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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
最終章:チート魔術で運命をねじ伏せる
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第二話:女神の真実

 シリルが操縦する車が走る。

 力強い風と炎の精霊の力を感じていた。

 車の動力は風と炎のマナだ。


 並の魔術士であればマナの力を借りるのに魔力を消費し、あっという間に息切れするが、四属性のマナを使いこなすハイ・エルフであれば何時間でも走り続けることができるだろう。


 体感速度だが、ろくに舗装されていない道を時速100kmを超えるペースで、障害物を躱しながら走り続けている。

 出力もすさまじいが、タイヤとサスペンションの性能、ステアリングがしっかりしてないとばらばらに分解しているだろう。

 たまにとんでもない大ジャンプなどを交える。

 道なき道を進み、ついには巨大な崖にやってきた。

 そして、崖からダイブ。

 車が宙を舞う。


「「きゃああああああああああああああああああああああ」」


 クーナとアンネが二人そろって悲鳴を上げる。

 車は風に乗り滑空する。

 そのまま、川に着地し、今度は水面を走り始めた。


 めちゃくちゃだ。

 これらは車の性能ではなく、シリルが強引に属性魔術を使っているだけだ。

 風のマナで車体を浮かして、水のマナで水面を固定して道にする。

 川を走り、見知らぬ山を越え、さらにどこかの巨大な湖に浮かぶ島に火入り、その地下通路を走り抜けて、ようやく車が止まった。

 ドアが開いて俺たちは外に出る。


「ううう、気持ち悪いです。世界がぐるぐるしてます」


 アンネと違って、最初ははしゃいでいたクーナもこの運転には参ったようだ。

 げっそりとしている。


「……そうね。三半規管が揺らされすぎたわね。どうして、ソージは平気なのかしら?」

「経験の差かな?」


 車という乗りものを知っていたことが二人との差だろう。

 二人だって、初体験であの乱暴な運転で吐かないだけ、ましだったのだろう。

 馬車からはい出ると、よく整備された庭と美しい石畳がこじんまりとした屋敷に続いている。


 見るものが見れば、とんでもない結界が張られると気付く。

 ……ここでの道中にも無数の結界があった。湖の中央にある巨大な島に入る際にも仕掛けられていたし、島の地下通路はもっと厳重な守りだ。

 無数の別れ道があり、広大な迷路となっていた。

 正しい道は一つだけ、間違えれば悲惨なことになる罠がいくつも仕掛けれていた。

 それも正解の道は時間と連動して次々と変わってしまう。


 正解を知っていても、並の術者では最奥までたどり着けない。

 俺ですら、この地下迷宮を事前情報なしで突破できる自信がない。

 これほど見つかりにくい場所に、これほど厳重な守りをしている理由があるはずだ。


「さて、ソージ、クーナ、アンネロッタ。俺がしてやれるのは、ここに連れてくるまでだ。君たちの待ち人はあの中にいる」


 呼び止める間もなくシリルが消えていった。

 彼には彼のするべきことがあるのだろう。


「父様のいじわる」

「いじわるって言うより、いろいろと面倒なルールがありそうだ」


 シリルはどちらかというと面倒見がいいほうであり、クーナのことを溺愛している。

 なのに、ここで放り出したということはそうするだけの理由がある。


「ちょっと不安になってくるわね」

「でも、行くしかないです!」

「そうだな。行こう!」


 クーナとアンネを勇気づけるように声を出す。

 俺は男でリーダーだ。だから、前を歩かないといけない。


 ◇


 屋敷の中に入る。

 すると、からくり人形がいた。

 その人形を一言で表すなら、日本人形。おかっぱ頭に着物という出で立ち。

 この世界ではありえないはずのもの。なにせ、おかっぱも着物も、ないはずの文化。

 これは屋敷の主から俺へのメッセージなのだろう。

