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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第三章:クーナの焔《ほのお》
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第二話:オークレールの真相

「本当にこの道で大丈夫か」

「はい大丈夫、大丈夫、わたーしをしんじてー」

「まったく信じられないんだが!?」


 じいが鼻歌交じりに俺を先導してるのは、下水道だ。

 かなり匂いがきつい。

 この王都には上水道と下水道が用意されている。おそらくこんなものがあるのは、この王都と封印都市エリンぐらいだろう。


「ここはなんだ」

「王族に伝わる秘密の通路ですよ。城が落ちそうになったらここを通って逃げます。ちなみに最重要機密なんで、この道を知っているだけで首吊に」

「そんなところを歩かせるな! 目隠しぐらいさせろ!」


 通りで不必要に右に左に曲がりまくっていると思った。

 そういう用途なら、複雑にするのも頷ける。


「まあまあ、大丈夫、大丈夫、さっきから認識阻害をかけてますからね。ソージはこの道を覚えられない。ほら、十分前に角を曲がったけど、右に曲がったかな? 左かな?」

「そんなの……思い、出せない?」


 道を曲がったことは覚えているのに、右か左かを思い出せない。

 記憶力には自信がある。さらに、いざというときのことを考え、道を覚えようとしていたにもかかわらずだ。


「ね、大丈夫でしょ?」


 言われて調べて、はじめて俺に精神干渉系の魔術をかけられていることに気づいた。

 普段からこういう系統の魔術は警戒している。

 それなのに、俺に気付かれずに魔術をかける。そんなことが可能な目の前のじいという女性の実力に薄ら寒いものを感じる。


「別の意味で、大丈夫だとは思えなくなったけどな」


 目の前のじいはランク1。そして俺はランク2にランクが上昇しえている、いざというときは、実力行使が出来ると思っていた。

 だが、ここまで見事な魔術の腕を持っていれば話が変わる。

 これは、クーナが抵抗するだけ無駄と言うわけだ。


「そんなに警戒して。……まっ、心配する必要はないですよ。純粋な戦闘では、君のほうが強い。私は、私の誓約で強さを捨てました。だからランク1だし、生涯ランクを上げるつもりはありません」


 じいは、懐かしむような顔でそう言う。きっと、彼女なりに何かあったのだろう。


「そして、着いちゃいました。ほら、この上ですよっと」


 いつの間にか天井が低い所まで来た。手を伸ばせば天井に届きそうだ。

 じいは胸ポケットから鍵を取り出し、天井にある扉の鍵穴に差し込みくるりと回すと天井が開いた。


 まず、じいがよじ登り、あとに続く。

 そこは殺風景な部屋だった。

 実用性一片等の服やカバン、多数の保存食、それに換金性の高い宝石などが置かれていた。


 なるほど、逃げる際の支度としては上々だ。

 そして、その扉をあげると、多少はマシな部屋に出た。

 そこには俺を呼び出した張本人である王が居た。


「陛下、ソージ様をお連れしました。私は扉の外で見張りをさせていただきます」

「うん、お疲れ様。フレデリカ。話が終わったら呼ぶよ」

「かしこまりました」


 じいが扉を開き出て行く。

 俺は、王を睨みつける。


「陛下、どうしてわざわざ密会なんて? こんな隠し通路を使って、人に知られないようにしてまで」

「まあ、まあ、まずは座って。良いお茶を用意したんだ」


 王に勧められるがままに、椅子に座る。

 そして、彼が淹れた紅茶を飲んだ。

 いい茶葉だ。この世界にこれ以上の紅茶はないだろう。淹れ方もいい。


「気に入ってくれたかな」

「はい、この紅茶は素晴らしい物です」

「これは手厳しい」


 王は苦笑し、紅茶をすする。

 それからお茶うけように出されたメープルクッキーなどを摘み、一呼吸置いてから、王が口を開いた。


「あの場では、きちんと言えなかったから改めて言わせてもらう。アンネを守り、導いてくれてありがとう。君のおかげでアンネはクヴァル・ベステを手放さずに済んだ。……君が居なければ友との約束を破ることになっていたかもしれない」


