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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第三章:クーナの焔《ほのお》
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第十六話:クーナを抱きしめる夜

「クーナ、体は大丈夫か?」

「はい、今は……だいじょーぶです。でも、なんかふわふわして、へんな、気持ち」


 夜遅く、ようやく寮に辿り着いた。

 俺とクーナはすみやかに自室へと戻り、鍼治療の準備をして俺の部屋に集まっている。

 俺は針を錬成し、クーナは脱ぎやすい生地の薄い寝間着に着替えていた。


 クーナは大丈夫と言っているが、熱はさらに高まり、呂律が回っていない。急いで治療しなければ。


「すぐに治療する。クーナの体調不良の原因は過剰な魔力がクーナの中に淀んでいることだ。今回はその過剰な魔力を抜き、再発しないように魔力の循環を整える」

「……はい、ソージくん。に任せます」


 クーナは熱病に浮かされたようになっており、妙な色気がある。


「ねえ、ソージくん」


 そして俺にもたれかかってきた。

 クーナの柔らかさと暖かさに意識がもっていかれそうになる。


「体が……熱い」


 クーナはそう言って、俺をいきなり、ベッドに押し倒した。クーナが俺の上に馬乗りになって見下ろしてくる。

 とろんとした妖艶な瞳。それでいてまるで捕食者のような凄みがあった。


「ソージくんが欲しい」


 潤んだ目。上気した頬。

 甘い甘い匂い。

 クーナの八重歯がいつもより鋭くなっているが気がする。

 クーナの顔がゆっくり近づいてくる。

 唇を貪ろうとするように。


「美味しそう」


 クーナとの距離がゼロになろうかとしていた。


「いたっ」


 しかし、クーナが額を押さえて、上体を起こす。

 唇が触れ合う寸前に俺がデコピンをしたせいだ。


「なっ、何するんですか、ソージくん!」


 そこに居たのはいつものクーナだ。

 妙な色気も消えていた。


「クーナがとち狂ったことをしようとするからだ。男を押し倒して、無理やり唇を奪うなんて痴女か?」

「痴女ってなんですか!」

「見たまんまだ。だいたい今も俺の上に馬乗りして、シリルさんが見たら泣くぞ?」

「へっ!? きゃっ、私、なんで、こんな」


 クーナが慌てて俺の上から飛び降り、ベッドの上で女の子座りになる。

 よほど恥ずかしいのか太ももをぴったりとつけて、顔を真っ赤にしていた。


「クーナ、ちょっと顔を見せて」

「ソージくん、いきなり何を!?」

「真面目な話だ。今すぐ、見せろ」


 俺の有無を言わせない様子で、クーナの顎を持ち上げ、じっくりと唇を視る。

 ……やはりか。

 魔術の残滓がある。先ほど俺の唇を奪おうとしたときに魔力の匂いがした。

 術式は、魔力吸収。


 おそらく、あのときのクーナは魔力をもっとも奪いやすい、粘膜同士を接触させた状態で、俺の魔力を奪おうとした。

 体に過剰な魔力を抱えて、苦しんでいる中で、さらに魔力を求めるなんて自殺行為にも関わらず。


「クーナ、今の状況だけを伝える。唇に魔力吸収の術式の残骸がある。クーナは俺を押し倒して、唇の粘膜接触を通し、俺から魔力を奪おうとした」


 俺の言葉を聞いて、クーナが顔を真っ青にする。


「私、そんなこと、しようとなんて」

「だろうな。クーナが自分の意志でそうしようとしたとはとても思えない」


 俺はクーナを慰める。

 クーナのことはよく知っている。クーナがこんなことができるはずがない。


「私、私……」

「自分を責める必要はない。おそらく、クーナの体に溜まった魔力の影響だ。昼の感触で変だとは思っていた。ただの魔力じゃなく、練られて変質した魔力だ。あれはもう、魔術と言っていい状態。だから、クーナがおかしくなっても不思議じゃない」

