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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第三章:クーナの焔《ほのお》
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第二十五話:愛の魔術《ちから》で運命をねじ伏せる!

 クーナを中心に黄金の火柱が立ち上り彼女の姿が見えなくなった。

 クーナを助け出すにはあの黄金の火柱に飛び込む必要がある。


「これは、クーナの力?」


 俺の傷が塞がっていく。

 クーナが九尾のキツネに変化したことにより、俺が吸収したクーナの変質魔力が活性化している。

 活性化した魔力は、宿主を殺させまいと俺の傷を癒していった。

 おかげで、動くことができるようになっている。ありがたい。

 どうせなら、徹底的に変質魔力に頼るとしよう。


「【黄金外装】」


 紋章外装の、変質魔力版を行う。

 これは本来の変質魔力の使い方ではないが、その場しのぎにはなる。

 黄金の文字が俺の皮膚の上を覆う。


 今まで、この魔術は試作段階で、使うことができなかった。

 目の前でクーナの変質を確認し、これだけ莫大な量のクーナの魔力に触れたことでようやくこの力の操作法がわかり、完成させることができた。

 一度も成功したこともなかった魔術が土壇場で成功したのは、きっと愛の力だ。


 これなら、黄金の火柱をかき分けることができる。

 後ろから、アンネの視線を感じる。

 俺は振り向かない。一瞬でも後ろに下がると、立ち向かえなくなる。正直、俺は怖い、怖くて仕方ない。それでも、もっと大事なことがある。

 力を入れて、一歩踏み出した。


 ◇


 黄金の火柱の周囲では火の精霊達が踊り狂っている。

 クーナの変質魔力は火の精霊たちを狂わせる効果まであるようだ。


 黄金の火柱に触れなくとも近づくだけで、灰になる。

 【黄金外装】で纏った変質魔力は俺を守ってくれていた。

 ついに黄金の火柱にたどり着く。黄金の火柱は直径十メートル。その中心にクーナが居る。

 大きく息を吸って黄金の火柱に触れた。


「ぐっ」


 皮膚が焼ける。

 【黄金外装】を貫く熱量。

 さすがに、大本は手強い。


 かつてティラノが渾身の力ではなった強大な炎を、クーナが受け止めたときのことを思い出す。

 あの光景は脳裏に焼き付いている。

 なら、俺ならできるはずだ。 火の呼吸をイメージする。

 黄金の火柱の魔力の流れ、【黄金外装】の力を割り込ませて流れを歪め受け流していく。


 下から吹き上がる炎が俺のからだの表面を滑って空に上る。

 これなら、焼かれはしない。黄金の火柱に足を踏み入れた。

 黄金の火柱の中で俺は歩く。

 【黄金外装】の魔力が急激に消費されていく。いくら受け流しても、クーナの力が大きすぎる。


 一瞬でも制御を誤れば死ぬ。

 極限の緊張感。そんな中、ただ俺は前に進む。

 クーナがそこに居る。それだけで理由は十分だ。


 ただの一歩が千里の距離に覚える。

 冷や汗が止まらない、その汗も一瞬で蒸発する。一瞬意識がとびかけた。クーナの変質魔力で傷が癒えたとはいえ、血を失いすぎている状況はかわらない。


 視界が霞む、息が乱れる。

 この極度の緊張を抱えて絶望的に悪い体調。いつ魔術の制御を失っても不思議じゃない。もはやほとんど自殺行為だ。

 それでも……

 クーナを見殺しにできるわけがない。

 俺は前に進むだけだ。


 渾身の力で、炎の壁を引き裂く。

 そしてついにクーナの姿が見えた。黄金の火柱の中央だ。

 全裸で目を閉じ炎を垂れ流すクーナが居た。


「クーナ、聞こえるか! 助けに来たぞ」


 必死に叫ぶ。

 クーナに近づけば近づくほど、勢いを増す黄金の炎を受け流しながら。


「クーナ、返事をしろ!」


 叫びながら、一歩一歩踏み出す。


「いつまで眠ってるつもりだ!」


 炎を受け流すのにも限界が来ている。

 体内の変質魔力の残量が少ない。

 俺は叫ぶ。


「アンネも待ってる、だから帰るぞ、クーナ! みんなで」


 そして遂にたどり着いた。

 彼女のもとへ。

 クーナが目をあける。