 この世界にないものを見せつけることで、自分がどういう存在かを見せつけている。

 からくり人形が軋む音をたてながらお辞儀をして、屋敷の奥へと消えていく。


「ソージくん、不思議な雰囲気の人形ですね」

「ええ、どこかオリエンタルな雰囲気。なんて人形かしら?」

「あれは茶運び人形という。俺の故郷の人形だ。ついて行こう。きっと持ち主のもとへ案内してくれる」


 クーナたちがこくりと頷き、部屋の奥へと進んでいった。


 ◇


 屋敷の奥へと進んでいき、からくり人形がとある一室に入る。

 からくり人形の主人を見て、俺は息を飲んだ。

 予想はしていたが、衝撃が大きかった。


「やあ、よく来たね。挨拶に悩むよ。初めましてか、また会ったねか。ソージ、どっちがいいと思う?」


 広々とした洋室には、白いワンピースを着たユーリ先輩がいた。

 いや、本人ではない彼女こそが、ユーリ先輩の言っていた本体なのだろう」


「てっきり、茶飲み人形に出迎えをさせたから、和室かと思ったんだがな」

「やだよ。正座ってつかれるじゃん。ささ、座って座って、美味しい紅茶を用意したから」


 話しかたも仕草もユーリ先輩そのもの、俺たちは戸惑いながらも席に座る。


「気遣いは感謝するが、雑談を楽しめるだけの心の余裕がない。早速、本題に入ってもらおうか?」

「そっか。うん、いいよ。ソージ、何から聞きたい」

「まずは前提として、あなたが何者かを知らないと話にならない。そこから教えてくれ」

「うん、いいよ。この世界の管理者。まあ、神様みたいなものだと思ってくれていいかな。ちなみに、実は君とはすでに会っている。それもあたしの端末じゃなくて、あたし自身がね。ホムンクルスを作って君を呼び出し、最初に挨拶したのがあたしだ。おかげで眠りについていたけど、最近、やっと起きることができたよ」


 そんな気がしていた。

 ユーリ先輩と初めて会ったとき、初めて会った気がしなかった。

 当然だ。この人とはゲーム時代を含めると何百回も会っている。姿と形や声は違っても雰囲気は変わらない。心のどこかで、それを感じていた。


「いろいろと納得がいった。だが、聞きたいことがある。あなたが俺を呼びだした。そのときに直接的な介入ができないとも言っていた。だが、ユーリ先輩は、あなたの力の記憶を持っていたし、その力も振るった。俺への説明は嘘だったのか?」


 俺はこの世界にやってきたときにこの人から情報をもらっている。

 1.やがて来る【破滅】から世界を救うために俺を呼んだ。

 2.自分は直接的な干渉ができないルール。

 3.最高の才能を持ったホムンクルスを生み出すので干渉できる限界であり、空っぽの体に魂を用意する必要があった。


「ユーリ先輩と君が呼ぶ端末のことは後で話すつもりだったけど、先に話しちゃおう。あれの正体は、あたしの記憶と疑似人格を植え付けたホムンクルス。ある意味では君の姉のようなもの。違うのは、力を使わないためにスペックが落ちるのと、外から魂を持ってきた君と違って、あの子たちには魂がない。人形みたいなもの。どうしても薄ぺっらくなる。……便利な存在だよ。だって、あたしが命令しなくても、あたしの意をくんで動くからルール違反にならない」

「一つ、訂正をさせてくれ。薄っぺらくなんてなかった、彼女は必死に生きていた」


 今までのユーリ先輩のことを思い出す。

 あの人はいつも一生懸命に頑張っていた。道具ではなく人間だった。

 そうでないと最後の言葉は出てこない。


「そっか。薄っぺらい空っぽの人形も、人と交わって、経験を積めば変わっていくのかもしれない。君がユーリ先輩と呼ぶ端末以外にも、たくさん似た存在を作った。たとえば、君のクラスの担任、あれもあたしの端末だ。ユーリ先輩と、君の教官は人知れず君たちをサポートしていた」


 ……あの人もそうだったのか。

 どこかユーリ先輩と似ているし、不審だと思っていたが、そこまではわからなかった。


「つまり、ナキータ教官やユーリの目的は俺たちを導くこと、いや、違うな。俺だけじゃなく見込みがある探索者を導き、強くすることだった。後者のほうは、あなたがたくさん作ったという端末たち、すべてに共通する目的のはずだ」


