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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第三章:クーナの焔《ほのお》
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第十七話:変質魔力

「ソージくん、おはようございます」


 目を覚ますと、隣に全裸のクーナが居た、窓から入り込む朝日がクーナの顔を照らしている。

 彼女ははにかみながら、俺の顔を見つめていた。

 そんなクーナを見て、幸せな気持ちになる。


「おはよう、クーナ。よく、眠れたか?」

「はい、久しぶりにぐっすり眠れました。体の中で変な力が暴れていたせいで、今まで寝付きが悪かったんです。……全部、ソージくんのおかげ。ありがとうございます」

「それは良かった。だけど、男と裸で眠って、安心するなんて、危機感が足りないんじゃないか」


 俺は茶化すように言う。

 クーナは、はにかんだまま口を開いた。


「ソージくんを信頼していますから。だいたい、ソージくんがそのつもりだったらとっくにそうなっています」

「それもそうだ」

「不思議と、ソージくんに抱きしめられると、ほっとするんです。安心して、ぽかぽかな気持ちになるんですよね。どうしてでしょう?」


 クーナの何気ない言葉にどきりとする。

 

「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、男としては、微妙な気持ちになるよ」


 クーナは微笑し、体を起こす。そして、腕で胸を隠した。

 仕草の一つ一つが艶めかしい。


「ソージくんよりもちょっと早く起きて、寝顔を見ていたんですが、寝顔は可愛いんですね」


 妙にお姉さんぶるクーナ。

 ほう、俺をからかうとはいい度胸だ。今度、狼を怒らせた子ぎつねがどうなるかを思い知ってもらおう。


「……それと、ソージくん」

「なんだ、クーナ」

「服を、着たいので、すこし、目を逸らしていてください」

「このままじゃダメか? 是非、クーナが服を着るところを見ておきたいんだ。裸で抱き合ったんだ。今更、服を着ることぐらいで恥ずかしがることはないだろう」


 すると、クーナは顔を赤くして頬を膨らます。


「それと、これとは違います! もう、ちょっと見なおしたと思ったら、やっぱり、ソージくんは、ソージくんです!」


 ぼかぼかと、じゃれるように軽くクーナは俺の胸を叩いた。

 そんなクーナをひとしきりからかったあと、俺はクーナの要望に応えて目を逸らす。

 すると、警戒した顔でこちらを一瞥したあと、クーナは服を着はじめた。


「それじゃ、ソージくん。また後で」

「体には気をつけるんだ」

「ソージくんこそ」


 そう言い残して着衣を整えたクーナは部屋を去っていった。

 

「うん、脱衣もエロいが着衣もエロい」


 クーナは未だ、俺が光を屈折することで顔をそらしていてもばっちりクーナを視界に収められることを知らない。

 しばらくは、こうして楽しませてもらおう。

 

 ◇


 クーナがいなくなってから、俺は自分の体を抱きしめる。

 本当に危なかった。


「くっ……、なんとか、クーナが出て行くまで、平静を装えたな」


 体が震える。へんな汗が出る。俺の中でクーナから吸収した魔力が暴れていた。


「もう少し、落ち着いたらどうだ。長い付き合いになるんだ」


 俺は一晩眠ったことで回復した魔力で、クーナの変質した魔力を押さえつける。

 にしても、やっかいな魔力だ。この魔力は体に根を張り、しがみつく。吸いとった魔力を吐き出すだけでも相当の魔力を使うだろう。


 それでも、俺なら少しずつだが、吐き出すことは可能だ。

 ……だが、それはあまりにも複雑な術式の魔術が必要で、クーナには不可能だ。


 クーナの体から定期的に、吸収し、俺があとで排出すれば、病状は改善できるが、そんなものはその場しのぎにすぎない。


 だからこそ、変質魔力を吐き出さず、俺は自らの体の中で解析しているのだ。

 変質魔力を吐き出すのではなく、変質魔力の運用方法の試行錯誤に魔力を使う。

 そして、正解が見つかれば、その方法を改良、簡略化して、クーナに制御させる。そうでないと意味が無い。


「ようやく見えてきた。これは、回帰だ。クーナの魂に刻まれた、何かになるための、変質魔力……いや、ここまでくれば魔術だ。だから練り上げ、密度をまし、巡り、連なっている」


 昨日から、ずっと俺はこの魔力に抗いながら解析を続けている。眠りながらも意識の一部で解析を続けていた。

 だからこそ、ある程度の目星はついていた。


「クーナはいったい何になろうとしている?」


 俺はつぶやく。

 考えを巡らせると、一つの心当たりがあった。

 かつて、ゲーム時代のクーナよりも、今のクーナのほうが、火の魔術の扱いがうまかったので、火のマナの扱いが不調になったことがあったか聞いたのだ。

 その時の会話を思い出す。


『小さいころ、高熱で倒れて3日ぐらい意識を失って。起きたら、火のマナをまともに扱えなくなりました。あのときは、本当に辛かったです。金色の火狐なのに、火の魔術が下手になって、なんていうか、私が私じゃなくなった気がしました。でも、ちょっとずつ回復してきて三年かけて元に戻りましたけど』

