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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第六章:ソージが呼ばれた意味
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第十七話:捨て身の狩り

 ユーリ先輩に呼び出され、講演会が襲撃されること、そして講演会を襲うであろう刺客を倒せと依頼を受けた。

 彼女にはクーナとアンネを助けるために情報をもらった恩があり、断るわけにはいかない。


 もとより国からの要望である講演会をキャンセルなどできはしないし、降りかかる火の粉を払わないわけにはいかない。

 講演会の準備をしつつ、全力で鍛えておこう。

 幸いなことに授業が免除されている。

 今日から一週間ぶっ続けで地下迷宮に潜るつもりだ。


 ◇


 部屋に戻ると、長期の探索向けの準備を始める。

 一人での地下迷宮探索は危険度が数段跳ね上がる。

 状態異常=死。ミスをカバーしてくれる仲間もいない。

 だが、それでも行くしかない。

 今回は一人でないとできない無茶もするつもりだ。


「クーナ、悪いが。使わせてもらうぞ」


 前回の探索の際に使わずに持ち帰っていたクーナ特製のソフトクッキーをたっぷりと鞄に詰める。

 保存ができて、一つ食べれば一日の栄養が摂取できるので非常に助かる。


 クーナたちに向けた書置きを残しておく。

 ……地下迷宮に潜るときはいつも一緒だという約束を破ってすまないと追記した。

 扉に取り付けられているポストを開いて手紙を確認する、一週間も留守にする。ちゃんと見ておこう。


「シリルさん、時間を作ってくれたのか」


 学園祭への招待状を送っており、その返事がきた。

 クーナの学園生活を見るためにも絶対に来るとのことだ。

 彼がいれば、講演会の守りは盤石になる。シリルに真正面から勝てる存在はいない。


 ……ただ、気になるのはユーリ先輩がわざわざ俺に倒してくれと依頼したこと。

 あの人の謎の情報網なら俺がシリルを呼んだことを知っているはずだ。

 シリルがいるなら手を打つ必要など感じないのが本音だ。

 ユーリ先輩の行動には必ず意味がある。用心に越したことはないだろう。


 ◇


 ダンジョンに潜り、ひたすら奥へ奥へと進んでいく。

 気配感知が得意なクーナがいない分、いつもより神経が消耗する。


 それでもやらないといけない。

 ランクを上げることがもっとも手っ取り早く強くなる方法だ。

 すでに、一泊し今日は二日目。


 きっと、書置きの手紙を見たクーナたちは一人でダンジョンに向かったことを怒っているだろう。

 二人に説明したら、たとえ留年する危険を冒してでもついてくると言い出すのはわかっている。


 それが嫌だった。彼女たちの夢を壊すわけにはいかない。

 クーナの特製クッキーを食べながら走る。

 少しでも速く先に進むためにろくに魔物を倒していないので食料は持ち込んだもの頼り。


「まずいけど、うまいな」


 栄養最優先で過剰に糖分と脂質を含んだソフトクッキーは、甘すぎるししつこくて、けっして美味しくない。

 それでも疲れた体に滋養がいきわたり、体が喜んでいる。

 さあ、ここからが本番だ。

 洞窟エリアにたどり着いた。

 前回は入り口付近でダンジョンワームをおびき寄せて一体一体倒していた。


 なぜなら、奥へ行けばよりやばい魔物がいる上に、音を立てればダンジョンワームまでやってきてしまう。

 ダンジョンワームを秒殺するぐらいでないと洞窟エリアの奥へと進むのは自殺行為だ。


 その自殺行為をあえて行う。

 息がぎりぎり乱れない限界まで加速する。

 数秒先まで俺がいたところへダンジョンワームが口を開けて通り過ぎていった。


 サイドステップ。別のダンジョンワームが正面から襲撃してきたのを躱す。

 こうなるのも当たり前だ。


 洞窟の中を走ってるのだ。音と振動を地面越しに奴らに伝えてしまっている。

 ダンジョンワームの厄介さ、一度見つかって戦闘になればその戦闘音や逃げる際の足音で他のダンジョンワームを呼び寄せる。

 入口付近なら前の階層に逃げ込めたが、ここまで奥に来てしまうとそれもできない。


 逃げながら奥へと進むほど、やつらの襲撃頻度がどんどんあがっていく。

 先ほどから、俺を狙っているダンジョンワームの数は五体。

 冷汗が流れる。

 追いつかれたら即死だ。この数の同時攻撃には対応できない。

 だから、ひたすら避けながら前へ。


 あそこへいけば、こいつらは逃げていくだろうから。

 開けた場所にでた。半径二十メートルほどはあり天井が高い空間。

 この部屋には光水晶はなく、視界が闇に覆われる。


 目を閉じて、魔術を行使。魔力の波長を放ち、反響によって周囲の地形を把握する魔術、【レーダーサイト】。

 これがあれば、目に頼らずに周囲の様子が視える。