 その目は、真紅に輝いていた。獣の瞳だ。


「があああああああああ!」


 理性を失った瞳で、手をこちらに向けて炎を吹き出すクーナ。

 俺は黄金外装で纏った力を前方に集中し耐える。

 今ので、なけなしの残りの変質魔力を使ってしまった。


 おそらく、この炎の中でいられるのはあと、一分もない。

 どうすれば、あいつを目を覚まさせてやれる。

 ……一つ心当たりがあった。


 クーナが二度目の炎を放つために溜めを行った。

 俺達を包む黄金の火柱の勢いが目に見えて弱くなる。

 これなら、受け流しの負担が軽くなる。

 俺は全力で踏み込み、そしてクーナを抱きしめた。


「があああ、が」


 抱きしめたところで、クーナの正気は戻らない。もとより、この程度で止まるとは思っていない。

 俺は思い切り、クーナの尻尾を握りしめる。


 光の八本の尻尾ではなく、クーナがもともともっている俺の大好きなもふもふを尻尾をだ。

 クーナが驚きに目を見開く。そして、わなわなと震え、そして大声をあげた。


「いきなり、尻尾をにぎるなんて、馬鹿ですか! 火狐の尻尾を、握るのは、ふぉっくすなんですよ! 旦那様以外、にぎっちゃだめなんですよ!」


 光の尻尾を背後に浮かべ、真紅に輝く瞳のままだったが、その声はいつものクーナの声だった。

 こんなことで正気を戻すのは実にクーナらしい、こんな状況なのに苦笑してしまった。


「わかってる。でも、俺はクーナの旦那様になる男だからな。構わないだろう」


 俺は腕の中のクーナのぬくもりを確かめたあと、彼女を解放する。


「ソージくんの馬鹿! 何言って、ってソージくんひどい怪我」


 クーナが俺を見て、驚く。

 俺の身体は少しづつ、クーナの炎に蝕まれていた。


「思い出した、私、炎があばれ、ああ」


 クーナが頭を押さえる。

 正気に戻ったのは一時的なもので、すぐにまた炎意識が持って行かれそうなようだ。

 尻尾を強く握って正気を取り戻させる。


「勝手にいなくなるな。まだ、話は終わってない」

「ソージくん、また尻尾!」

「クーナは俺のだ。だからいいんだよ」


 強く断言する。

 俺はクーナを手放したりしない。


「……こんなときに、わっ、わたし、また、」


 尻尾をさらに強く握る。クーナの持って行かれそうな意識をつなぎとめる。


「クーナ、俺を見ろ! 俺は今、おまえの変質魔力を使う魔術を使っている。おまえの力を使う術式を見ろ! 見て使いこなせ、肌で感じろ!」


 クーナを強く抱きしめ耳元で叫ぶ。

 クーナは変質魔力の暴走で、おかしくなってる。逆に言えばただしく使って消費すれば元に戻れる。


「そんな、無理です、こんなの、見ただけじゃ」

「やれ、やらないと俺が死ぬ」


 冗談でもなんでもない。あと四十二秒で俺は力着きて、この炎に焼かれて死ぬ。


「にげ、逃げてください、できないし、もう、わたし、また、おかしく」


 もう尻尾を握るという、手段で正気に戻るのも限界のようだ。

 それほどまでにクーナは変質魔力に侵されている。


「逃げない。クーナなら大丈夫だって信じてるんだ」


 近くでクーナに魔力の使い方を見せる以上のことはできない。


 俺はさきほどから抱きしめた肌から少しでも変質魔力を吸収して、その場で【黄金外装】に変換している。こうすればクーナに魔力の消費の仕方を教えながら、俺の変質魔力の消費を抑えられる。


 【黄金外装】は、とりあえずの変質魔力の消費方法でしか無い。

 本当はもっと、完璧な、クーナのような変質を行う魔術の正しい使い方を見せてやりたかった。今の俺ではこれが限界だ。


「いや、いや、無理、無理なんです。お願い、逃げて、このままじゃ、ソージくんを殺しちゃう」

「その覚悟はあるよ」

「私は嫌なんです!」


 クーナが涙を流した。


「大好きなんです! ソージくんが好きなんです! お願いだから私に好きな人を殺させないでください」


 クーナが俺に口づけをした。

 唇を強引に押し付けるキス。


「最後に思いでが出来ました。だから、私は大丈夫。ソージくんだけでも生きて。ソージくんがこのまま死んだら、私、一生恨みますから! ソージくんを殺して、私だけ生き残ったりしたら、その場で自殺しますから! だから、逃げて」


