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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
最終章:チート魔術で運命をねじ伏せる
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第十一話:帰還と休息

 目を開く。

 すると夕日が目に映った。

 ここはどこだ?

 そもそも、俺はどうしていた?

 ……思い出した。

 ランク5になるために、女神のボーナスダンジョンのボスであるエンペラードラゴンと戦い、仕留めた。

 その後、ランク5になる際の負荷に耐え切れずに気を失った。

 こうして俺が無事だということは、クーナとアンネも無事なはず。


「アンネ、ソージくんが起きました!」

「そう、良かったわ。急に倒れたから心配したのよ」


 後頭部に柔らかい感触があり、妙にいい匂いがすると思ったらクーナが膝枕をしてくれていたらしい。

 クーナの膝枕は絶品だ。いい匂いがするし、肉の付き方が理想的でたまらない。

 周囲を見ると、エンペラードラゴンと戦ったすり鉢状の強大な穴。

 ここで休憩していたようだ。


 日が落ちかけている。おそらく、五、六時間こうしていたのだろう。

 すり鉢の中央から太陽に向かって階段が伸びていた。

 あれを進めば第三階層に進めるのだろう。

 そこにはきっと、この階層より強い魔物たちが待ち受けている。


「クーナ、アンネ、あの先に進みたいな」

「うっ、ちょっと、その言葉には同意できないです」

「一階層と二階層の変化を考えたら、あの先にはランク5がうようよしているのね。……さすがに遠慮したいわね」


 本気で嫌そうな反応をする二人を見て、俺は薄く笑う。


「まあな。今のまま先に進めば死ぬだろうな。それでも、先があるなら行ってみたい。そう思うんだ」


 第一階層と第二階層を思い返せば、アンネの言う通り、この先にあるのは雑魚としてランク5がうじゃうじゃと現れる地獄のようなフロアだ。

 ランク5が俺一人、それも力もリソースも使い切った状態では自殺行為だ。

 それでも、行きたいと思うのは探索者だからだろう。

 未知を知りたい、より強くなりたい。

 それが探索者の本能だ。


「私たちがランク5になったら、一緒に行きましょう」

「……クーナ、今日が最終日よ。ソージ一人をランク5にするための魔石に四日かかったのに、不可能よ」

「そうでした!」


 残念ながら時間切れ。

 第三階層に行くことはないだろう。


「すまない、最後の一日なのに俺が倒れたせいで無駄にして。倒れなければ、二人の分の魔石も集められたのに」

「謝ることないです。ソージはしっかり、あの強いドラゴンを倒しましたし!」

「私たちは倒れていないけど、力を使い果たしたのは一緒よ? ソージが倒れなくても、これ以上戦うのは無理ね。だから、気にする必要はないわ」


 それは慰めの言葉ではないようだ。

 クーナとアンネも、あの戦いで消耗しきっているようだ。

 ランク4を含む、無数の取り巻きの相手を二人がしてくれたから、俺はエンペラードラゴンに集中できた。


「それに見てください! じゃじゃーん、たくさんの魔石です。数日分の稼ぎがありますよ!」

「私たちが倒した取り巻きもしっかり魔石を落としていたのよ。短時間の戦いだったけど、私たちの全力で、無数の魔物を相手にしたから、すごい量よ。この階層に来てから一番稼げているわ」

「確かにな。これで、胸を張って帰れる。俺はランク5になり、二人はランク4だ。目的は果たせた。出来過ぎなぐらいだ。だけど……」


 俺は点を見上げて、太陽に向かって手を伸ばす。

 正しくは太陽に続く階段の向こうへ。


「でも、やっぱり諦めきれないな。あそこに行ければ、シリルさん以外がたどり着けなかったランク6になれるかもしれない」


 俺がそう言うと、クーナとアンネが笑った。


「ソージくんらしいです」

「ええ、そうやって楽しんで先へ進もうとするの。ソージらしくて、好きよ」

「でも、そういう二人だと同じ思いだろう? さっきから言葉のはしばしに、行ければ行きたいって思いが透けて見える」

「うっ、否定できないです」

「たしかに、先へ行きたいわね。まだ、強くなれる道があるのに、ここで終わりなのは悔しいわ」


 俺の真似をして、二人が天に向かって手を伸ばした。


「……もうすぐ、俺たちは元の世界に戻る。だけどな、いつかまた来よう。今度は最後まで行こう。女神の敵とやらを倒す報酬に要求するのもいいかもな。女神はここに来れるのは一回きりと言ったが、世界を救った後なら、それぐらいのわがままはいいだろ?」


