第十一話:反省と課題
「ソージ、こっちは終わったわ」
「私も全部魔石を回収し終わりました」
「二人とも、ありがとう。俺のほうも終わったから休憩にしよう」
チンパンジーを倒したあと、俺達は魔石の回収を行っていた。
連れを癒やすために俺は休憩を提案する。
「【気配遮断】、【空間感知】」
俺は木に背中を預けながら、2つの魔術を発動させる。
【気配遮断】は周囲3mを対象にし、音や魔力の気配、匂いを漏れないようにする隠蔽用の魔術。こと地下迷宮では非常に便利な魔術だ。
そして、【空間感知】は、半径50mの仮想の円を設置。その中の様子を感じ取るセンサーだ。これにより魔物の接近を感じ取ることができる。【空間感知】は便利な魔術だが移動中には使用しづらい、座標指定ではなく、自信を中心にフレキシブルに対象範囲を変えるとその都度再演算が走る、脳と魔力の負荷がすさまじいことになるのだ。
エルフのような風のマナと相性がいい種族であれば常時風のマナと知覚を共有することで、ほとんどノーコストで周囲の警戒を続けるのだが、人間の体であればそういうわけにはいかない。
「クーナ、アンネ。周りの警戒は俺がする。今はゆっくり休むことだけを考えてくれ」
「ありがとうございます。ソージくん。助かります」
「ソージが見てくれているなら安心ね。お言葉に甘えるわ」
二人が俺の両隣に来て、俺と同じように木にもたれかかる。木陰になっていて涼しい。
【空間感知】が妙な気配を拾っている。
いや、逆だ。魔力も気配も何一つ情報を拾えない空白な空間がある。つまり、何者かが俺と同等以上の【気配遮断】をしているという裏付けになる。
驚きはしない。封印都市エリンに来てから何かに見られている気配は度々感じている。理由はわからないが、敵意はないのだろう。その気があるならとっく襲っているはずだ。
入学試験での戦いのあと、その後に逆恨みの強襲のあと、幾度と無く俺は隙を晒している。
「ソージ、さっきから怖い顔をしているけど、何かあったのかしら?」
「ああ、ごめん。なんでもないんだ」
俺は苦笑する。
今の俺では、追いかけても捉えられない以上、気にしても無駄だ。
だが、偶然にもあたり一帯をサーチして、見えないことで相手を見つけるという手法に気づけたことは運が良かった。
「ソージくん、さっきはごめんなさい。もう二度と油断しません。今回のは私の慢心です。私ならどんな状況でもきっちり敵を発見できる自信がありました」
「うん、あのチンパンジー。スロックチンパっていうんだけどね。あいつはずる賢いやつだからね。気配を消すのがうまいんだ。さすがのクーナでも、あれくらいの魔物になってきたら、片手間では見つけられないよ」
イノシシの化け物のような異常個体以外は、ある程度名前を付けられ生態をまとめられ共有されている。
スロックチンパは、中級者殺しとして有名だ。地下五階に来れるようなパーティでも全滅させられることが多々ある。
距離をとりつつ、集団で襲ってくる戦術はそれほど危険だ。遠距離攻撃は弓や、魔術に頼るのだが、狙いをつける前に、飽和攻撃を受ける。
一匹目を見つけ次第、仲間を呼ばれる前に殺すのが鉄則だ。
俺もクーナを庇う必要がなければ、速攻で、【魔銀錬成:参ノ型 弓・貫】を使い片付けていた。
「俺も気をつけるよ。クーナが気づかなくても俺が気付けば問題なかった。俺も同罪だ」
今回のは俺も迂闊だった。
魔術なしの索敵能力なら俺はクーナに劣る。それでも、できることはやるべきだった。
「ソージくん、お互い気をつけましょう。あと、探索中はあまりセクハラっぽいことはしないでください。その、こう見えて私、乙女なんですよ。冷静でいたくても、どきどきしたりして、どうにもならないときがあるんです」
「探索中でなければいいのか?」
「ソージくん! 本当に反省してます!?」
