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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第一章:地下迷宮への挑戦
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第二十五話:地下迷宮の洗礼

 ナキータ教官が魔物との戦いと言った瞬間、場の温度が上がった気がする。


 それも当然だ。

 この場にいるほとんどが、在学中に魔物を山ほど狩って、魔石をたくさん手に入れランクをあげ、卒業時にはランク3となり名誉貴族になることを目的としている。

 魔物を倒すことには人一倍興味があるやつばかりだ。


「でっ、このフロアを見てみんな気が付くことはないかな?」


 ナキータ教官が問いかけ、俺は手をあげる。


「おっ、期待の特待生くん、君は何が気になった?」

「人があまりにも多すぎる。魔物より多いぐらいだ」

「正解。そう、浅いフロアほど人が溢れているんだ。だって、ランクの低い魔石でも十分お金になるからね。わざわざ危険な深い階層に行く人は少ないの」


 強すぎる魔石は人を選ぶ。だれでも使えるような弱い魔石ほど需要が大きい。

 この都市の外には、ランクをまったくあげていない人間が無数にいる。低ランクの魔石はいくらあっても足りない。


「浅い階層ならすぐに地上に戻れるし、魔物は弱くて安全、お金も稼げる。普通の人は深い層に潜る意味がないのよね」


 なら、どうして、深く潜る連中がいるのか。

 それは強くなるためだ。価値の低い魔石でも本当に微々たるものだが力は上がり続ける。とは言っても、それでは効率が悪すぎるので、強い魔石を必要とする。


「でっ、一応この都市もその状況を改善するために、ランクの低い魔石を都市の外にもっていくときにすっごい税金をかける代わりに、そのお金でランクの高い魔石を探索者から高額で買い取ったりしているんだけどね。国としては、強い魔物をどんどん倒してくれないとエルナが溜まりまくって、いつか手のつけようのない化け物が生まれるし」


 彼女の言う通り、地下迷宮の最奥の装置が無制限にエルナを集め続けている。

 魔物を倒すという行為によってエルナは発散されるが、浅い階層の雑魚だけなら焼石に水にしかならない。どんどん深く潜って、強い魔物を倒していかないといつか破たんするだろう。


「あとはね、ほら、あれ見て」


 彼女が指さしたところには、1mほどのサイズのカタツムリの魔物が生まれていた。

 文字通り生まれたのだ。


 何もない空間に黒い靄が集まって魔物を形作る。

 カタツムリのところに三組の探索者のパーティーが血相を変えて駆け寄る。


 もっとも近い位置にいた男が剣を振りかぶる。

 その瞬間、二組目のパーティの男が矢を放ち、矢は剣がカタツムリに触れる前に届いた。


 一番近い位置にいた男は舌打ちしてから、後ろを振り向くと、攻撃をやめて大きく手を広げてカタツムリの前に体を差し出す。


 カタツムリは触手を伸ばして、男を攻撃。男はニヤリとして剣を振り下ろしてカタツムリにとどめを刺した。

 そこに、剣の男と、弓の男のパーティが到着、激しく言い争いになり、やがては殴りあいの喧嘩に発展した。


「すごいよね。こんな高度な駆け引きを見られる君たちは相当運がいいよ」


 ナキータ教官の言葉に俺は苦笑してしまう。


「地下3階まではランクを上げる気がない低級探索者がすっごく多くて、あんな魔物の取り合いばっかりなんだ」


 なにせ、この階層を見たら、どう見ても魔物よりも人間のほうが数倍多い。

 魔石を稼ぐためには必然的に魔物の奪い合いになる。


「今のを解説するとね、最初に攻撃を加えたパーティが、優先的に獲物を確保できるってルールがあるんだよ。だから、剣が振り下ろされるよりも前に、矢を放って優先権を弓使いのパーティが獲得。でもね、優先権って言っても襲われているときは反撃しても仕方ないってルールもあるんだ。だから、あの剣士はわざと魔物に自分を殴らせた」


 生徒たちはあまりのせこさに言葉を失う。


「あれは結構露骨だったね。でっ、二組が戦闘に参加した場合はとどめを刺したほうが魔石をゲットで一応、剣の人が魔石の所有権を手に入れたのだけど、弓を撃った人はわざとだって言って、剣の人は射線上に人がいたのに弓を放つなんてマナー違反だってお互いにケチつけまくって喧嘩しているわけ。ねっ、面白いでしょう」


 だれも何も言わない。

 ここに居る生徒たちは多かれ少なかれ探索者に憧れを持っている。

 それが幻滅に変わりつつあるのだ。


「教官としては君たちがあの場に加わらないことを祈っているよ。さっさとランクをあげて、人が少ない階層で頑張ってほしいね。あと、注意点」


 教官が指を立てる。


「あくまで、エルナの集積装置から遠くて、エルナ濃度が薄いから強い魔物が発生しにくいってだけで、深い層から昇ってくる魔物もいるし、突然変異みたいに、濃度の薄いところでも数匹分のエルナを使って強い魔物が現れることがある。そういうのを見たら絶対に逃げること」


 実際、俺はかつてそれで死んだことがある。

 階層に見合わないほどの化け物。

 探索者の大きな死因の一つだ。


「そして逃げつつ、銀色の腕章をつけている人たちがいる入り口を目指せ。地下5Fぐらいまでは、ランク2~3の門番が、上の階層に強いのがいかないように見張っているし、突然強い魔物がいても対処してくれる」


