第二十話:鍼《はり》治療
アンネの稽古を終えて、部屋に戻っていた。
俺の部屋にアンネとクーナが来ている。寝間着姿の二人は新鮮に感じる。二人共、緊張していて体が硬い。
「クーナ、緊張するわね」
「そうですねアンネ。今からソージくんに裸を見られると思うと、すっごく恥ずかしくなってきます」
二人は体を寄せあっている。
二人共、水浴びで体をしっかりと洗ったあとだ。どうせ、鍼治療の後は汗を大量にかくから、術後でいいと言ったのに乙女のたしなみと言って、俺の忠告を聞かなかった。
「どっちから、先にいく?」
俺の問いに二人がびくりと体を震わせる。
「……私がいくわ」
「アンネ!」
「クーナ、心配しないで。覚悟は決めたわ。それと、クーナ。私の番が終わるまで、部屋にもどっていてくれないかしら。クーナの前でソージに裸を見られるのは、恥ずかしい」
「……わかりました。もし、ソージくんがアンネの魅力に狂って野獣になったら叫んでください。すぐにかけつけますから」
「そのときはお願いするわね」
「はい、任せてください。ソージくん、アンネを任せます」
「うん、任されたよ。信用してくれ」
クーナが部屋を出て、アンネが俺のベッドのところまで来る。
「あの、ソージ」
おずおずと言った様子でアンネが声をかけてくる。
「どうした、アンネ?」
「私、今から服を脱ぐわ」
「そうだね」
「その、裸を見せる覚悟は決めたけど、服を脱ぐところを見せるのは恥かしいから後ろを向いていて」
「あ、ああ、その、気がきかなくてごめん」
俺は慌てて後ろを向く。俺まで緊張で声がかすれていた。
後ろで、布擦れの音がする。アンネが一枚一枚服を脱いでいるのだ。それだけなのに、妙に変な気持ちになる。
ぽすっと音がした。
アンネがベッドに横たわったのだろう。
「アンネ、そっちを見ていいか」
「ええ、構わないわ」
艶のあるアンネの声に引き寄せられるようにそちらを向くと、生まれた姿のままのアンネが居た。
右手で胸を、左手で股間を隠している。
顔は真っ赤で、目は潤んでいた。
「ソージ、私の体、変じゃない?」
「綺麗だよ。本当に綺麗だ」
「あっ、ありがとう」
シミひとつない真っ白な肌。折れそうなほど細い腰。胸は控えめだがきっちり主張している。
「アンネ。今から鍼治療をはじめるよ。怖ければ目を閉じていて」
「ううん、見てないほうが怖いわ」
「そうか、なら手は脇に置いて力を抜いて」
「このままじゃ、ダメ?」
「駄目だ」
「わっ、わかったわ」
アンネが胸を隠していた手を、両脇におく。
それによって、アンネの胸と秘部があらわになる。
白い胸にちょこんと乗った桜色の乳首、秘部はぴっちり閉じていて、銀色の産毛が生えていた。
理性がものすごい勢いで削られていくが必死に堪える。
「はじめよう」
「えっ、ええ」
まずはへその下を触る。アンネの体の震えが伝わってくる。
微細な魔力を流しながら点穴の位置を探す。
魔力で大まかな位置を掴んでから、霊視で点穴を完璧に捉える。
「アンネ、まず一つ目だ。全部で五箇所、点穴が存在する」
「ソージ、来て」
「うん、行くよ。はっ!」
針がずれないようにしっかりと、押し当てた手で皮膚を伸ばす。アンネの体温と鼓動が手を通じて来る。直径0.5mm、15cmほどの針をアンネのへその右下10cmぐらいのところに刺す。
「あれ、全然痛くないし、血も出ないわ」
「血管をさけているし、痛点が感知する前に針が通りすぎているからね……次行くよ」
俺は、アンネの肌に手を這わせながら、下へ下へと下がっていく。
右太ももを撫でる。膝の上ぐらいのところにある点穴に同じように針をさす。
アンネもだいぶ見られることになれたのか、少しずつ平静になってきた。
だが、ここからが本番だ。
「アンネ、脚を開いてくれ。できるだけ大きく」
「えっ、あっ、脚を開くの」
