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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
最終章:チート魔術で運命をねじ伏せる
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第十四話:戦友

 瘴気を生み出す神様を追い込んだ。

 追い込まれた神様はついに、切り札の一枚を使った。

 前回、俺を敗北に追い込んだ手。

 かつてのライバルたちとランク5の魔物たちが敵として現れた。

 とんでもない、強敵だ。

 まともに戦えば、一分と持たない。


 だから、まともには戦わない。

 用意しておいた切り札を使う。

 俺は機械魔槍ヴァジュラに触れる。

 外殻に取り付けれたワイヤを思いっきり引くと外殻が超高速回転する。

 それにより、溜めに溜めた魔力が迸り、さらに魔力の質を理想上体へと変えていく。


「心、技、体とはよく言ったものだ。どれがかけても、満足に戦えない」


 前回、対峙したとき疑問に思ったことがある。

 本当に彼らは俺のライバルたちなのだろうかと?

 姿形と知識、スペックが同じだけなら大した脅威ではない。


 経験と心が伴わなければ、強さはただの張りぼてとなる。

 そう思い、確認した。

 彼らは本物だった、経験と心まで完全に再現されている。

 心と経験まで存在していれば、話せばわかってくれる。

 人形じゃなく、人なのだから。


 だからこそ、彼らの心に届く魔術が必要だと考えた。

 ユーリ先輩に救われる直前まで、彼らを操る力の正体を突き止め、打ち破るためにもがいた。

 あのときは間に合わなかったが、ここに来るまでに完成させた。

 その力の名は……。


「【解放リリース】」


 敵は、経験や記憶、人格まで完全再現して生み出してから、操っている。

 なら、彼らを操る力を吹き飛ばしてやればいい。

 そうすれば、彼らは共に競い合ったライバルであり、友だ

 必ず力になってくれる。

 だが、神を名乗るだけあって、彼らを縛る鎖は硬く、重い、生半可な力では解けない。

 技術だけでは足りない、すさまじい出力がいる。


 だからこそ、新たな槍の外殻はそう作った。

 ランク5になった今でも足りない出力を補うための外部魔力バッテリー。

 甲高い音を立てて、ため込んだ魔力全てを槍が放出する。

 放出された魔力が俺の術式により魔術へと変わり、ライバルたちを操る力を振り払っていく。


「思い出せ、誇りを! いいように使われるような可愛い連中じゃないだろ!」


 ライバルたちは、頭を抱えて苦しんでいた。

 おかげで、彼らは行動不能

 とはいえ、魔物たちは容赦なく襲い掛かってくる。

 アンネとクーナの力を借りながら、何とか攻撃を防ぐ。

 だが、長くは持たなさそうだ。

 ランク5の魔物は、それだけで俺たちを殺しうる。

 魔術の発動が終わり、あまりにも膨大な魔力を放出しきった槍の外殻が昨日停止。

 心の中で、感謝と別れを告げ、パージして、両手槍にする。 さあ、やるべきことはやった。

 あとは、ライバルたちの心の強さにかける。


「……さすがだな」


 その結果は、成功だ。

 ライバルたちは、それぞれの得物を存分に振るい魔物たちと戦い始める。


 イルランデのトッププレイヤーたちの力はすさまじく、一人一人がランク5の魔物と互角以上に戦っている。

 同じランクであれば、魔物のほうが強い。

 その常識を圧倒的な技術で、経験で、工夫で覆す。

 これが、トッププライヤーたちの力。


「すごいですね。ソージくん、私たちが出る幕がないです」

「彼らは状況がわかっているのかしら、迷いなく戦っているけど?」


 ランク5の魔物に押されて、ぼろぼろになったクーナとアンネが、不思議そうにトッププライヤーたちの戦いを眺めている。

 彼女たちが立ち入る余地なんてもう存在しない。

 しだいに、トッププライヤーたちはランク5の魔物たちを圧倒し始める。


「彼らは状況なんてわかってないさ。とりあえず、魔物がいるから潰しているだけだ」


 超一流の探索者になると、危険な場所に足を踏み入れ、不測の事態に会うことなど日常茶飯事。

 状況が把握できなくても、とにかく動いて安全を確保しようとする。

 その基本に彼らは忠実だ。

 一切、動揺を見せずに即座に全力を振るうのは彼らが超一流たる所以だ。


 だけど、彼らを放ってはおけない。事情ぐらいは説明するべきだな。

 俺は息を吸い込み、思いっきり叫ぶ。


「聞いてくれ。俺は【神槍】のカランドだ!」


 カランドというのはゲーム時代に使っていた名前だ。

 彼らに呼びかけをするなら、こちらのほうがいい。

 ソージというのは、俺の本名である宗司からとっている。この世界が本物の世界と知らされたからこそ、ゲームの名前ではなく、本名を使うようにした


 プレイヤーたちは【神槍】のカランドと聞いて、戦いながら俺の言葉に耳を傾ける。

 ただ、傾けるだけでなく俺を守るように戦うようになった。

【神槍】のカランドという二つ名はトップクラスのプレイヤーとして有名だ。

 そして、この場で唯一の情報源だと思っているのだろう。


「状況を説明する! 今、俺はイルランデのラスボスと戦っている。【瘴気】を年々増やしやがるくそ野郎だ」


 トッププレイヤーたちの表情がぴくりと動く。

 彼らだって思うところがある。

 ゲーム時代、いくらハッピーエンドを目指して努力をしても、年々増えていく瘴気により、やがてはすべてを失う。

 その理不尽さに悲しみ、苦しみ、怒りを重ね続けていた。

 瘴気が増やし続ける相手と聞けば、平常心は保てない。


「俺はそのくそ野郎を潰そうとしている。そして、おまえらはラスボスが作り出した、プレイヤーのコピーで、洗脳されていた。そして、俺はおまえたちをラスボスの支配から解放した。あとは、各自自分で判断して行動しろ」