 なんとなく口にした言葉だが、意外に実現性が高いと気付いてしまった。

 実際に試してみよう。


「いいですね。そのときは私とアンネが二階層でランク5になるまで頑張って……」


 クーナがアンネのほうを見る。アンネがそのあとを引き継ぐ。


「全員でランク5になって、十分な魔石を集めて、三階層のボスを三人で倒してみんなで同時にランク6になりたいわね」

「それがいいな。今度は一週間じゃなくてもっといられるように頼まないと」


 俺は笑う。

 急に頭の中に時計の音が響き始めた。

 ちくたくちくたく。秒針の音。

 そして、ひと際大きい音がなる。短針と長針が同時に動く音がした。

 なんとなくわかった。

 これが時間切れの合図。

 ここに居られる時間が終わったんだ。

【転移】独特の浮遊感が体を包んだ。

 女神の屋敷に戻ってしまうのだろう。


 ◇


【転移】が終わり、目を開く。

 すると、女神の屋敷にいた。


「ソージ、クーナ、アンネロッタ。君たちは力を手に入れたようだね。……そこまで強くなるのは驚いた。十代でランク5なんて聞いたことがない。それは偽物のイルランデでもね」

「確かにその通りだな。プレイヤーですら、ランク5に至るのは二十代の終わりになってからがほとんどだ」


 プレイヤーたちは、ありとあらゆるランクアップ促進手段を使うが、それでもここまで早いランクアップにはお目にかかれない。

 それほどまでにランク5というのは遠い。

 女神の力を借りただけはある。


「君たち三人。どこか行きたいところはあるかい?」

「なんでそんなことを、明後日には最後の決戦に向かうのだろう?」


 今日はみんな疲労困憊していて身動きが取れない。

 明日は体を精一杯休め、明後日には決戦の予定だ。

 決戦の日までこの屋敷ですごすと思っていた。


「だからこそだよ。こういうことを言いたくないけど、もしかしたら最後の休日になるかもしれない。だから、最大限の配慮をしたいんだ。あたしは、君たちがどこにいようと明後日の正午には君たちを決戦の地に送り届けるから、どこでも好きなところを言ってくれればいい。明日になればそこまであたしの力で飛ばそう」


 ありがたい申し出だ。

 この好意は受け入れよう。


「クーナ、アンネ。どこか行きたいところはあるか?」

「……一か所だけあります」

「私もそうね。たぶん、クーナと一緒のところ」


 クーナとアンネが意味ありげな顔をする。

 実は俺も一か所だけ、行きたいところが頭に浮かんでいた。

 もし、最後の晩餐にするならあそこしかない。


「三人で、【魔剣の尻尾】を結成した、あの酒場にまた行きたい」

「あっ、ソージくんずるいです。私が言おうとしてたのに」

「やっぱり、私たちの気持ちは一緒ね」


 封印都市に今もどるのはリスクが高い。

 一応、俺たちはさらわれたことになっている。

 だけど、そのリスクを背負ってでも、俺は【魔剣の尻尾】を結成したあの酒場に行きたかった。

 あそこが俺たちの原点なのだ。


「わかった。じゃあ、明日の夜になれば、【転移】させてあげる。君たち、【加護】も魔力も一日じゃ回復しきれないぐらいに消耗しているから、できるだけこの屋敷で過ごすといい。ここは【聖域】だ。癒しの力がある」

「そうさせてもらう。出発するまでは、ここで準備をさせてもらうさ。……オリハルコンと鍛冶の設備がほしい」

「シリルから預かってるよ。君がそう言うはずだって、材料と設備一式を彼が用意した」


 シリルが言った別の用事とはこれのことだったのか。

 まったく、どこまでも気が回る人だ。

 かつての機械槍ヴァジュラはシリルと共に作り上げた。

 あのときの俺の技量と魔術回路の演算性能であれば一人では完成させられなかった。


 だけど、ランク5になった今なら一人でも作れる。

 そして、壊してしまったシリルに作ってもらった外殻から発想を得て、改良案を思いついている。

 最終決戦に向けて、外殻を作り直してしまおう。

 それこそ、あのシリルが驚くぐらいのとびっきりのを。


「ああ、そうさせてもらう。今の俺にもっとも適した槍を作る」

「ソージくんの槍、また趣味に走っちゃいそうです」

「……期待と不安が両方あるわね」


 クーナとアンネがジト目で見てくる。

 ひどい言いようだ。

 俺はいつも実用性を第一に作っていると言うのに。


「じゃあ、あたしからの話はこれで終わり。君たちのために回復効果を高めるご馳走をたくさん用意した。いっぱい食べて、体調を万全にしてね」

「ありがとう」


 ご馳走と言われて、ひどく腹が減っていることに気付いた。

 激しい運動をしたせいだろう。

 それに、回復効果を高めるというのも無視できない。

 今日は、ご馳走を食べて早めに眠ろう。

 鍛冶をするだけの魔力も残っていない。

 まずは力を取り戻すことを第一に考え、明日は日が暮れるまでに武器を作り上げる。

 ……そして、最後の休日を楽しむのだ。

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