「……そんなことになっていたんですね。でも、その魔力を除去できれば」

「いつものクーナに戻れるはずだ」


 俺はそう断言する。

 今回は俺で良かったが、もし他の男の前で我を忘れていたらと思うとぞっとする。


「急いで、魔力を取り除こう」

「はい! 私も、今の自分が怖いです。はやく、治したいです」


 クーナが自分の体をぎゅっと抱きしめて、不安そうな顔をする。

 そして、顔を上げて俺の顔をみつめてきた。


「……ソージくん、一つ教えてください。どうして、私の唇を拒んだんですか? 私のこと、いつも好きって言ってるじゃないですか。ラッキーだと思ってキスしたり、その、その先ができるとか考えなかったんですか?」


 俺は笑顔を浮かべて、軽いげんこつを振る舞う。


「痛い!?」

「クーナがバカなことを言うからだ」

「私はおかしなことは言ってません。本当は、ソージくん、私のこと好きじゃなかったって思って……」


 クーナが涙目になって文句を言ってくる。

 俺は、軽いため息を吐いた。

 そんな心配は必要ないというのに。


「俺はクーナとキスしたいよ。その先だってもちろんしたい。受け入れたかった。だけどさ、俺はクーナと添い遂げたい。死ぬまで一緒に居るんだ。正気を失ったクーナと勢いでキスなんてしたら、キスする度に、最初のキスが、そんなんだったって思いだして後悔する。これから、何万回もキスするつもりなんだ。そんなのは嫌だよ」


