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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第六章:ソージが呼ばれた意味
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第十九話:始まった学園祭と講演会

 騎士学園の祭り、そして講演会の日がやってきた。


「ソージくんだけ免除なんてずるいです! ううう、スゴート教官はケチです」


 スゴート教官は、あくまで単独で地下迷宮に潜った俺を助けるために二人が行くのを許可しただけのようだった。

 クーナが言った助手云々はそういう建前を認めてやっただけ。

 俺が戻ってくると、クーナとアンネには再び授業に出るようにいった。


「この格好で人前に出るのは恥ずかしいわね……」

「めんどくさいですけど、恥ずかしくはないですね。ソージくん、見てください。可愛いですよね」


 今、俺がいるのは授業で使っている教室だ。

 ただ内装はいつもとまったく違う、テーブルにクロスがかけられ全体的に華やかだ。

 クーナがくるりと周り、スカートがひらりと舞う。

 二人の格好はウェイトレスの姿だ。

 

 なぜか、メイド服っぽいものになっている。

 二人ともよく似合っているが不思議だ。メイド喫茶なんてものがどういう奇跡的な確率でこの世界で実現したのか気になる。


 二人がこんな格好をしているのにもわけがある。

 騎士学園は各クラスで出し物をしないといけない。俺たちの学年の平民クラスは喫茶店をすることになった。


 ちなみに俺は、免除されている。

 二時間後には講演があるので、そっちの準備優先だ。

 準備は万端、体調は万全、大量の魔石を喰らって得た力も十分馴染んだ。

 あの日から、ひたすら【浄化】をしては魔石を喰らう日々だ。

 俺の目算通り、ぎりぎりですべての魔石を【浄化】し魔力の回復しきったのが今日の朝になった。

 ランク3上位へとたった数日でたどり着いたのは上出来と言える。


「ソージくんのコック姿見たかったです」

「そうね、すごく似合うと思うわ。料理もうまいし」

「見たいならあとで着てもいい。そうだ、クーナとアンネの服はレンタルだって言ってよな。あとで買い上げよう。そうしたら……」


 二人がジト目で俺を見てくる。


「ソージくん、またエッチなこと考えましたよね」

「ええ、そういう顔だったわ」


 二人に見抜かれてしまった。

 だが、俺は動じない。

 真正面から説得する。最後には二人とも納得してくれた。


「しょうがないです。そこまで言うなら付き合ってあげます。あと、そろそろ注文してください。周りの目が痛いです」

「そうね。わがままを言って二人で接客させてもらったけど、かなり忙しくなってきたわ」


 この喫茶店はすでに開店しており、客もかなり入っていた。

 俺は客として来店した。

 クーナとアンネがこんな可愛い格好をしているのだ。

 何をおいてもくるに決まっている。

 さきほどから二人と仲良く話す俺に対する嫉妬の眼が集中していた。


「紅茶とおすすめケーキを」

「わかりました。すぐに持ってきますね」

「ソージ、ゆっくり楽しんで」


 二人が去っていく。

 その後ろ姿も、また可愛い。


「相席を頼んでもいいか?」


 涼やかな声をしていた。不思議に人を引き寄せる声。


「シリルさん、来てくれたんですね」

「まあね。娘の学園がどんなところが気になっていた」


 世界で唯一のランク6にして、ハイ・エルフ。

 クーナの父、シリル・エルシエ。

 金色の髪と翡翠色の瞳の美青年。実年齢は四十近いが、どう見ても二十代にしか見えない。


「それに君の講演にも興味がある。魔石の【浄化】。俺も似たようなことはやっているし、君たちが作った【浄化】も知っている。君は偽りの世界のときからさらに進化させているね。それが気になった」

