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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第四章:【魔剣の尻尾】の真価と進化
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第一話:ソラ・エルシエ

 ようやく、エルシエに辿り着いた。

 俺達がこれぐらいの時期に着くことは、先にシリル宛の手紙を送っている。トラブルになることはないだろう。


 巨大な城壁まで来ると、門番たちがやってきた。

 俺はクーナとアンネに馬車の中で待つように言って外に出る。

 クーナについてきたもらったほうが、円滑に話が進みそうだが、家出娘のクーナはどことなく気まずそうにしていたので、まずは俺だけで話してみよう。


「ようこそ、エルシエへ。この度はどのようなご用件でしょうか?」


 優男風のエルフがにこやかに問いかけてくる。

 となりには、赤毛の火狐の女性が居た。

 二人共、美形だ。エルフと火狐はどちらも容姿が優れているものが非常に多い。


「今日は、長であるシリルさんに会いに来ました。先日、エルシエに来る約束をしまして、手紙も送らせていただいております」

「もしかして……」


 俺が話しかけると、優男風のエルフは思案顔を浮かべる、事前に話を聞いてるのかもしれない。


「きっと、あれよ。ほら、クーナ様の」


 隣に立っている女性が、男の耳元で囁いた。


「そうか、あの……もし、それが本当ならここで殺らないと」

「何馬鹿なことを言ってるの?」


 門番たちは二人で話し合う。

 決着がついたのか、男がこちらに向き直った。


「もしかして、あなたはソージ様でしょうか?」

「そうだ、俺がソージだ。……良かった、ちゃんと話は通っているようだ」


 ここで門番と揉めて無駄な時間を使うのは避けたい。

 まあ、最悪クーナを呼べば顔パスで入れるだろうが。


「はい、シリル様からお話は伺っています。到着次第、中に案内しろと。なんでも、ソージ様はクーナ様の婚約者だとか」


 そこまで知っているのか。

 アンネの帯剣式の際に、ユキナのいたずらで俺とクーナは婚約者同士になっている。

 その話はきっちりエルシエの中でも出回っているようだ。


「そうだ。俺はクーナの婚約者だ。しばらく、クーナと、それからもう一人と一緒にしばらくエルシエでやっかいになろうと思っているんだ」


 男はにっこりと笑う。

 なぜか、槍を握っている手が、力の入れ過ぎでぷるぷると震えているように見える。


「そうですか。クーナ様が、クーナ様が、エルシエに、婚約者を連れて帰られた。なるほど、なるほど、つまりここであなたを亡きものにすれば……奴が来たぞぉぉぉぉ! 俺たちのクーナ様をかどわかした、仇敵、ソージが来たぞぉぉぉぉぉ!」


 突然、柔らかな物腰だった男が豹変して叫ぶ。

 となりの火狐の女性が頭を抱える。

 そして、エルフと火狐の男たちがそこかしこから現れてきた。


「クーナ様に手を出すとは、不届き千万」

「神が許しても、俺達が許さない」

「生まれてきたことを後悔させてやる!」


 二十人ほどだろうか。どいつもこいつも武器を構えて、凶悪な量の、風や炎のマナをまとっている。

 冗談だろ!? この中に五人ほど、全快状態の俺より強い奴が居る!? 残りも、ランクこそ低いが魔術の術式が素晴らしい。なんて使い手の集団。


 そして、高まった魔力が解き放たれる。


「本気か!?」


 魔力を高めて、防御を……いや、その必要はないか。これはそもそも。

 俺が思案をしていると、 一人の女性が目の前に舞い降りた。歳は二十代前半に見える。金色の髪と金色の尻尾をもった美しい、大人の女性。どこか、クーナに似ていた。

 男たちの魔術が放たれた瞬間、エルシエを覆う外壁からこの女性が飛び降りてきたのだ。

 死ぬ気か? 俺が、そう思った瞬間、火狐たちが放った炎の支配を奪い取り、エルフが放った風を”焼きつくした”。


「何のつもりかしら? 父の客人で、わたくしの可愛い妹の婚約者に無礼を働くなんて」


 その女性は優雅に微笑む。その笑みには見るものを平伏させる支配者としての雰囲気があった。

 エルフと火狐たちの男たちが、目を見開いて震える。


「「「やだなー、ちょっとした冗談ですよ」」」


 そして、さきほどまでいきり立っていた男たちがへこへこしだす。


「そうなのですか。冗談、冗談ね。では、わたくしも冗談で、一発ぶちかましてみましょうかしら。わたくしの冗談は、半端じゃなくてよ♪」


 エルフと火狐たちの顔が引きつる。

 目の前の女性から圧倒的な魔力がほとばしり、火のマナたちが周囲に呼び寄せられる。火狐の男どもが従えていたものも有無を言わさず全て。

 こんなもの、放てば周囲が灰燼に帰す。

 止めないと。俺は言葉を探して口を開く。


「あの、助けて頂いてありがとうございます。ですが、この人たちが冗談というのは、本当みたいなので許してあげてください。炎も風も、俺の鼻先をかすめて、霧散するか、逸れるか、そういう術式でした」