 王は、頭を下げしっかりと感謝の気持ちを告げた。


「……感謝の気持ちは既に受け取ったはずですが」

「そうだったね。でも、きちんと頭を下げたかったんだよ。そして、今日呼んだのは他でもない。君にアンネの父親……リカード…オークレールの罪、その真相を話したかった。君には知っておいてほしい」

「真相を私に話してどうするつもりですか? 私に真相を暴いて欲しいとでも」

「どうもしないさ。ただアンネが誰よりも信頼している君には、本当のことを知っておいてほしかった。一番近くに居る君が、アンネを信じてあげたら、それだけでもアンネは救われるだろう。ただ、それだけだ。それぐらいしか、今の僕には、アンネにしてやれない」


 俺は天を見上げて、大きく息を吸う。


「まったく、あなたは情けない大人だ」

「そのとおりだよ」


 俺は黙って真相を聞くことにした。

 とは言っても、ゲーム世界での経験でたいていのことは知っている。


「……アンネロッタの父親、リカード・オークレールは表向き、部下を引き連れ国家機密を手土産に隣国のエルシュタット共和国に亡命しようとしたところを、我が息子、アロイス王子が率いる軍勢が食い止めたことになっている。そして、その戦いで、アロイスは戦死した。……世間一般では、息子の命をかけた戦いによって、国家機密は守られ、我が国は救われたことになっている」

「王家の剣の指南役を代々勤め、軍神とまで讃えられていた、リカード・オークレールの突然の裏切り……この国に居るものなら誰もが知っている話です」


 コリーネ王国は多数の技術を独占している。その多くは、王族であるアスール・コリーネが、技術と武力が異常に発達した小国であるエルシエとの取引で得たものだ。その技術によって他国に差をつけている。


 リカードの立場で得られる軍事機密の数と質は凄まじい物があるだろう。それを売り渡すことは、他国とのパワーバランスが崩れることに繋がる。到底許されることではない。


 ましてや、それを行ったのが、軍神としていくつもの大きな功績を残し、コリーネを守っていたはずのリカード・オークレール。愛し、尊敬していた故に、民衆は彼の裏切りを許せなかった。


「だが、真実は違うのだ」

「……逆なんでしょう? あなたの息子が国を裏切って、国家機密を持ちだして亡命しようとした。リカード・オークレールがそれを止めた。生かして捕らえるつもりが、抵抗が激しく、リカード・オークレールは、王子を殺してしまった」

「どうしてそれを?」


 王が、驚いた顔で俺を見つめてくる。


「ただの推理です。この件は不自然な点が多すぎる。そう考えるのが一番シンプルだ。だいたい、言っては悪いですが陛下の息子は相当評判が悪いし、リカード・オークレールの人徳の高さは有名です。アロイス王子は、どこかの女に誑かされて、あさはかな行動に出たのでしょう」

「……まったく、そのとおりだよ。私の息子は、たかが女のために国を売ろうとした。もしかすれば、優秀すぎる妹と比べられ、劣等感がたまり、この国から逃げ出したかったのかもしれぬ」


 ゲーム時代。この真相は突き止めよう調査したことがある。そのときはさほど苦労せずに真相に辿り着いた。

 なにせ、真相を知っている人間が多すぎる。当時のリカード・オークレールの部下の中には彼を慕っている人が非常に多い。

 彼の覚悟に報いるために口を閉ざしているが、少しつつけば、涙を流しながら真相を語ってくれた。


「ソージくん、君の推理したとおりだ。あれは最悪の事件だった。我が息子の暴走。それに加え、この国の法律ではいかなる理由があろうと、王家のものを傷つけたなら死をもって償わねばならん。息子を止め、国を救ってくれた軍神……リカード・オークレールを殺せねばならなかった。そして、この国は王国なのだ。王子が国を売り渡したとすれば、王の権威が失墜する。軍神を失い、王の権威が失墜すれば、この国は立ち行かぬ」