「ごめん、反省はしているんだ。でも、クーナが可愛すぎて、セクハラをしないという約束ができない」
「ふぁう!? もっ、もうソージくんなんて知らないです」
クーナはそう言うと、頬を赤くしてそっぽを向く。顔はそっぽを向いているのに、キツネ耳はこっちを向いてピクピク動いていた。
「ソージとクーナは嫉妬したくなるぐらい仲がいいわね」
「どこがっ!?」
アンネの言葉にクーナが、打てば響くようなタイミングでツッコミを入れる。
「さすが、ファザコン。男の子と話す事に耐性がないのかしら」
「アンネ、さっきから言いがかりばっかりです。誰がファザコンですか!? 父様なんてだぁ~い嫌いです!」
「……クーナにとってはきっとそうね。ごほんっ。さっきの戦闘の反省に戻るけど。クーナだけの問題じゃないわ。私も警戒をクーナに頼りすぎていたわね。それに、すぐに倒れてソージにも迷惑をかけた。自分が情けない。もっと鍛錬をしないと」
アンネも自分の失態が許せないようで唇を噛んでいる。
「今のアンネならああなるのもしかたがないよ。アンネは多対一の訓練なんてしたことがないよね?」
「ええ、私は剣士の訓練しかしてなかったから」
「一対一の決闘。オークレールの剣はそれを前提としたものだ。アンネは視野がせまいところがある。死角からの投石が見えてなかったよね」
「それは普通見えないのではないかしら?」
「見えるよ。だから俺は一人でも全部撃ち落とした。広い視野と危機予測。これも課題だね。特に広い視野を持つことは多対一の基本だけど、それができると、一対一でも不意をつかれなくなるし、相手の意識が向いていないところが見える。そうすれば、そこを攻めて勝てるようになる。今日から少しずつでも身につけていこう」
アンネは俺の言葉を聞いて、微笑んでぎゅっと拳を握りしめた。
「自分の剣を見つける。見えないものを見る。課題が山積みだわ」
「いやか?」
「いえ、強くなるための道がたくさん見えてきて、今は楽しくて仕方ないの」
「良かった。実はアンネの欠点はまだまだあるんだ。安心して指導できる。正直に伝えるのはどうかと悩んでいたんだ」
「望むところよ。ソージが師匠なら、どんなことだって身につけてみせるわ」
「いい返事だ」
俺とアンネは拳を付き合わせて、にやりと笑う。これからは今まで以上に訓練に身がはいりそうだ。
「熱い師弟関係が眩しい。ううう、なんでしょう。この疎外感は。ついていけないです。三人パーティの弊害ですぅ。何するにも絶対ぼっちが生まれるんです。いいですよ。私は一人で勝手に強くなりますぅ」
クーナがいじけて、三角座りになって、指先でつんつんと地面をついていた。
「相変わらず、クーナはめんどくさい性格ね」
アンネはそう言うとクーナに後ろから抱きつく。美少女同士の抱擁は、大変眼福になる。
「ちゃんと私はあなたのことが大好きよ。仲間はずれになんてしないわ」
「アンネ……好き」
クーナが反転し、自分からもアンネに抱きつく。
よしっ。
「ソージくん、何をしようとしているんですか?」
「いや、アンネと同じようにしてパーティの仲を深めようと思ってね」
「男の子はダメです。どんとたっちみー」
帰ってきたのは明確な拒絶。
「アンネの髪さらさらです」
「クーナのキツネ耳も面白い手触りね」
「きゃっ、もうどこ触っているんですかアンネ♪」
そうか、これが三人パーティで一人余り物がでる弊害か。
俺はクーナの真似をして体育座りでイジケてみたが、二人が俺を仲間に入れてくれることはなかった。
だが、無視をするわけではなく、二人とも面白がってこちらを見ている。
まあ、これはこれで楽しいl.
地上に戻るまで3日。どれだけ課題をクリアして実力を引き上げられるか楽しみだ。
祝! 三万ポイント突破! 皆様の応援のおかげです!




