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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第一章:地下迷宮への挑戦
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第二十八話:ランクアップ

「魔石の【浄化】をはじめる。とは言っても、そこまで派手な見世物じゃないんだけどね。そもそも、どうして魔石を浄化するかを覚えているかな?」


 俺たちは街で食事を終えてから寮に戻り俺の部屋に集まっていた。

 【浄化】の魔術を今日行いたかったので酒は入れていない。


「はい、覚えていますよ。レベルの高い魔石を吸収すると死ぬのは、一緒に取り込んだ瘴気に耐えられないからって」


 クーナが、はいはいと手を上げて発現する。キツネ耳がぴくぴくと動いていて可愛らしい。


「そうだよ。人間にとって瘴気は毒だ。それに、瘴気と魔石の成長させる力が干渉しあうせいで、本来の半分も力にできないし、吸収したとしてもダメージを受ける。だから探索者たちは地下迷宮内では魔石を使わないし、一日一つ以上、魔石を使わない」


 いくら自分が耐えきれる魔石だとしても何個も使えば瘴気が溜まり、からだの回復が追いつかなくなる。それは自らのパフォーマンスを著しく下げる。

 だから、魔石を使うときの基本は、まず専門の知識をもったものに魔石を使って耐えうる体がを検査してもらってから、一日一つを安全な場所でと決まっている。

 効率が悪いことこの上ない。


「だからこその浄化と言うわけですね。瘴気を完全に取り除きさえすれば、二倍の効率で吸収できるし、瘴気で傷つかないからいくらでも一度に使える。それに、その気になれば地下迷宮内で、手に入れた直後に使って強くなれるってわけですね」


 クーナは理解が早くて助かる。思考が柔軟だし、頭もいい。


「その通り。これを見つけたとき、俺たちは歓喜したね。革命だって騒いだ」

「確かに革命ね。今までの探索者の数十倍の早さで強くなれるわ」

「ソージくんって敵の出現場所も予測して、狩りも人の数十倍の効率だし、ソージくんが居るだけでパーティがすごいことになっちゃいます。もう、一パーティに、一ソージくんが必須ですね」


 確かに俺と同じ方法をとれる魔術師がすべてのパーティに居れば、狩りの効率は飛躍的にあがり、次々に高ランクパーティができあがるだろう。


「その言い方は引っかかるね。で、前置きはここまでにしよう。【浄化】」


 俺は意識を集中する。

 【浄化】は工程数が多いので演算時間が長い。

 おおよそ、六十五秒。脳の負担を抑えるためにあえて演算速度を落として時間をかけているとはいえ、異常だ。単純な工程数なら【空間破壊】を上回る。


 特定の魔力波長をあて、構成を変異。一度固形から流動体に戻す。その状態で高速の魔術循環で、魔力と瘴気に分離。俺の魔力の照射パターンを変えながら徐々に固形に戻していく。最後に漉して完成。

 もともと、黒い靄がかかった緑の魔石が、きれいなエメラルドグリーンになり、黒い豆粒のような瘴気の塊があらたにできる。


「はい、完了」


 魔力消費を確認する。

 以前のシカの化け物のときは、魔石も強力なものだったので消費が大きかったが、この程度の魔石なら、二十ぐらいは一日に処理可能だろう。

 自らの【格】より、上であれば上であるほど指数関数的に消費魔力は跳ね上がるが、格下の魔石であれば消費は極めて少ない。


「相変わらず、すごい魔術です。早いし、工程数が多いので、理解できないですけど、すごいってことだけはわかる魔術です」

「そうね。これ術式を覚えていてもまねできないわね。これできるのたぶん、ソージだけよ」


 彼女たちの言う通り、これはホムンクルスのスペックと、魔術に対する高度な知識と理解がないと不可能だ。


「ちなみに、この黒いのはなんですか?」

「これは瘴気の塊だよ」


 俺は、魔石の隣にできた黒い粒をつまみ上げる。

 そして、ポシェットの中に保管してあった、シカの化け物の魔石を浄化したときに発生した黒い粒にくっつけ、魔術を起動して、一つにする。

 黒い粒が一回り大きくなった。


「そっ、そんなものどうして持っているんですか!」

「人間にとって毒でも、毒なら毒で使い道があるんだよ。それに、魔物を生み出すほどの力であることには変わりがない。俺なら利用できる。大事な切り札の一枚だ」


 例えば、瘴気の塊を人間の体に撃ちこむのはかなり有効な戦術だ。ランク2との先輩との戦いの際に実行していれば、それだけで勝てる可能性があるほどに。

 だが、あの時はひと目がありすぎた。この戦法を晒すつもりにはなれなかった。

 そして、瘴気という魅力的な力の利用法。それについてはプレイヤー間だけでも徹底的に研究されている。俺はゲーム時代、その分野についてはトップランナーで、一つの到達点とも呼べる魔術を作り上げている。正真正銘の俺の切り札たる魔術を。


