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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第三章:クーナの焔《ほのお》
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エピローグ:ふぉっくす(本番)

 俺はクーナの部屋で安らかに眠るクーナを見守って居た。

 彼女はもう、まる2日寝たきりになっている。


 あれから、ユーリ先輩とアンネに守られながらなんとか地上に戻ってくることができた。

 地上を目指している際に、ユーリ先輩にいくつかの質問をしたが、何一つ質問には答えてくれなかった。

 それどころか、情報を得る鍵になるはずだった少女もユーリ先輩に連れ去られている。


 ユーリ先輩は、自分は味方ではなく敵と敵だと言った。

 それはすなわちクーナを攫おうとした奴らのことを知っているということだ。

 クーナを守るために少しでも情報が欲しい。どうにかしてユーリ先輩から情報を引き出さないと。


 ◇


「そーじ、くん」


 夕暮れ時にクーナが目を覚ました。


「おはよう、クーナ。ねぼすけにもほどがあるぞ」

「ここは?」

「クーナの部屋だよ。クーナはあれからまる二日寝たきりだった」


 俺の話を聞いて、クーナは目を見開き、驚く。


「そんなに経ったんですか……、よくお荷物の私を抱えてもどってこれましたね」

「ユーリ先輩が助けに来てくれたし、アンネもよく頑張ってくれた」

「ユーリ先輩が? ただものではないと思っていましたが地下九階まで一人で来られるほどとは……」

「それも、ほとんど無傷で息一つ乱さず。一緒に地上を目指したけど、彼女はすごいよ。たぶん、俺より強い」


 どんな手品を使っているのかはわからないが、低いランクに実力を偽装している。

 その状態でも俺より強い。彼女の実力はそこが知れない。


「味方だったら心強いんですけどね。よくわからないです」


 それは同感だ。

 クラネルをけしかけるようなこともしてきた相手だ。警戒を解くことはできないだろう。


「クーナ、体に異常はないか?」

「大丈夫ですよ。特に問題はありません……少し魔力が使いにくいぐらいです」

「そうか、良かった。ちゃんと治療はできているようだ」

「治してくれたんですか?」

「うん、クーナの変身で魔力回路に相当の負荷がかかっていたね。クーナは昔、しばらく魔力が使えないって言ってたじゃないか。今思うと、そのときも今回のように九尾の火狐になっちゃったんじゃないかな」

「そうですね……兄様が言ってた私の尻尾が九本になって大暴れしたって本当だったんですね……。兄様には悪いことをしました」


 俺は苦笑する。

 シリルが大怪我をするのも、九尾の火狐化したクーナが本気で暴れたなら納得できる。

 俺のときはまだ、定期的に変質魔力を吸収してガス抜きをしていたから、あの程度で済んだが、もし変質魔力の貯蔵が十分あったら、クーナはもっと凄まじい力を発揮しただろう。……そんなクーナをシリルは止めた。少し嫉妬する。


「エルシエでお兄さんに会ったら、謝らないとね」

「ですね……でも、兄様、弱みを見せたら間違いなく調子に乗りますよ。頭を撫でさせろとか言うかもしれません」

「それぐらいいいだろう」

「ダメです。兄様、痛くしちゃうから」


 くすくすと俺たちは顔を合わせて笑った。


「でも、驚きです。あのときはずっと魔力を使えなかったのに……こんなに早く魔力が戻るなんて」

「いくつか理由はあるけど、一つは、一度治療した時に徹底的に魔力回路を効率化していたから、魔力回路が負荷に強くなっている。もう一つは、変質魔力を定期的に抜いていたからね。たぶん、昔よりも小規模なものだった。クーナの意識は完全には持って行かれてなかったのも、そのせいかも」

「それはあるかもしれません。でも、やっぱりソージくんの治療のおかげです。ありがとうございました」


 クーナがベッドで上体を起こして礼をしようとする。

 その瞬間、ふらついたので、俺は慌てて彼女を支える。その際に上着が落ちてしまった。


「大丈夫か、クーナ?」

「私は大丈夫。そっ、ソージくん、その身体、包帯だらけで、血が滲んで」

「ああ、加護が尽きたとき、瘴気に焼かれたし、クーナを助けるために火傷もしたからね。ちょっと、人には見せられないから」


 紋章外装でまとった瘴気に焼かれ、さらに炎を纏ったクーナを抱きしめたせいで、俺の全身はひどい有様になっている。

 顔だけは無事なのがせめてもの救いだ。

 上着を羽織って包帯だらけの身体を隠す。


「わた、わたしのせいで、ソージくんに消えない傷が……それに、見た目だけじゃなくて、ソージくんの魔力、流れがおかしいですよ。いつもすっごく綺麗な魔力が勢い良く流れてるのに、今は魔力がか細くて、流れも淀んでぐちゃぐちゃで」