「……よく気付きましたね」

「あれだけ目の前で見せてもらえばわかる。君の講演が聞くのが楽しみだよ」


 そう言いながら、シリルが手を上げてウェイトレスを呼ぶ。

 クラスメイトたちは、呆けた顔できゃぁきゃぁ言うだけで近づいてこない。

 シリルの圧倒的なオーラのせいだろう。

 しかし、シリルのオーラーをものともしない奴が一人、肩をいからせてやってきた。


「もう、父様! 来ないでって言ったじゃないですか」

「クーナを見るために来たのに来ないわけがないだろう。本当はルシエやクウも連れてきたかったがね。どうしても時間が取れなかった。代わりに……」


 どこからどうみても、カメラとしか思えない道具を取り出す。

 そんなもの、当たり前だがこの世界には存在しないはず。シリルはいろいろとありえないものを発明していた。

 一々突っ込んでいたらきりがない。

 シリルはカメラでクーナの姿をパシャパシャと写す。

 その姿には威厳もなにもなく、ただの親ばかだった。


「クーナの元気な姿を撮ってきてくれと頼まれたんだ」

「父様のバカ! そのカメラ、返してください」


 シリルは笑いながら、クーナの手を余裕で躱す。クーナの動きは速いが、それ以上にシリルは速く老獪だった。

 しばらくするとクーナが諦めた。

 息を荒くしてシリルを睨んでいる。そこにアンネがやってきて、クーナの襟首をつかんだ。


「シリルさん、お久しぶりです」

「アンネロッタも元気そうで何よりだ」

「申し訳ござませんが、これ以上、クーナをさぼらせるわけにはいかないので連れて行きます」

「そうしてくれ。しっかりものの君がおっちょこちょいのクーナの傍にいてくれて助かるよ」


 アンネは礼をして、クーナを引きずっていく。


「アンネ、待って、待ってください。あんな写真がエルシエでばらまかれたら死んじゃいます!」

「あなた、さっきは可愛いから恥ずかしくないと言ってなかったかしら?」

「身内だけは無理ですーーーー」


 クーナが奥に連れていかれた。

 きっとあとで、クーナは俺に文句を言ってくるだろう。どうして助けてくれなかったんですか!? って。

 それはそれで楽しそうでもある。


 ◇


 一度奥に引っ込んだクーナが再び出てきた。

 よくアンネに教育されたようで、シリル相手にオーダーをとって去っていった。

 その様子をシリルはほほえましそうに見つめている。

 その仕草がクーナを余計に恥ずかしがらせるようで、クーナは顔を真っ赤にしてぷるぷると震えていた。


「ソージ、やっぱりクーナは世界で一番かわいい」

「同感です」


 クーナは世界で一番かわいいということに疑いの余地はない。

 とくに今日は普段は見られない格好で、普段は見せてもらえない反応を見せてくれて大満足だ。


「君とはいい酒が飲めそうだ」

「お供します。お義父さん」


 クーナがまたやってきた。

 きっと、アンネに説得されて父親にサービスするように言われている。アンネは父親を失った分、そういうことにはこだわる。


「お待たせしました。ソージくんの紅茶とショートケーキ、父様のコーヒーとアップルパイです」

「ありがとう、クーナ」

「美味しそうだね」


 クーナは事務的にケーキと紅茶を置いて背を向ける。


「それで、ソージ。孫はいつごろできそうだ」


 あっ、クーナがこけた。


「何を言っているんですか、父様!」


 顔が真っ赤だ。

 こういう冗談は俺がいつも言っているのに、父親に言われとまた別の恥ずかしさがあるらしい。


「早くても卒業後ですね。学園を卒業するまで避妊はしっかりしようと思っています」

「残念だが、妥当な判断だな。孫ができたら連絡をくれないか。俺も楽しみにしているが、それ以上に妻がね」


 クーナが、なにかわめいている。

 そんなクーナを肴にして、俺たちはケーキとお茶を楽しんだ。

 さすがはシリルさんだ。クーナの楽しみ方をよくわかっている。


 ◇


 中庭をクーナとアンネを含めた三人で歩いていた。

 屋台が多く並び、人が多く活気がある。


「父様も父様ですけど、ソージくんもソージくんです!」

「悪かった」


 クーナが頬を膨らませてそっぽを向いていた。

 今は講演会の三十分前だ。

 クーナとアンネは講演会に参加するために前半の部でウェイトレスに参加していた。


 自由になってからは三人で祭りを純粋に楽しんでいる。

 学生の出し物以外も、プロの出店もきっちりあって幅広い楽しみ方できる。


「……ほんとに反省してます?」

「いや、ぜんぜん。むしろいい父親じゃないかって思ってた」

「ソージくんのばかぁぁぁぁぁ」


 クーナは尻尾の毛を全力で逆立てながら怒る。

 こういう仕草を見せるからからかわれることにクーナは気付いていない。


 それから、屋台で甘いお菓子を買って、口に突っ込み、雑談をしているうちに機嫌が治った。

 アンネはそんなクーナを見て苦笑しつつ、口を開く。


「ソージ、クーナ、知っているかしら? 私たちが試験に使った闘技場では大会が行われてるみたいよ。一般の冒険者も参加可能な大会らしいわ。優勝賞品も豪華よ」

「知っているさ。講演がかぶらなければ出たんだがな」


 優勝賞品はたしか、強力なマジックアイテム。なかなかに興味をそそるのだが、いかんせん開催時間がまずい。

 たしか、ライルは参加すると息巻いていたな。優勝賞品をクーナ様にプレゼントすると言っていた。

 あそこまで打たれ強いのはある意味才能だ。


「俺の遠慮せずに、二人は出ても良かったのに」

「ソージくんの晴れ舞台のほうが大事です」

「そうね。ソージの活躍を楽しみにしているもの」