 俺が、そう言うとクーナは口に手を当ててクスクスと笑った。


「いったい、なんですか。その理由」

「はじめてのキスはいい思い出にしたい。それこそ、思い出すたびに幸せになれるような。極めて、当然の願望だと思うが」

「やっぱり、ソージくんは変です。でも、ソージくんらしい」

「惚れたかな?」

「それは、秘密です」


 クーナが口元に指を当ててそういった。

 相変わらずクーナは可愛い。


「予定は狂ったが、さっそくやろうか」

「はい、ソージくん」


 クーナが、薄い寝間着を脱いで裸になる。何度か、魔力回路の治療の際にこうしたが、いつも以上にリラックスした状態だ。


 そしてベッドに横たわった。

 恥ずかしがるのはいつもと変わらないが、どこか俺への信頼が見て取れる。


「クーナ、綺麗だよ」

「そういうことをいちいち、口にしないでください」


 クーナは顔をそらす。

 クーナの体はエロい。

 胸はD~Eくらいの程よい大きさ。適度に肉がつき女性的な魅力に満ちている。


 それでいて、しまるところはしまっているのだ。

 おしりは安産型で、いい子供を産んでくれそうだ。

 そんなエロい体つきでありながら、大事なところはまったく毛が生えていない。そのアンバランスさが、またエロい。

 俺は慣れた様子で次々に針を刺していく。


 何度も繰り返して来たので点穴の位置はわかる。

 しっかりとクーナの内腿や、胸の感触を楽しむ。針を刺すのに必要な工程だ。しっかりと脚を開かないと針が曲がって刺さるし、胸を持ちあげないと針がさせない。

 持ち上げたクーナの胸はずっしりとした重みが返ってくる。


「ソージくん、手つきが、えっちです」

「気のせいだよ。俺は無駄な工程は一つも挟んでない」


 欲張らずに、必要最低限に。

 それが、彼女の体を触る最低限の礼儀だ。


「ひゃぅ、やっぱり、変な感じがします」


 点穴を刺激され、魔力と体細胞が活性化する。クーナの体が熱を帯びる。

 それは、さきほどまでとは違う、健康的な熱さ。


「体が敏感になって、ソージくんの手の感触がすごく、残って」


 こうなると、クーナの感度は跳ね上がる。

 俺が触るたびに、身をよじって、息を荒くする。

 綺麗な桜色の乳首がぴんと立って、むしゃぶりつきたくなるのを我慢する。


「これで一通り、針は打ち終わった。魔力回路を整える」


 俺は針を起点にして、まずは自分の魔力を流す。

 魔力回路の状態を確認する。


「ひゃぅぅ、私の中をソージくんのが、暴れて、変な気分に」


 クーナが熱い吐息をもらした。

 クーナはがんがんと俺の理性ゲージを削る。


「回路側には、異常がないか」


 やはり、魔力回路は至って健全。まったく問題ない。なら、魔力の過剰な蓄積の原因は、魔力の異常変質となる。

 ある意味当然だ。俺が時間をかけて、整えた魔力回路。

 そう簡単には異常を起こすことはない。

 魔力の痼ができる場合、九割方、魔術回路の問題だが、クーナは違う。


「クーナ、今度は魔力を強く流す。クーナの中で悪さをしている変質した魔力。そいつを針で作った出口に向かって、俺の魔力で押し流す」

「そっ、そーじくん、いきなり強くされたら、クーナ、とんじゃ」


 クーナが言い終わる前に、俺は強く魔力を流し込んだ。


「ひゃうっ、すごい、ソージくんが、暴れて、おかしくなっちゃいますぅ」


 クーナの背筋が弓なりにしなり、体がびくびくと震える。

 しかし……


「クーナの魔力が押し出せないだと?」


 そう、クーナの体の中で、変質した魔力は俺の魔力をすり抜ける。

 針から抜け出るのは流し込んだ俺の魔力だけ。


 昼のあれで、ある程度予測をしていたが、針治療でもどうしようもないのか。


「そっ、そーじくん、らめぇ、これ以上は、クーナ壊れちゃいますぅ」 


 考え事をしていたせいで、クーナに魔力を流しっぱなしだった。

 クーナがキツネ耳の先から、尻尾の先まで震えて、その後、ぐったりした。

 ……しまったやりすぎた。


「クーナ、ごめん。その、ここまでやったんだけど、まったくの無駄だった」


 クーナの意識が朦朧としているうちに、針を引き抜き、謝っておく。


「はぁ、はぁ、はぁ、そうなんれすか、これでもらめなんて」


 おかげで、怒られずに済んだ。

 だが、どうればいい。

 どうすればクーナを救ってやれる。

 俺は思考を巡らせる。


 そして、一つの解がでた。

 自然に押し出せないなら、無理やり吸収してしまう。ついさっき、魔術吸収の術式をクーナが見せてくれた。それを利用する。


「安心してくれ。他の方法で魔力を吸い出す」


 俺は目をつぶり、頭の中にさきほどのクーナの術式を再構成。

 メソッドに分割。さらにデータベースを検索し、切り分けた部材のうち、効率化できるものを選択。

 そして、部分的な改良を施す。

 その後、全体をコーティングし最適化。

 俺に合わせた。より優秀な魔力吸収の術式が完成する。


「少し試させてもらうよ」


 クーナの頬に手をあて、魔力を吸収する。

 クーナの変質した魔力だけを吸い出す。

 強い抵抗を感じるが、なんとか、変質した魔力を吸収することができた。


「これは」


 クーナの魔力を体に入れた瞬間、ずしんと重い感触がした。そして、体が熱くなる。


 これは、変質系の魔術。……詳しくは解析しないとわからないが、魔力自体が強い意志を持ち、俺を変えようとしていることだけは認識できた。

 こんなものにクーナは耐えていたのか。


「ソージくん、これ、気持ちいいです。少し、楽になりました」

「そうか、なら良かった」


 だが、あまりにも微々たる量しか吸収できない。

 効率が悪すぎる。このままでは、十分な変質魔力を吸収する前に、俺の魔力が枯渇する。


「クーナ、クーナの中の悪い魔力を吸収する魔術を起動しているのだが、皮膚接触なら効率が悪い。ろくに魔力を吸収する前に、俺の魔力のほうがつきる」


 今の現状を正直に伝える。

 クーナ自身が、吸収した魔力を認識し、その魔力を使うことで消費すれば問題ないが、ここまで変質した魔力。今のままじゃ扱えない。

 瘴気を纏う、【紋章外装】のような専用の魔術が必要だ。


 俺の場合は、クーナとは違い、自らの魔力で包み込み、実害がないようにはできるが、それも高等技術でクーナには難しい。


「ソージくん、無理はしないでいいですよ。ソージくんのおかげで楽になりました。これで十分です」


 クーナはそう言って微笑むが、それは強がりだ。そんなクーナを見過ごせない。

 この程度では焼け石に水、効率を上げる方法が必要だ。


「……粘膜接触なら、効率は跳ね上がる」


 そう、だからこそ、クーナは俺を押し倒して唇から魔力を吸収しようとした。

 それがもっとも魔力の吸収に適している。

 ……もしくはセックスだ。


「それって、その、そういうことをするっていうことですか? ……私を助けるためですし、ソージくんが楽になるなら、……いいですよ」


 クーナは少し悲しげな表情をする。


「そうか、だが、それはやらない」

「へっ?」


 一転してマヌケな表情をするクーナ。


「さっきも言っただろ。ファーストキスも、初体験も、最高の思い出にしたい。二人が納得して、一生記念に残るような奴だ。こんな、仕方がないからやりました。病気の治療です。みたいなファーストキス。俺は絶対に認めない!」