「……クーナを真似て使った【白銀火狐】の後遺症だね。俺の身体じゃ無理があった」

「私の魔力回路を治せるソージくんなら、治せるんじゃ」

「無理だよ。魔力回路は魔術で治すんだけど、魔術を使いながら魔力回路を弄るなんて、自殺行為もいいところだ。必ず魔術に影響が出る……少しづつ自己治癒力を高めているけど、難しいね。俺はダメかもしれない」


 クーナには言わなかったが、難しいなんてものじゃない。

 実質的に魔術師としての俺は死んだ。

 瞬間的な魔力の出力量が大幅に落ちている。クーナの魔力回路の治療のような、繊細で制御が難しいが消費の少ない魔術のようなものは騙し騙し使えるが大きな制限がつく。


 俺を癒すためには、俺以上に魔力回路の治療に精通した術者が必要になる。そんな人はこの世界に居ない。


「そんな、私のせいで、ソージくんが、そんな、めちゃくちゃに、ソージくん、世界一の魔術師になりたいって言ってたのに……ごめんなさい、ごめんなさい」


 クーナが涙を流して謝罪する。

 俺はクーナの居るベッドに腰掛け、彼女を抱き寄せた。


「謝らなくていいよ。全身のやけども、魔力回路がこうなることも全部わかっていて、それでもやったんだ。クーナを助けられるなら、構わないってね。全部俺の責任だ。それが嫌ならクーナを助けなければよかった。俺がどうなってもクーナに生きて欲しかった」


 紛れも無い本心だ。

 これからの人生に不安がないと言ったら嘘になる。

 魔力を録に使えずに、瘴気とやけどの後遺症に苦しめられるだろう。


「……ソージくん、エルシエに行きましょう。父様なら、ソージくんをなんとかできるかもしれません。いえ、きっと出来ます。父様に出来ないことはありません」


 俺は、少し驚いた。実はエルシエに行くという提案は俺からしようと思っていた。


「エルシエ行きには俺も賛成だよ。俺の治療じゃなく、クーナのためにね。いつ、またあいつらが来るかわかったものじゃない。シリルならクーナを守ってくれる。いや、クーナ。こうなった以上、クーナはエルシエに帰ったほうがいい。ここにいるよりずっと安全だ」


 抱き寄せられているクーナの肩がぴくりと震える。


「それは、ソージくんとおわかれするってことですか?」

「そうは言ってない。しばらく離れるだけだよ。クーナを守れるぐらいに強くなったら迎えに行く」


 俺の言葉を聞いたクーナが、ぽんっと俺の胸を叩いた。


「そんなの嫌です。ソージくんと離れたくない。ソージくんもエルシエに来ればいいじゃないですか、ずっとエルシエで暮らしましょう!」


 クーナはまるで駄々をこねる子供のように俺の胸をぽかぽかと叩き続ける。


「それはダメだよ。俺はさ、強くなりたいんだ。クーナをこうやって泣かせないぐらいに強く。地下迷宮のないエルシエだとそれはできない。だから、エルシエにクーナを送り届けたら俺はエリンに戻ってくるよ」


 魔力をろくに使えず、瘴気と火傷の後遺症に悩まされる俺が、そうなれる可能性は低い。

 だが、それでも、クーナのために成し遂げたいと思った。


「そんな、そんな、ソージくん」


 クーナが顔を手で覆った。


「お見舞い来たよ! クーナちゃん、そして実はクーナちゃんより瀕死なソージくん!」


 重苦しい空気に包まれた俺たちの前に、底抜けに明るい声でユーリ先輩が現れた。

 手には花束。


「はい、これはお見舞いの品だよ。そして、二人は大きな勘違いをしている! まず、ソージ、エルシエには地下迷宮があるよ。シリルが秘匿しているけどね、あそこには、最初に封印がはじけ飛んで、魔物が噴きでた。”はじまりの地下迷宮”があるんだ。不思議に思わなかったかい? エルシエの最強部隊”イラクサ”全員がランク5であることに、そんなのいつでも使える地下迷宮がないと不可能じゃないか」

「それは本当か」

「本当だよ。あたしはよく知っている。だって、そもそもあそこは……まあ、いいや。だから、エルシエでもソージは強くなれる。次、クーナちゃんの勘違い」


 ユーリ先輩はぴしりと指をクーナにつきつける。


「クーナちゃんは、父様なら治せるかもしれない。って言ったね。それは違うよ。確実に治せる。それができる”別の自分”をシリルは持っている。だから、大船に乗ったつもりで帰るがいいさ」