「うん、左脚の付け根の内側に三つ目の点穴があるから」
アンネの目に涙が滲む。気持ちはわかる。死ぬほど恥ずかしいだろう。
「わっ、わかったわ」
アンネが閉じていた脚を開く。脚を開いたせいで、ぴっちりと閉じたアンネの秘部まで開く。一瞬、そこに目を奪われてしまった。
ごくりと生唾を飲む。
俺はアンネの左内股に顔を近づけ必死に点穴を探す。点穴を探すのは魔力の探知と霊視が絡むので、顔をかなり近づけないと見えない。
見つけた。左手でアンネの左脚を抑え、左脚の付け根より8cm下にある点穴を内側から刺す。
「恥ずかしい思いをさせてごめん。角度的に脚を閉じると針が変な方向に刺さるから、このまましばらく脚を開いたまま我慢してくれ」
アンネがこの世の終わりのような顔をしつつも、首を縦に振る。
今度はへそから上をなぞる。そして、アンネの左胸の下にある点穴が対象だ。
アンネの胸を持ち上げて、点穴をつく。例によって刺す位置がずれないようにしっかりと手で押さえ皮膚を伸ばす。アンネの胸に俺の手が沈み込み、柔らかく押し返してくる。
胸に触れたとき、アンネが体を固くした
そして、最後に左胸の上にある点穴を刺して五箇所全ての点穴を針で突いた。
「アンネ、これで下準備は終わりだよ」
「そう、良かったわ。これ以上やられると恥ずかしさでおかしくなりそう」
「ここからは二十分ぐらい、強弱をつけて魔力を流すよ」
「ソージ、お願い。はやく終わらせて」
「うん、なるべくはやく終わらせるね」
頬を上気させて、涙目でお願いしてくるアンネに俺は微笑んで頷く。
俺は針を起点にして魔力を流す。
点穴は、今ままでもっとも魔力を流す際に負荷がかかっているところで、多かれ少なかれ魔力の痼がたまっている。
この痼はさらなる抵抗になってさらに魔力の流れを阻害し、また痼が大きくなるという悪循環になる。
まずは、針で体の外への魔力の通り道をつくった上で魔力を流し、痼を取り除くのだ。これだけで、かなり魔力の循環がスムーズになる。
アンネの体に負荷をかけないように、ゆっくりと、だが確実に痼を除去する。
アンネの体がさっきから小刻みに震えている。痼を取り除くのは相当気持ちがいい。体が喜ぶのだ。魔石とは別方向の快感。魔石に耐えられたアンネも、これにはそうとう参っているようだ。
「えっ、いや、なに、これ、あっ、あん、声出ちゃう」
「恥かしいならシーツを噛んでればいいじゃないかな」
「うん、んんん」
俺のアドバイスどおり、アンネはシーツを噛みしめて必死に声を抑えている。それはそれでエロい。
二十分かけて、完全に痼を取り除いた。まずはこれで第一段階。
「アンネ、自分で魔力を循環させてみて」
「はぁ、はぁ、はぁ、ソージ終わったの」
「うん、第一段階は」
俺は、一度針を抜く。アンネは針が抜けた途端。ぴっしりと脚を閉じた。そして、股間と胸を手で隠す。相当恥ずかしかったらしい。
「やってみるわ……すごい、いつもよりずっとスムーズに魔力が流れる、これがソージの針の効果なのね」
「そうだね。俺の針の効果だ。でも、まだ治療は終わったわけじゃないよ。これは溜まったゴミを取り除いただけで、ゴミが溜まらないように魔力回路を調整するのが目的だからね」
「ということは……」
「ここからが本番。点穴に刺さった針を起点に、次は意図的に回路に過負荷をかけて回路を太くしたり、余計な回路を塞いで流れの方向を調整したりするんだ」
「まっ、また、針をさすのね」
「うん、これから3日に一回ぐらい同じことをして、二ヶ月ぐらいで完了かな」
「……ソージ、私、壊れちゃうかも」
「大丈夫、慣れるさ。それに今の痼の除去と違って、魔力回路の調整は気持ちよさだけじゃなくて、痛みとか、しびれとかがあるから、今みたいにならないと思うよ」
「そんな、そんなふうに変化を付けられたら、もっと気持よくなっちゃいそうで怖いわ」
