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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第二章:魔剣の担い手
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第十六話:対峙

「君たちの異常なランクアップの秘密を全世界にばらまくだって!?」


 ナキータ教官が悲鳴のような声をあげた。

 それも当然だ。そんなものがあれば、名誉も富も思うがままだ。それを無償で公開すると言えば驚きもする。


「ええ、そうです。誰もが知っていることが俺の安全を守る唯一の方法ですから」


 しかし、俺の目的は安全の確保だ。【浄化】のことを公開することにためらいはない。

 秘密は秘密であるからこそ価値がある。


 誰もが知っていればわざわざ俺を始末して、口封じをしようとなんて考えない。


「君は本気で世界を変えるかもしれない知識を、無償で公表するつもりかな?」

「はい。まあ、そもそも知っていても、どうすることもできない類のものですから」


 俺はにっこりと笑って、ポシェットから【浄化】前の魔石と、魔術式を書き込んだスクロールの二つを取り出す。


「教官、そもそも魔石の問題点は、自身よりもランクが高い魔石を使えば死ぬこと、仮に魔石を使えても体に負担がかかり一日一つ以上使えないことの二つです」

「それは私も知っていることだね」

「その理由を説明します。魔石の中には瘴気が潜んでいます。瘴気はランクが高ければ高いほど、強くなり、自らのランクよりも高い魔石の瘴気には人は耐えれません。地下迷宮の水を飲むのといっしょですよ。そして、一日一つしか使えない理由も瘴気が原因です。ランクが低い魔石を使って死ぬことがなくなっても、確実に瘴気のダメージを受けますからね」


 クーナとアンネには説明した言葉。

 それをこの場で解説する。

 ナキータ教官も、まわりの生徒たちも一言一句俺の言うことを漏らしてたまるかと、全力で集中している。

 よし、これで最低でも秘密の共有者がクラス全員になった。


「理由がわかれば、あとは簡単。魔石の中に隠された瘴気を取り除けばいい。そうすれば、どんな魔石でも使えるようになるし、一日に何個使っても構わない」

「そんなに簡単に取り除けるものなの? 迷宮の水を飲めるようにしようと研究はかなりされているけど、未だに成功した人は誰も居ない。ましてや、魔石の瘴気なんて、できるわけがない」

「論より証拠を見せませしょう。見てください」


 俺は魔術式の書かれたスクロールを、ナキータ教官に見えるように広げる。


「その術式を今から実行します。よく見ていてくださいね」


 一流の魔術師になれば、他人が実行している魔術式を目で追える。

 俺が言ったのは、スクロールに記載しているものと、俺が実行するコードの差分がないかをよく見ておけという忠告だ。


「【浄化】」


 あえて、ナキータ教官がわかりやすいように、ゆっくりと通常の十分の一程度の速度で演算をしていく。

 ナキータ教官が俺を注視する。俺が渡したスクロールと実行している魔術の差分がないかを、逐一チェックしているのだ。

 そして数分後、魔石の浄化が完了した。


「見ての通り、スクロールに書いているとおりの魔術を使用しました。そこに書いている魔術式と、一つでも誤りはありましたか?」

「一言一句、間違いがない。記載通りの魔術式を実行したね」

「つまり、そのスクロールの魔術を実行して魔石から瘴気が取りのけるなら、誰でも、俺たちと同じ速度のランクアップが可能になるわけです」


 俺は、魔石を教官に放り投げる。


「それを使ってみてください。俺の言葉が正しいかわかりますよ」


 ナキータ教官はおそるおそるといった様子で魔石を使用する。額に当てた魔石がナキータ教官に吸い込まれる。


「なるほど、いつも感じる魔石を使ったときの不快感がないね。これなら、君の言ってることは本当のようだ。でも、なんだ。この術式は、こんなの人間に可能なのか?」

「実際にやってみせたじゃないですか」


 【浄化】は七百工程の大魔術。

 さらに、今日見せたスクロールは解析を困難にするためにダミーコードを入れて水増しし、千百工程にしている。


 通常、初級魔術で五十工程程度、上級魔術でも二百工程程度しかない。

 魔術とは、魔術式を頭に構築し、演算することで成立する。

 演算能力はランクをあげることで上昇するが、魔術式の構築は本人の資質による。


 千百工程を一文字足りとも間違えず最後まであたまに浮かべる。さらに演算が終わるまでは、魔術式すべてを常に頭に浮かべ続けないといけない。


 さらに、ここの魔術式は条件式、循環、繰り返し、関数・変数の参照、複雑な演算がまじり、演算の途中で何度も上から下へ行き来するため難易度がたかい。

 ようするに、人間には不可能な魔術なのだ。


「俺はこのスクロールを無料で公開します。なので、この魔術を使えば世界中の誰もが、いつでも、俺たちのように、数十倍の効率でランクをあげられるようになるでしょう。もっとも、この魔術を使えればの話ですけど」

「……ふう、なるほど信じよう。このことは私から学園長に伝えるよ。このスクロール、もらってもいいんだよね?」

「ええ、差し上げます。そのために作ったものですから」


 これで、危険度はずいぶんさがる。

 依然として、魔石を【浄化】できる俺の価値は高いが、俺自身魔石を【浄化】できる数に制限がある。一人、二人のランクアップを早めたところで、国家間のパワーバランスを崩すほどではない。