 俺は苦笑する。

 期待してもらっているし、がんばらないと。


「そろそろ行こう。準備を考えるとぎりぎりだ」

「ですね」

「私たちは招待席で清聴しているわ。がんばってソージ」


 そうして、俺たちは講演会を行うホールに移動した。


 ◇


 いよいよ講演が始まる時間がきた。

 大きめのホールで、半円上に受講者たちが座っている。ホールは満員だ。


 招待席はすべて埋まり、一般席でも立ち見ができている。

 俺はあまり詳しくないが、招待客のほとんどは名だたる魔術士や研究者ばかりらしい。


 ひときわ目立つのはシリルだ。クーナの隣に座り、クーナとの会話を楽しんでいた。

 エルシエで会ったときよりも丸くなった気がする。

 あの【戦争】を乗り越えたことで心に余裕ができたかもしれない。

 深呼吸。

 さあ、講演を始めよう。


 事前に俺が開示した魔術式のプリントアウトは配ってある。

 それを使いながらの説明だ。


 ◇


 講演開始から一時間経った。

 ダミーコード部分を説明しても仕方がないので、重要な部分。

 それも、おそらくは参加者が知らないであろう魔術式の役割と、【浄化】の中でどういう意図で組み入れられたものかを順序だてて説明した。


 何が辛いかと言うと、俺はかなり配慮してかみ砕いて説明しているつもりだが理解されない。

 聞き手の前提知識が足りなすぎるのだ。


 四則演算をできない相手に、因数分解を教えているようなものだ。

 わからないことを教えるなんてレベルじゃない、なにがわからないかから教え、それをわからせるための前段階の知識を解説する。


 ……それではおさまらずに、前段階の知識を得るための前段階の知識を得るための前段階の知識ぐらいから説明している。

 頭がおかしくなりそうだ。


 当然、そんなことをしていれば時間が足りない。

 最初は逐一質問を受けるスタイルだったが質問が止まずにまったく進まない。それどころかどんどん逆方向に進んでいくので、質問をシャットして、一通り流すことにした。


 ちゃんと準備をして、誰にでもわかるようにがんばったが、シリル以外がついてこれてない。

 もう、あきらめよう。


 俺は心を無にして、要点を質問し終えた。

 もちろん、みんな置き去りで顔には不満や、わけがわからないと書いてある。

 問題は、相手が自分を天才だと思い込んでいる連中なので、理解できないのを自分の知識不足のせいだと思っていない。


 俺が適当なことを言っている、あるいはわざと誤魔化していると思い込んでいる。


「では、一通り説明は終わったので質問を」


 そう言った瞬間、恐ろしいまでの質問攻めが始まる。

 丁寧に答えているのに、さきほどまでのリプレイ。足りない前提知識の説明をしてからの、さらにそれを理解するための……。

 心が折れそうだ。だけど、それはある程度の効果があったらしい。


 ましな連中の何割かが、俺が適当なことを言っているのではなく真摯に説明し、わからないのは自らの知識不足だと気付いてくれた。

 だけど、それは一部。大多数は自分の無能を認めていない。


 そんな、荒れた雰囲気の中一人が手をあげる。

 誰もが注目する。エルシエの王、シリル・エルシエ。彼は有名人だ。

 シリルは指名されると拍手をした。


「いい講演だった。いくつか気になることがある。まずは……」


 シリルの質問は鋭かった。

 俺が【浄化】を進化させる際に工夫したポイントを明確についてくる。

 それに対して返事すると、別のアプローチを提案してくる。


 それらは俺があえて選ばなかった手法だったり、あるいは見落としていたものだったりする。

 二人でよりよい【浄化】をするための議論に発展する。

 シリルとの議論は楽しい。

 新しい発見がある。

 気が付けば、もうシリルとの議論に集中していた。……時間を忘れて一時間ぶっ続けでそんなことをしてしまった。


「すみません、時間切れなのでここまでです。今日はお集りいただきありがとうございました」


 ホールをいつまでも使えるわけではないので終了時間は存在する。

 俺とシリル以外は呆然とした顔をしていた。


 図らずもシリルのおかげで、俺が適当なことを言っていたわけではなく、ただ彼らが理解できないことを証明してしまった。

 いや、シリルはそうなるようにあえて議論に発展させたのだろう。また、助けられた。


 ……そういえば、まだ襲撃はない。

 予定が変更されたのか

 あるいはユーリ先輩が心配しすぎたのか。

 そう思った瞬間だった。


 二つの異変が起こった。

 一つ、観客席の何人かの体が膨らみ、内側から鬼のような魔物が数体現れた。

 もう一つ。


「足元に巨大な魔方陣だと!?」


 事前に仕掛けられていたはずはない。

 俺は会場入りする前に念入りに罠はないか調べた。

 魔法陣の空間転写!? こんな技術が存在するのか。

 体が重い、一歩も動けない。

 この魔法陣はやばい。俺も使えない魔術、何度か巻き込まれたあれだ。

【空間転移】。

 俺だけを誰かがどこかへ運ぼうとしている。


「まったく、こういう手があるとはな」


 俺はさきほどまで使っていた場所に隠していた槍をとる。

 どこに転移させられようと対応して見せる。

 パーティに招待されたのだ。それなりの対応をしてみよう。

 さあ、鬼が出るか、蛇がでるか。

 槍をぎゅっと握りしめるのと、転移特有の浮遊感に包まれるのは同時だった。 


 

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