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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第一章:地下迷宮への挑戦
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エピローグ:探索の準備

「ほんとうに、このまちの商業区は活気がありますね」

「ええ、オークレール領。かつての私の領地もここまでの活気はなかったわ」


 テントや最低限の干し肉、水筒や塩を購入するために商業区に来ていた。

 普通の店のほかにも屋台や露店が山ほど並んでいる。


「魔石や魔物の有用な素材目当てにいろんな国や都市から人が来て、そいつらは来るときにいろんなものを売りにくるんだ。おかげで世界中のものが揃うから、それ目当ての連中も来るって、感じで」


 封印都市の異様な発展の理由がそれだ。

 今じゃ、買いたいものがあれば封印都市に来れば揃うとまで言われている。


「ソージくんって物知りですよね。まるでおじいちゃんみたい」

「クーナってたまにナチュラルに心抉るよな」

「そんなことないですよ。故郷のエルシエでは、お嫁さんにしたいランキング一位を三年ぐらい維持していました。きっと、クーナちゃんの気配りが評価されたのでしょう。えっへん」


 クーナなら、婚したいと思う男がいくら居ても不思議じゃない。逆に今まで浮いた話の一つもないのが不思議なぐらいだ。何か事情があるのだろうか?

 

 そんなことを考えながらエリンの町並みを流れる。

 封印都市になる前も、この街は商業都市エリンと呼ばれて栄えていたらしい。


「あっ、あのテントかわいいです。赤色ですよ赤色」

「どれどれ、あれはダメだな。防水性能が低そうだ。布の素材も悪い」

「なら、師匠、向うのはどう?」

「……いい素材だけで高すぎるな。予算は十万バルしかないしね」


 テントに使える予算は十万までと決めているが、アンネが指さしたのは大羊の魔獣、ストレイシープの代表を広げて作ったものだ。耐久性も防水性も優れているがもとの素材がもとの素材なだけに相当高い。


「難しいわね。十万だと特殊素材系は手が届かないし、普通の素材だと、耐久性に不安が残るわ」

「そうだね。さすがに十万は無謀だったかもしれない。……効率は落ちるけど、お金がある程度たまるまでは日帰りにして、テント代がたまってから潜るのいいかもね」


 それが現実的だろう。

 今自由に使える金がほとんどない。無理をせずに金を稼いでからいいものを買おう。

 寝袋だけで潜るという手もあるが、やはり壁と天井があるのとないのでは安心感がぜんぜん違う。

 いや、いい方法がある。


「クーナ」

「なんですか?」

「あの四位の人をパーティに入れるかわりに、テントを買わせるのはどうだろうか? 金持ちそうだし、クーナと一緒に寝れると張り切って大枚をはたいてくれるだろう」

「焼きますよ? わりと本気でいらっと来ました」

「悪かった。言っていい冗談と、悪い冗談がある」


 さすがに今のはない。むしろ、俺がクーナと四位の人が一緒のテントに居るのは男として許せない。

 俺があやまるとクーナは、苦笑いしてから口を開いた。


「冗談ならいいです。でも、こんなことは二度と言わないでくださいね。ソージくんにとって、私はどうでもいい女の子だって疑っちゃいますから」


 クーナのその言葉に胸が高鳴った。クーナの怖いところは無意識に男を誘惑する小悪魔っぷりだと常々思う。


「ソージ、ほら向こうにもテントがあるわ」


 そうやって呆けていると、アンネに手を引かれてしまった。


 ◇


「おい、兄ちゃん! 兄ちゃん!」


 クーナに、四十ぐらいのお腹が出た気の良さそうなおじさんに呼び止められた。


「なんでしょうか?」


 客引きかと思うが、一応愛想よく笑顔を浮かべる。


「ああ、やっぱり、今年の入学試験でランク2に勝った兄ちゃんだ」

「見に来ていらしたんですか?」

「おうよ。毎年入学試験は見に行っているんだ。今年は兄ちゃんと、色っぽいキツネの姉ちゃんのおかげで楽しめた……って、すげえ、キツネの姉ちゃんもいるじゃねえか」


 クーナをじろじろと無遠慮な目で見る。

 確かに、あのときのクーナは美しく、荘厳で、……エロかった。


「そんなじろじろ見ないでください」


 クーナは胸元を抑えて俺の後ろに隠れる。最近気が付いたのだが、クーナは苦手な人が現れるととりえあず俺の後ろに隠れる癖がある。


「おっと、わりいわりい。いやー。ほんとでけえし揺れるし、気になってしょうがなかったんだ」


 クーナは顔を赤くして涙目になってきている。


「あの、あんまり俺の仲間をいじめないでください。用事がないなら行きますよ」


 時間の無駄だし、クーナの落ち着かない様子を見ていると少しでもここから離くなってくる。


「待った、待った。本題に入らせてくれ。実は俺は兄ちゃんに賭けたおかげで大儲けできたんだ。倍率三十倍だぜ、三十倍、賭けた十万バルが三百万バルよ。キツネの姉ちゃんにも良いもん見せてもらったし、サービスしてやろうと思って声をかけたんだ。自慢じゃねえけど、いいもん揃ってるぞ」


