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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第二章:魔剣の担い手
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第八話:新たな魔術《ドラゴンブレス》

 夜明けと共に目をさます。

 毛布を払いのけて体を起こした。クーナとアンネはまだ眠っているようだ。


「むにゃ、美味しいです。ユキ姉様のお酒」


 幸せそうな顔をしながらクーナは寝言をもらしている。

 おそらく、故郷で特産品のエルシエワインを飲んでいる夢でも見ているのだろう。

 妙に、微笑ましくて、ほとんど無意識に彼女の頭に手が伸びてしまう。クーナの頭を優しく撫でる。


「えへへ、ユキ姉様」


 クーナがにへらと笑う。

 よほど、故郷であるエルシエとユキ姉様という人が好きなのだろう。そして、本人は絶対に否定するだろうが、クーナは紛れも無くファザコンだ。そんなクーナがなぜこんなところに来たのか?


 勝手に婚約者を決められたからと本人は言っているが、本当にそれだけなのだろうか? 彼女といると疑問はつきない。

 いつか、クーナの口から直接聞きたい。それまでは俺からは何も聞かないでおこう。そう割り切って、幸せそうに寝息をたてるクーナを尻目にテントを出た。


 ◇


 俺は外に出て、精神を集中する。

 魔術の訓練だ。繊細かつ膨大な工程数をもつ魔術式を編んでいく。こっちの世界に来てからずっと新たな魔術を作ろうと努力してきた。


 未完成な状態の魔術を二人には見せたくないので、訓練はいつも一人で行っている。


 作りたいのは、今の俺でも扱える極大威力の魔術。

 ランク2の先輩を撃退した時に使った【空間破壊】を超える魔術が必要なのだ。

 おそらく、あれで対抗できるのは、イノシシの化け物ぐらいだ。その先、例えばランク2の魔物であれば、【空間破壊】をくらっても耐え切れてしまうだろう。人間のランク2と魔物のランク2では強さがまるで違う。


 そして、このさきそういった化け物と出会わない保証はない。そのときの俺がランクをあげることができている保証はないのだ。

 とは言っても、自らの魔力を使用する魔術では、威力を引き上げるにも限界があった。【空間破壊】はすでに到達点と言える魔術なのだ。


「あの日の悪夢を形にする」


 【空間破壊】以上の魔力効率の魔術を使えないのなら、魔力の使用量を増やすしかない。

 しかし、そもそも使える魔力が少ないからこそ、効率的な魔術を求めているのだ。


 なら、どうするか? 簡単だ。自然界に存在する魔力……マナを利用する。

 クーナは火狐の特性で自身の魔力の十二倍もの魔力を運用する魔術を使用できる。その方面で模索するしかない。


 だが、人間の身では地・火・風・水。すべてのマナとの相性が良くない。どううまく運用しても1.1倍がせいぜい。焼け石に水でしかない。そう、通常であれば……だが、それを解決する方法はある。


「龍の咆哮ドラゴンブレス


 ランク6だった俺と、大魔導師シリルとの戦いのさなか現れた巨大な銀龍。そいつが放った破滅的なブレスによって、俺は瀕死の重傷まで追い込まれた。

 未だに、そのときの光景がまぶたに焼き付いている。

 光に飲み込まれながら、圧倒的な破壊力を生み出す、龍の咆哮の秘密を俺は見破った。龍の咆哮の正体は、マナの崩壊現象を利用した魔術。


 本来、マナを利用する際には自らの魔力を餌にしてマナを呼び寄せ、その力の”一部”を借りる。

 だが、銀龍は属性に関係なくすべてのマナを強引に喰らい、圧潰する。それによりマナの中に内包されていた膨大な魔力がすべて開放され、暴走する力を束ねて放つ。それこそが龍の咆哮ドラゴン・ブレス


 口にするのは簡単だが、実現するのはどれほど難しいか。

 それでも、ものにしたい。実現できれば、今の俺のまま、並のランク3探索者が放つ魔術を超える破壊力の魔術を使える。


 実を言うと、俺は敗北したあの日から、ずっと研究を続けてきて、基礎理論は完成している。あとは制御方式をトライアルアンドエラーで試していかないといけない。

 俺は術式を頭に浮かべ、周囲のマナを無理やり集めはじめた。


 ◇


「おはようございます。気持ちいい朝です」

「ある意味うらやましいわね。魔物に囲まれていて、よく平然と眠れるわね」


 魔術の訓練が終わり休んでいると、クーナとアンネの声が聞こえてきた。


「アンネが心配しすぎなんですよ。このテント、魔物が本能的に嫌がる臭いを染み付かせていますし、この野営地にはたくさん冒険者が居るので、魔物が出れば騒ぎになります。それに、ソージくんがテントの周りに隠蔽をかけて施した魔術の罠。これ、なかなか優秀ですよ。超一流の魔術師なら罠自体は解除はできるでしょうが、それをソージくんに気取らせず解除するのは不可能です」