 キリキリキリ、独特の音が聞こえる。

 やつらのテリトリーに入った証。ダンジョンワーム以上に恐れられている暗殺者。

 ダンジョンワームが地面の中を泳ぐ音が聞こえなかった。天敵の気配を察して逃げていった。あの生命力が高いダンジョンワームですら逃げる相手。


 深呼吸して、構える。

 そろそろダンジョンワームと並んで、無数の冒険者を殺した奴らの洗礼が来るころだ。

 ……それは突然だった。


 地面が消失する。

 この開けた場所自体がやつらの罠だ。

 冒険者たちは、こういった開けた場所にでると安心する。


 壁からも天井からも襲い掛かってくるダンジョンワームの脅威から解放され、一息ついてしまう。

 ダンジョンワームの奇襲を回避するために壁から離れて中央までいき、あたりを照らそうと足をとめ、こうして足場を崩され真っ逆さま。


 しかし、俺はこうなると知っている。

 機械魔槍ヴァジュラの能力を発動。四機の魔力ブースターを点火。落下を免れる。

 足元を、魔術の眼で見る。


 数メートルしたまで穴は続いており、その穴には……。


 カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ


 人間サイズの紫色のサソリたちがうごめている。

 不気味なことに頭が肥大化しており、牙がびっしり生えそろった口を大きく開いている。

 ここはやつらのコロニーだ。


 洞窟内の開けた空間はこいつらが作った餌だ。やつらの分泌液でできた非常にもろい地面で、獲物が上を通るとやつらは地面を崩す。

 そして、落ちてきた獲物を自慢の毒針で突き刺し群がって食べてしまう。

 その名をパンドラ・スコーピオン。


「初見なら対応できないだろうな」


 足元が崩れること自体はここまで来た冒険者なら何度も経験しているだろう。

 だが、ダンジョンワームの脅威からやっと解放されたという安堵、急に暗くなったことに意識が向けられること、さらに崩れるのが部屋ごとで逃げ場がないと非常に性質が悪い。


 クーナとアンネが一緒なら、あえて罠に嵌るなんてことはしなかった。危険すぎる。

 だが、リスクさえ背負えば。一か所に獲物が密集しているという最高の狩場に早変わりだ。


 ブースターで限界まで天井ぎりぎりまで上昇する。

 そして落ち始める。

 落ちるのを避けるために飛んだのではない、詠唱の時間を稼ぐために飛んだのだ。


 ランク3の演算能力を得て、極限まで効率的なコードを紡ぎ、それでもなお、詠唱時間が必要な大技を放つ。

 敵の数は三十四体。


【蒼銀火狐】で身体能力を向上させて倒すという方法ではきりがない。大規模破壊魔術を使う。


 紡ぐのはゲーム時代に作った魔術ではない。

 この世界に来てから作り上げた魔術。

 限界ぎりぎりの状況で、クーナとアンネの期待に応えるために完成させたもの。


 槍を背負い、両手を合わせて竜の口を形どる。

 限界まで周囲のマナをかき集めて圧縮し続ける。

 マナが悲鳴を上げ始めた。

 さらに力を込めることでマナが崩壊し、マナが有していたすべての力が放出され狂う。

 その力を束ね指向性を持たせていく。


 竜の口を形どった両手から、周囲を白く染め上げる圧倒的な光が放たれ、地をはいずる。

 死の具現たる竜種が使う必殺技ブレスを模した魔術。


「【銀龍の咆哮】!」


【レーダー・サイト】でパンドラ・スコーピオンの位置はすべてわかっている。一匹たりとも逃さない!

 落ちながら、魔術を放ち続ける。


 マナの崩壊現象によって引き起こされるのは消滅の力。

 地面も、パンドラ・スコーピオンも光と共に消えていく。

 魔術を終了し、着地。

 落とし穴はえぐれて、ずっと深くなった。


「こんな無謀な狩り。二人には付き合わせられないな」


 鞄から光水晶を取り出し周囲を照らす。

 魔石が周囲に転がっている。

 魔石は魔物体の奥深くにある上に、高位の魔物の物ほど頑丈になっていく。


 俺自身、なるべく魔石は壊さないように努力していた甲斐があって、三十四体のパンドラ・スコーピオンのうち、二十一個の魔石は消滅させずに済んだ。


 その魔石をすべて拾い上げてから、機械魔槍のブースターで地上に戻る。


「【銀龍の咆哮】は二回が限度か。相変わらず燃費が悪い」


 最強の威力を持つ分、消耗もとんでもない。

 これをランク1で放った過去の俺はどうかしていた。

 だが、わずか数時間でランク3の魔石をこれだけ手に入れた。

 片っ端から【浄化】してから取り込めば、今よりもずっと強くなる。

 少し休憩したら、別のパンドラ・スコーピオンのコロニーを潰そう。


 一人だからこそできる無謀な狩り。

 無茶をしてでも、俺は強くなり。クーナとアンネを守る力を手に入れる。

 今日から一週間、この階層のパンドラ・スコーピオンのコロニーを根こそぎ破壊して回ろう。

 

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