 なにせ、今この場にランク2相当の魔物が現れたら、この場に居る雑魚専門の小遣い稼ぎ連中はほとんど皆殺しになる。

 そうならないように浅い階層にはおもりとして、銀色の腕章をつけた門番が用意されている。


「じゃあ、先生からの説明はおしまい。それじゃ、みんな頑張ってきてね。今日は、私が面倒を見てあげるよ。即死じゃなければ助けてあげるから安心してね。一つ、いい忘れた。この階層だと魔物よりも人間のほうが怖いかな? いってらっしゃい」


 教官の合図が終わってから生徒たちは解散した。


 ◇


「さて、クーナ、アンネ。今日の目標は魔石を十かな」

「これだけ人が居たら無理ですよ」

「そうね。さすがに、無理よね」


 地下1Fは縦にも横にも端から端まででだいたい20km程度しかない。

 そこに今は五百人以上の人がいる。 


 魔物が沸くのは、このエルナ濃度ならだいたい十分に五匹程度だろう。


 ここに居られる時間は、おおよそ四時間、五百人を出し抜きつつ、たった120匹のうち10匹、おおよそ10%を確保しないといけない計算になる。


 隠れている魔物は計算に入れていない。あいつらは魔力にひかれる性質をもっており、自分から探索者を襲うので、生まれた瞬間に見つかってしまう。


「それは正攻法でやればだろ、俺なら生まれる前に出現場所がわかる魔術を使える」

「……ソージくんってもう、存在そのものがズルですよね」

「さすがソージ。私の師匠なだけはあるわね」


 エルナが集まって魔物が生まれるので、エルナの変動パターンから予測できる。エルナの濃淡と流れに規則性がある。数百万件以上の統計をとり解析してようやくその規則性を発見することができた。ゲーム時代のイルランデのプレイヤーたちの血の涙の結晶の魔術だ。

 おおよそ、魔物の発生の五分前には魔物の出現が確定する。

 

「でも、そんな便利なことができる魔術があるのならどうして広まらないんでしょうね」

「実際試した人はいるけど、本当に繊細で難しい魔術だから完成には至らなかったんだろうな。それに、できたとしても、そんなのを広めるわけがない。これを自分だけが使えるから他人を出し抜けるんだ」

「ううう、人間醜い、人間汚いです」

「そういう、クーナだって、受験のとき過去問利用してずるしたじゃないか」

「おじいさん、それは言わない約束ですよ」

「だれがおじいさんだ!」


 俺はクーナに突っ込んでから、集中力を高める。


「【エルナ詠み】」


 魔術により、エルナの分布が鮮明に浮かぶ。エルナの動きから判断、この場所には五分以内には魔物が発生しない。


「クーナ、アンネ、この場所には五分は魔物が発生しない。走るぞ。探知範囲が500mしかないから走りながらじゃないと効率が悪い」

「地味に不便ですね」

「気合で、百倍ぐらい効果が広まらないかしら?」

「できるか!」


 さすがにそこまですれば俺の演算能力が限界を超える。実は500mでもかなりいっぱいいっぱいだ。

 俺は二人の戯言を無視しながら走る。


 そうやって高速で移動しながら、五分以内に魔物が発生する場所にあたりをつけていく。そして、十分ほど走ったころ、ようやく最初のポイントにひっかかった。


「よし、ここだ。二分二十秒後にここで魔物が発生する」

「なんか、もう、ソージくん、血眼で探し回っている五百人の一般人さんに土下座したほうがいいぐらいの便利スキルですね」

「なんとでも言え。【魔銀錬成: 槍・穿】」


 俺はあらかじめミスリルを槍に変えて構えておく。

 エルナの動きが活発になる。空間の切れ目にエルナが流れ込んできた。

 やげて、目で見えるほどにエルナが濃くなり瘴気が立ち込め、魔物が実体化する。


「はっ!」


 その瞬間、俺の槍が突き出され、カタツムリの魔物の柔らかいところに深く突き刺さった。


「【雷撃】」


 伝導性のたかいミスリルでできた槍は俺の手のひらから生み出された雷撃を効率よく流し、体内からカタツムリの化け物を焼く。魔物を楽に倒す際の常套手段だ。どんな魔物も体の中までは鍛えられない。硬い外皮を槍で貫いたあと電気を流し込めば、ほとんどの魔物を瀕死に追い込めるのだ。


「はいっ、いっちょあがりっと」


 一匹目に移動時間を含めて十五分二十秒。まあ、上々だろう。

 俺は焼きカタツムリの殻をはぎ、心臓部分にある魔石を手早く抉り取る。


「さあ、次いこう、次」

「ソージくんって、本当に地下迷宮はじめてですか、見てて怖いぐらいに手馴れているんですが」

「師匠ならこれぐらい当然よ。剣を極めれば何でもできるわ」

「「それはない」」


 俺とクーナは剣馬鹿に突っ込む。


「一応、事前の勉強はたくさんしているんだ。次は、クーナに倒してもらう。その次はアンネだ。結構、探索系の魔術は魔力を食うから、討伐は二人に任せたい」

「了解です。クーナちゃんの華麗な炎で、灰にしちゃいますよ」

「魔石は壊すなよ」

「前向きに努力します」

「そのフレーズは不安になるんだが」

「私も全力を尽くすわ。師匠の前で無様は見せれないもの」


 そうして、俺の出現場所予測の魔術をフル使用した俺たちは、四時間の間に予定数を超えた十二匹の魔物を狩ることができた。


 これを浄化して効率をあげて使えば、クーナかアンネ、どちらかをランク1の中位に引き上げることができるだろう。 

 俺たちのパーティはこの圧倒的な索敵能力と、浄化による超効率ランク上昇で一気にかけあがっていく。今日はそのことに対する確信がとれてよかった。

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