてしまった。

 何事かと思い、窓の外を見るとシリルが居た。彼の足元には山程、魔物の素材が置かれている。


 巨龍の牙、魔獣の爪、高位のゴーレムの一部が持つ琥珀の心臓。

 どれも、超高ランクの魔物の素材ばかりだ。

 シリルがもってきた素材を、エルフや火狐たちが運んでいく。


「あれ、いったいどうするんだろう」

「村で加工する。高位の魔物の素材で作った武器や防具はエルシエの貴重な輸出品」


 ひとりごとをつぶやいたのに、返事がしたので、ぎょっとして振り向くと、銀色のキツネ耳を生やした少女……ユキナが居た。


「びっくりした」


 まるで気配が感じられなかった。

 俺は常に警戒を怠っていない。ユキナは完全に気配をけして忍び寄っている。

 すごい技術だ。


「朝ごはんが出来たから、起こしに来た。ソージ、良かったね。お祖父様がはやく帰ってきて。これでソージの怪我が治る」

「嬉しいよ。いい加減、この不便さから開放されたい」


 俺は苦笑する。

 そろそろやせ我慢も限界だ。


「お祖父様ならうまくやる。怪我を治すのはお祖父様でも、治すのに体力が居る。だから、しっくり朝食を食べること。残すと許さない」

「ちゃんと、食べるよ。ユキナの作るうまい飯を残すわけがない」


 実際、昨日の料理は大変美味しかった。

 このあたりは自然が豊かなおかげか、シカもイノシシもしっかりと脂が乗り、しかも肉の旨味が強かった。


 これほどの肉はなかなか他所では食べられないだろう。

 それに、大雑把な料理だが使っている調味料がよく豊かな味わいだ。

 エルシエ独自の調味料だろうか? 味噌に近くまた食べたいと思った。

 エルシエには、本当になんでもある。朝食を終えたら調味料をもらえないか聞いてみよう。


 ◇


 朝食を終えると、家主であるクーナの兄、ライナとユキナはそれぞれの仕事場に出かけていった。

 俺とクーナとアンネは身支度を整えている。

 シリルの家のお手伝いをしているというエルフの女性が現れ、シリルは家で治療の準備を終わらせているから、いつでも、シリルの屋敷に来ていいと連絡をしてくれた。


 身体の傷がうずく。もうすぐ、この傷みから開放される。


「ソージくん、行きましょうか」

「私も準備がいいわ」


 クーナもアンネも気合が入っている。

 心なしかいつもよりも身だしなみに気を使っているように見える。


「クーナ、自分の家に帰るのに、どうしてそんなに身構えるんだ」

「ううう、だって父様が居るんですよ」

「シリルは、クーナのことを許してくれたじゃないか」


 そう言うと、クーナは頬を膨らました。


「ソージくん、私とふぉっくすしたこと忘れてます? ちゃんと、ソージくんと結ばれたことを報告しないといけないじゃないですか!」

「……たしかにな」


 俺とクーナは婚約したと言っても、状況的に仕方なくという側面が強かった。

 きっちりとお互いの気持ちが通じあったことは、きっちりと連絡をする必要がある。


「まあ、大丈夫だよ。俺の方はちゃんとクーナをもらうって伝えてあるし、許可をもらっているから」

「いつの間に!?」


 クーナが目を見開き、絶叫する。

 はじめて、シリルと会った日、俺はクーナとの仲を認めてもらうために決闘をし、勝っている。

 今更、俺達の仲を認めないということはないだろう。


 ◇


「にしても立派な屋敷だね」

「ふふふ、驚きましたか! これでも私は、お姫さまなんです!」

「自分でこれでもとか言うなよ」


 クーナに案内された彼女の家は、初日に案内された賓客用の屋敷よりも立派だった。

 レンガ作りの洋館という出で立ちだ。

 装飾は最低限ながら、品がいいデザイン。それにいい匂いがする。

 ここがクーナの育った家。


「では、ソージくん、私の家に案内しますよ」


 そう言うなり、クーナは扉を開き中に入ると……。


「ただいま帰りました!」


 少しはしゃいだ声でそう言った。

 もしかしたら、本当は帰ってきたかったのかもしれない。

 すると、たったったっと、駆け足でこちらに来る音が聞こえる。

 現れたのは、火狐のニ十代後半に見えるセミロングの金髪をした女性、とびっきりの美女だ。どこかクーナに似ている。


「やっと、帰って来たんですね。クーナ。もう、心配かけて」


 その美女はクーナを抱きしめる。


「母さま」


 クーナも頬を緩ませて抱きしめ返した。

 やはり、クーナの母親か。

 クーナの美貌は母親譲りらしい。そして、その愛くるしいもふもふの尻尾も。エルシエに来てからかなりの数の火狐を見てきたが、クーナと彼女の母親ほど素晴らしい尻尾をもった人は見てない。