 王は、苦渋に満ちた表情で強く両手を握りしめる。

 手が真っ白になっていた。


「あのとき、誰もが、どうすればいいかと、頭を抱えた。そんななか、リカードが言ったのだ。罪は自分が被る。王子を英雄として祭り上げよう。リカードは自分が国を売り渡したことにして、王子が命を賭けてこの国を守ったことにすれば、王家の威信は守られる。オークレールの家名は地に落ちるが、もとより、王子を殺した自分は死ぬ運命だから構わないと……そう言ったのだ」


 それがすべての真相だ。

 国を愛したリカード・オークレールは、この国のために犠牲になることを選んだ。

 そのことは、家族にすら言っていない。だから、アンネはこの真相を知らない。


「そのおかげで、王子は英雄になり、王家の威信はむしろ増した。国は安定したよ。だが、そのせいで、リカードは全てを失った。私は、あの男を兄だと慕っていたよ。守ってやりたかった。だが、そうするしかこの国を守る方法が思いつかなかった」


 王の言葉には、自責と後悔があった。


「……勝手な話だ。陛下も、リカード・オークレールも。あんたらはそれでいいかもしれない。だが、残されたものはどうなる。アンネの母親は苦しみに耐え切れずに自殺した。そしてアンネだって、俺と出会わなければ間違いなく死んでいたよ。アンネのことを娘のように思っていると言ったが信じられない。あんたは自分の息子の名誉のために、アンネを殺そうとしたんだ」


 王の心情はわかる。それでも言わずにはいられなかった。

 気がつけば敬語をやめていた。

 俺は、この男の身勝手さが気に入らない。

 こうやって謝るしかしない、王に苛立つ。


「……そのことは否定出来ない。だが、私は王なのだ。多数の民のために、アンネを優先することは出来なかった」

「あなたの気持ちはわかった。これで満足か? それなら俺は帰るよ。時間の無駄だった。ただ胸糞悪くなっただけだ。だいたい、俺に懺悔してどうなる。謝罪の言葉はアンネにかけるべきだ」


 俺は席を立つ。

 一刻もはやくこの場を立ちたい。


「待って欲しい。アンネを支えてくれている君に最大限の便宜を図りたい。あの学校を卒業したあと、王都の騎士団に推薦してもいいし、ほしいのなら理由をつけて爵位をやろう。金が欲しいのなら欲しい額を言ってくれ」

「その返事は以前したはずだ。あんたの罪悪感を拭うのに俺を利用するな。謝罪の気持ちだけは受け取ると。だいたい、あんたにとって今言ったものは差し出すことは何の苦にもならない。あんたは何一つ痛みを負っていない。はっきりいって虫唾が走る」


 俺は相手が王だということも忘れて、本音をぶつける。


「だが、僕は」

「……もし、本気でアンネに贖罪したいなら、いずれあんたに、アンネのために、あんたの立場を揺るがすようなことを要求する。自分の身を犠牲にする覚悟があるなら、そのときに痛みを受けろ。それが本気の贖罪だ」

「君は随分と手厳しいな」

「俺が厳しい訳じゃない。ただの常識の話だ」

「あと、このことは……」

「わかっている。アンネには話さないよ」


 アンネにとって、真相を暴けば父親の無実を証明でき、名誉を取り戻せるということは希望ではある。そして、国の上層部は真相を知っていながら、あえて父親を罪人として処罰したということは絶望に他ならない。

 今はまだ早い。


「フレデリカ。ソージくんを連れてかえってやれ」

「かしこまりました。陛下」


 じいが現れ、俺を連れて部屋を出た。

 もしかしたら、アンネに真相を話さない俺もこの王と同罪なのかもしれない。 



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― 新着の感想 ―
[一言] この王は、償いとか報奨とか便宜とか言える段階にいない。 それを無視しているお話の流れに非常に大きな違和感を感じます。 王命によって少女は形見の剣に干渉された。 成長するための時間という本人…
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