第二十六話:成果発表
制限時間が終わり、生徒たちが集合場所に戻ってきた。
一部を除いてみんな疲れきった表情をしている。制限時間ギリギリまで粘っているほうが少数派で、大多数はそうそうに戻ってきた。
そして、それぞれのパーティの成果を発表しあっていた。
だいたい、みんな即席のパーティをくんで対応しているせいで連携がうまく言っておらず、なおかつ狩りそのものがはじめてのものが多く、今までの最高記録は二つでゼロの組みも多い。
そして俺達の出番が来た。
「俺は、クーナ、アンネとパーティを組んで狩りをした。成果は三人で魔石が十二だ」
俺がそう口にした瞬間あたりがざわめく。
今までのグループとの差がありすぎて信じられないようだ。四時間で十二というのは学生ではなく、ベテランでも到底達成できない数字であることも驚きの一因になっている。
五百人で十分に五、六匹しかわかない魔物を取り合っているのだから、そんなものだ。
「十二! そんな数、フルメンバーの一流パーティでもこんな時間じゃ」
「嘘だろ」
「いったいどんなズルしやがったんだ」
なかなか騒ぎが収まらない。見かねたナキータ教官がごほんっ、と咳払いをすると、さすがに生徒たちは平静さを取り戻した。
「さっすが、特待生くん。君もっているね」
ナキータ教官がぽんぽんと俺の肩をたたく。
「恐縮です」
「いやいや、あまりにペースがすごいから途中からつけてたけど、君は勘がいいのかな。魔物が湧くポイントがわかっているように見えたけど」
「それは企業秘密です。ナキータ教官だって、人に言えない奥の手あるでしょう?」
「まあ、それもそっか。持っている魔術を無理やり聞くのはマナー違反だね。では、残りの諸君も、ソージのパーティを見習って励みたまえ」
ナキータ教官が明るく言うが、生徒の顔は晴れない。
実力差が大きすぎて受け入れられないのだろう。この学園に合格するぐらいだから地元では誰しも神童として扱われていたはずだ。
俺たち以外のパーティはさっそく、このフロアの洗礼を受けてへこまされていた。
どうしたって、経験の長いベテラン相手に好きなようにされてしまう。何組かは横槍を入れられて獲物をかっさらわれていた。
それが嫌なら、俺のように圧倒的な速さで横槍を入れられる前に倒すしかない。
「おっ、君もソージくんに比べると劣るけど十分すごいね」
ほかの生徒たちの成果発表を聞いていると、ナキータ教官が驚きの声をあげた。
他の生徒も、俺の時ほどではないがそれなりに驚きと尊敬の目でその生徒を見つめる。
「当然ですよ。この僕、ライルが本気をだせばこんなものです。パーティは組んでません。この僕が組むべき人は一人だけですから!」
その生徒は四位の人……ライルだった。
彼は二つの魔石を高く掲げる。
数自体は少ないが、単独で二つというのは十分すごい。
一人では索敵範囲も、殲滅速度も大幅に落ちるうえに、リスクも高い。
そんな状態で、ベテランが群がるこの階層で二匹も倒したのは賞賛に値する。
ランクの上昇ぶりからすると、この学園に入る前から探索者として活動していたのだろう。
そこから数組のパーティの報告を聞いて、休憩時間となった。しばらくこの場で情報共有してから迷宮を出て今日は終了となる。
「我が姫君、愛しきクーナ様、私はこの魔石をあなたに捧げます」
休憩がはじまると同時に、クーナのもとにライルが来て、跪きながら魔石を差し出してくる。
「いえ、いいです。父様から知らない人にプレゼントをもらっちゃいけませんって教えられていますし」
クーナはぷいっと首を背ける。もともとアンネをバカにされて敵意を持っている上に、付きまとわれてだいぶクーナはライルに悪感情を持っている。
「……しっ、知らない人」
ライルはわりと本気で落ち込んでいるようだ。
好きな女の子にそんな態度を取られれば、傷ついて当然だ。だが、同情はしない。むしろ、俺も殺意を感じている。俺の前でクーナを口説くとはいい度胸だ。
