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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第二章:魔剣の担い手
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第六話:テント

「ソージくん、絶対覗いちゃダメですよ。覗いたら焼きます♪」

「覗かないよ」

「私は別にいいのだけれど」

「だーめでーす。女の子が肌を晒していいのは旦那様だけなのです」

「下着姿ならすでに見られているわ」

「裸は絶対だめ!」


 クーナとアンネがテントの中で服を脱ぎ、お湯で濡らした布で体を拭いている。ひとりに付きタライにいっぱいのお湯を使っているので、その気になれば頭まで洗える。

 水が豊富に確保できる俺達だからできる贅沢だ。


 普通のパーティなら3日に一度程度、それもガチガチに固く絞った布で体を拭くのがせいぜいだ。男はともかく、女性はそれが辛いらしく、深い階層に行くほど女性の探索者は減っていく傾向がある。トップ層にいる連中なんて、女性でも丸坊主が多い。それなら少ない水で衛生面を改善できる。


 俺は外で見張りだ。

 裸を見られるのは抵抗があるようで、クーナに追い出された。覗きたい気持ちは多々あるが、おとなしく我慢をしておこう。いずれ、そういう仲になったらたっぷり楽しませてもらうつもりだ。


 俺は、男なので誰に見られようと構わない。周りの探索者の目も気にせずにパンツ一枚で布を使って体を拭き、最後に頭から勢い良くお湯を浴びて、頭をガシガシとやってからタオルで水気をとる。

 そうすると、テントの中の声が漏れ聞こえてきて、そっちに意識が向けられる。


「アンネ、肌が綺麗。それにすらっとしてずるいです」

「そう? 肌の綺麗さならクーナのほうが上じゃないかしら。それに、この胸が羨ましいわね」

「アンネ、どこ触っているんですか! 仕返し……あっ、ごめんなさい。掴めない」

「……ねえ、クーナ。私の胸をわざと馬鹿にしているのかしら?」

「アンネ、痛い痛い、あんまり強く揉まないでください。まだ成長中だから痛いんです」

「……これでまだ成長するつもりかしら? 神様を恨みたくなるわね」


 テントの中から悩ましい声が聞こえてくる。

 本人たちは声を抑えているつもりだが聴覚を強化した俺には聞こえてくる。いろいろと理性を試される。


 クーナの女性らしい体も、アンネのすらっとしたモデルのような体型もどちらも魅力的だ。

 俺の理性をどんどん削りながら、二人は三十分ほどかけて体を拭き終えた。


 ◇


「ソージくん、終わりました。もう入っていいですよ」


 テントの扉を開けて、クーナがひょっこり顔をだす。少し頬が赤くていつもより色気がある。髪の方はまだ少しだけ湿っていた。


 服装も、動きやすい部屋着に着替えている。こういったものは荷物を増やすだけと思われがちだが、探索用の丈夫さと防御力を優先した服を二十四時間着ているとそれだけで消耗する。それに、着替えがあれば、夜の間に洗って乾かしておくこともできる。

 魔力や加護の回復量は体調に依存する。ストレスの解消をうまくすることも一流の探索者に必要な技能の一つだ。


「うん、わかった」

「ソージくん、妙にすっきりした顔をしていますね?」

「うん? そんなことないよ。俺はいつもどおりだ」


 仕方なかった。情けないが、彼女たちの前で紳士的な対応をするために必要だった。……人の目もあったが、まあ、探索者なんてそんなものだ。そんなもの気にしている余裕はない。このあたりに居る他の探索者たちも焚き火の周りでやってる。

 地下迷宮では、コストのかからないストレス解消としてこういうことはかなり有用だ。さすがに男女の絡みはテントの中でやるぐらいの分別はあって、ガタガタ揺れているテントはあっても、外で楽しんでいるカップルはいない。


