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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第一章:地下迷宮への挑戦
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第一話:英雄

 自分の存在が遠くなっていく。魂が抜ける感覚だ。

 VRマシーンを使っていないのにいつもの感覚がする。

 ゆっくりと目を覚ます。


 気持ち悪いぐらいに真っ白な部屋。ここを見るのは六回目だ。イルランデでのはじまりの場所。


 異彩を放つ巨大な透明の円柱型の容器に俺はいた。容器の中には溶液が満たされており生温く粘ついた感触が肌を通して伝わって来る。


「初めまして魂の漂流者。僕が神だ!」


 見知った顔、ゲームではまっさきに会うキャラクター、桃色の髪をした中性的な少女。


「言葉はわかるかい? 一応、この世界の常識と、言語はプレゼントした。さあ、声を聞かせてくれたまえ、この世界での君の産声を」


 心底楽しそうに、自称神様は言う。

 俺は口を開く。溶液が口に流れ込むが不思議と息ができる。


「Hello,world」


 いつも、最初はそう言うことに決めていた。返事も予想している。

 神様はいつも、君の新たな人生に祝福があらんことをと返事をするのだ。


「いつも君はそれだね。たまには違うこといいなよ」


 しかし、予想と外れ、ゲームとはまったく違う台詞を神様は言った。


「ふふ、驚いた。今まではゲームだ。でも、ここからは違う。さあ目を覚まそう。現実を見るんだ。君が選んだ新しい人生を」


 円柱が割れ、溶液ごと俺が放り出された。


 ◇


「えっと、君のことは宗司と呼ぼうか? それとも君がよくゲームで使ってたカランドとでも呼んだほうがいい?」


 宗司は俺の本名。カランドが俺のゲームキャラ名だ。


「ソージでいいよ。もう、現実とこっちを使い分けるのはやめにしたいんだ」

「おっけー。わかった」


 神様はメモ、メモ、と言いながらわざとらしく羊皮紙に羽毛ペンで俺の名前を書く。


「さて、何から聞きたい?」

「とりあえずは、ここがゲームじゃないということが本当かを聞きたい」

「うん、本当。ゲームじゃないよ。君たちの言葉を借りると異世界かな?」

「そうか」

「すぐに納得するんだね」

「なにせ、VRマシーンを使わずにこんなところに連れてこられたら信じるしかない。それに、俺が信じたい」


 それに、どんな形であれイルランデに来られたのだから問題ない。


「ふーん。そう。他には? あと四分三十秒しかいないけど、時間内ならたいてい答えるよ」

「なんだ。その時間制限は」

「神様が人間に干渉するのには制限があるし、力を使うんだよ。君をこっちに連れてくるのにだいぶ力を使ったからね。あと四分十秒。それで僕は力を使いきって休眠する」


 なんでもないことのように、神様は朗らかに笑う。

 時間がないなら、質問の数を絞らないといけない。


「まず、ここが現実だと神様は言った。なら、俺が今までやってきたイルランデはなんだ」

「あれはゲームだよ。ただし、僕の力で作ったこの世界のシミュレーション結果。君たちはゲームでこの世界の未来を体験してきた。僕は運命と未来の女神だからね。けっこうそういうのが得意なんだ」


 そう言われて妙に納得ができた。

 イルランデは明らかにオーバースペックだった。


「なんのために、こんなゲームを作った?」

「この世界を救うために英雄が必要だったからだよ」

「意味がわからない」

「まあ、まあ、落ち着いて。順を追って話そうか」


 神様は仕方ないなぁとでも言いたげな生暖かい目を向けてくる。


「僕たち神は、あまり世界に干渉できないルールなんだ。英雄そのものを作れない。だから、まず英雄になりうるポテンシャルの肉体を作った。それが、その空っぽのホムンクルス。魂を作ることは規約違反だからまずは肉だけ。最高のホムンクルスを作るのに限界まで力使って、六年休眠しちゃったな。懐かしい」