「ソージから聞かされていたけど、私は注意深く見てもわからないわ。クーナは気づいたのね」

「ええ、見ればわかります」


 テントの中から、クーナとアンネが出てきた。二人共しっかり着替えて荷物をまとめている。

 何気なく言ったクーナの言葉に微妙にプライドが傷つく。絶対に誰にも気づかせないつもりで、隠蔽をかけた罠なのに。


「おはよう。二人共」


 それを態度に出すのは、小物臭いので笑顔で二人に挨拶する。


「ソっ、ソージくん! いったいどうしたんですか! なんか服とかぼろぼろじゃないですか!?」

「ちょっと、鍛錬をしすぎてね」


 クーナの言うとおり、今の俺はひどい有様だった。魔術の制御に失敗したのだ。

 魔術式自体は完璧だったが、純粋に演算能力が追いつかなかった。最小規模で実行したのに、想定以上にマナが暴れた。


 手元でマナが暴発し、地上数メートルまで吹き飛んだ。ぎりぎりで衝撃を受け流したが、それでもこのザマだ。体の方は加護の力で治ったが、服はどうしようもない。


「ソージさすがね。そこまで、自分を追い詰めた鍛錬をするなんて」

「あの、アンネ。どこの世界に、危険な地下迷宮の中で、がっつり加護を減らすバカが居るんですか! 見たところ、二割はもっていかれてますよ」


 クーナが俺を指さして怒る。たしかに、その通りだ。だが、俺にも言い分はある。


「ここじゃないと練習できない魔術なんだよ。ほら、あれを見て」


 俺はテントから数百メートル離れたところを指さす。そこには巨大なクレーターができていた。


「なっ、なっ、なっ、何しているんですか!」

「だから、新しい魔術の訓練。失敗したらこれぐらいの被害はでるから、学園内どころか、街の中じゃできなかったんだよね。賠償金でひどいことになるし、下手をすれば投獄までありえるな」


 消費魔力は極小で、この威力。我ながら惚れ惚れする。さすが、伝説にしか出てこない、龍の必殺技の模倣だ。


 もし、魔力量を多くしつつ制御に成功すれば革命的な魔術になる。

 今は、制御の精度をあげるための改良が第一だ。


「よく、これだけ派手にやらかして生きていますね」

「まあね、失敗する覚悟はあったからね」


 予めいくつかの防御魔術の準備と、覚悟があったからこの程度で済んでいる。五重に組んだ防御結界がすべて貫かれた。それがなければ、死んでいたかもしれない。魔術に失敗はつきものだ。実際に、魔術の開発中にミスをして死んだこともある。重要なのは、失敗してもいいように保険を作ること。そうしておけば致命傷にはならない。


「これだけ派手にやらかして、気付かなかったことがショックです」

「そうね、こんなクレーターができるようなことをしたなら、すごい轟音がしたはずだけど」

「魔術の練習を始める前に、空気の壁を作っておいたんだよ。音はもらしてないよ。近所迷惑だからね」

「あいかわらず、無駄に器用ですね」


 クーナが呆れ顔を浮かべている。

 そして、ゆっくりと口を開いた。


「ソージくん、これだけの魔術を完成させようとしているのに理由はあるんですか?」

「そうだね。ひとつは、嫌な予感がするからかな。今のままじゃどうしようもない敵が現れるそんな気がするんだ」


 胸の中で何かが警鐘を鳴らし続けている。弱い自分が許せなかった。


「ひとつってことはまだあるんですか?」

「うん、それはね、俺の意地だよ。負けず嫌いな俺のね」


 一度敗北した以上、同じ相手に二度と敗れるわけにはいかない。たとえ相手が龍だろうが次は勝つ。だから、あれを超える魔術を作ることではじめて俺は過去を乗り越えられる。だからこそ、龍の咆哮を使いこなし、改良し上回る。


「ソージくん、ってやっぱり変です」


 クーナがくすりと笑う。


「いい雰囲気のところ悪いのだけれど、ソージの服はどうするの? 他の服、部屋着ぐらいしかないんじゃない?」


 アンネが俺の露出した肌を見て恥ずかしそうな顔をして、目をそらす。

 そうか、俺の今の格好はかろうじて、布の切れ端が体にくっついている程度、変質者一歩手前だ。


 一応、部屋着はあるが、防御力が皆無だし、肌の露出が大きく草木が生い茂るフィールドを歩くには不向きだ。


「クーナ、アンネ、テントの片付けと朝食の準備を任せていいか?」

「それぐらい、いいですけど」

「私も構わないわ」

「ありがとう、その間に俺は服、いや防具を作るよ」


 その言葉に二人共目を丸くする。


「材料なんてどこにあるんですか?」

「そこに」


 俺は、イノシシの化け物の肉を解体した場所のとなりに置いてある奴の皮を指出す。肉から切り離した皮は昨日のうちに、洗って干していた。

 あれだけの魔物の素材、防具にはもってこいだろう。ちょうどいい、さっさと仕立てよう。

 そう考えながら俺は、魔術の準備をはじめた。


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