 クーナが泣き笑いになった。

 そして、獣の瞳に変わりつつある。


「クーナの気持ちを知ったら、余計に二人で生きないといけなくなった」


 今度は俺から唇を奪う。

 もちろん、やけになったわけではない。

 今のクーナとのキス、そこに俺達の未来を見た。


 【黄金外装】は、正しい変質魔力の使い方ではない。

 本来の変質魔力の使い方は、特定の因子を活性化させ、何かに変わること。


 それがクーナの場合は、光の尻尾を八本生やした姿。

 俺が今まで、変質魔力の正しい使い方を出来なかったのは、俺の中に因子なんて存在しないからだ。だから、擬似因子を構成し、それを活性化させるというアプローチをとろうとした。

 しかし、それは失敗に終わる。圧倒的に情報が足りなかったのだ。

 それでも、クーナのキスで、クーナの因子が俺の身体の中に入った今なら、正しく変質魔力を使える。


「んん、んんん」


 クーナの目が驚きに見開かれる。

 俺は舌をクーナの唇に舌を押入れ、クーナと舌を絡めた。

 粘膜接触により、魔力の吸収効率が跳ね上がる。変質魔力を全力で奪いつつ、クーナの因子をさらに奪う。


 それを、俺の中で改変。俺に最適な因子へと。

 今までの擬似因子を活性化させる前提で作り上げた術式を、クーナの因子を改変したものを活性化させる術式に変換。


 かつてないほどの思考の回転、かつてないほどの充足感。

 ぶっつけ本番で、即興の、超高難度の魔術。

 こんなもの成功するわけがない。成功したこともない。


 それでも、できるという確信があった。

 それができるから、俺はここに居る。

 クーナの口から舌を引き抜く。


「わかったよ、クーナ、全部」


 クーナはもう、限界だ。

 完全に殺意に満ちる。俺は一度クーナから離れる。


「クーナにもらった力で、俺はクーナを助けるよ」


 さあ、俺の魔術を使おう。

 術式が走る。俺の身体から黄金の魔力が噴き出る。

 そして、クーナからもらい、俺が改変した因子が活性化する。

 俺の中で、獣が暴れる。

 この因子の影響だ。だが、瘴気すら飼い慣らせる俺が自分を見失うことはない。

 術式が完成した。

 この術式の名を告げよう、高らかに。


「【白銀火狐】」


 俺の髪の色が銀に染まる。瞳が青く染まる。

 白銀の炎が吹き上がり、俺の背後に炎が超密度で固まった光の尻尾ができる。

 それは、今のクーナの姿と一緒だ。


「あああああああ」


 クーナの荒れ狂う炎が迫る。

 俺は避けない。

 俺の身体に触れた瞬間、炎が解かれ、その力を吸収する。


 九尾の狐は、圧倒的な火力が本質ではない。

 全ての炎を統べること、それが九尾の狐の本質だ。

 白銀の火狐に変わった俺にはそれができる。

 俺はクーナのところまで歩いて行く。


 そしてクーナの額に触れた。

 クーナの身体から、炎が噴き出る。悪いもの全てを吐き出すように、そしてその力は拡散していき、やがてクーナの中の魔力が空になった。


 俺が、クーナの中の炎すら操ったのだ。

 変質魔力がすべてなくなれば、九尾化は維持できない。クーナの光の尻尾が消えた。

 黄金の炎のベールが晴れた。

 クーナが崩れ落ちる。

 俺は、彼女を受け止めお姫さま抱っこをした。


「おかえり、俺のお姫さま」

 

 そしてギュッと抱きしめる。

 彼女を失わずに済んで良かった。

 

 しばらく歩いているとクーナが目を開いた。


「ソージくん、私、生きて」

「二人で生き残ったよ」

「そう、良かった。ソージくんが死なないで良かったです」


 クーナが俺の首の後ろに手を回してわんわん、泣いていた。

 俺はそんな彼女にされるがままになっていた。


 今度、ゆっくり九尾化の魔術を教えよう。

 【白銀火狐】を使える俺なら、クーナを鍛えることができるだろう。 

 クーナとお揃いの魔術を使えるのは悪くない。

 それと、あとで俺のことを好きだと言ったのを思い切りからかおう。どんな反応を見せるのか今から楽しみだ。

少し間が空きましたが、クライマックス!

愛の力の奇跡!


あと、新作を始めたから、そっちも読んでくれると嬉しいかも


お菓子職人の成り上がり~天才パティシエの領地経営~

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