第二十一話:悪い予感
「美味しいご飯、美味しいご飯!」
正面にユウリ先輩が座って、俺の手元を見ている。
そんな中、俺は淡々と料理を作り上げていく。
彼女は、俺の問いに答える条件として、料理を所望したからだ。
「どうぞ、さっき俺達が食べていたサーロイン・ステーキサンドです」
「うわぁ、美味しそう。肉汁たっぷりってのがいいよね。基本、地下迷宮って乾いたものしか食べられないし。こういう水気があるのは、ほんと嬉しいよ! ではさっそくいただきます。……うん、うまい! 素材もいいけど調理もいいね。焼き方と塩加減が絶妙だよ。ソージをお嫁にしたいかも。あたしのところに来る?」
ユウリ先輩は俺に向かってウィンクを飛ばす。
それに、クーナとアンネが反応した。
「ユウリ先輩、そういう冗談はやめてください!」
「そうね、ソージが真に受ける可能性があるわ。そうなったら危険よ」
「うーん、本気なんだけどな。別にあたしは結婚してもいいよ」
むしゃむしゃと、サーロイン・ステーキサンドを頬張りながらなんでもないことのように、ユウリ先輩はもらす。
おかげで、クーナとアンネの慌てようがよりひどくなった。
「なっ、なっ、なっ、いつの間にソージくんとそんな関係に!?」
「そんな関係? どんな関係を想像してるのかな、むっつりなクーナちゃん。昔から、人一倍そういうのに興味あったよね」
「むっつり!? いいかげんなことを言わないでください。だいたい、ユウリ先輩は私のことなんて知らないじゃないですか?」
「そうでもないよ。クーナちゃんのことは随分と知ってるつもり」
意味深なことをユウリ先輩は告げる。
「クーナ、アンネ、落ち着け。そういう反応をするから余計に、ユウリ先輩がからかってくるんだ」
そう言った瞬間、なぜか俺のほうをジト目で見る二人。
「ソージが気が多いせいで不安になるのだけれど」
「ですね。ソージくんなら、どこで女の子に手を出しても不思議じゃないです。私たちが知らない所で、知らない女の人との間に子供ができていても驚きません」
「いや、そこは驚こうよ!?」
これほど、一途に愛情を向けているのにひどい言いがかりだ。
まるで俺が女ならなんでもいい性獣のようじゃないか。
「はい、ごちそうさま。美味しかったよ。食べ終わったし、本題に入ろうか。それで、ソージは、何を聞きたいの?」
口を手で拭いながらユウリ先輩は問いかけてくる。
「まずは、どうして俺たちを嵌めたかだ。クラネルの暴走。あれは、あんたが仕向けたことだろう」
俺がそういった瞬間、クーナとアンネが驚いた顔でユウリ先輩を見る。
二人は気づいていなかったようだ。
「あれ? やっぱりバレてた。おかしいな。気づかれるようなことをした覚えはないんだけど」
「よく言う。わざとだろう。あれは」
俺たちはティラノとの戦いで満身創痍になり、自力での脱出が困難な状態に追い込まれた。
そこに、ユウリ先輩から俺たちの救出の依頼を受けたランク2の探索者のパーティが現れ、おかげで無事地上に戻れた。
それ自体は、むしろありがたい気遣いだが、怪しい点が多すぎる。ユウリ先輩は俺たちの窮地を知っているわけがない。さらにランク2のパーテイには精神を操る魔術まで使われた形跡があった。
そこまでされれば、バカでも彼女を疑う。おそらく、わざとだ。俺を試している。
「ばれた? うん、君が気付けるように不自然を残したんだ」
「どうして、あんなことをした?」
「親切だよ。ああでもしないとアンネロッタ・オークレールはランク2に至らなかった。むしろ感謝してほしいぐらいなんだけどね」
それはある意味正しい。
ティラノとの戦いで、俺たちはランク1の壁を乗り越えた。
だが……。
「一歩間違えれば死んでた。それに、クラネルを巻き込んだことは感心できない」