 ”別の自分”と言った意味はわからないが安心した。

 シリルならできるかもとは思っていが、やけど、瘴気焼け、魔力回路、全てが癒えるのは嬉しい情報だ。

 これで俺はまだ戦える。クーナを守れる。最強を目指せる。


「というわけで、あたしは提案するよ。みんなでエルシエに言って、さっさとソージを癒やす、そしてシリルの庇護下でランクをあげて、奴らに対抗する力をつけるんだ! そしてね、ソージと、こにはいないアンネ。君たちはそこでランク以外の力を身につけるべきだね。エルシエなら、いや、シリルなら君たちを導ける。あれはね、それができるできる化け物だ。人生の経験値が違う」


 何もかもが完璧。これ以上ないベストな展望。

 それなのに、なぜか俺はひっかかりを感じていた。


「なんで、そんなことを知っている。そして、どうして俺にそれを伝えた」

「ん? 知っているのはあたしはエルシエの関係者だから。そして、伝えた理由は君たちに強くなってほしいからだよ。じゃあ、あたしは行くね! ちなみに学校のほうも大丈夫だよ、別ルートからアンネの帯剣式に出て休んだ分は公欠にしてあげたし、もうすぐ夏休みだから一ヶ月ぐらい休んでも問題ない! その一ヶ月で強くなって、学園に戻ってきてね。クーナちゃん、エルシエに帰ったら、シリルによろしく!」


 そして、あっという間に彼女は消えていった。

 残された、俺達は呆然とする。


 ◇


「本当に、あの人とはなんでしょう」

「俺にもわからない」

「でも、ユーリ先輩の言うとおりにするしかないですね」

「確かにな」


 はっきり言って、これ以外の選択肢はない。シリルと、クーナを連れてエルシエに行くという約束と、鍛冶を教えてもらいクーナのために剣を作るという約束をしていたしちょうどいい。


「でも、安心しました。私のせいでソージくんの人生、全部台無しにしちゃったって思ってました」

「言っただろう。台無しになってもクーナが生きてくれればそれでいいって」


 クーナが顔を真っ赤にする。


「それ、本気なんですね」

「本気だよ。ずっと、俺は本気でクーナが好きだって言い続けた来たつもりだけど」

「……なら、ふぉっくすしたこと許してあげます。とっさにあの場で言っちゃいましたけど、私、ソージくんのこと好きなんです。私だけを見てくれる人を好きになろうって思ってたのに、絶対に浮気するソージくんを好きになっちゃったんです。結婚したら、あとで女性関係で泣かされるってわかってたのに、ソージくんじゃなきゃダメって思っちゃったんです」

「随分ひどい評価だな!」


 あまりにひどいクーナの告白に思わず突っ込んでしまった。


「ふぉっくすしたんだから、ちゃんと責任とってくださいね? 火狐の尻尾を握ったんだから、もう、なかったことになんてできませんよ……女性関係も惚れた弱みです。一人だけなら許してあげなくもないです」


 クーナが俺を上目遣いで見ながら、しっぽをすりすりと俺の腰あたりに擦りつけてくる。


「なかったことになんてしないさ。クーナが俺を好きで居てくれるなら、絶対に俺はクーナを手放さない」


 俺は強く言い切った。


「ありがとうソージくん、それと大好きです」


 クーナが満面の笑みを浮かべた。

 俺の大好きな、クーナの太陽のような笑顔。


「その、心が通じあった記念に、ちゃんとしたふぉっくすをしたいのですがよろしいでしょうか?」

「もちろん、望むところだ」

「ソージくん、手の平を出してください」

「こうかな」

「はい、そんな感じです。ちゃんとしたふぉっくすは女の子が自分の意志で、好きな男の人の手に尻尾をのせるんです」


 言葉のとおり、クーナがもふもふで、可愛らしい最高の尻尾を俺の手のひらにやんわりと置く。

 滑らかで、ふかふかで、心地良い。


「これから、どうすればいい」

「男の人は、その女の子が好きなら、優しく尻尾を握るんです。少しずつ力を入れてぎゅーって」


 俺は頷く、クーナの尻尾を握ると少しずつ毛が沈み込んでいく。

 そして、尻尾の肉にあたった、柔らかくしっかりと押し返してくるクーナの尻尾、さらに力を込めるとクーナの尻尾に手が食い込んだ。


「これが、正しいふぉっくすです。これで私はソージくんのものです」


 クーナがはにかんだ。

 そんなクーナがあまりにかわいくて口づけをする。

 クーナは目を見開いて驚いたものの、しっかりとくちづけを返してくれた。


 俺はクーナの尻尾をしごく、するとクーナの顔が紅潮する。そして彼女は顔を話すと、熱い吐息を吐いた。


「そーじ、くん、尻尾乱暴にしちゃ」

「クーナ大好きだ」


 そして、俺はクーナを押し倒した。


第三章! 完結。ここまでが第一部!! 四章から舞台は変わって物語が大きく動きはじめます。そしていろいろと怒涛の展開が!


ここまで、読んでいただきありがとうございました。


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