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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第二章:魔剣の担い手
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第九話:防具作成

「俺たちが貫くのに苦労したこいつの外皮、いい防具になると思わないか?」

「……たしかに固いし、炎には強いし苦労しました。防具にすれば、いいものができると思いますけど、魔物の加工なんて普通の道具じゃ無理ですよ」


 クーナの言うことはもっとだ。

 魔物の素材は優秀だが、それ故の問題もある。普通の工具ではまともに加工できないのだ。例えば、この化けイノシシの皮であれば、鉄のはさみで裁断しようとしても、刃のほうが先に折れるだろう。


「心配いらないさ。道具がないなら作ればいい。俺はミスリルがあれば、何でも揃えられる。【魔銀錬成:弐ノ型 剣・斬】」


 魔銀錬成を用いてミスリルを片手剣に変形させる。

 そして、頭の中に、防具の設計図を作っていく。あとで縫うことを必要な皮のサイズと枚数を算出を実施。

 算出結果をもとに、素早く化けイノシシの皮を切り分ける。

 ミスリルに俺の魔力を通して、鋭さと強度をあげれば、鉄の刃が通らない固い外皮だろうとなんなく切り裂ける。

 視線を感じて、そちらのほうを見るとアンネが俺の動きを凝視していた。剣の太刀筋が気になるのだろう。勉強熱心なことだ。


「【魔銀錬成:はちノ型 針・刺】」


 再びミスリルを【魔銀錬成】で変形させる。今回は糸付きの針にした。

 本来この型は、反しがついた針を投擲に用いたり、糸を活かしたトラップをしかけることで、トリッキーな戦術に用いるが、針を細くすることで裁縫もできる。

 ミスリルの針で貫いて、ミスリルの糸で縫い付ける。そうすることで防具が作成が可能になるのだ。


「皮は切り分けた。あとはこれで、編んでいくよ。いい防具ができると思う。あの化けイノシシの皮は、クーナの火の魔術もある程度耐えれたように、耐火力もたかいし、防刃性、伸縮性も優れている。もともと、売れると思って綺麗に洗って干してたけど、いい機会だし使っちゃおうと思う。三十分もあれば終わるから、片付けと朝食の準備ができたら呼んでくれ」


 久しぶりの裁縫だ。腕がなる。

 俺の脳内にある魔術の中では、ミシン並みの精度と速度で縫えるようなものもあるが、あまりに繰り返してきたせいで、体が覚えている。魔術を使わなくても問題ないだろう。

 装備作りには自信がある。なにせ、高ランクの素材を使って装備を作れる人間なんてほとんど居ないし、居たとしても高ランク探索者のお抱えがほとんどだ。必然的に自分で作る必要があった。


「ソージくんって本当になんでも出来ますよね。武術、戦闘用魔術、便利魔術、料理もうまいし、鍛冶師の適正。いったいどうやったらそんな若さでそこまで手広くできるんですか」

「ええ、器用すぎて逆に呆れるわ」

「これぐらいで驚いてもらっては困るよ。まだまだ俺には隠された技能がある」


 伊達に百年以上、この世界で探索者をやっていない。

 なぜか、ドン引きする女子二人。

 他はともかく、裁縫で驚くのはどうかと思う。

 二人共、女の子なら、地下迷宮で狩った獲物をその場で防具に変えるぐらいはしてほしいものだ。


 そんな二人を尻目に俺は切り分けた皮をせっせと編んでいく。案の定、俺のミシン並の早さの動きに二人は、目を丸くして驚いていた。

 皮は部分ごとに厚さと重さが違う。俺は軽鎧を作るつもりなので、岩のように硬化している厚く重い部分と、関節部に使用する薄く軽い部分をうまく組み合わせて作っていく。

 糸で縫うときには、縫い方を工夫して魔術的な意味を持たせる。魔術との親和性がたかいミスリルだからできる芸当だ。

 あっという間に、イノシシの皮が立派な軽鎧に変わっていく。それこそ魔法のように。

 何気なく、余った皮を見ていると、いいことを思いついた。

 

「本当に朝ごはんできるまでに、皮の軽鎧ができちゃいそうです……ソージくん、頑張って作ってください。こっちも急いで準備しておきますから」

「クーナちょっと待ってくれ。今思いついたんだが、俺の軽鎧を作るついでに、薄い皮でインナーを全員分作ろうと思う」


 一番薄いところの皮を使えば、防具の下に着こむことができるインナーが作れる。少し蒸し暑くなるが衝撃吸収能力に優れ、防刃性と防火性をもった性能のいいインナーを切れるのはけして少なくない利点がある。


「便利だぞ、ただのインナーなのに、下手な鉄の鎧よりずっと防御力があるからね」

「あっ、それいいですね。私、身軽さが信条なので、軽くて性能のいい防具は嬉しいです」

「そうね、私もあまり重いものは着られないから助かるわ」


 さすがに二人共、探索者だけあってそれがどれほど便利かわかったようだ。

 特にクーナとアンネはその戦闘スタイルもあって重量のある装備は避けている。

 いや、クーナとアンネにかぎらず、長期間、広大な距離で活動する探索者には重装備は不向きなのだ。


「ごほんっ、それでだが、サイズを図りたい。肌に張り付くものだから、詳細な情報が必要だ。一度テントに戻ってサイズを測らせてほしい。……良かった、テントを片付ける前で」

「そっ、それってもしかして」

「うん、下着姿になってほしい。それから採寸するから」


 俺がそう言うと、クーナはわなわなと震える。


「防具のためなら仕方ないわ。行きましょうクーナ」


 ぽんとアンネがクーナの肩に手をおく。


「ううう、防御力をあげるのは、すごく嬉しいけど、そんな、シラフの状態で下着姿を見せるなんて、無理ですぅ」


 クーナは自分の体を抱いてしゃがみこんだ。

 そうか、なら仕方ない。


「本当に無理かな?」

「……むっ、無理ってわけじゃないですけど、そのすっごい抵抗が。まだ明るいし、恥ずかしいし」

「そうか……」

「でっ、でも、少しでも生存率をあげるためなら……我慢します。すっごく嫌だけど耐えてみせます!」


 覚悟を決めた表情をしてクーナが顔をあげる。

 真っ赤な顔で半ばやけくそのようにも見える。


「そっか、そんなに嫌ならいいよ。測らずに作るから」

「えっ?」

「ほら、何度か下着姿を見せてくれているだろう? 脳裏に焼け付けているからね。測らないでもなんとか作れる。ただ、あくまでなんとかだよ。測らないで作ると、クーナも成長期だし、誤差もあるから、作ったあとに、クーナの意見を聞きながら微調整は必要になるね。それが面倒だったからお願いしたんだ」


 クーナの体のことは、ほくろの位置まですべて頭に刻みつけている。かなり正確なものは作れるだろう。


「そっ、ソージくん、それならどうして、下着姿になれっていったんですか?」

「言ったとおり、微調整が必要で、二度手間が嫌だった。あとはまあ、クーナの肌を見れるチャンスだと思ったからね。まあ、そこまで嫌がるなら、調整する手間ぐらいは惜しまないよ」


 クーナが顔を伏せてわなわなと握り拳を震わせる。


「ソージくんのばかぁ!」


 微妙にいつもと口調を変えてクーナは顔を真赤にして叫んだ。

 そんなクーナを見て、怒るクーナも可愛いなと俺は感じていた。


  


 

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