 ならば俺一人を捕えるよりも、俺の書いたスクロールを分析し、使用できる人間を増やす方向で努力したほうが建設的だ。

 そのことは、ナキータ教官も理解した上で動いてくれるだろう。


「今後どうするかは、追って連絡する。にしても、君以外が知ったところで意味がない魔術だ。私は君が怖いよ。こんなものを実行できる君が怖い。もし、君がランクをあげて、演算力まで手に入れたらどれだけのことができるかって考えるとぞっとする」


 ナキータ教官は苦笑いをしたので、俺は笑顔を浮かべる。


「俺は楽しみですね。今だと、あまりにできないことが多すぎる」


 ランク2になれば、過去の俺の魔術がかなり使える。

 今、練習している。銀竜の咆哮ドラゴンブレスも制御しきれるだろう。


「この話はここまでにしよう。一応、ここに居る全員に言っておく。今日のことは他言無用だ。……授業に戻ろう。近接武器の魔力による強化を教える。基本であり奥義にもなる。これができないと探索者なんてあきらめたほうがいいよ」


 そして、今日の授業が始まった。


 ◇


 翌日の放課後、入学試験で使ったコロシアムに俺は来ていた。

 試合直前、すでに石で造られたリングにあがっており、目の前には、クラネル・フェイラーテがいる。


 彼の装備は、フェイラーテご自慢のミスリルでできた名剣に、同じくミスリルの胸当て。魔術文字が彫り込まれている一品で、屋敷の一つや二つは買えるほどの品だ。


「平民、なぜ、これだけの観客が集まっている? 貴様が何かしたのか?」

「さあ、どうしてだろうね」


 そして観客席には、数百人の観客が詰めかけている。

 たかが学生の決闘には似つかわしくない大観衆。

 こうなったのはいくつかの理由が重なっている。


 一つは、クラネル・フェイラーテの見栄。俺を大衆の前でいたぶって恥をかかせようとフェイラーテ家の力を使い、息のかかった人間を動員したこと。

 二つは、ランク1でありながらランク2を倒した俺の戦いを見ようと騎士学園のほぼ全員が集まっていること。

 三つは、俺が人を集めた。かつて、俺のランク2の戦いで俺にかけて大儲けした商人のコネを使って人を集めさせたのだ。


 おかげで、立ち見までできてるし、賭けまで始まっている始末。

 クラネルが呼んだ連中は金持ちばかりだし、商人のコネであつめた連中もそれなりに、金がある上に、賭け事が好きな連中が多いので、途方も無い金が動いている。

 クラネル・フェイラーテがランク3に近いランク2であり、コリーネ王国最強の剣の名家の嫡男ということもあり、賭けの倍率はクラネルが1.2に対し俺は5倍。


 俺は俺の勝ちに全財産の二百万バルを賭けている。二百万を俺の勝ちに賭けても、この倍率を維持できているということは、さすがに俺の勝利を信じているものは少ないようだ。だが、おかげで勝てば一気に一千万バルになる。


 俺が声をかけた理由は小遣い稼ぎと、クラネルが負けたときに言い訳ができないようにすること、そしてクラネルに精神的な重圧をかけるためだ。


「これだけの観衆の前でランク1に負ければフェイラーテの名が地に落ちるな」


 俺は、嫌味な顔でクラネルを煽る。


「僕が負けるなんてありえない。僕が勝てば約束は守ってもらう! アンネロッタに二度と関わるな!」

「もちろん、そっちこそ約束を守ってもらう。もし、俺が勝てば。お前の剣を頂く。その、フェイラーテ家の家宝をな」

「この剣の価値を知っていて、こんな賭けをもちかけたのか?」

「もちろん、クヴァル・ベステに比べれば出来損ないでも、それなりにいい剣だってことをね」

「貴様、僕だけじゃなくて、この剣まで馬鹿にするのか!?」


 俺とクラネルはにらみ合う。

 観客の期待が高まる。これ以上待たせるのも悪い。そろそろはじめようか。


「【魔銀錬成:弐ノ型 剣・斬】」


 俺はミスリルを剣に変形させる。刀身は60cmほどの片手剣でありながら柄を長くし、両手で持てるようにした俺好みの剣。

 得意な槍ではなく、剣を選んだのは、今回の目的が勝つだけではなく、アンネの勉強だからだ。


「アンネ、俺は絶対にアンネのために勝つよ。師匠の俺を信じてくれ」

「ソージ、がんばって」


 観客席に居るアンネに、俺は剣を向けて響く声で勝利宣言をする。

 この演出に観客が沸く。

 こういう色恋沙汰はいつの時代も最高の娯楽だ。


「平民、僕の前で調子にのったことをすぐに後悔させてやる」


 しかし、クラネルはお気に召さないようで、彼から突き刺さるような殺気が向けられた。

 思った通り、普通に挑発するより、こっちのほうがよほど効果が高い。


「アンネ、クーナ、二分だ。二分だけ、俺は剣士として戦う。必ず、二人の勉強になるから、二分間は瞬きすらせずに見ておけ。……そのあとは参考にならないから寝てていい」


 俺がそう言うと、クラネルはより不機嫌に顔をゆがめる。


「僕なんて、二分で十分だって言いたいのか!?」

「さあ、どうだろう。それじゃあ、はじめようか。コインを投げる。床に落ちれば試合開始だ」

「いいだろう」


 俺はコインを指ではじく。

 そして、俺とフェイラーテは剣を構え……コインが地面に落ちて甲高い音が鳴り響いた。 

 

 

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