 それだけを伝え、俺もランク5の魔物たちと戦い始める。

 ただ、端的に事実を伝えたがそれだけで十分だ。


 己の体に残された痕跡から、今の説明を検証し、再び操られないように防御術式を組み上げ、その上で彼らは戦う。


 諸悪の根源を目の前にし、さらに自分がコピーされた偽物ということにショックまである。

 動揺もしている。それでも冷静になすべきことをする。

 それを当たり前にこなすのがイルランデのトッププレイヤーたちなのだ。


「クーナ、アンネ、俺たちも彼らには負けてられないな」

「はい、一気に押し切っちゃいますよ」

「ええ、ついでに技も盗むわ。あの人たちの動き、勉強になるわね」


 イルランデのトッププレイヤーたちの動きは極限まで効率化して美しくすらある。

 一線を越えれば、武術は芸術に至る。

 個人技もすごいが、即興での連携プレーも軽く決める。

 もはや、ランク5の魔物すら敵ではない。

 トッププライヤーの一人が俺の隣と並んだ。


「【神槍】のカランド、いきなり、こんなめちゃくちゃな状況に巻き込みやがって」

「そういうおまえは、【神剣】のマサムネか。剣筋でわかる」

「あたりだ。一度、おまえとは肩を並べて戦いたいと思っていた。イルランデじゃ、共同開発はできても、共闘なんてできねえからな。こいつはこいつで楽しめる」


 軽口を言いながら、俺とマサムネは敵を次々と屠っていく。 刀を使った戦闘ではトッププレイヤーたちの中で、頂点に立つ剣豪。

 そして、九つの斬撃を一呼吸で放つ【神剣】を生み出した男。


 お互い、共に戦うのは初めてでも、データベースに登録された動画を嫌というほど見ている。相手の呼吸がわかる。


 背中を預けるのがしっくりくる。

 イルランデは、一人用のゲームで、それぞれの世界を冒険している。

 だけど、トッププレイヤーたちは情報共有を活発にしてきた。

 ここにいる全員がお互いのことを知り尽くしているのだ。

 リザードマンの最上位種。グランソード・リザードが目の前に現れる。

 その特徴は、超反射神経と絶剣とまで呼ばれる技量。

 そんな神域の剣を持つ魔物をマサムネは子供扱いして切り刻んだ。

 さすがは、【神剣】を生み出した男。

 武器の名に神を関する技を付けられるのは、その武器におけるもっともすぐれた技だけ。

 最強の剣の技を生み出したこの男は、イルランデにおいて最強の剣士だ。


「さすがは【神剣】だな」

「褒めるな【神槍】」

「横やりは入っているだろう?」


 一度洗脳から解放したからと言って油断できない。

 再洗脳ぐらいしてくるだろう。

 実際、さきほどから外部から魔力が流れこんでいるのを感じている。


「ああ、さっきからがんがん俺たちを操ろうと干渉してきてやがる。まあ、ここにいる連中に、防御術式抜かれて操られる間抜けなんていねえけどな」

「違いない」


 トッププレイヤーたちというのは、俺と同格。

 助言なんて必要としない。

 一度、正気を取り戻せばたとえ相手が神だろうが、操られたりはしない。


「ただな、存在の力が漏れていきやがる。……こっちはどうしょうもねえな。そういう存在として生み出された。長くはもたねえ、仮初の存在ってそういうことだろ」


 マサムネの姿が一瞬ぶれた。 彼はすでに消えつつある。


「そうか、残念だ」

「まあ、仮初の存在なりに、ふざけたことをやったら奴に落とし前をつけねえとな」


 トッププレイヤーたちはそのつもりらしく、獅子奮迅の働きを見せている。