 神様はペタペタペタと、愛おしそうにホムンクルス=俺を撫でる。


「それはおかしい。ゲームで散々使ったからわかるけど、このホムンクルスはけして強くない。成長しなければそこらのチンピラにも負ける」

「うん、そうだよ。もともと人間を逸脱するものは作れないからね。僕の作れるのは人間としては強い程度の器だけなんだ。でも、そんなの意味がない。だから、現時点の強さを捨てて、極限まで素質をもたせることにした。それなら、英雄になる可能性があがる」


「確かに、ホムンクルスは才能にあふれていたな」

「でしょ? でも、そうなると次の問題が出来て来たんだ。うまく成長させないと、この子の力を活かせない。才能は才能でしかないんだ。この子をいれる魂。それをどうするか悩んだ」


 それはわかる。二十万人以上プレイしていた、ゲームのときのイルランデでも、そのホムンクルスを使っても成功できなかった奴はいくらでも居た。


「そうか、だからゲームなのか」


 俺の中に一つの仮説ができる。


「たぶん、君の考えでいるとおりだよ。僕は実際に使わせれば、最高の魂が見つかると思った。君たちの世界ならゲームだと言うだけで、僕の選抜試験を違和感なく、数十万人単位で引き受けてくれる。僕はゲームと偽って、この世界のシミュレーションを君たちにさせた。そして、その中で一番うまく、僕の作ったホムンクルスを使えるのが君だった。だから、声をかけたんだ」


 なんて壮大な話だ。

 最高の素質を持ったホムンクルスを作り上げ、それに見合う魂を選ぶために、ゲームに偽装して、この世界の未来を体験させ、数万人の中から魂を選んだあとは、自らの世界に引き寄せる。


「面白い副産物もあったけどね。君たちが作り上げた魔術。こっちの世界で同等の水準まであがるのは三百年あとだよ。それはきっと君の助けになるはずだ。ゲームに偽装するときに、こっちの世界の大魔術師の意見を聞いて、情報交換とか、魔術開発の仕組みを作ったんだけど、大正解だったね」

「その魔術だけど、データベースにアクセスできなくなっているんだ」


 メニューを開いてデータベースにアクセスしダウンロードするのが常だが、それができない。

 魔術創造の仮想開発環境は頭に浮かぶが、どうしてもデータをとりに行けなかった。

 このままでは、プレイヤーたちが作り上げてきた無数の魔術が利用できない。


「それは心配しないで、君が言うデータベースに登録してある魔術も、情報交換されたデータも全て、君のそこに入っている」


 とんとんと神様は頭を叩いた。


「思い出して、君は知っているはずだ」

「あっ、あああああ」


 次々に情報の洪水が頭にあった。

 ゲーム内全てのプレイヤーが開発した魔術、そして蓄積された攻略情報。そして現実からもちこみゲームに登録した情報がすべて頭を駆け巡る。


「その体ならしばらくすれば勝手に情報を整理して、インデックスをつけてくれるよ」


 情報酔いをしている俺を尻目に神様はのんきにお茶を啜った。

 俺は情報を無理やり力でねじ伏せる。まだ聞かないといけないことがある。


「俺のゲームでの経験は正しいのか?」

「それは正しいとも言えるし、正しくないとも言える。あくまであれは僕がこの世界全ての情報を取り込んでの演算結果だ。当然ずれることもあるさ」

「最後に、なぜ英雄が必要だ。俺は何をすればいい」

「英雄が必要なのは、破滅が来るからだ。破滅の内容は言えない。神様の干渉制限って奴だ。君たちに体験させた、ゲームですら破滅という要素を抜いてある。君が何をすればいいかも言ってあげられない。これも神様の干渉制限。強いていうなら、誰よりも強くなって欲しい。それだけだよ」


 神様はそう言い終ると立ち上がる。


「そろそろ時間だ。僕は眠る。君がこの世界で幸せになることを願っているよ。色んな意味で君は僕の息子だから。あと、いつもの場所にお金は入っているから。おやすみ」 


 そして俺の頬にキスをして、微笑み……消えた。


「好き勝手なことを言うだけ言って消えたな」


 俺は頬を撫でる。まだ唇の感触が残っていた。

 やる気は出た。

 最高の才能をもった体に、現実世界での数十万人の英知の結晶。

 きっと、破滅がなんであろうと俺は乗り切っていけるだろう。


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