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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第六章:ソージが呼ばれた意味
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第七話:高温と溶岩のなかで

 昨日は楽しめたな。

 テントの中で目を覚ました俺はそんなことを考えていた。

 裸で眠っているクーナとアンネの寝顔を楽しみ、寝ているのをいいことにいたずらをする。


 こういう、寝ている間にこっそりいたずらするのは、普通に愛し合うのとはまた違った趣があって好きだ。

 昨日、いつも以上に盛り上がったのには理由がある。


 夕食にフレア・タートルという亀型の魔物を食べたのだが、フレア・タートルには精力増加効果。もっと端的に言えば、夜の生活を燃え上がらせる効能があったせいだ。

 すっぽん雑炊以上に美味しかったこともあり、そんなものを腹いっぱい食べてしまった俺たちは燃え上がった。

 あれほど、激しい夜は初めてだ。

 クーナもアンネもいつも以上に乱れて、俺自身すさまじい持久力だったと思う。


「フレア・タートル。今度、見つけたらまた狩ろう」


 美味しいし、最高の夜を過ごせる。

 フレア・タートルのためだけに、地下迷宮に潜るのもいいだろう。


「まあ、狩らなくてもしばらく楽しめるけど」


 実は、魔術で水分をとばして一部はジャーキーにして保存食にした。気が向いたらこっそりとスープの具にするのもいいかもしれない。

 眠気覚ましがてら、槍を振り回して鍛錬していると、テントのほうから気配を感じたので、気配を消して隠れる。


 テントのほうを見ていると、クーナがテントから顔だけ出しキョロキョロと周囲を見回し、キツネ耳をぴくぴくさせてあたりの気配を探っていた。

 しばらく様子を見ていると、クーナが裸で出てきた。

 そして、水を桶に注ぐと魔術で温めて頭からお湯をかぶり、布で体を拭いていく。その姿をじっと見る。相変わらずクーナの体つきはエロい。


 クーナはわりとめんどくさがりだ。

 服を着て、外でお湯を沸かして、テントに帰ってから、また服を脱いで、体を拭くという一連の動作が面倒なので、全裸で外に飛び出してお湯をかぶったのだろう。

 体を清めたクーナは、満足してテントに戻っていく。

 手にはお湯が入った桶がある。きっとアンネのためだろう。めんどくさがりだが、気配りができる。クーナはそんなやつなのだ。


「朝から眼福だったな」


 ちなみに、俺は気配を消して隠れていたのはクーナの水浴びを覗くためだ。

 それとは気づかずに、シャワーシーンを見せてくれたクーナには感謝だ。

 こうして、抜けているところも、クーナの魅力なのだ。


 ◇


 朝食に、干し肉と俺のお手製インスタントスープ、固焼きパンを食べて、さっそく出発した。

 正午までにはランク3の魔物が出現する二十一階層に到達したいものだ。

 じゃないと、狩りの時間が確保できない。


「クーナ、アンネ、急ぐぞ。ここから先の魔物は強くなる。今までと違って魔物を無視することはできない。背中を向けて逃げると、致命傷を叩き込まれないからな」

「わかりました。気を付けます」

「昨日のフレア・タートルのおかげか妙に力が湧いてくるわ。これならいつもより探索が捗りそうね。夜は、あれだけ激しかったのに、ぜんぜん疲れが残っていないなんてすごいわ」


 アンネの言う通り、フレア・タートルの効能がすごい。

 普通、あれだけ激しく夜を楽しむと疲れが残るが、それどころか絶好調だ。

 これなら、探索もはかどるだろう。


 ◇


 戦いを最小限にしつつ、地下十八階にまでたどり着いていた。

 ここまでで避けられなかった戦闘は七回ほど。

 倒した魔物の中に、火山エリアにしか出ない、ブラッド・パールという陸貝の一種がいた。

 その名の通り、真珠を体内で作る魔物だ。ありがたく真珠を頂いており、これを売るだけでしばらく遊んでくらせるほどの儲けになる。宝石としても、魔術の触媒としてもすぐれているので高値で売れるのだ。運が良かった。これで帰ったらご馳走を食べられる。