アンネはぴっちりと脚を締めて涙目で俺を見上げてくる。
「俺を信じて。強くなるために必要なことだから」
俺は微笑みながらアンネの脚を開いた。
さあ、続きだ。
◇
「そっ、そーじ、もうダメ。はぁはぁ、これ以上やられると、壊れちゃう」
「大丈夫、もう終わったよ」
三十分後に、全てが終わった頃には、アンネはぐったりして目は虚ろで全身弛緩しきっていた。全身が火照って、汗とか色んなものを流している。
このアンネを前に、最後まで理性を保てた自分を自分でほめてやりたいぐらいだ。
ぐったりしたアンネを起こし上着を渡す。
「今日はゆっくり眠るんだよ」
「ええ、途中で何度か気を失ったぐらいだから、ぐっすり眠れそう」
さすがに、今のアンネを一人で帰すのは怖いので部屋まで付き添おう。
俺はアンネを支えながら部屋を出る。
とびらを開けようとすると、妙に扉が重い。
少し力を入れると扉が開いた。
なぜか、クーナがバランスを崩して倒れている。なぜか顔が赤い。
「クーナ、まさか。扉の前に座り込んで、耳を押し当てていたわけじゃないよね?」
「そっ、そっ、そっ、そんな、わけないじゃないですか、このクーナちゃんが、アンネのエッチな声が聞こえてきたからって、耳をたてたり、そんなわけ」
「そうか、よくわかったよ」
クーナのことだ。最初はアンネが心配で来て、途中であまりにもアンネの声が色っぽいから目的を忘れて夢中になって聞いていたのだろう。
「クーナ、次はあなたの番よ。ふふ、すごいわよ。魔石ですら耐え切れなかったあなたが、あれをされると、どうなるか楽しみだわ」
「あっ、あのアンネが、腰砕けに……そっ、そうだ。今日は用事があったのでした。それでは」
踵を返すクーナの襟首をがばっと掴む。
「いやー、離してください。犯されるー。お嫁にいけなくなるー」
だいたいあってる。
「大丈夫、そのときは俺がもらってあげるから」
「余計に不安になるじゃないですか。帰るぅ、クーナお家に帰るぅ」
クーナが暴れはじめる。
よほど、警戒しているみたいだ。
俺はクーナの襟首を放す。
「へっ?」
意外だったようで、クーナは女の子座りになって床に座り込みつつ、きょとんとした顔を浮かべる。
「そんなに嫌なら無理強いはしないよ。昼も言ったとおり、もともと、もっと仲良くなってから提案するつもりだったし。アンネと違って差し迫ってクーナが強くなる理由もない。クーナ、帰ってもいいよ」
「えっ、その、私も、その」
「そうね。クーナに無理強いするのは悪いわ。……クーナが怖気づいて逃げるなら仕方ないわね」
アンネが寂しそうな顔で優しくクーナに声をかける。
それがクーナの意地っ張りなところに火をつけた。
「ふっ、ふふ、ふふふふふ、こっ、このクーナちゃんが逃げるわけないじゃないですか! ばっち来いです! どんなことだろうと耐えてみせます。女に二言はないです!」
俺とアンネは目を合わせる。
「そうか、クーナならそう言ってくれると思っていたよ」
「さすがクーナだわ」
俺が右腕、アンネが左腕をがっつり掴んで。俺の部屋に入っていく。
「えっ、あれ、ソージくん、アンネ、なんか、これ、おかしいですよね。なにかおかしいですよね。というかアンネ、なんか、急に元気になってないですか!?」
「あなたの顔を見たら元気になったの。それに何も、おかしくないわ。クーナ、天井のシミを数えていればすぐに終わるから」
「そうだね。野良犬にでも噛まれたと思って」
「二人共、その発言が怖いですぅぅ。父様、助けてぇぇぇぇぇ」
そうして、いろいろ苦労があったものの。無事クーナの鍼治療も完了した。
敏感なクーナはアンネ以上に大変で、いろいろとやばかったが、なんとか終わった。
この二ヶ月間、定期的に鍼治療を行うが、俺の理性がもつか、それは神のみぞ知るところだろう。




