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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第一章:地下迷宮への挑戦
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第二十四話:地下迷宮

「ほら、みなさん。今日は地下迷宮の探索実習ですよ。実習なんて生ぬるいものは最初で最後なので気をつけてね。今日の実習で得る知識と経験が今後の皆さんの生死を分けるのでそのつもりで」


 妙に若々しい俺たちのクラスの担当教官のナキータ教官が声を張り上げた。

 今は地下迷宮を管理している建物の一角に平民クラスの五十人が揃っていた。


 地下迷宮は万が一、魔物が漏れ出てきてもいいように、街の中でも、もっとも壁が分厚いたてものが入口の上に建設されており、常にランク3以上の騎士が常駐している。


 事実、年に数件は地下迷宮から地上にでてくる魔物がいて、ここで常駐騎士が打倒しているのだ。

 その仕事はエルナを封じ込め他の土地に魔物がわかないようにするこの都市の存在意義そのものだ。


「じゃじゃーん。これが地下迷宮の探索許可証。紛失すると入れないから注意してね。あと、街中ではあんまり露出させないように、すられたり、強奪されたりは日常茶飯事だから」


 ナキータ教官は生徒たちに首から吊るす許可証を配る。

 やっとか。俺は期待に胸を膨らませた。

 それを得るためにこの学園に入ったと言っても過言ではない。普通に探索許可証を得ようとすると一年はかかってしまう。


「もし、それをなくしたら?」


 俺は念のため聞いておく。

 どれだけ気をつけようと地下迷宮のような危険な場所にいれば紛失する危険も、壊される危険もある。

 さらには強奪に備えるといっても相手が格上であればどうしようもないこともあるだろう。 


「再発行はできるけど、九十万バル徴収だね。ちなみにこの価格は闇市で取引される価格の三倍が根拠ね。それより安いと売るバカな子が出るのよね」

「ありがとうございます」

 

 売る奴が居ると聞いて妙に納得した。特に平民クラスだと特に金にはがめつくなる。


「結構作るのにコストもかかってるしね。これ微妙に魔力が出ていてね。特別な魔術を使うと、500mぐらい先からわかるから救助が楽なのよね。ちなみに悪用されるから、その魔術は秘密」


 俺は、許可証を調べる。三十秒で仕組みがわかった。なるほど、通常の人間の感知できない超高波長の魔力を発している。これなら、種を知らないと検知できないだろう。

 だが、俺ならわかる。これを利用すれば人間から不意打ちを受ける機会は少なくなる。


「はい、じゃあ地下迷宮に入りましょうか。ちゃんと荷物は持った? 水と携帯食はみんなあるよね。ないと死ぬわよ」


 全員無言で頷く。実習は初めてだが入学してから今日まで座学で様々な知識を得てきた。


「では、この封印都市最大の存在意義。地下迷宮にご案内」


 そうして俺たちははじめて、地下迷宮に踏み出した。


 ◇


「なんですか、ここ、地下なのに明るくて、緑が生い茂って、絶対変です」

「そうね、気持ち悪いわ。もっと地下迷宮って、こうじめじめしているものだと思っていたわね」


 俺たちは地下1Fに踏み出した。

 クーナとアンネが呆れたような声をだす。


 そこは、天井が5mほどと高く、太陽がないのに日の光が溢れており、木々が生い茂り、小川が流れている。


 壁はなく、まるで森の中だ。

 何度見ても地下迷宮の風景には度胆を抜かれる。


「モンスターを生み出すエルナを使って、地下迷宮は成長していくんだ。その風景は、魔物と人間の心象風景を映し出すらしい」

「なんてめちゃくちゃな」

「でも、ひたすら暗くてじめじめしたいかにもな洞窟を潜るよりも楽でいいわ」


 さらに迷宮は、一定階数ごとにがらりと性質を変える。

 たとえば、地下9Fまでは、今の階層のように森の中といった様相だが、地下10Fからは火山の中のような様相を見せてくれる。


「はーい、注目、みなさんに注意があります。この様相を見て、なんだ水や食料なんて重い思いをして持ち込む必要ないじゃんって思う人って結構いるよね。だって小川は流れているし、美味しそうな木の実も実ってる」


 ナキータ教官が、生徒たちの顔を見渡すと何人かが頷く。


「でも、絶対にこの中のものは飲んだり食べちゃダメよ。試しに、君、君」

「へっ、僕ですか!?」


 気弱そうな少年が呼ばれる。

 一応、ここの試験を受かったのだからそれなりの実力者のはずだ。


「ちょっと、この水飲んでくれるかな。この量だと大丈夫なはず」


 ナキータ教官は、コップの三分の一ほどに水を注いで渡す。


「それを飲んで」

「えっ、はっ、はい」


 少年はコップの水を飲む。


「おえええぇぇえ、いっ、いたっ、お腹」


 そして顔を真っ青にして吐き出し、腹を抱えてもがき苦しむ。

 青い燐光が腹部から漏れ出る。加護によって治療されている証拠だ。


「こういうふうに、ここにあるものを飲んだり食べたりするとこうなるのよね。だから、食料と水は自分で持ち込むこと」

「せっ、先生ひどいです」


 なんとか、加護の力で回復した生徒が文句を言う。


「あはは、ごめんごめん、こういうの痛い目を見ないと覚えないし。一応ね、地下迷宮にあるものは、エルナ……魔物を生み出す力と一緒のもので作られているの。一度物質化したエルナは、普通の物質と変わらないけど、大量の瘴気があって、それは魔物以外には毒になるわ。地下迷宮の死因ってね。魔物よりも水と食料が尽きて、地下迷宮のものを食べて死ぬっていうのが多いらしいから、本当に気をつけてね」


 それはそうだろう。

 稼ぎを多くするために少しでも潜っておきたい。

 だが、持ち込める水や食料には限りがある。現地調達をしたくなるのが人間の性だ。


 危険だと頭でわかっていても手を出してしまう。


「でも、ぶっちゃけランク3を超えたあたりからは、耐性もできてきて、平然と迷宮のものを食べたり飲んだりするらしいからそこが一つの壁ね。そこまでいけば現地調達ができるから、効率が一気に跳ね上がるの」


 俺は苦笑する。今の俺たちはランク1だから多少の瘴気で体調を崩すが、ランクがあがればその程度はねのけられる。そうなれば迷宮の滞在時間も伸びるだろう。


 ……もっとも俺には【浄化】の魔術があるのでランク1からそれが可能だ。

 ゲーム時代では、食料を持ち込むのが面倒で、浄化した魔物の肉を食っていたぐらいだ。


「っていう雑学は置いといて、そろそろ本番かな。君たちが一番気になる魔物との戦いだ」


 そういってナキータ教官は笑った。

 いやらしい笑みで、きっと何かたくらんでいるのは間違いない。

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