 やはり、この年頃の肉体というのは扱いが難しい。もはや歩く性欲と言ってもいいぐらいに、色々とこみ上げてくる。

 いくら、内面を鍛えていようが肉体に引きづられてしまうのは避けられない。


「……くんくん、変な匂いがします。この匂い、昔、兄様の部屋に行った時に、たまにしていた匂いです」


 クーナが鼻を鳴らす。火狐族のクーナは人間より鼻がいい。

 背中に冷や汗が流れる。


「そうなんだ。クーナのお兄さんがね」

「はい、私が留守のときにこそこそ女の子を連れ込むんですが、そのあとはだいたいこんな臭いがしています。それを言うと必死に私を部屋から追いだそうとするんですよね」


 ……クーナの兄はよほどモテるみたいだ。まあ、クーナの兄ならすごい美形なんだろう。もてて当然かもしれない。


「まあ、いいじゃないか。それよりランクをあげよう。二人共、心の準備はいいかな? 特にクーナは前回、魔石を使ってへろへろになったから心配だ」

「魔石の気持ちよさになんて絶対に負けないです!」


 前回、はじめての魔石の気持ちよさに腰砕けになったクーナが、決意表明をする。

 普段垂れている尻尾も、気合のせいか、天に向かってまっすぐ伸びている。


「クーナ、私、数分後にふにゃふにゃになったあなたの姿しか頭に浮かばないのだけれど」

「アンネひどい! もう、克服しました! 涼しい顔で耐え切って見せます。いくらでもいけますよ!」

「なら、楽しみにしているよ。なにせ、今日は魔石がたっぷりあるからな」

「どんと来いです!」


 ドヤ顔で、胸をポンッと叩くクーナ。俺は、その表情を脳裏に刻み込んだ。

 そう、あとでクーナをからかって楽しむために。


 ◇


「もっ、もうダメですぅ。やっぱり、魔石には勝てなかったです」

「そんなこと言って、まだ欲しいんだろう? このよくばり屋さんめ」

「まっ、まだあるんれすか、くらさい、クーナに魔石くらさい!」

「よし、いい子だ」

「ふぁう、きもちいいぃ」


 結局、魔石が与える快楽でへろへろになったクーナは、テントの中でつっぷしている。相変わらずエロい。

 顔を真赤にして息を荒くして、どこか幸せそうだ。

 とろんとした目をしながら、ぱたん、ぱたんと尻尾を床に叩きつけている。


「ずいぶんと、強くなれたわ」


 いっぽうアンネは若干顔を赤くするぐらいで余裕がある。少し残念な気持ちになる。


「うん、ランク1の中位……上位に近いぐらいにはなっているよ」


 地下4Fに来るまでに魔物を倒して得た魔石とステーキの代金としてもらった魔石をすべて二人に使用した。

 お陰で、ランク1の中位、それも上位に近いところまで一気に強くなっている。


「これなら、あっという間にランク2になれるかも」

「そこまで甘くないかな。ランク1の中位から上位までって必要な【格】の量がすごく多いし、上位からランク2へはそれすらも上回るハードルの高さだ」


 そう、ランクを上げるのは指数関数的に難易度が高く立っている。

 今日稼いだ魔石をすべて使っても、俺はランク上位にはなれていないだろう。

 二人の成長速度の早さには秘密がある。俺が瘴気を取り除いて二倍以上の効果があるのに加えて、自分より格上であれば格上であるほど、ランクの上昇率はあがる。


 普通のパーティなら、自分より格の高い魔石=耐え切れない瘴気の魔石なので、意外に知られていないことだ。

 だからこそ、ここまでいっきに成長した。


「でも、良かったの? 私達が全部使ってしまって」

「構わないよ。俺にはこれがあるから」


 アンネの言うとおり、イノシシの化け物の魔石以外はすべて二人に使った。

 その変わり、とっておきは俺のものにしてある。俺はポシェットから、イノシシの化け物の魔石を取り出す。この階層の数十匹分の瘴気を使って現れた異常個体。

 ランク1最上位の魔石だ。これを一つ使えば他の全魔石を使うよりも効果が大きい。


「どうしてそれを使わないのかしら?」

「【浄化】をする魔力が足りない。クーナたちのために魔石を【浄化】するのにだいぶ魔力を使ったのもあるし、自分より上位の魔石の【浄化】は数倍の力を使うんだ。これを【浄化】しようと思ったら、ベストの体調で、魔力がまんたんでないと辛いし、出来たところで魔力がすっからかんだ。一日やそこらじゃ回復しない」


 そして、さすがに魔力を空にするのはかなりの危険を伴う。

 少なくとも、今回の探索でこの魔石を【浄化】するつもりはない。寮に戻ってからゆっくりと行う。


「そうなの。残念。今より強くなったソージが見れると思ったのに」

「それは、またの機会に。……それより、俺に頼みたいことがあるんだろう」


 俺の言葉を聞いてアンネは目を丸くした。


「よくわかったわね」

「まあね」


 だいぶ付き合いも長くなってきた。それにもともと観察眼には自信がある。


「【斬月】。ソージとの威力の差が気になるのよ。今日、イノシシの化け物を解体するときに使ったところを、見ていたのだけど、ソージと私、使った魔力は大差がない。斬撃の概念強化も、うまく出来ていた。差があるとすれば、純粋な剣の腕。そこで差がついていることが許せない」


 アンネは白くなるほど強く拳を握りしめた。

 その気持はわかる。彼女は生粋の剣士だから。


「わかった。実践しよう。口で説明するよりも体で覚えたほうが早い。今から稽古をする元気はあるかな?」

「もちろん。よろしくするわ。ソージ。……いいえ、師匠」


 アンネは、剣を教えるときだけ師匠と呼ぶようにお願いしている。さすがに四六時中師匠と呼ばれるとくすぐったくてやり辛い。


「じゃあ、がんばろう」


 そして俺達はテントの外に出た。

 ここで俺は彼女の最大の欠陥を口にしないといけない。それは、彼女の今までの積み重ねを否定することにもつながる。

 それでも、アンネが今以上の強さを求めるなら、それは避けては通れない問題だ。


「あの状態のクーナを一人で残して大丈夫かしら?」


 アンネの心配はもっともだ、腰砕けになって、色気を振りまいているクーナを見て、理性を保てる男はそうそういない。


「心配いらないよ。テントの中に俺たち以外の誰かが入れば罠が作動するようになっているから。俺の特製魔術だよ」


 侵入者は後悔することになるし、すぐに俺が侵入者に気が付ける仕組みだ。


「いつのまにそんなものを用意したのかしら」

「秘密。今は剣のことだけを考えよう」


 首をかしげるアンネと共に、俺は歩き出した。 

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