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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第三章:クーナの焔《ほのお》
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第十四話:最後の夜

 帯剣式が終わり、俺は一人宿に戻り帰り支度を整えていた。

 今一人なのは、アンネは挨拶回りがあるし、クーナはエルシエのみんなのところに行っているからだ。


 明日の朝一番に封印都市エリンに向けて出発するので、今日のうちに片付けを済ませて置きたい。いろいろと、エリンでは手に入らないものを買ったので、クーナやアンネよりも荷物が多く時間がかかる。先に一人で帰って来たのは正解かもしれない。

 俺は片付けに専念する。


「これで一段落ついたか」


 ほっと一息ついていると、ドアがノックされる。来客が来たようだ。

 俺は扉を開けた瞬間、身構える。


「どうして、あなたが?」


 扉を開けて顔を出したのはシリルだった。


「少し、話をしたくてね。渡さないといけないものもあるし」


 彼は腰に剣をぶら下げ、手には布で包まれた大きな塊を持っていた。


「わかった。立ち話もなんだ。中に入ってくださいお義父さん」

「では、遠慮なく。未来の息子よ」


 シリルは、俺の冗談を軽く受け流す。

 そして、シリルを俺の部屋に招き入れた。


 ◇


「では、早速だが、これが約束のものだ。思ったより時間がかかってぎりぎりになりすまなかった」


 シリルが布に包まれた大きな塊を差し出してくる。

 ずっしりと重い。


「シリルさん、中を開いていいですか?」

「もう、お義父さんとは呼ばないのか?」

「さっきのは冗談ですよ。まだ、俺にはそう呼ぶ資格がない。いずれ、正式に夫婦になればそのときはお願いします」

「婚約したのに?」

「クーナが、認めていない。俺は彼女の気持ちを大切にしたい」

「変なところで、頑固だな。わかった。そのときを楽しみにしているよ。包みについては、ここできちんと確認してくれたほうがいいな」


 俺はその言葉に従い布を解く。

 すると、オリハルコンの塊があった。おおよそ、十キロほど。

 

「魔力を通してくれ。最高級のものを用意したが、ソージの魔力との相性を見ておきたい。俺なら多少は矯正できる」


 シリルの助言に従い、魔力を流す。

 俺は自然と頬が緩んだ。これはいい。魔力の循環も、性質変化の反応も極上。オリハルコンは、魔術の媒体として優れた存在だ。だが、ただのオリハルコンではこうはいかない。間違いなく、極上のオリハルコン。

 俺との相性もばっちりだ。


「さすがは”白金“のオリハルコン。最高です。これ以上の素材はこの世に存在しない。ありがとう、シリルさん、大事に使わせて頂きます」


 これで俺の武器の問題は解消された。

 クーナの剣もオリハルコンの一部を使えば造れるだろう。

 俺達が死力を尽くして倒したティラノ。その魔力の核となっていた逆鱗をコアにして、このオリハルコンを使えば、クーナの焔に耐えられる剣となる。


「そうしてくれると、嬉しいな。苦労して手配した甲斐があった。そして、これはおまけだ」


 シリルは腰にぶらされていた剣を投げてよこしてくる。

 俺はその剣を受け取り、鞘から引き抜く。


「これは……なんて、剣だ。クヴァル・ベステにも匹敵する。こんな剣が他にもあったのか」


 その剣は刀身が黒かった。光を吸収する漆黒。

 刀身には魔術文字が刻まれ、魔力の匂いがする。間違いなく何かしらの能力を持っている。


「それをソージに託そう。エルシエに祀られている、特別な十二本の魔剣……その内の一本だよ。遠い、遠い、【はるか昔の俺】が鍛えた剣だ」

「なぜ、これを?」

「俺の技術を教えると言っただろう? 俺はこの魔剣を目指して今の技術を手に入れた。だから、ソージの手本にもなる。もちろん、エルシエにクーナと共にくれば、直接技術を叩き込むが、それまでの予習に使って欲しい」


 シリルの言うことがいまいち理解できなかった。

 自分が鍛えた剣なのに、それを使って勉強した?

 まるで、意味がわからない。だが、シリルとはそういう男だ。常識の外に居る男を俺の常識で測っても仕方がない。


 それにしても……俺は生唾を飲む。

 一目見ただけでわかる。まったく知らない異質な技術で造られた剣。この剣を本気で研究すれば、新たな知識、技術がどれほど得られるだろうか?

 楽しみで仕方がない。


「ありがたく頂きます」

「喜んで貰えたら嬉しいよ。俺の用事は済んだ。そろそろ、おいとまするよ。……せっかく、エルシエ側の宿にクーナが遊びに来ているんだ。クーナが帰ってしまう前にもう少し話したい」


 シリルはそう言って踵を返そうとする。


「……一つだけ聞かせてくれ。どうして、婚約なんて手を使った。他にも方法があったはずだ」


 けして、あの場での婚約というのは軽い話じゃない。

 ましてや、クーナは小国とはいえ、姫だ。


「理由は二つ、一つ目は、あの子がすごくモテるから。昔からこういう場で歌を披露するたびに、縁談の誘いが百件以上来る。今回だって婚約発表までしたのに、何十件も縁談の話の打診が来てる。ソージを虫よけに使った。君もあんまりうかうかしていられないよ。いくら断っても、縁談の差し出し人はクーナに心酔して諦めないし、エルシエには親衛隊だって居る」


 あの美貌に、あの歌、それに圧倒的に魔術と科学技術が発展したエルシエの姫。たしかに、引く手あまただろう。


「ふたつ目は親心だ。あの子が本気で好きになった男は、ソージがはじめてだ。あの子はね、星の数ほど告白されて、全部断ってきた。そんなクーナが君には心を許している。応援してあげたいって思って当然だろう。婚約はあの子が一歩を踏み出すきっかけになる」


 俺は、吹き出しそうになった。

 そんな理由か。


「事情はわかりました」

「……俺もソージに聞きたいことがあった。ソージは、どうしてゲームの世界であの子が死ななければいけなかったのか覚えているか? どうして、クーナの父親である俺がクーナを狙う勢力に協力しないといけなかったのか?」


 そんなの決っている……それは……


「思い出せない?」


 俺は、記憶をいくら掘り返しても、まったく思いつかない。

 思い浮かぶのは、クーナのために、ゲーム時代に最強だったシリルに挑み、そして負けたことだけだ。

 おかしい、そもそもどうして俺はシリルに挑む必要があったんだ?


 最後にプレイしたとき、俺は王都の騎士団に言われたセリフを思い出す。


『こんなところに逃げ込んでいたのか!! この反逆者! たった一人の女のために貴様はこの世界を!!』


 そして、俺はこう返した。


『俺にとっては、世界がクーナだ』


 つまり、クーナは騎士団に世界のために狙われる立場にあったことになり、そんな彼らからクーナを守るために敵対していたことになる。

 なぜ、こうなったんだ?


「やはり、思い出せないか。……ソージ。頼む、クーナから目を離さないでくれ。俺ももっと具体的なアドバイスをしたいが、それはできない“契約”なんだ。まずいと思ったら、エルシエに来てくれ。可能な限りの手助けはする」

「そのときはお願いします……。だけど、俺達は大丈夫ですよ。今は、クーナとアンネの二人がそばにいる。【魔剣の尻尾】に越えられない障害なんて存在しない」


 俺はあのときとは違う。心から信じあえる仲間が居る。あの二人が一緒ならなんだってできるだろう。


「そうか、安心した。頑張れよ」


 意味ありげなことを言って、シリルは去っていった。

 俺はなぜか、最近クーナが少し体調を崩していることを思い出していた。


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