 ユーリ先輩の行動を思い出す。

 ユーリ先輩と会うのは学園以外ではダンジョン内が多かった。

 かつて、ガス抜きと称して探索者の命を多く奪いかねない瘴気の塊を駆除していた。

 逆に、俺たちに意図的に強大な敵をぶつけたりもしたが、そのおかげでランク2になれた。

 一貫して、彼女の行動は俺や探索者たちを強くしようとしていた。


「それも正解。じゃあ、なんで私は君が探索者たちを強くしようとしていたかわかる?」

「世界を【破滅】から救うため。【瘴気】が年々、増え続けているのは知っている。なら、【瘴気】を駆除するペースを上げ続けないと、いつかダンジョンから魔物があふれ出して、世界は滅びる。そのためには、強い探索者がたくさん必要だ」


 ゲーム時代、そういう未来をいくつも見てきた。

 年々、ダンジョンの瘴気量が増え、魔物の数も質も上がっていき、やがて探索者の力では押えきれなくなり、魔物がダンジョンからあふれ出すようになっていく。

 そうして、世界中で魔物が暴れまわるようになり、さらに探索者が減り、人間の社会は壊滅する。

 ゲームの周回でも、自分や周りの人たちを守るぐらいはできたが、世界の滅びを救うことはできなかった。


「俺はゲーム時代に調べたことがあるが、騎士学校の成立経緯に恣意的なものを感じた。ユーリ先輩が異様な権利が振るっていたことから、俺はあの学校自体、探索者を強くするため、あなたが作るように仕向けたものだと思っているし、あの学校だけじゃなく世界中で同じことをしていると疑っている」

「うん、それも正解。私は君を呼ぶ以外にも、いろいろとやってきた。あの手この手でね」

「……逆に疑問を感じてもいたんだ。それだけなら、俺を呼ぶ意味は少ない。ただ、一人の英雄なんてなんの意味もないだろう。必要なのは、探索者全体の底上げのはずだ」

「半分正解で、半分不正解。不思議に思わない? どうして【瘴気】なんてものがあるのか? どうして、神様の私にありとあらゆる制限があるのか? 当ててみて」


 考えてみよう。

 この女神は、間違いなくこの世界を守ろうとしている。そして、そのためにはいくつかの制限がある。

 世界を守らないといけないのは【瘴気】があるから。


【瘴気】という存在は年々増えていく。その目的は世界を滅ぼすため。

 ……とんでもなく飛躍した発想が出てきた。


「あなたと同じ存在がいて、そいつの目的が逆。世界を滅ぼそうとしている。この世界を舞台に、世界を滅ぼす存在と、世界を守るあなたが、一定のルールに従って争っている。なんていうのはどうだ? その場合、さらに上位の存在がいることになるが」

「うん、細かいところは違うけどそんな感じ。向こうにもルールや制限はある。向こうがやっていることは【瘴気】や、いろんなものを使って世界を滅ぼすこと。それが【破滅】。それを阻止するのがあたしの役目ってわけで、そのために君を呼んだ」


 いろいろなことが繋がっていく。

 とんでもなくスケールがでかい話だ。


「……俺がこの世界に来た時に、このことを教えられず、今教えられるのは、ユーリ先輩があいつらをぶっ飛ばしたおかげか」

「それもあたり、あたしたちの権限と制限は変動する。君が、彼らの本拠地の守りを壊したおかげで、彼らは莫大な力を使って守りを作りなおした。続けて、調子に乗って力を引き出して、君のお仲間を何百人も一気に出したせいで、あたしを押える力が一気に緩んだ。だから、ユーリにあたしの力をある程度委譲できたし、何割か潰せた」


