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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第三章:クーナの焔《ほのお》
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第十九話:作戦会議

祝! 一巻発売!


 地下迷宮の上に構築された建物にあるカフェで、俺たち【魔剣の尻尾】はミーティングをしていた。

 昨日で授業がある週初めの三日が終了しており、今日を含めて四日は地下迷宮の探索に割り当てることができる。


「今日も地下迷宮を探索するんですね。……ソージくん、本当に体は大丈夫ですか?」


 クーナは俺の方をみて心配そうな顔をする。

 その理由は俺の不調にある。体内に抱えるクーナの変質魔力の量がかなり増えており、ダメージを隠しきれなくなっていた。

 クーナやアンネを不安にさせてしまう自分の未熟さが嫌になる。


「何度も同じことを言わせるな。俺は大丈夫だ」

「でも、ソージくん、辛そうです……」


 クーナの目が少し潤んでいる。

 そんなクーナを見て、アンネが口を開いた。


「クーナ、ソージが大丈夫と言っているのだから信じましょう。ソージは、無茶をして周りに迷惑をかけるような愚行を犯しはしない。ソージなら自分の限界ぐらい把握してるわ」

「そのとおりだよ」


 さすが、アンネだ。よく俺のことがわかっている。

 俺は、根性論ではなく、耐えられるレベルの不調だから大丈夫だと言っている。


「わかりました。ソージくん。でも、無理はしないでください。……それと、もう、私の変質魔力を吸収しないでいいです。ソージくんのおかげでだいぶ楽になりました。私は、もう平気です。これ以上、私のせいでソージくんが苦しむのは見たくない」


 隣に座っているクーナが膝の上においてあった俺の手に自分の手を重ねて、うつむきながらつぶやく。

 俺は、はじめてクーナの変質魔力を吸収した日から、毎日、変質魔力の吸収をしていた。

 おかげでクーナの体内にあった変質魔力はほとんどなくなったが、当然、俺の体内に吸収した変質魔力の量は大幅に増え、その変質魔力が今も暴れている。……それは常人ならとっくに、発狂するか壊れるほどの量だ。


「苦しくないって言ったら嘘になるけど、だいぶ変質魔力の解析が進んで手懐け方も分かってきたし、俺の体も適応してきている。今が山場だ。ここを乗り越えれば楽になる。クーナにも力の使い方を教えてやれるさ。それにね。俺には俺の考えがあって大量の変質魔力を抱え込んでいるんだ。クーナが自分を責める必要はない」


 毎日魔力を吸収したのは、クーナを楽にしてやりたい気持ちよりも、可能なかぎり多くの変質魔力を多く体内に宿しておきたかったというのが大きい。


 どうもこの変質魔力は、増えれば増えるほど動きが活発になり解析がたやすくなるのだ。

 ……それに、変質魔力を抱えてから、俺の魔力の最大容量と常時生産量が増している。確実に強くなっている。


「強がりじゃないですよね?」

「当然だ。むしろ、俺はこの変質魔力で強くなった。クーナに感謝しないといけないぐらいだ」


 俺が強くなれた理由は二つある。

 ひとつ目は、変質魔力が体内で暴れることにより、魔力回路と肉体が破壊され、復元する際にホムンクルス故の適応力で壊される前よりも強い状態で復元していること。

 もうひとつは、変質魔力自体が宿主を強くする効果があること。本来、この変質魔力は、とある因子を活性化させることにより存在を塗る変えるためのものだが、その前段階として、宿主をその力に耐えられるように強化する効果がある。


「また、悪い顔をしてます。……でも、その顔ができるってことは安心できますね」


 クーナがほっと、息を吐いて俺から離れる。少し名残惜しい。

 

「だから、言ってるだろう大丈夫だって」


 変質魔力を抱えたことによって強くなっているのは嬉しい誤算だった。

 一次的な変身能力を得ることは期待していたが、基本スペックそのものを引き上げられるのは想定外だ。

 それも、【格】の上昇ではない。いわゆる素質そのものの引き上げ。こんなことはめったに経験できるものではない。

 おそらく、クーナも無自覚だが俺と同じように変質魔力により、強くなっている。

 惜しむとすれば、これはクーナ並に才能をもった火狐か、最高の適応力をもったホムンクルスでもなければ、強くなる前に肉体が崩壊することだ。アンネには使えない。


「さすがはソージくんです。この調子なら、この前言っていた、変質魔力を消費する専用の魔術もあっという間にできちゃいそうです。そしたら、もう悩まなくて済みます」

「残念ながら、そっちは時間がかかりそうだ」


 俺は奥歯を噛みしめる。

 肝心の変質魔力を消費しての変身する魔術の解析は行き詰まっている。

 特定の因子を活性化させるというプロセスがわかったが、俺の体にその因子は存在しない。変質魔力の動きから因子の性質を逆算し、擬似因子の構築を試みているが、あまりの難易度にうまくいかない。ここさえクリアできれば、どうとでもなるのに。