 俺は全員の術式を見抜いていた。

 あれは威嚇だ。きっと、クーナの婚約者である俺を驚かして、あざ笑うつもりだったのだろう。


 害するつもりはなかった。もっとも……純粋な力だけでもなく、全員がこの精度の魔術を使えることが恐ろしい。使い方は壮大な無駄遣いだが。


「あなたたち、ソージさんが言ったことは本当かしら?」


 こくこくこくと男たちが必死に頷く。

 美しい金色の火狐の女性がため息をつく。


「そう、なら、少し痛いぐらいにしておきましょう」


 次の瞬間、男たち全員が吹き飛んだ。

 一人残らず額を強打され倒れる。

 いったい、何をした!? 術式の構築から、発動まで早すぎて何をしたかすらわからない。


「ソージくん、なにか騒がしいです。どうしたんですか?」


 クーナが馬車から現れた。


「げっ、ソラ姉様」

「クーナ。本当に帰ってきたのね」


 女性が微笑む。

 微笑んでいるのに、クーナの尻尾の毛が逆だった。あれはクーナが最大限、警戒しているときの反応だ。


「はい、戻ってきました。あと、これなにがあったんですか!? みんな頭を押さえて蹲って」


 クーナが男たちを見て驚きの声をあげる。


「ここにいる男どもが、ソージさんを襲おうとしたので、わたくしがお灸をすえましたわ」

「ソージくんにひどいことをしようとしたんですか」


 クーナが驚いた声をあげ、エルフと火狐の男たちを睨みつける。

 クーナにソラ姉様と呼ばれた火狐の女性が、苦笑してから口を開いた。


「ええ、大好きなクーナを、よそものにとられると思ったのでしょうね」


 クーナが俺のところに駆け寄ってきて、俺の腕にぎゅっとしがみつく。


「ソージくんにそんなことをするなんてひどいです。私、みんなのこと、嫌いになっちゃいます!」


 クーナがそう言った瞬間、ここに居る俺以外の男全員が、絶望的な表情を浮かべて、男泣きをしながら崩れ落ちる。

 ……クーナの姉に吹き飛ばされたときよりも圧倒的にダメージが大きいようだ。


「ソージくんに謝ってください。じゃないと、許さないです」


 クーナが俺にしがみついたまま、頬をふくらませる。クーナの胸が押し付けられる。

 やめろ、クーナ。どう見ても火に油を注いでいる。

 しかし、男たちは凄まじかった。

 血涙を流し、クーナにしがみつかれている俺を殺意を込めた目で見ながら、それでも……


「「「すみませんでした!」」」


 土下座して見せたのだ。

 よほどクーナに嫌われたくなかったのだろう。

 なんという男気だ。


「ソージくん、みんな謝っているので許してもらえませんか?」

「あ、ああ、良いよ」


 クーナが良かったとほっとした顔をする。

 やっぱりクーナは可愛いな。


「良かったです。みんな、顔をあげてください。もう、ソージくんにひどいことしたらダメですよ」


 クーナが微笑む。

 そんなクーナを見て鼻の下を伸ばす男たち。

 エルシエはもうダメかもしれない。

 俺が呆れていると、クーナの姉らしき人が口を開く。


「ふう、これで一件落着なのかしら。全員、こんなところで油売ってないで、持ち場にもどりなさい」

「「「はい」」」


 クーナの姉の一声で、男たちが立ち去っていく。


「ソージさん、見苦しいところを見せてしまいましたわね。男たちも悪気があったわけじゃないの。クーナ親衛隊の過激派たちの暴走だから」

「そんな、愉快なものがあるんですね」

「……ええ、クーナはすごく人気があるのよ。見た目が良いし、歌に不思議な魅力がある。守ってあげたくなるところもポイントが高いわね。それに、なにより……ガードがゆるそうで、簡単に押し倒せそうなところがいいらしいわ」

「ソラ姉様、なんですか、それ、初耳です!?」


 俺は内心で頷いていた。

 クーナは無防備すぎる。だが、それがいい。


「何はともあれ、中に入ってください。長であるシリルは明日まで、不在です。わたくし、ソラ・エルシエ長代行があなたがたを歓迎します」

「これはご丁寧な挨拶を。俺はソージ。封印都市で学生をやっている。そしてクーナの婚約者だ」


 しっかりとソラと握手をして俺達はエルシエに足を踏み入れた。

 

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