 そして、その何割か潰したおかげで俺と直接こうやって会って、秘密を話す権限を持ったわけか。


「……こうやって話しているのは、ただのサービスじゃないだろう? 俺に一体何をさせたい」


 最初に出会ったころ、俺を呼びだすのに力を使い、最低限の知識を与えることにも力を使い、女神は眠りについた。

 おそらく、今もこうしている限り力を使っているのだろう。それも、最初に出会ったときとは比べ物にならないほどに。


「うん、お願いがあって呼んだ。ソージのおかげで敵の神様はとんでもない痛手を受けてる。だから、今のうちに処分してほしい。まあ、あたしがこんなところに隠れて、厳重な守りをしているところで察しているとは思うけど、あたしたちは殺せる。そして、殺されたら一切、世界に干渉できなくなる」


 そういうことか。

 拳をぎゅっと握りしめる。


「……俺じゃなくてシリルさんに頼んだほうがいいんじゃないか」

「あの人は、もうこっち側に来てしまったんだ。だから、いくつものルールに縛られてる。察していると思うけど、相手がここまで消耗して弱っているなんて、この世界が始まって以来。こんなチャンスは二度とない。もともと、年数が重なるほど敵が有利なゲーム。あたしは君たちに強制はできないけど、君たちが断れば十年か、二十年か経って君たちは死ぬほど後悔すると断言できる」


 わかっている。

 その未来は嫌になるほど見てきた。

 俺はクーナたちと幸せになると決めた。ただ生きていくだけなら魔物が溢れる世界でもできる。

 でも、そんなのは嫌だ。

 だから……。


「わかった受けよう。一応確認するが、増援は呼んでいいのか? 例えばエルシエの精鋭部隊イラクサを呼べば頼れる戦力になる」

「それはできないの。前回、君は呼ばれたから相手の領域に侵入できたけど、今回はあたしが干渉して送り届ける。あそこに送り込めるのはたった三人だけ。そのうち一人は君じゃないとだめ。あたしが君を送れるのは、一度、やつらの領域に収入して、気にできた縁を辿ることができるからなんだ。あと二人は君の意思で決めて」


 三人か。

 短時間なら、クーナとアンネはランク5相当の力を出せるとはいえ、あくまで不安定かつ一瞬の力。

 強さだけなら、ランク5のイラクサのメンツを呼んだほうがいい。


 ……だけど、そんな理屈はどうでもいい。

 俺たちは一緒だと決めた。

 ランク5二人の力は魅力的だが、その分を補えるほど、強くなれる自信がある。


「俺たち三人で行く。そう誓った」

「ソージくん、わかってますね!」

「ここで、留守番と言われたら怒っていたわね」


 その気持ちは二人も同じようだ。


「本当に仲がいいね。三人に最後の贈り物。【瘴気】を操ったり、ダンジョンを作るのはあたしの管轄じゃないけど、見様見真似で作ったボーナスステージがある。鬼のように強い魔物ばかりでる。そして、得られる経験値は数倍だ。ここで一週間鍛えるがいい。その一週間が終わり、一日体を休めば君たちを決戦の地に飛ばす」

「いいのか、一週間ものんびり鍛えて」

「うん、敵が失った力はそう簡単に戻らない。回復をし始めるのが、今から九日後。だからこの日程にした」


 最後の修行。

 最後の鍛錬。

 強い魔物に、数倍の経験値か。

 燃えてきた。


「クーナ、アンネ、この一週間で【魔剣の尻尾】は最強のパーティになる」

「ランク4どころか、ランク5を目指しますよ」

「現実的じゃない目標だけど、頑張れる気がするわね」


 目標は二人をランク4にし、誰か一人がランク5に届くことだ。

 女神は口を閉ざす。これで話は終わりのようだ。

 なら、ユーリ先輩の最後の願いを果そう。


「ユーリ先輩からの伝言だ。もう、自分のような端末に感情を与えないでほしい。ただの操り人形でいい。彼女はそう言った」

「……それは、守れないかな。自分で動くからルールから逃れられている。あたしの言うことを聞くだけの人形なら、明確なルール違反になる。それにさ、あの子から伝わってくる感情、辛いだけじゃなかったと思う。逆にあたしは君に頼みたい。勝って、終わらせて」

 

 めちゃくちゃを言う。

 だけど、通りだ。

 その敵を倒せば、もうユーリ先輩のような犠牲は出ない。

 それを叶えるためにも、この一週間で強くならないといけないだろう。

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