「では、そろそろ本題に入ろう。今日の探索についてだ。地下九階を目指す」


 今までは地下七階までが最高だった。かつて、地下七階ではゴブリンたちの罠にかかって苦しい戦いを経験したことがある。

 地下八階以降はさらに難易度があがり、地下九階が森のエリアの最後になる。

 地下十階以降は火山エリアだ。そこはまだ行くつもりがない。


「ようやくここまで来たわね」

「はい、地下九階で狩りができるのが一流の探索者って言われていますからね」


 二人の言うとおり地下九階で狩りができるのは一種のステータスだ。

 地下九階に出現する魔物のほとんどはランク1最上位。極稀にランク2下位の魔物も出現する。地下九階で狩りができるのはランク2のフルメンバーでもないと厳しい。

 ランク2のパーティはここで腕を磨き、何年もかけてランク3に至ってから、火山エリアに挑むのが探索者の常識だ。

 ランク3になれるのはほんの一握り、故に地下九階で狩りができることが一流の条件とされている。


「俺たちなら、油断さえしなければ問題ないだろう」


 それは、おごりではなく、純粋な戦力分析。

 俺はもちろん、体調が回復したクーナも、クヴァル・ベステの力を解放できるアンネも、ただのランク2を超える力を持っている。


 今の俺達なら、あのティラノが出ても問題なく対処ができるだろう。

 地下九階で問題なく狩りが出来るようであれば、早々に地下十階に挑むのもいいかもしれない。


「ねえ、ソージ。地下九階を目指すこと自体は悪いことだと思わない。だけど、クーナもソージも万全じゃない状態で無理に狩りに行くのはやめたほうがいいわ。今週は見送るのも選択肢の一つよ。行くにしても、安全のために慣れた階層で狩りをするべきだと私は思う」


 アンネの言葉は正しい。

 ときには休み、次に備えることも立派な戦略だ。

 だが、それでは駄目なのだ。


「今は状況が差し迫っている。少しでも【格】をあげないといけないんだ。変質魔力を解析するのに、今の俺では基本スペックが足りない。それに、変質魔力を抑えこむのにも、それを利用した魔術を使用するのにも、【格】をあげる必要がある」


 完全に解析が完了していない今でもそれぐらいはわかる。

 危険を冒してでも、高位の魔石が必要だ。


「わかったわ。それなら行くしかないわね」

「理解してくれて助かる」

「でも、ソージくん。地下九階は遠いですよ。時間は大丈夫ですか? 地下四階に行くときもだいぶ時間がかかったじゃないですか。九階なんて、たどり着くだけで2日ぐらいかかっちゃいそうです」


 たしかに、今までの俺たちのままなら地下九階に行くだけで2日はかかっただろう。


「いい指摘だな。確かに地下四階に行くときにも半日かかった。”あのときのままなら”、地下九階だともっとかかるだろう。なにせ、距離が伸びるだけじゃなくて、階ごとの難度もあがるから」


 俺の言葉を聞いて、クーナとアンネも驚く。

 それはそうだろう。四日で戻ってこないと、授業に間に合わない。たどりついてすぐに戻ってくるぐらいなら、もう少し浅い階層で狩りをしたほうがましだ。


「ソージ、それ大丈夫なの? 食料と水はソージの【浄化】があるから大丈夫だとは思うけど、授業に間に合うかが心配だわ。王都に行ったときに、だいぶ休んだから出席日数がぎりぎりで、これ以上休めないし」

「大丈夫だよ。探索を開始すればすぐにわかる」


 クーナとアンネが首をかしげている。

 だが、探索が始まればすぐに俺の言っている意味がわかるだろう。

 思えば、全員がランク2になってからの狩りは初めてだ。まだ、彼女たちにはランク2になったということがどういうことかわかっていない。


「ソージがそういうなら、きっとなんとかなるとは思うけど、釈然としないわね」

「こういうふうにもったいぶるのはソージくんの悪いくせです」


 二人のジト目を見て、俺は苦笑する。


「いじわるをしているわけじゃない。体感しないとわからない感覚だからね。それより、今から地下九階までに出現してくる魔物の情報と、各階ごとに仕掛けられている罠を叩き込む。……だが、この情報に頼り過ぎるなよ。絶えず迷宮は変化している。罠も、魔物も今までよりも、凶悪かつ、狡猾だ。ゴブリンやスロックチンパが可愛く見える連中がごろごろいるぞ」


 スロックチンパとゴブリンの名前を出した瞬間二人が嫌そうな顔を浮かべた。

 あいつらとの戦いで苦戦した記憶が蘇ってきたのだろう。

 実際、階層が深くなればなるほど、単純な強さはもとより、厄介な特性をもった魔物が増える。そこは避けては通れない。


 三十分かけて、俺は二人に、地下九階までの探索に必要な情報を教えた。


「さて、行こうか。これ以上、ここで話していても時間の無駄だ。今回もがっつり稼ごう」


 そうして俺たちは封印都市エリンに戻ってから最初の狩りにでかけた。

皆様のおかげで、昨日無事一巻が発売されました

ありがとうございます!

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