 何度も動画で見た、それぞれのプレイヤーの神業を間近で見て、興奮する。

 それは、ここにいる全員が同じだった。

 制限時間つき、一次の幻。

 そうわかっているのに、いや、わかっているからこそ、それぞれに自分のもっとも得意とする技を見せつける。

 喝采を送りあい、励まし合い、夢のような時間が過ぎていく。

 ああ、そうか。

 彼らは祭りを楽しんでいるんだ。

 そして、気が付けば敵は全滅していた。


 増援はこない。

 数十人のプレイヤーと、何十体ものランク5の魔物を呼び出した反動で、残された力が少ないのだろう。

 トッププレイヤーたちの体の揺らぎが大きくなり、透けていく。

 時間切れだ。

 存在の力がなくなれば消失する。

 彼らは、それぞれ魔物の死体から魔石を抉る。そして【浄化】した。

 消えていく彼らがそんなことをしても無駄なのに、習慣とは怖いものだ。

 いや、違う。

 これは、自分たちのためにやっているわけじゃない。

 俺たちへの贈り物だ。


「餞別だ」

「がんばれよ」

「俺たちを呼んだ、くそったれを倒してくれ」

「これだけランク5の魔石があればランクが上がります」

「俺の世界でも、あんたらみたいな可愛い子を探すぜ」

「また会いましょう」


 トッププレイヤーたちは、次々と、【浄化】を済ませたランク5の魔物の魔石をアンネとクーナに渡していく。

 そして、消滅を始めた。

 彼らは、最後の最後までやるべきことをした。

 俺たちがラスボスを倒すために力を授けてくれた。


「ありがとう……みんな」


 俺の言葉に、みんなが手をそれぞれに照れたり、手を振ったり、憎まれ口を言ったりそれぞれの反応を返してくる。

 そして、俺たちだけになった。


「アンネ、クーナ、みんなからもらった魔石を全部使え」

「はいっ!」

「急ぐわ」


 白い部屋の魔物はすべて駆逐した。

 増援もない。

 魔石を使うには今しかない。

 クーナとアンネが次々とランク5の魔物の魔石を吸収していく。

 彼らの贈り物に助けられた。

 俺だけで魔石を【浄化】しようとしたら、それだけですべての魔力を使い切っていただろう。

 クーナとアンネの体が震える。

 そして、二人が全身を抱きしめた。


「力が、すごい力が、溢れます」

「これ、今までより、ずっと強いわ」


 二人の高まる力が俺にまで伝わってくる。

 間違いない。


「二人とも、ランク5になったようだな」


 すでに、二人は俺と一緒にランク5を相手にした激戦を乗り越えて器はできていた。

 そして、この場でランク5の魔石を大量に摂取したことで、ついにランク5に届いたのだ。

 ……トッププレイヤーたちには感謝してもしきれない。


「そろそろ、俺たちの敵とご対面だ。ふんぞり返っている神様を殴り飛ばしに行くぞ」


 腕を上げて、パチンと指を鳴らす。

 すると、白い部屋……そう見える、結界が粉々に砕け散った。

 もう十分に毒は回っており、いつでも壊せる状態だった。


 白い部屋の外には黒い空間が広がる。

 そして、目の前には一人の男性がいた。

 あれが、俺たちが倒すべき敵。

 世界を【破滅】させようとする存在だ。

 彼を倒し、ハッピーエンドをつかみ取ろう。

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[一言] こんなん絶対楽しいやん!
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