「君たちは生きてたからいいじゃん。もし、死ねばそこまでのパーティだったってことだよ。それにクラネルは、放っておけばもっと、悪質な手を使っていたと思うよ。あたしが手をだす前からだーいぶ、歪んでたからね。敵がティラノから、彼の子飼いのランク3に変わっただけ。そっちのが辛かったと思うよ」
ランク3の手駒。
確かにそれは厳しいだろう。一人ならともかく複数で来られれば、詰みかねない。
「そうだとしても、そんなことを俺は頼んでない。余計なおせっかいだ」
「うん、その通り。でも、君たちが望む、望まないなんて関係ない。あたしは君たちのためになんて、微塵も思ってないからね」
まったく悪びれずにユウリ先輩はそう言い切った。
「あたしはね、あたしの目的のために君たちが勝ってくれないと困るから場を整えた。感謝を求めるつもりはないけど、君たちがどう思おうが、今後も必要ならやるよ。あたしのために」
そう来たか。
なかなか厄介だ。そう言われたら諌める方法は力づくしかない。
「……なら、せめて何が目的かを言え。なんのために俺たちを勝たせたかった」
「それは言えない」
「飯を食わせてやっただろう。約束は守れ」
「あたしは、どうしてゴブリン・キングを倒していたかを教えるって約束したつもり。ほかはサービスだよ」
「なら、そっちを答えろ。あのゴブリン・キングはティラノのように人為的に作られていたように見えるが。また、ユウリ先輩が悪さをしていないか不安でしかたがないんだ」
俺がそう言うと、頬をぷくっと膨らませた。
「悪さってなんだよ。これは善意のボランティアだって言うのに!」
「ボランティア?」
「そう、ボランテイア。いいかい、今の地下迷宮は瘴気の消費が追いついてないんだよ。瘴気がどんどん溜まって、爆発して、先日のティラノみたいなのや、雑魚が大量発生する現象が浅い階でもどんどん起こっても不思議じゃない状況だ」
「そうかもな」
実際、ゲーム時代は年を重ねるごとに、そう言った事故の件数は増えていった。
「でも、こうやってたまに人為的に、バーストを引き起こすことで、暴発は起きにくくなるの。ガス抜きだね。ついでに、こうしてできた魔物からは特別な材料がとれるから一石二鳥ってわけ」
一瞬、なっとく仕掛けたが、俺は根本的な回答をもらっていないことに気付いている。
「それは目的じゃない。手段だ。どうして、その毒抜きをユウリ先輩がしないといけない」
俺の質問を聞いた瞬間、ニヤリとしか形容できない笑みをユウリ先輩は浮かべた。
「へえ、そこを聞いてくるんだ。あたしの目的は強い探索者をたくさんつくることだ。低層で事故なんて起こって、才能の芽をつむことは避けたいんだ」
「それこそ、なんのために」
「ごめんね。そこまでは言えない。これで許してくれないかな」
「許さなくても、答えるつもりはないんだろう?」
「もちろん」
力づくという選択肢はない。
ユウリ先輩がゴブリン・キングとの戦いで見せた力はランク3に匹敵した。
何より恐ろしいのが、あの戦闘以外はランク1程度に実力を偽装できている。俺が見破れないほど精巧に。
それは、ユウリ先輩の実力がランク3以上である可能性があるということだ。
「まあ、最後におまけをしてあげようか。思った以上に君の料理が美味しかったから特別だ。……今日はもう帰ったほうがいい。嫌な予感がする」
「いやな予感?」
「そっ、予感。だから根拠とかは言えないけど、こうちりちり来るんだよね。でっ、あたしの予感はよくあたる。おとなしく帰ったほうがいい。特に、そんな爆弾を抱えた状態ではね」
心臓が嫌な音を立てた。
俺がクーナの変質魔力を抱えて不調であることまで見ぬかれている?
「じゃあね、私は行くよ。そうそう、一つ言い忘れた。悪い魔法からお姫さまを救うのは、いつも王子様のキスだよ。じゃねー。あたしはノルマが終わったし帰るー」
言葉の通り、風の様にユウリ先輩は去っていった。