 そして、今いる地下十八階は難所だ。

 一歩間違えれば即座に全滅するフロアなので、かなり気を遣う。


「ううう、ソージくん。気温の調整が間に合いません」

「クーナ、周囲の気温操作は最小限にしておけ。ここで気温操作をするのは魔力の消費が激しすぎる」


 普段、クーナは周囲の温度を快適に過ごせるように調整している。

 並みの術者なら外での気温操作なんて、冷やした空気がかたっぱしから流れていくこともあり、魔力をすぐに使い切るだろう。

 だが、金の火狐たるクーナは別格で、涼しい顔で温度操作をする。

 とはいえ……。


「これだけ隣でぐつぐつ溶岩が沸くと温度も問題だし、上昇気流まで出ているからな」


 さすがに、ここで気温調整は難しいだろう。

 地下十八階は溶岩の上にある、細い入りくねった道を踏破するエリアなのだ。


「ですね。だけど、このままだと普通に歩いているだけで倒れそうです。ソージくん、アンネ、できるだけ私に近づいてください。みんなの体力と水分の消費が激しいほうが、私の消費魔力が激しいことより問題です。気合を入れて気温を耐えらえる温度まで下げます。二人が近づいてくれれば、消費魔力は抑えられるのでなんとかなります」


 俺とアンネが頷いてクーナに近寄る。


「ありがとう。これなら耐えられそうだ」

「ええ、クーナ、助かるわ」

「ふふふ、クーナちゃんに感謝するがいいです」


 だいぶ耐えられる気温になった。

 この溶岩地帯は、五十℃を軽く超えるが、クーナの周辺は四〇℃程度に抑えられていた。

 人間の細胞が耐えられるのは五〇℃までだ。一〇℃の違いは大きい。

 クーナのように気温が調整できるメンバーがいないパーティは、専用の装備や、もっとシンプルに定期的に水をかぶるなどで乗り切る。


「二人とも、足場が悪いから気を付けてくれ」

「ええ、ここから落ちたら終わりね」


 足元で溶岩がぐつぐつとわいているし、出口までの道は細くいりくねっている。

 バランスを崩して溶岩に落ちれば、即死だろう。


「クーナ、魔物の出現は、溶岩の中まで含めて警戒しろ」

「ちょっと待ってください。こんな溶岩の中で無事に済む魔物がいるんですか!?」

「いる。だから警戒しろと言ったんだ」


 いつもなら、あえて忠告せずに痛い目に合わせることで成長を促すが、そんなことをすれば死にかねないのがこのフロアだ。

 俺たちは曲がりくねった細い道を進んでいく。

 途中、道が途切れたところで飛んで次の足場に移るが、落ちたら死ぬという恐怖と、この暑い気温に集中力と体力を奪われていつも以上に疲弊していた。


「ううう、しんどいです。二十階までずっとこんなフロアが続くんですか?」

「フロア全体が溶岩に包まれているのはここぐらいだな。十九階と二十階は洞窟と岩場の複合フロアで、洞窟内はやっぱり溶岩がある」

「はやく、二十一階に行きましょう!」


 クーナが嫌そうな顔をするので、苦笑してしまった。

 気温を下げられるクーナがいて、これだけ辛いのだ。

 ほかのパーティにとっては地獄だろう。

 そして、クーナには言わなかったが、二十一階層以降は暑くはないが、けっして楽ではない。地下迷宮は基本的に奥へ行けば行くほどつらくなっていく。


「ソージくん、アンネ、止まって」


 クーナのキツネ耳がぴくぴくと動いた。

 これは敵を見つけた兆候だ。


「左から何か来ます!」


 全員がそちらを向く。

 溶岩の水面に黒い何かがうごめて、猛スピードでこちらに突っ込んできている。

 会いたくない魔物に会ってしまったな。


 そいつは、俺たちの足場付近まで近づくと跳んで水面から出てきた。

 そのまま体当たりをしてくる

 体の表面が溶岩が赤く光っている。

 とはいえ、さほど早くない。カウンター気味に槍で突く

 機械魔槍ヴァジュラは、外骨格が破損しているのでただの両手槍の状態だ。


「やっぱり、貫けないか」


 空中でのカウンターという、衝撃が逃げやすい状況。加えて魔物硬いのだ。

 溶岩を泳ぐこいつの体表は、こいつの体液がまざり硬質化した溶岩で固まっている。

 ちょっとやちょっとじゃ貫けない。

 槍に弾かれた魔物は、再び溶岩に潜り、ゆらゆらと不思議な動きをする。

 ……この魔物の名はマグマロック・フィッシュ。溶岩の鎧を纏い溶岩の中を自由に泳ぐ巨大な魚だ。


「やっぱり、そうくるか」


 マグマロック・フィッシュには、うっとおしい特性がある。