『高熱?』

『そうです。でも、落ち込んでいる時に兄様がひどいことを言うんです。クーナは覚えてないけど、尻尾が九本になったクーナが大暴れして大変だったって。私が父様を殺しかけたって大嘘ついて! あのときは、無神経な兄様に大っ嫌いって言っちゃいました。すっごく落ち込んでたけど、いい気味です』


 もし、クーナの兄の話が、本当だとしたら? 


「クーナは先祖返りなのか?」


 ごく一部の種族は、その種族のもつ力を極限まで引き出した姿をとることある。

 例えば、エルフは上位種として、ハイ・エルフという存在がある。

 エルシエの長のシリルは、普通のエルフとして生まれながら、ハイ・エルフに変質した。

 それと同じではないか?


 そして、変質には二種類ある。

 一つは、シリルのように一度変質すれば二度と戻らないパターン。

 そして、俺の【紋章外装】のように一時的な変化で、効果が切れれば戻るパターン。

 クーナの過去の話を聞く限り、後者だろう。


 一時的に、尻尾が九本に増える等の外見的な変化が起こり、シリルを圧倒する力を手に入れる。


「ランク6のシリルを圧倒する力か、興味があるな」


 俺はにやりと笑う。

 クーナを治療するのが再優先だが、それと同時にこの力を手に入れたいと思った。……そして、それは可能だという手応えがある。

 それは俺の純粋な好奇心。

 こんな、魔術を見て、反応しないのは魔術師失格だ。

 俺は痛みに耐えながら、徹底的に解析を続けた。

 成功すれば、クーナと俺は、圧倒的な力を手に入れるだろう。


 ◇


 学園の午前のカリキュラムが終わる。今日の予定は午前中が座学で、午後が実技だ。

 休憩時間に入るなり、クーナとアンネが俺のほうに来た。


「ソージ、体調でも悪いの? 授業に全然集中できていなかったわ」

「もしかして、昨日、私のためにがんばってくれたせいですか?」


 ふたりとも、心配そうな表情を浮かべている。

 俺は苦笑する。


「違うよ。クーナの変質魔力の解析を行っていたんだ。その片手間で授業を受けていたせいだ」


 俺はある程度の並列思考が可能だ。

 通常時は、授業をメインにし、バッファを使って地下迷宮の探索計画や魔術の開発を行っているが、状況が差し迫っているので、異常魔力の解析を主にし、バッファで授業をこなしていた。


「……それなら仕方ないわ」

「怒らないのか」

「クーナのためなら。責められない。むしろ、がんばってほしいわ」


 アンネの声援は力になる。


「もちろん、頑張るよ」

「ソージくん、ごめんなさい」

「何を謝るんだ。俺は、クーナのために頑張れることが嬉しい。それにな。クーナの変質魔力。これは、新たな可能性だ。この力を使えば、もう一歩先に行ける気がする。正直、俺はこれ以上、魔術面での技術向上はないと思っていたが、これはまったく新しい概念だ。魔術師としての血が騒ぐよ」


 この変質魔力を利用することで強くなれると、感じた手応えは確信に変わりつつある。クーナを救って、俺もまた強くなる。

 幾つかの仮説。運用法の素案は出来た。

 通常の人間の体では無理だが、クーナはもちろん、極上のホムンクルスの俺の体なら、改良を加えれば、使いこなせるはずだ。


「どうした、クーナ、ぽかんって顔をして」

「いえ、ただ私の治療を考えるだけじゃなくて、きっちり利用しようとするところはソージくんらしいって思って」

「当然だ。最強を目指すなら、必要な心構えだよ。利用できるものはなんでも利用する」


 ありとあらゆるものを貪欲に吸収する。

 それこそが強くなるために最も大事なことだ。

 俺は何一つ無駄にはしない。


「俺の心配より二人は午後の実技の準備をしたほうがいい」


 二人には、今は俺の心配よりも学業を優先してほしい。ここで得られるものは、きちんとあるのだ。


「わかったわ。でも、ソージ、私にできることがあったら、なんでも言って」

「はい、私も出来ることならなんでもしますから!」

 

 二人がそう言ってくれるのは心強い。

 だが、美少女がなんでもするなんて気軽に言うのは感心しない。二人の無防備さは、嬉しくもあり、若干不安にもなる。


 俺は微笑みながら、午後の授業のカリキュラムを思い出していた。

 そう言えば、今日は月に一度のランク測定だ。

 俺達が全員ランク2だとすれば、クラスメイトたちは驚くだろう。

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