「本当に、心配したんですよ。世間知らずなあなたが、変な人に騙されてないかって」

「もう、母さまは心配しすぎですよ。私は立派な大人です」

「……クーナ、もう少し自分のことを客観的に見なさい」


 火狐の美女はそう、言うとクーナとの抱擁を解く。

 そしてほんわかとした笑みを浮かべて俺たちのほうを満た。


「クーナ、まずは無事で良かったです。その後ろの方がもしかして……」

「はい、私の仲間、ソージくんとアンネです」


 クーナがどこか誇らしげに俺たちを紹介する。


「そう、あなたたちが……。クーナと仲良くしてくれてありがとう。私は、この子の母親でクウと申します。この子は、少し間が抜けていて、お調子者で、甘えん坊で、迷惑をおかけしているかもしれません。ですが、根はいい子だから、見捨てないであげてください」


 そう言って、ペコリと美女は頭を下げた。

 クーナは顔を赤くする。


「ちょっ、母さま、やめてください、恥ずかしいです」

「いえ、あなたが世話になっている人たちですちゃんと挨拶しないと」

「やーめーてー、母様、ほんとーに、やーめーてー」


 クーナが必死になって、美女を止めようとする。

 うん、気持ちはわかる。これは恥ずかしい。


「頭を上げてください、お義母さん。クーナは迷惑どころか、俺たちのためにすごく頑張ってくれています。かけがえのない俺たちの仲間です」

「そう、クーナも頑張っているんですね。箱入り娘で随分と甘やかせてましたから、外でもそんな調子かと心配していました」

「大丈夫ですよ。あなたが思うほど、クーナは子供ではありません」

「そうです! 言ってやってください、ソージくん!」


 俺は苦笑する。

 また調子に乗って。

 そういうことを言うから、クーナは信用されないのだ。

 だけど、ある意味、こういうところもクーナらしい。

 そうして騒いでいると、一人の男がやってきた。


「クウ、それぐらいにしておいてやれ」


 現れたのは、エルフ特有の長い耳、そしてハイ・エルフの象徴たる翡翠眼をもった男、シリル。

 後ろにはエルフの美女が控えている。長い髪ですらっとした、二十代後半の美女。クウという最高の女性がいながら、こんな綺麗なエルフまで娶るなんて、なんてひどい男だ。


「あっ、ごめんなさい。シリルくん」

「ソージ、クーナ、そしてアンネ。よく来てくれた」

「いえ、こちらこそご迷惑をおかけします」


 わざわざ、シリルは俺を治すために地下迷宮に潜ってくれてたし、これから治療のために時間を割いてくれている。

 感謝してもしたりない。


「クーナのために負った傷だ。俺には感謝の気持ちしかないよ。そして、ありがとう。あの状態のクーナを止めてくれたようだな。それは俺にも出来なかった。もう一度、ああなってしまったら終わりだと覚悟していたんだ。ソージはクーナの命の恩人だ」


 シリルは真摯な瞳で俺を見据える。


「あなたに感謝されることじゃない。俺は、クーナが好きだから助けた。それだけです」

「それでも、ありがとう。……これ以上、言葉を重ねてもしかたがないか。行動は感謝で示す。さっそくソージの身体を治療しよう。治療だけじゃない。もと以上の状態にすることを約束する」

「それは助かります」


 おそらく、シリルの言っているのは魔力回路の最適だ。

 自分の魔力回路だけは自分でいじることは出来ない。そのため、俺は魔力回路の改善を放置していたが、シリルならなんとかできるだろう。

 魔力回路が強靱になれば、【白銀火狐】の反動に耐えられるかもしれない。

 そのことは、ほんの少し期待していた。

 そして、俺はシリルに連れられて離れに移動した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