「でっ、ではこれから仲を深めていきましょう。まずは私とパーティを組んで」
「嫌です。私は今のパーティが大好きなんです」
そう言いつつクーナは俺の後ろに隠れて袖をつかみ、顔だけを出す。
「そ、そんな」
打ちひしがれるライル。だが、彼はあきらめなかった。
「なら、ソージ。君がそのパーティのリーダーだな」
「そうだけど?」
「僕を入れろ。そうすれば、四人。理想的な人数になる。それに僕は」
ライルは剣を引き抜く。
「強く!」
ドヤ顔を浮かべて剣を振り下ろす。
「賢く!」
手のひらを天に掲げて【火炎球】の魔術を放つ。
「美しい!」
なぜか、胸ポケットから櫛を出して髪を梳いた。
「どうだ。こんな僕がパーティに入るんだ。断る理由はないだろう!」
なるほど、今のはアピールか。
剣の心得も魔術の心得もあるということを示したかったのだろう。
「ううん、剣は一応、ぎりぎり及第点、魔術は落第かな。美しさは必要ないし。不採用」
俺は極めて冷静に判断する。
どんなに優れていも不合格にするつもりだったが、これなら普通にやっても不合格だ。良心が傷まずにすんだ。
「なんだと!」
「それにそもそも、俺は男をパーティに入れるつもりはない」
「なぜだ!」
「クーナとアンネに悪い虫が付いたら大変じゃないか。俺は彼女たちを気に入っているし、そうでなくても可愛い女の子がほかの男といちゃつくのは精神衛生上よろしくない。そうなる可能性は芽のうちに摘む!!」
そう、俺は絶対にパーティに男は入れない。
クーナやアンネと同じテントで寝ていいのは俺だけだ。
そんなことを考えていると、パシンッと後頭部をはたかれる。
「痛いじゃないか」
「ソージくん、朝、私が目の前でいちゃつかれたらいらってするって言ったら、反論しておいてそれですか」
「師匠、私は師匠になら何をされてもいいのだけれど。今の発言は複雑な気持ちになるわ」
「すまなかった。ちゃんと実力が見合えば男でもパーティに入れるよ」
口には出さなかったが、それはもうきつい条件をつける所存だ。
「なら、僕を入れるべきだ! こんな掘り出し物はなかなかないぞ!」
「あの、ソージくん、彼は生理的に無理……ごほん、人間性に問題があるので、面接NGということにしませんか?」
「クーナ様!?」
「いや、それはかわいそうだろう。ちゃんと試験をしようか、わかりやすく行こう。俺にその剣で勝てばパーティ入りだ」
「単純でいい。僕を兄と一緒だと思わないことだ。クーナ様への愛の力見せてやる」
俺は【魔銀錬成:壱の型 槍・穿】で槍を作って構えにこやかに笑った。
◇
適当に四位の人をぼこった
同じランク1の中位ならまず負けない。年季が違う。こっちは槍を使い始めて百年だ。
そもそも剣相手に負けるつもりはない。槍と剣では圧倒的に槍が有利なのだ。
「あの、ソージくんだよね、コツ教えてよコツ」
「抜け駆けするなよ。俺も知りたい。ベテランどもに横取りされたのが悔しくて仕方ないんだ」
四位の人をぼこったあと、休憩時間には十分余裕があったので、ほかの生徒たちが集まってくる。
よほど今日は悔しい思いをしたのだろう。熱心に俺の教えを請うている。はっきりいって浅い階層だと魔物は対して強くないので、むしろ人間への対処が重要だ。そして、そのことを学園では教えない。
俺は仕方ないので、そのレクチャーをすることにした。
「だれより早く見つけて倒すってことに集約するんだけど、そのためには視界を広くしないといけない。目に入るものを浅く、だけどちゃんと見るって意識だね。あとは間接視野、たとえば茂みが揺れたらその奥に見えないけど居るって認識しないと」
俺は、懇切丁寧に対応する。
この中には、いずれ才能が開花して俺の役に立ってくれる人材が出てくる可能性がある。
それに、上級生をぼこったので、下級生の人望ぐらいはあつめておかないとダメだろう。
そんなことを考えながら、生徒たちに【低層フロアのこつ~ベテラン探索者の罠~】というタイトルで講義を行った。