「瘴気のことは置いとこう。さっそくだけど、魔石を使ってみて、まずはクーナから」

「でっ、では、クーナ行かせていただきます」


 おそるおそるといった様子で魔石を額にあて、えいっ! とクーナは声をあげる。

 すると、緑の燐光を放ち魔石から立ち上った粒子がクーナの体に吸い込まれ、どんどん小さくなった魔石は消えた。


「すごいです。魔石を食べるときは気持ち悪いとか聞いてましたけど、ぜんぜん、そんなことない。すっごくぽかぽかして、充実して、気持ちいいです」


 クーナが不思議そうに自分の身体を抱きしめる。

 俺もクーナの言っている感覚はわかる。自分のランクが上がる感覚は快感だ。

 普通の探索者たちは、瘴気の不快感でその快感を味わうことができない。


「ほしいです。もっと、ほしいです。ソージくん、もっとぉ、もっとクーナにください」


 クーナが顔を赤くして潤んだ目で見てくる。心なしか息が荒い、

 魔石じゃなくて別のものをあげたくなってくる色っぽさだ。

 クーナは特に魔石に敏感な体質らしい。


「わかった。でも、次はアンネの番だよ。もっている魔石全部交互につかってあげるから、しばらくお預けだ」

「いじわるですぅ。クーナは今欲しいのにぃ」

「なぜかしら、クーナが妙にいやらしく見えるわね。それ、本当に使って大丈夫かしら」

「毒はないよ。すぐに慣れるから。あと、単純にクーナがいやらしいだけだと思う」

「そうね。クーナだもの」

「失敬な! あれっ、今私何を」

「気にすることないよ。ただ、クーナがいやらしくおねだりしていただけだから」

「ええ、とんでもない女狐っぷりを見せて見せてくれただけよ」


 突っ込みで正気に戻ったクーナをからかいつつ。俺は次々に魔石を浄化していった。


 ◇


「もっ、もう、らめぇれす。立てない」

「私も、クーナほどではないけどきついわ」


 浄化した魔石を六つも使ったクーナとアンネは俺のベッドでぐったりとしていた。

 なれない種類の快感に完全に腰砕けだ。

 俺にも覚えがある。自分の存在が強くなるあの独特の快感は慣れないうちは本当にやばい。繰り返しているうちに、あっ、気持ちいい。ぐらいにはなるのだが、初日に無理をさせすぎたか。


「ソージくん、今日はここに泊めてください。帰れそうにないです」

「そうね、もう、このまま眠ってしまいたいわ」

 二人ともそういうと、俺の布団にもぐりこんだ。

 中央に大きなスペースが空いている。三人で眠っていたときのくせで、ついそうしてしまうんだろう。

「それはうれしいけど、本当にいいのかな?」

「いいです。今ソージくんに送ってもらって私の部屋で二人きりになるほうが怖いです。アンネちゃんがいると安心できます」

「本当に信用ないな!」

「男はオオカミだってユキ姉様も言ってました。男を知らない行き遅れなのに、知識だけはあるんですよねユキ姉様」

「クーナはユキって人に謝ったほうがいいと思うよ」


 クーナからの返事がなくなった。

 完全に寝入ったようだ。

 俺は苦笑して二人の間のスペースに入る。 

 すると、クーナがだらしない、にへらとした笑顔で俺の腕に抱き付いてくる。

 相変わらず、いい匂いと柔らかさで俺の理性の限界を試そうとする。口では警戒しているといいまくっているが、クーナのガードはいつもゆるゆるだ。

 そんなだから、悪い男にだまされる。


「ねえ、師匠。前から思っていたのだけれど、師匠ってクーナにすごく優しいわよね。見てると恋人? いいえ、違うわね。まるで妹に接するようにしているけど何か理由があるの」

「前にも言わなかったかな? 知り合いに似ているんだよ」

「その知り合いは恋人?」

「違うよ。そうじゃない。しいて言うなら、仲間かな」

「そう、仲間。たまに思うの。師匠は私もクーナもいらなくて本当は一人で全部できるんじゃないかって」


 アンネは背中を向けているので、表情は見えない。


「そんなことはない。一人じゃ限界がある。少なくとも、俺一人ではどれだけ頑張っても勝てない化け物を知っている」


 ゲームだと思い込んでいた頃、圧倒的な実力を見せつけてきた大魔導士シリル。地下迷宮の生みの親にして世界で唯一のランク6。


「不安になるの。いつまでたっても追いつけないんじゃないかって」

「その心配はいらない。俺はね、俺の直観と人を見る目を信じている。俺にとってプラスになるからクーナとアンネに声をかけた。もし、その見込みが違ったら、俺の見る目がなかっただけだ。俺の失敗であって、クーナとアンネの失敗じゃない」

「優しいのか、厳しいのかわからない返事ね……えいっ」


 アンネがクーナが抱き付いている腕と反対の腕に抱き付いてくる。


「やっぱり照れるわね。あの子ほど天然になれないわ」

「いきなり、どうした」

「最近、負けたくないって思うの。いろんな意味でクーナに」

「そっか。頑張れ」

「私を応援していいのかしら」

「俺は二人とも応援しているよ」

「そう、そろそろ眠るわ。お休み」

「おやすみ」


 そして、少女二人の体温を感じたまま俺は眠りについた。


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