 そう、世界で一番大好きなクーナとのキス。最高のキスでなければ俺が許せない。


「バカですかソージくん」

「俺はバカだよ。クーナのことになると特にね。……だから、別の方法を考えた。肌の接地面積を増やして無理やり効率をあげる。粘膜接触よりも皮膚は効率が落ちるが、全身で触れ合えば補える」

「それはつまり」

「裸で抱き合うということだ」

「なっ、なっ、なっ、そっちは、そっちで恥ずかしいですよ!」

「だが、粘膜接触が出来ない以上、それしかないんだ。正直悪いと思う。俺の無力を許して欲しい」


 俺は奥歯を噛み締め、悔しさをにじませながら言った。

 クーナは俺の表情を見て、それしかないと気づいたのだろう。


「……本当にないなら、いいです。でも、勘違いしないでくださいね。ソージくんだから許すんです。誰にでもじゃないです。治療だったとしても、他の人なら嫌です」

「うん、嬉しい。良かった。なんとしても俺はクーナを助けたい」

「そんなに私の事心配してくれてたんですね」

「うん、それにね。俺の魔力を吸おうとしたようなことを他の男にすることが絶対に許せない。きっちりとこの場で治したい」


 俺は服を脱ぐ、すると、クーナは微笑んで俺の首の後ろに手を回して自分の方に抱き寄せる。

 クーナの素肌と俺の素肌がぴったりとくっつく。


「私も、嫌です。正気を失って、好きじゃない人とキスなんて」

「許してくれてありがとう」

「お礼を言うのは私です。私のために頑張ってくれているんですから」


 初めて素肌で味わうクーナの肌。

 肌触りがよく、吸い付くような肌。お腹に、少しだけ固い感触がある。

 そして、心を許してくれたのか、クーナの尻尾が、俺の脚に擦り付けられている。いい肌触りだ。

 たまらなく、心地良い。


「いつか、絶対に根本的な解決をする。それまでは悪いが、状況を見ながら、定期的にこうしてもらう」

「ご迷惑をおかけします」

「迷惑なんかじゃない。こんな役得があるんだからな」


 クーナと裸で抱き合うなんて、最高だ。


「……ソージくん、確認ですけど、我慢できるんですか? エッチなソージくんが、こんな状況で」

「クーナが信頼してくれているんだ。俺は絶対にその信頼を裏切らない。それが俺のクーナへの愛だ」

「わかりました。信じます……でも、ソージくんなら。いえ、なんでもないです」


 その言葉の通りクーナは俺に抱きついたまま目をとじる。

 俺を信頼したからこそ、無防備なまま眠りについた。彼女も、限界だったんだろう。相当苦しんでいたはずだ。


「さあ、俺の魔力が持つ限り吸い尽くす」


 少しでも、接地面積をあげるために脚を絡める。

 そして、触れた肌から、クーナの変質した魔力を吸収する。

 

 どんどん、クーナから変質魔力が流れ込む。

 俺は変質魔力を抑えこみつつ、吸収した魔力を徹底的に解析していた。根本的な解決をするために。……俺が知りたかったのもある、いったいこの変質魔力は、何を目的としているのか? いったいクーナを何に変えようとしてるのか。

 俺の魔力が尽き、魔力の吸収がとまる。

 これだけ吸えば、クーナは大丈夫だろう。

 これ以上、抱き合っている理由はない。

 だけど、俺は、ただ、クーナを離したくなくて、クーナを抱きしめたまま眠りについた。

 

 


一巻発売まであと一週間!! 12/28発売だよ!!

エロ……可愛いクーナちゃんと、綺麗なアンネちゃんのイラストたっぷりだ!!



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