 こいつは仲間を呼ぶ魔物だ。

 やつが体を揺らすと、きりきりきりと独特の音をかき鳴らす。体の表面にある固まった溶岩をこすり合わせて、この音を鳴らしているのだ。

 周囲に五つ影が増えた。


「ソージくん、これ、どうやって倒しますか」

「飛びかかってきたところを狙うしかないな。俺の槍の鋭さじゃ貫けずにはじいてしまうだろうが、アンネなら斬れるだろう。両断しろ」


 俺の槍では不可能でも、アンネの技量とクヴァル・ベステが組み合わされば可能だ。


「わかったわ。任せて」


 アンネが頷く。


「私は、どうすれば」

「自分で考えてみろ。なんのために姉妹刀を渡したと思っている」


 俺がクーナのためだけに作った、紅と青の双剣。名前を紅那と蒼慈。

 あの双剣なら対応できる。

 クーナもそれに気付いて、姉妹刀を引き抜く。


 クーナとアンネは、身構えた。そして、俺も俺なりの方法でマグマロック・フィッシュを倒す算段はしてある。


 マグマロック・フィッシュが周囲を泳ぎ、そして一斉に飛びかかって来た。五体の魚影が空に踊る。


 まずはアンネが動く。

 鞘を指ではじいて居合斬りを放った。クヴァル・ベステが【暴食】を発動させた一撃を放つ。俺の目でも刀身を見ることはできず、宙に浮いたクヴァル・ベステの燐光によって生まれた線を視認するのがやっとだ。

 アンネの居合切りには、凄みすら出てきた。どれだけ硬かろうが、衝撃が逃げやすい空中だろうが、この切れ味と速さには無力だ。マグマロック・フィッシュが両断され真っ二つになり、溶岩の海に沈んでいく。


 次はクーナだ。とびかかってきたマグマロック・フィッシュを紙一重で躱し、すれ違いざまに、蒼の刀をすべらせ、刹那のタイミングで紅の刀で追撃をかける。

 蒼の刀の分子運動の停止でマグマロック・フィッシュの硬い鎧がその効果を失い、追撃の紅の刀の分子運動の強制加速ですべてが断ち切れる。

 おそらく、紅の刀だけでも斬れただろうが、確実に仕留めるためにクーナは両方を使った。相乗効果で、斬り裂くどころかマグマロック・フィッシュは粉々に砕け散った。



「クーナも、アンネもやるな。俺も負けていられないよ」


 そして俺は、両足のオリハルコンリングに魔力を込める。


「【魔鉱錬成:番外・網】」


 オリハルコンの糸を編んで、網を形成した。

 三体同時に飛びかかってきたマグマロック・フィッシュを投網で一網打尽にして地面に叩きつけられる。

 空中だからこそ、衝撃が逃げた。

 だが、こうして地面にいるのなら。


「俺の槍でも十分貫ける」


 上から槍を振り下ろす。

 これなら衝撃の逃げ場がない。魔術付与エンチャントされた、【穿孔】の効果が発揮され、マグマロック・フィッシュを砕き貫く。

 これで終わりだ。

 死体から魔石を手早く回収する。

 こいつの素材は需要がないし、肉もまずいので魔石以外は放置でいいだろう。

 クーナとアンネが駆け寄ってきた。


「やっぱり、ソージくんの【魔鉱錬成】は便利ですよね」

「そうね、応用力がとてつもないわ」

「それが売りだからな」


 いかに強力な武器があっても、オリハルコンを手放せないのはこれが理由だ。

 どんな状況にも生かせる。


「それに、クーナもアンネも後先を考えていないだろう。せっかく倒したのに魔石を回収できないんじゃ意味がない」

「「あっ」」


 二人が間抜けな声をあげる。

 アンネの場合、あまりにも切れ味が良すぎて、真っ二つにしたものの、体当たりの勢いを殺せずに死体は反対側のマグマに沈み、クーナの場合は破壊力がありすぎて魔石ごと粉々だ。


「反省はあとにして、次にいこうか。これからもどんどん強い魔物が出てくるぞ」

「はい、ランク2だからって舐めてましたが、魔物のランク2は油断したら駄目ですね」

「そうね。特にこういう地形を生かす魔物は注意しないとだめね」


 クーナとアンネが、俺の言いたかったことに気付いてくれたので、小言を言うのは止めにした。

 さあ、先を急ごう。そして、ランク3の魔物いる区画にたどり着き、上等な魔石をたっぷりと手に入れるのだ。

 今日の冒険でランクの高い魔石だけでなく、アンネとクーナの経験というかけがえないものを手に入れられる。

 ライナという保護者付きの探索は、たしかに安全だが、危険を冒さないと得られるものも存在するのだ。

 

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