 確かに魅力的な提案をあるのだが……ちらりとクーナのほうを見る。


「クーナ」

「いっ、いいでしょう。サービスしてくれるなら、見ていきましょう」


 一応、クーナに声をかける。彼女が立ち去りたいならそれでよかった。

 クーナが大丈夫と言ったのなら、サービスを受けようと決めた。今は少しでも節約したい。


「では、お言葉に甘えて見せていただきます」


 店の中に入って商品を見ると品数は少ないが、いい物が揃っている。店主の目利きがいいのだろう。安い値段のものはないが値段以上の価値があるものばかりだ。


「すごいな、クラナリサの鈴、殻をつぶさずに剥がしてあるし、状態もいい。細工も上々だ。ロリナバタの水筒も火入れとなめしがしっかりされているし、ここまで丁寧な縫製がされているは珍しい」

「おっ、兄ちゃんいける口だね。その二品は自信をもって進められるよ」


 ロリナバタはゴムのような性質をもつ樹液が取れる木だ。手間暇かけて適切な加工をすればゴムよりも丈夫で伸縮性がある、軽く理想的な水筒になる。

 これなら、地下迷宮探索でも問題なく使用できる。

 水筒は重要だ。耐久性の悪いものを購入して、水筒が壊れて水が持ち運べないなんて最悪だ。


「ロリナバタの水筒を三つ貰おう」

「あいよ。三つで一万バルにまけてやる。定価の三分の一以下だ」

「ありがたい」


 これほどの品なら一つ二万バルはとられる。店からみたら原価で放出した形だ。サービスというのは嘘ではないようだ。


「で、兄ちゃんはもともと何を買いに来てたんだ」

「水筒とテントですね。テントは予算が十万バルしかなくて、諦めて金を貯めてからにしようかと」

「ああ、十万バルじゃきついわな。……しゃあない。特別サービスだぜ」


 店主はそういうと、奥に引っ込んできて、円形のカバンを持ってくる。


「こいつは、売り物じゃねえ。俺が探索者時代に使ってた逸品だ。十年ぐれえ使っていないが、質はたしかだぜ」


 外に出て店主はテントを広げる。目で触れと促されたので質感で素材を確かめる。


「これは、アマユキウオの皮じゃないですか」

「ほんと兄ちゃん何者だよ!? そうだ。防水性、耐久性、保温性、軽量性、どれをとってもこれ以上の素材はねえ、骨の部分も魔鋼で作られている」

「適正価格は、百万バルってところですね」

「まあな、多少の傷もあるし、変色もある。それを考慮してそんなところだ」


 もし、新品であれば百五十万バルはするだろう。

 だが、中古とは言え、保存状態もよく、手入れをしながらなら、数十年使える。


「これを兄ちゃんになら九十万バル。それもツケで売ってやる。前金で十万バルもらうが、残りは月に二十万もらう。利子はつけない。これでどうだ?」

「探索者相手にツケなんて正気ですか?」


 思わず、声に出して驚く。

 探索者は明日死んでもおかしくない職業だ。高利貸しですら担保なしでは貸し渋る。ましてやツケでの購入なんて考えられない。


「まあな。でも兄ちゃんは絶対に大成すると思うんだ。そんな気がしたからランク2との戦いでも十万バルぶち込んだ。兄ちゃんが死んだところで、もう三百万稼いでるから懐も痛まねえ。どうだ?」

「買わせていただきます。残りの金額も早いうちに」

「おうよ。ここまでしてやったんだから今後もうちを贔屓しろよ。それを見越しての値段とサービスだ」


 商売人だけあって、なかなかしたたかだ。

 だが、信用はできる店であることは間違いない。今後も付き合っていただきたいと思う。ただし……


「俺のパーティをいやらしい目で見ないなら」

「そりゃ……まあ、努力するよ」


 俺は、店主と笑いあう。

 予想外の高い買い物だが、これほどのものが手に入れられれば満足だ。

 これで、迷宮探索の準備が終わった。

 ここから俺たちの本当の冒険がはじまる。


ここまでで一章の導入部が終了です。

次回から、ダンジョン探索を本格的にしつつ、アンネの父親の罪と、彼女の魔剣に踏み込んだストーリーが始まります。

それでは、これからもチート魔術にお付き合いください

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